036 魔族二人が仲間入り
凄く穏やかな朝だ。なんだろうちょっと解放されたような感じかな。アルドラ皇国へ入り、追手を気にする必要がなくなったこと、まぁこれに関しては王国でもほとんどなかったんだけど、それでも多少の心配が常にあった。それとアマンダへ好意を伝えてスッキリしたこと。その二つからの解放感かな。
昨日のアマンダは恥ずかしそうな様子に見えた。少なくとも俺からの好意を不快に思ってるってことはないんじゃないかな。起きた後どんな感じか分かんないけど、俺はいつも通りに行こう。
現在のアマンダはまだ眠っており、その寝相で俺を楽しませてくれてる。こうやって先に起きてアマンダが目覚めるのを待つのもいつものことになってきたな。
「んー、おはよー」
起きるタイミングもなんとなく分かるようになった。水差しからコップにお茶を入れる。
「おはよ。お茶いれてるよ」
「ありがとー、あと昨日寝る前に喘息の症状も消してくれたでしょ。ありがと」
「ん、いいよ。スキル使ったって疲れるわけでもないしね」
俺のスキルってクールタイムと同時に複数を対象とすることができないこと以外には制限がなにもないからな。使いまくって疲れることも無くいくらでも使える。
「ケインのスキルが特殊なのよ。私の身体強化スキルは、スキルそのものには使用制限が無いけど、ずっと使ってたら体がもたないもん」
「体への負担が増えるの?」
「むしろ負担は減る。そのおかげで素の状態でできないような動きも可能になるんだけど、それでも少しずつ肉体の疲労は蓄積するの。無理ができるけど、その無理をどこまでやるかの調節が難しいんだよ」
「それって、どこまで無理できる感じなの?」
「んーと、筋肉が千切れるまで力を込めることができるって感じかな」
「うわ、痛そう」
「うん、だから素の状態を鍛えとくのが重要なスキルなんだよね。無理しても壊れない丈夫な体にしておけば無理できる限界値が高くなるんだよね」
「だからアマンダって訓練に熱心なんだ。スキルって人それぞれで個性的だよな」
「ケインのスキルが一番個性的で強烈だけどね」
「え? 地味じゃね? スキル名【体調管理】だぞ」
「まぁ名前だけ聞くと、なんか地味な回復系に聞こえるけど、中身が滅茶苦茶だよ、そのスキル」
「たしかに効果は凄いかも」
「おかげで喘息で辛い思いをせずに済んでるんだよねー、ケインとは絶対敵になりたくないよ」
「はは、敵になんてなるわけないじゃん」
ずっと一緒に居たいと思ってるしね。
アマンダは普通だ。昨日の一件でアマンダが接しにくくなったりしたら嫌だなーて思ってたけど、まったくそんなことは無さそうでよかった。
俺たちは顔を洗って食堂で食事をとる。この後は朝の混雑時間をさけて遅めにギルドへ向かい、リゲルたちと合流の予定だ。リゲルが先にギルドへ行って護衛依頼を受けておいてくれるらしい。
リゲルは俺との一戦の後から凄く普通に接してくる。男は力を持つ者以外興味なしって感じだったけど俺が一応倒したってことになったからか、対応が凄く良くなった。まぁあの対戦ではダメージをほとんど与えることができなかったから俺的には勝った! って実感は足りないんだけどね。だけど昨日ロッサーナの電撃を受けて死にかけてたリゲルを見た感じだと、魔力を0にしてしまえば魔法攻撃のダメージはすんなり入るってことが分かった。筋力は低下させても力を入れることができなくなるだけで、体の丈夫さ自体を下げてるわけじゃないから、俺の突き蹴りでは大したダメージを与えられなかったみたいだけど、とんでもない魔力を持った相手の倒し方が分かったのは大きいな。といっても俺とアマンダの戦力ってアマンダの直接的な攻撃力と俺のスキルでの無力化だから、魔法攻撃要素が無い。アマンダの攻撃ならリゲルにしっかりダメージが入るのかな。今度リゲルに試させてもうか。アマンダの本気のパンチでどれくらいダメージ受けるか試させてくれって。笑
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ギルドが夜明けとともに賑やかになるのはアルドラ皇国でも同じみたいだ。というかギルドってのがこの大陸全土で似たような感じらしい。少し日が昇ってギルドへ向かうと賑やかさは一段落し、まばらな人の中にテーブルでくつろぐリゲルとロッサーナが居た。
「リゲル、ロッサーナ、待たせたかな」
「いえいえ、大してお待ちしていませんわ。そんなことより私のことはロナと呼んでください。アマンダさんも」
「わかったよ。ロナ」
「わかったわ。ロナ」
「ところで、アマンダ、まぁ事情があってのことだろうけど、本当の名前はアーニャだよね? 僕は君についてはマクシムとサユリから聞いてるから知ってるんだけど、この国に来ても偽名を使う必要があるのかい?」
人は少ないが、一応声を小さくして聞いてくるリゲル。
「あ、そか、お父さんたちと交流があるなら知ってるのか」
確かにそうだな、もう追われる心配もなさそうだし、俺もアマンダも偽名で過ごす必要無くなってるな。でもギルドへの登録はどうなるんだ? 偽名を使ってたことが何か問題になったりはしないのかな。不審に思われたり罪に問われたり、そういうのどうなんだろう。
「ギルドにこの偽名で登録してるから、今更変えたりできるのかな」
「偽名がルール違反だったりしたら面倒だよね」
やっと追手の心配がなくなったのに今度はギルドから追放されたりしても嫌だしな。
「そもそもギルドへ登録する名前って愛称みたいなもんだから変えたければいつだって変えられるよ。僕の場合だって、長い名前の一部だけを取ってリゲルって登録してるし、ロッサーナも同じだ。問題ないと思うよ」
そうだったんだ。ケインとアマンダって偽名に慣れて違和感なくなってたけど、偽って生きてるって感じは気持ち良いもんじゃないしな。戻すか?
