030 国境越えに向けて
「なんなんだ君は、僕が完封されるなんてありえないんだけど! しかも認めるって言ってるのに魔力まで封じるなんて、さすがにあの落下はダメージ受けたぞ」
なるほど魔族にはあれくらいすればダメージになるんだな。覚えておこう。まぁ本当に戦うなら無力化した後はナイフを使うだろうし、さすがにナイフが刺さらないってことは無いかな。分からないけど。
リゲルは筋力を1にし自由に動けるようにした。普通なら1でも動けないんだけど、そこはさすが魔族というかリゲル。筋力がそもそも俺の4倍以上あるから、筋力1でも普通に歩いたり会話したりしてる。
「ごめんなさい、認めるって言ってたの聞こえなかったから……」
「すみません、魔力が凄い人にスキルが効くのか試したくなりまして……」
素直に謝る俺とアマンダ。
リゲルは負けたことはあっさり認めるが、認めたのに落下させられたのには納得できてないみたいだ。
「それに動けるようにはなったけど、この状態はなんなんだ? 魔力の気配すら感じないし、体もやたらだるいぞ。普通の人間程度にも動けない気がする」
「えっと、大暴れされたら困るかなーって思いまして」
「信用無いな僕! そんなことしないよ。そもそもこのくらいで人間に害をなそうって考えだったら、人間の社会に入って楽しもうなんて思わないよ!」
そうか、この人はもう長いこと人間の社会で冒険者してるんだったな。
「じゃぁ解除しても仕返ししようとしたり、しません?」
俺が念押しするように聞くとアマンダがかぶせてきた。
「もし人に危害を加えたら、魔力を一生封じますよ?」
「え? そんなことできるの? 嫌なんですけど」
「ケインなら余裕です」
「はは、まいったな、アマンダが妙に確信があったのはこのスキルのせいだったのか。分かった、絶対に人間に危害を加えないよ。これまでだって一般人に危害を加えたことなんてないぞ。本当だぞ」
サクサクとフェイクを入れてくるなアマンダ。まぁ有利に話を進めるためってのは分かるけど、それって時間がたったらバレるぞ?
「まぁリゲルさんの人気を見たらそれは分かります。ちょっとまっててください。ケインと相談してきますから」
アマンダに訓練場の端まで連れていかれる。アマンダはなかなか策士みたいでリゲルにはしばらく俺のスキルを大げさに伝えるつもりらしい。
まず俺のスキルは封印やデバフ系ってことにする。そしてスキル効果は永遠であると誤解させる。解除するためには体に触れる必要があるということにして、体に触れる機会を作り、スキル持続時間を設定する。さらに様子をみて徐々に解除するということにして、定期的に弱体化スキルを使用。体に触れるチャンスが無い時は、こまめに操作する。そうやってリゲルの脅威度を低くしておこうと提案してきた。
俺としてはそれに異議はないし、こんなとんでもない強い人に近くで好きにされるのは、なんか怖いからむしろ大賛成だ。
リゲルのもとへ戻ろうとすると、彼はすでに取り巻きの女性に囲まれていた。
「リゲル様、お怪我はありませんか? 大丈夫ですか?」
「リゲル様、お召し物がこんなになって」
「お顔にも汚れが、このハンカチを使ってください」
「ああ、私のリゲル様になんてことを、あの男、憎らしいわ!」
なんか腹立つな、負けても人気に陰り無しってか? 強さだけで人気があるわけじゃないないのね。それにダメージ受けて負けたって感じでもないしな。下手したら取り巻きには俺がなにか卑怯な真似をしたとか思われてるかも。
「いやー、彼に完封されちゃったよ。あんなスキルもあるんだね。世の中まだまだ知らないことが多くて面白いね。これだから外の世界はたまらないよ」
そういって気持ちのいい笑顔をみせキャーキャー言われている。永遠に弱体化してやりたい。
「リゲルさん、僕は貴方に一度拒絶されたし、まだ知り合って間もない。だから今は完全に弱体化を解除するのが怖いです。あなたのことが信用できるまで必要最小限に解除するってことでいいですか?」
「僕は前に言ったように、強い力を持つ者なら男だって認めるし友としても歓迎するよ。まぁ君が僕を信用するまではそれで構わないから、とりあえず少しでもいいから魔力を解除してくれないかな。僕は常に強い魔力を纏ってたから、なんか今は裸にされたみたいで変な感じなんだ」
「キャー、裸のリゲル様ー」
「今のリゲル様が素のリゲル様なのね、手を握ってもいいですか!」
