032 ロッサーナ
ギルドはこれまで何度も利用したギルドと大して変わらない建物の外観で、内部の構造もぱっと見同じように見える。ギルドカードが共通なだけあって、ギルドって仕組みはもしかしたら国際的な基準みたいなのがあるのかな。仕組みそのものが国を超えて協力して作り上げられたとか。
ただし、中に居る人たちは多種多様で王国で見てきた様子とは違う。
ファンタジー物定番の猫耳も居れば犬耳もいるし、エルフ耳も居ればドワーフみたいな小柄で筋骨隆々な人もいる。中には性別すらわからない爬虫類系の者までいる。
物珍しさでキョロキョロしてしまう。
リゲルが受付で依頼達成報告を済ませる間、俺たちはテーブルで待つ。待たされても多種多様な人種を見ているだけで退屈しそうにないな。
「予想以上に亜人種が多いね。こんなにいるなんて思ってなかったよ」
「俺もだよ、やっぱり犬とか猫とかっぽい人って運動神経がよかったりするのかな。あの爬虫類系の人とか鎧を着てなくても防御力高そうだし、やっぱりエルフは魔法が得意って感じ?」
「なにそれ、そういうの常識なの?」
「いや、元の世界での物語の定番設定って感じだよ。そっかアマンダそういうのあまり縁がなかったっていってたもんね」
「うん、でももしそういうのが当たってるなら、案外そういう物語の最初のアイデアを出した人って異世界を知ってる人だったりするのかも。私たちみたいに異世界に来て、帰ることができた人が書いたとか」
「そうか、その可能性は十分あるよね、それに、それが事実だったら、元の世界にもどれるってことになるね。ファンタジー物語は実際に異世界に行って戻ってきた人が書いた……なんかそう思えてきた!」
多様な冒険者たちを見ながら俺たちが元の世界とこの世界の関連性について話していると、用事を済ませたリゲルが戻ってきた。リゲルはどうもここでも顔なじみが多いみたいで、度々挨拶されている。女性には丁寧に男には適当に挨拶しつつ席に着くと、今後のことを説明し始めた。
「僕はアマンダを魔界に連れていって、マクシムとサユリに会わせるってことをゴルドに頼まれたから、そっちの方向に向かって護衛依頼を受けておいたよ。それでいいよね?」
魔族の町へは、北の街道、王国で言えば魔街道のような道を5日ほど進んだところにある町から行けるらしく、そこまでは護衛任務を繰り返して馬車移動するらしい。俺たち抱えて飛んでいくことはできるのかとアマンダが聞くが、短距離ならともかく二人を抱えての長距離は無理とのこと。空を飛ぶのは魔力の消費が激しく、1人なら馬車で1日の距離を移動することもできるが人を抱えてだと短距離しか移動できないらしい。あれだけ出鱈目な魔力があってもできないってことは、空を飛ぶってのはかなり特別な力なんだろう。まぁ魔族と戦う可能性を考えたら無制限に飛ばれたりしたらたまったもんじゃないから良かったのかも。
リゲルから色々聞いていると、その背後にいつの間にか人が立っていた。歳の頃は15歳くらい? まだ幼さの残る丸顔で薔薇のように赤黒い髪のボブカット、黒いシャツにこれまた黒いフワッとした膝丈スカートの姿で、一番目立つのが髪の色と同じ赤黒い羽。そんな少女がリゲルの後ろに笑顔で立っている。
なんだ? 知り合いか? でもなんか笑顔なのに怒ってそうにも見えるぞ。
俺とアマンダがその少女に目を向けていると、リゲルがそれに気づき後ろを振り返る。
そして、見事な二度見をする。
「ロ、ロッサーナ! なんでここに!」
いつも穏やか口調のリゲルが随分と慌てた様子で立ち上がる。やっぱり知り合いか。
「なんでここに! じゃありませんわ! お兄様こそいつまで遊び歩いてるんですか!」
「妹?」
魔族に兄弟とかあるんだ! なんか湧いて出てくるイメージだったけどそういえば魔族がどうやって生まれてくるかとかまだ聞いたことがなかった。
「私に役目を放り投げて、好き勝手に遊びまわって! 自分の立場を少しはかんがえたらいかがかしら」
バチバチ、バチバチバチ
そう怒る少女の手から大量の静電気が発生したかのような放電が見える。
「まてロッサーナ、俺が悪かった。今丁度魔界へ戻ろうとしてたんだ。ほら見てみろ、この子を。この子をマクシムとサユリの所へ連れていくんだ」
「その子と遊んでいて、いつまでも戻ってこなかったってことかしら?」
「違う! そうじゃない! この子とは遊んでいない。って違う! そういう問題じゃない。とりあえず、その放電はやめろ、今はだめだ」
「いえ、妹に全てを押し付けて遊び歩くような兄にはお仕置きが必要です」
「いや、マジでだめだって。俺今、魔力が制限されてるから、死ぬ、死ぬって!」
「言い訳は聞きません! くらいなさい!」
バリビリビリビバリビリバリ!
「あばばばばばばばばばば!」
魔族リゲルは、服と髪から煙を上げ、無残に地面に倒れた。これ本当に大ダメージ受けてない? 妹って言ってたし、敵意がリゲルだけに向いてたから、止めていいものかどうか判断できずぼーっと見てたけど、結構重傷そうだけど大丈夫?
「あれ? お兄様?」
そんなリゲルの様子をロッサーナが不思議そうに見ている。
「え? お兄様? なんでそんなダメージ受けてるの? え? どういうこと?」
いやいや、あなたがやったんですけどね。バチバチバチって。
「リゲルは、こっちのケインに魔力を大幅に抑えられてたんだけど……」
うん、多分その影響で魔法に対する抵抗力が随分と下がってると思う。
「ええ? お兄様の魔力がこんな人間に? 制限された?」
「なんかすんません」
「お兄様! 大丈夫ですか! おにーさまー!」
大丈夫ですか! って繰り返しますけどあなたがやったんですけどね。
しかし、これって兄弟げんかってやつだよね? 喧嘩の原因とか全然わかんないけど、ハードな兄妹げんかだなー。ってかリゲル大丈夫? まだピクピクしてるけど兄妹喧嘩で死んだりしないよね? なんか煙出てるけど……。
「ケイン、なんかリゲルやばいんじゃない? 魔力もとに戻さないと死ぬんじゃない?」
あ、そうだ。魔力が元通りになら多少の傷はすぐに回復するみたいなこと言ってたよな。このままぼーっと見てて死んだら、後味悪いし、魔界への案内が居なくなってしまう。
( 魔力 制限解除 )
シュー……シュシュシュー
変な音がする、これってリゲルが回復してる音? 体の組織が急速に再生するみたいな。痙攣するような動きは止まり、しばらくするとガバっと起き上がるリゲル。
「殺す気か!」
ポカ!
リゲルがロッサーナの頭を殴る。
「いったーい!」
ちゃんと手加減はしたようで、涙目となるロッサーナ。
「状況見て行動しないか! ロッサーナ! 危うく妹に殺されるなんて情けない結末になるところだったぞ!」
これまでの穏やかリゲルが厳しい兄の姿を見せ、説教はしばらく続いた。