「そうなると、ケインも偽名ってことだよね。僕としては僕に勝った男の偽名しか知らないってのはちょっと面白くないね。この機会に本当の名前に戻してはどうだい?」
アマンダを見ると、ちょっと嬉しそうな顔に見える。アマンダも慣れたとはいえ偽名で呼ばれるのが好きってわけではないよな。ずいぶん経っても完全にはしっくりこないなにかがあるもんな。
「戻そっか? 受付に聞いてみる?」
「うん、私、元の名前気に入ってるしね」
俺たちは受付に向かった。そしてギルド登録した名前はあっさり本当の名前へと変更された。とは言え苗字までは登録していない。俺はケンジ、アマンダはアーニャへと変更した。
こんなに簡単に変更できたら、大きな問題を起こした者が名前をコロコロ変えて罪から逃げたりできるんじゃないかって、ちょっと気になり受付に質問してみると、ギルドカードに個人を識別する機能があり、名前を変えたところでごまかせないということらしい。そのため2枚目のカードを作ろうとしても、バレるし作れても完全に同じ物となり悪用できない。さらには他人のカードを悪用することも難しく、それでもなんとかして悪用した場合の罪はかなり重いものとなっているとのこと。
「ギルドはもう300年以上の歴史がありますからね、安全対策や犯罪対策はしっかりしてるんですよ」
受付が、悪いこと考えちゃだめですよと言いつつ更新されたカードを渡してくれた。悪いことなんて考えていませんよ。好奇心で聞いただけです。
「じゃぁ改めて、僕を倒した男の名前を聞かせてもらおうかな」
もったいぶるつもりなんて無かったけど、こうあらたまって聞かれると恥ずかしくなるな。
「俺の名前はケンジだ、あらためてよろしく」
「ケインはケンジだったんだな。こちらこそよろしく頼むよ。君にはいろいろ期待してるよ」
なんか含みのあること言ってる。俺に何を期待してるってんだろう。
「ケンジですね。私はケンジの妻となれるよう頑張ります! よろしくお願いします!」
ロナ、それ本気なの? まだ俺の性格とかなーんも知らないよね。
「私はアーニャよ、よろしくね、ロナ!」
うお、なんかちょっとアーニャの語尾が強い、気のせいか二人の間に火花が見える? いやさすがにそれはないか、このレベルの美少女たちが俺を巡って争うとか、もうこの異世界以上のファンタジーだよ。ロナはなんか知らんけど、変な理由で俺に求婚してるんだろうしな。
「まぁとりあえず魔界を目指そうか。僕は約束を果たしてまた自由に過ごしたいんだ。それに今度は本当の自由になれるしね。ロナいいだろ?」
「はい、お兄様、ケンジがいますから問題ないです」
「どういうこと? 時々兄妹の会話が分からないんだけど。リゲルって自由過ぎるくらい自由だよね?」
「はは、僕にも色々悩みがあるんだよ。ケンジのお陰で解放されたけどね。まぁ詳しいことは追々わかるからとりあえず魔界に出発だ」
俺の質問ははぐらかされた。まぁ悪意は感じないし楽しそうにしてるから問題はないか。すっごく気になるけど。
そして魔界へ向け護衛しつつ移動となった。
馬車に揺られての移動も慣れてきたな。今回はとんでもない魔力を持つ魔族二人との護衛任務だ。俺の出番なんて全くなさそう。むしろ襲いかかってきた者たちが心配だ。この二人が本気だしたら、オーバーキルすぎるだろうしな。俺としてはそれを止めることを考えといた方がいいかもしれない。犯罪者を庇う必要はないのかもしれないけど、襲いかかってきた者が次々消し炭になっていく様子はさすがに見たくないかも。平和な日本に育ったからか、この世界の現実を何度も見たけどできれば犯罪者も捕えて裁かれる流れが好ましいと思ってしまう。犯罪者、特に殺人みたいな危険な犯罪者はその場で殺して問題なしって感覚に慣れる日も来るんだろうか。
流れる風景を見つつそんなことを考えてたらアーニャが話しかけてきた。
「ケンジ、偽名使う必要なくなったね、なんかそれだけなのに凄くスッキリしてうれしいかも」
風にアッシュブロンドの髪をなびかせつつアーニャが言う。
「アーニャ、よかったね。アマンダよりやっぱりアーニャって名前が似合ってるよ」
「へへ、そうだよね!」
「偽名で実の親に会いに行くってのもおかしな話だしね」
「はは! ほんとだ。実の娘が違う名前で帰ってきたらビックリよね」
「二人だけで仲良くお話ししてるの、ずるいです。私も仲間に入れてください」
荷馬車の最後尾に座っていた俺たちの間に、割って入るようにロナが来た。護衛任務はロナからの質問攻めから始まった。