「私もー」
「私もお願いします!」
なんでもキャーキャーできるんだなファンは。しかしこの流れで俺が手に触れたいって言いたくねーな! アマンダの策だし仕方ないけどね。
「じゃぁ俺もちょっと触れさせてもらっていいですか? 解除には直接触れる必要があるので……」
すぐに差し出されたリゲルの手を握手のように握る。
この人、出鱈目に強いからな。筋力は……そうだな。
( 筋力 2 長く )
これでも普通の人間よりずっと強いだろ。次に魔力だけど、魔力1への操作が単純に5分の1への弱体化だと考えても今まで見た人間の最強クラスなんだよな。でもまぁ仕方ない。
( 魔力 1 長く )
これで丸1日はこの状態が続くはずだ。あとは明日の同じ時間までに何か適当に理由をつけたり偶然を装ったりして効果を継続させればいい。
「おわりました、とりあえずはこんな感じで我慢してください」
「お、ちょっとだけ魔力がもどった。不思議だな、空っぽだったのに急にもとに戻ったぞ、君のスキルいったいどうなってるんだ? 僕は色々な相手と戦ってきたけどこんなのはじめただよ」
召喚された者が手に入れる元の世界でやってたことが原型をとどめないほど拡張されまくったスキルって感じだもんな。他に例がないユニークスキルってやつなのかもしれない。
一応スキルの効果を確認したら異変に気付いた。
< 筋力 2 持続時間 2日間 >
< 魔力 1 持続時間 2日間 >
あれ? 二日間? 持続時間が延びてる。熟練度が上がった? 最後に使ったのがエルナトに到着する前の夜に盗賊を眠らせた時か。後でものんびりスキルの説明を読みなおしてみよう。
「その魔力でも多分、人類では最強クラスですから我慢してください」
「ほほう、魔力量が分かるのか。ますます不思議なスキルだな」
あ、なんだか俺のスキルを解析しようとしてる気がする。そりゃ気になるよね。余計なこと言わないようにしよう。
「余計な詮索はしないでください。リゲルさん、いずれ信頼できると判断すれば教えますから」
「わかったよ、僕は君に嫌われたくないし言われた通りにするさ」
アマンダはまだまだ高いレベルで警戒してるな。油断しないのは武術でいう残心ってやつなのかも。
「そんな警戒しなくても、マクシムとサユリの娘を裏切りはしないさ。約束通り魔界まで連れていくよ」
場所を変え俺たちは明日の予定について確認した。
アルドラへは明日の朝、リゲルの乗ってきた馬車で出発する。メンバーはリゲルと一緒に来た人たちと俺たちだ。俺たちが国境で止められる可能性については「僕の乗ってる馬車は顔パスだから問題ない」とのことで心配する必要がないらしい。こっそり王国へ来たっていうのに顔パスって。ぜんぜんこっそりしてないよね、リゲル。
そもそもリゲルの仕事ってなんだったのか聞くと。
「要人の護衛だよ。今回の国境封鎖もその要人とこの国の偉い人との話し合いが決裂してのことだ」
とあっさり教えてくれた。
本当に冒険者として仕事してるんだな。しかし要人の護衛となるとSランクの冒険者を雇うんだな。国と国との交渉をする人なんだから当然か。
向こうに行ってからのことも教えてもらった。言葉は同じらしいが習慣の違いとかで苦労するかもしれないと思ってたけど、そんなに違いはないらしい。ギルドで働く分に関してはほとんど同じで、ギルドカードも共通とのこと。
それならリゲルが協力してくれことだし、すぐに魔界へと向かってもいいかも。アルドラに入国しさえすればもう慌てる必要もないけど、アマンダが両親に会えると嬉しそうだしね。
「いよいよアルドラね、ここまで意外とあっさりだったよね」
「そうだね、なんだかんだ言ってアマンダの両親のおかげだったことが多かったけどね」
「うん、早く会いたいなー、どうしてるかなー」
俺たちはギルドを後にして王国最後の日をのんびり過ごしていた。今日は訓練も生活魔法の練習も無しだ。町をブラブラして必要な物を買い足し、夕暮れ時となった今はいつもより少し贅沢な夕食だ。
「向こうに行ったらどうする? すぐに魔界へ行く?」
「できればそうしたいかな。魔族の町までの護衛任務って毎日あるわけじゃないみたいだし、お金に困ってるわけでもないからギルドで依頼をやる必要もないもんね」
「じゃぁリゲルにサクッと案内してもらって両親と再会だね」
「ケインもそれでいい?」
「もちろんだよ」
「むしろ現状それしかすることが無いくらいだよ」
