031 アルドラへ
エルナトの正門、そこに滅多に見ないような立派な馬車があった。高級な客車の後方に荷台があるような構造で御者台も大きい。馬4頭で引く構造になっていて装飾も豪華だ。まさに要人を運ぶための馬車。そんな感じだ。
「おはよー。この馬車でアルドラへ向かうよ」
俺たちの姿を見かけたリゲルが手を振ってくる。その周りはやっぱり女性が囲んでいる。朝っぱらから見送りに来た取り巻きたちだ。まったくこのモテ魔族は……。
「これでアルドラへ行くんですね。凄い馬車だな」
「要人用だからね、僕たちは護衛ってことで後方の荷台に乗るよ」
「他の護衛の方は?」
「この馬車の護衛は僕だけだよ。来るときもそうだったし僕は基本一人で護衛してる」
「まぁリゲルさんなら一人で十分か、滅茶苦茶な力をもってますもんね」
「いや、君に言われたくないよ。その力を完全に封じたくせに。あと「さん」付けはやめてくれよ。俺は君に負けたし、一緒に旅するのに堅苦しいのは面倒なんだよね。二人とも気楽にリゲルって呼んでくれ」
「えーと、じゃぁリゲルって呼ばせてもらいますね」
「うんうん、それでいい、そしてなるべく早く弱体化を解除してね」
「ははは……、アマンダの許可がでたらということで」
「まだ駄目ですよ。信用できてからです」
「了解、ただし護衛任務なんだから、状況によっては解除するなり、一緒に守るなりしてくれよ、弱体化されてたから依頼失敗しましたじゃ僕の名誉にかかわるんだからね」
「それは分かってます」
「よし、じゃぁ出発しよう」
俺たちは馬車に乗り込みエルナトを出発した。要人警護の形で国境を越える予定だ。国境では検問もあるらしいが、この馬車自体が身分を証明するような物なので、基本リゲルさんは顔パス要人の方々もノーチェックとのこと。なので検問では、俺とアマンダは一時的に室内に隠れることとなる。
昼過ぎ、ミラ・カーフ王国とアルドラ皇国を分ける国境へとたどり着く。国交が一時遮断される前ということもあり帰国する者たちの列が長く続いていた。
こりゃ長く待たされそうだな。
と思ったら、列に並ぶことなくどんどん進む馬車。
そうかこの馬車は要人護送用だもんな、特別待遇って感じで順番無視できるのか。
ゲートに近づくと検問が見えてきた。騎士が複数で次々と馬車を調べている。普段の様子を知らないけどこの念入りなチェックのために長い列ができているみたいだ。
「ケイン、あの騎士の鎧って王宮騎士じゃない?」
「え? どれ?」
まだ遠くて気付かなかったが、俺は視力を強化して確認する。
あ、本当だ。他の騎士と違うちょっと品のいい鎧を着た騎士が二人混じってる。
他の騎士と違い、ゲートの周りをウロウロしつつ人の顔をチェックしてるみたいだ。あれってもしかしたら俺たちを探してる? これまで捜索とか手配とかされてなかったけど、国境封鎖の前に国外逃亡すると睨んでのことかな。エルナトには数日留まってたから、偶然だれかアマンダあたりを知ってる人に見られてたりしたのかもしれないな。
「どうする? 車内の人まで顔をチェックしてるみたいだけど」
「大丈夫だと思う。近づいてきたら眠くなってもらうか、トイレにでも行ってもらうよ」
小声で伝える。リゲルにはそんな使い方ができるとは言ってないからね。
「なんでもあり過ぎて呆れるわそのスキル」
ゲートに近づくと騎士がこの馬車に向かってきた。なんとなく見覚えがある顔だ。あれって聖女の傍に居た騎士だよな。ということはやっぱり俺たちを探しているってことか。こんな遠くまでご苦労様だなー。
( 腸蠕動 8 )
王宮騎士二人の腸の動きを活発化する。急に下剤が効きまくった状況になってるはずだ。
「う、急に腹の調子がわるくなってきた。おい、少し離れるから頼むぞ」
「いや、俺もだ。ちょっと我慢できそうにない」
「仕方ないな、急ぐぞ」
「なんだこれ、昨日の夜食べた物に中った? おい待ってくれ」
そんな調子で俺たちの馬車直前で王宮騎士二人は消えていった。しばらくは効果が続くだろうからゲートを通過するまでに戻ってくることはないだろう。
「ケイン、なにかしただろ」
そんな様子を見ていたリゲルが俺に目を向ける。都合よく消えていった騎士を見て何か感づいたみたいだ。鋭いな。というか都合よすぎたか。もう少し考えて使えばよかった。
「さぁ、偶然じゃないかな」
素直に教えるつもりはないので、とぼけておいたが「嘘がへただね」と言われてしまった。結局検問はリゲルの顔パスで通過し無事に国境を越えることができた。
「ようこそ、アルドラへ」
ゲートを通過するとリゲルが入国を歓迎してくれた。国境を越えただけで街道が続いているその風景に大きな変化はない。しかし丘を一つ越えると王国とは雰囲気の違う街があった。国境の町だけに王国との交易が盛んだったのか、大きくて賑やかそうな町だ。そこかしこに馬車が行き交っている。あと亜人が多い。王国では滅多に見かけない、エルナトで時々見かける程度だった亜人が当たり前のように街で生活しているみたいだ。そして何よりもカラフルだ。多様な人種が存在するためか、建物の個性が凄い。王国が統一された様式であったのに対して、無秩序と言える多様性だ。
「自由な雰囲気だね。この町、建物の個性が凄いし、亜人の多さもエルナトと比べても段違いだ」
「王国ってやっぱり亜人が住みにくい国だったんだ。純粋に亜人の人口が少ないのかと思ってた」
町の奥へ進み、貴族の屋敷の前に馬車が止まる。要人はここで降りるみたいだ。俺たちも馬車を降りる。
立派な身なりの人たちがそれぞれリゲルへ礼を言い屋敷へ消えていく。リゲルって遊んでばかりだったのに凄く感謝されてるな。あれでも役に立ってたってことか? 実力がはんぱないから居るだけで要人を守る抑止力になってたとか?
「とりあえずギルドに行こうか。僕は帰国したことを伝えたいし、魔界を目指すにしても移動は護衛任務で馬車に乗るのが都合がいいしね、それに僕は飛んで移動するより馬車に揺られて移動するのが好きなんだ」
「え、リゲルって飛べるの?」
「何言ってんだケイン、君と手合わせした時も飛んでただろ?」
あ、確かに飛んでた、幽霊みたいに、でもあれって一時的に魔力で浮き上がってたって感じで、移動手段に使えるほど自由に飛べるとは思ってなかった。
「僕には羽があるだろ。羽をもつ魔族はだいたい飛べるぞ」
そうなんだ。ますます強敵だな。飛んで逃げられて遠距離から魔法とかされたら俺さっぱり対応できないじゃん。とは言え魔力を封じれば飛べないんだよな。昨日の手合わせの時も魔力を封じた瞬間に落下したもんね。とにかく魔族との戦闘では魔力を封じるのが一番ってことだな。
「この馬車の護衛は終わりですか?」
アマンダが聞く。
「ああ、僕の役目はこれで終わりだよ。ここからは別な冒険者を雇うんじゃないかな。だから僕たちはギルドで、北へ向かう馬車の護衛依頼を受けよう」