「はは、あんまり元の世界に戻るために! とかないのね」
「そうだなー、元の世界よりこっちに来てからのほうが楽しい生活してるかも。アマンダとも会えたしね」
「へへ、それは良かった。私も実は結構楽しくやれてると思うんだよね。元の世界って私の家族にとってはちょっと窮屈というか、必要とされてない感じがしてたんだけど、この世界だったら魔物の討伐とか護衛とか人の役に立てることが沢山あるんだよね。でもケインは家族と一緒じゃないからその分寂しかったりするんじゃない?」
「んー、親の顔を思い出せば少しは寂しいかな。でも社会人になって10年近く地元を離れてて、年に2回くらいしか帰ってなかったし、もしかしたら家族も俺が居なくなってるのに気付いてないかも」
まぁさすがに突然の失踪だから、職場やアパートの管理人から連絡があると思うけど、今さらそこを考えてもしかたない。
「まぁ考えてもどうにもならないから、今楽しければとりあえずいいかな。辛いことばっかりだったらきっと帰りたくて仕方なかっただろうけどね」
「私は家族と一緒だったのと、ケインと一緒だったから本当に良かったよ。ここまでこられたのもケインのお陰だしね。脱獄する時、喘息の症状が一番の心配事だったんだよね。感謝してるよケイン」
食事を終え紅茶を飲みながら、アマンダに目を見てお礼を言われた。すっごく嬉しい。なんか胸がどきどきしてきた。アマンダってこうやって食事とか普通なことしてる時、本当に可愛いんだよな。俺は随分前からいろいろと意識してるけど、アマンダはどうなんだろう。
できれば、あれだ、危険なところに二人でいたら愛が芽生えるあれ、なんだったっけ、綱渡り理論だったか吊り橋理論だったのやつ。あんな感じになってくれたらいいのに!
「助けられたのは俺の方だよ、俺は一人じゃあんな脱獄なんて思いつかなかったし、スキルがあってもあの時は使いこなせてなかったし、大勢の騎士に阻まれたら逃げるなんて無理だった。今ここで楽しく食事できてるのはアマンダのおかげだよ」
「じゃぁお互いさまってことで、これからもよろしくね」
「うん、お互い様にしては俺が世話になってばかりだけど、よろしくね」
んー、良い感じだ。これってここで告白しちゃったらうまくいくパターン? まぁ俺にそんな勇気はございませんが、この雰囲気だけで幸せな気持ちになれるな。
「でもケインって、すっごく自己評価が低いよね」
「ん?」
「ケインって多分、個人戦なら最強なんじゃないかな」
「俺が?」
「だってそうじゃない、人も魔物も魔族も無力化しちゃうんだよ? そんな反則的なスキル持ってるのに全然自信が無さそうだよね。もう討伐だって経験したんだから自分の強さ自覚してもいいと思うんだけど」
「でもリゲルを無力化したのに、殴ってもほとんどダメージ与えらえなかったよ?」
「あんなの無力化さえできてれば、ナイフでも使えばいいし、ナイフがダメなら斧でも持ってくればいいだけよ。無力化した時点でケインの勝ちは確定なの」
「そうか、一対一なら無力化した後にじっくりダメージの与え方を考えればいいのか」
「そうよ、私なんて不意打ちくらいしかケインに勝つ方法が思いつかないもの」
「いやいや、俺はアマンダと戦ったりしないし」
「もしかして、ケインがそのスキルで動けなくして、悪戯してきたりするかもしれないじゃない」
「しないし!」
そんな風に見られてるの俺! もしかして寝相眺めてるの気付かれてる?
「はは、冗談よ。強い人みたらどう戦うか考える癖があるだけ」
ふぅ、冗談か……焦った。
でも女性は視線に敏感って言うからな、俺はついついアマンダの顔とかアレとかソレとかに目が行くからな。要らぬ容疑がかけられないように注意しないと。李下に冠を正さずってやつだな。
しかしアマンダ、強い人を見たら戦いたくなるんだ。「俺より強い奴に会いに行く」の公道で戦う連中と同じ系統? こうして姿だけ見てたらそんなキャラなんて分からない綺麗な女の子なのにね。
食事を終えると俺たちは早めに宿に戻り支度を済ませて明日へ備えた。予定通りに行けば明日にはアルドラ側にある国境の町に到着し、明後日には魔族の町を目指すことになるだろう。そうそう予定通りには進まないこともあるだろうけど、アマンダと二人ならきっとなんとかなるでしょ。あ、リゲルもいるか。ああ! 今後は二人っきりじゃないんだ! ちょっとショック!




