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029 ケイン、一対一でリゲルを完封


 リゲルと俺の手合わせは居合わせた多くの者の娯楽となった。訓練場にはホールにいたほとんどの人が来ており、取り巻きの女性たちが黄色い声を上げている。


「リゲル様、がんばってー」

「何言ってるの、頑張ろう必要がないでしょ。あの人Dランクだって言うじゃない」

「あ、そっか、でもリゲル様の戦ってるところなんて見たことないし、せっかくだから色々見たいな」

「なら、頑張ってもらうのはあの人のほうね」

「あなたも頑張って、リゲル様のカッコいいところ見せてねー」


 なんか納得のいかないけど、俺にまで応援がきた。

 とはいえ俺のスキルが効果あるなら、カッコいいところは見られないんだけどな。


「さてどんな奥の手をもってるのかな? あのステータスだと少々戦闘技術に特化したスキルをもってたとしても僕に膝をつかせるなんてできないと思うぞ。でも何をかくしてるのか興味はあるな。君もアマンダと同じ、あっちから来た人間なんだろ? でもマクシムやサユリに匹敵するようなスキルを持ってるとは思えないな。そもそも戦闘に慣れた者の空気が無い」


 そもそも戦闘に慣れてなんていないからね。

 リゲルは訓練場にくるとその中央に立ち、余裕の様子だ。絶対の自信があるんだろう。


「君がもし魔力に関係なく大魔法が使えるようなスキルを持ってたとしても僕には無駄だよ。魔法は使わないって約束したけど、僕の身体の中には君たちが想像できないほどの魔力が詰まっててね、人間の使う大魔法くらいなら何もせずに受けても大したダメージがないんだ。だから天敵はマクシムやサユリみたいな物理特化なんだけど、君そうじゃないよね」


 知ってますよ、魔力が俺比較の132でしたもんね。普通の人比較で50倍、見かけた中で一番高い魔力を持ってた人が20ちょとだったから、それと比較しても6倍。まさに桁違いってやつだ。魔族ってのは魔力が高いから魔族なのかもね。


「まあ、そういうのともちょっと違うんで……やってみればすぐわかるとおもいます。えっと、リゲルさんは武器とかはいいんですか?」


 特に構える様子もないリゲルに俺が確認する。


「いらないよ、僕は魔力特化型だからね。だからと言って物理的には弱いってわけじゃないぞ。君の武器は籠手みたいだけど、多分君のステータスで殴られたって、大してダメージ受けないんじゃないかな。それくらいには物理的にも強いつもりだ、なんなら最初は好きに殴らせてあげようか?」


 金属の籠手で殴られてもダメージ受けないほどですか! それも体の中に充満してる魔力の影響もあるのかな。普通に勝負するつもりなんてないけど、そもそも規格が違いすぎる存在だな。


「とりあえず、全力で頑張ってみます。よろしくお願いします」


 この世界の手合わせの礼儀みたいなのがわからないけど、とりあえず俺は礼をして構える。


「やっぱり体術なんだ、無駄だとおもうけどねー」


 そこへアマンダが口をはさんでくる。


「リゲルさん、約束わすれないでくださいね。あと勝負は一度だけですよ、あなたみたいな規格外な人と何度も戦うなんて私たち、嫌ですから」


「もちろん約束は守るさ、彼が勝てたらね」


「では私の合図で開始します」


 そういうとアマンダは少し離れた位置へ下がり審判のように立つ。

 空気を読んだのか、キャーキャー言ってた女性陣も静かになる。リゲルのカッコいいとこを見逃さないように集中してるって感じか。他の冒険者達もリゲルの実力に興味があるのか真剣にみてる。リゲルって護衛としてこっそり来てるって前提なんてまるで無視した目立った存在だもんな。皆、魔族だって知ってるんだろう。


 アマンダがスーッと息を吸い大きな声で開始の合図を出す。


「はじめ!」


 ( 筋力 0 )


 先手必勝。リゲルは絶対的な自信があるみたいだから開幕特攻などしてこないだろうけど、魔法を使わないって約束がある以上、最初に無力化するのは筋力だ。

 ガクっと力を失い体が傾くリゲル。これで倒れて勝負は俺の勝ち……と思ったら、傾いていた方向へ足をだし踏みとどまった。

 効果は出ていた。だけど倒れなかった。どういうことだ? スキルが解除された? いやそうじゃない、先程までの余裕の表情が消え、呼吸がしにくのか、ハーハーしている。今も効果はでてる。じゃぁなぜ? 魔力が桁違いに高いから効果が弱くなったとか?

 しかしあの状態でどのくらい動けるんだろう。近づいて殴ろうとしたら反撃してきたりする?


「なに……を……したん……だ」


 絞り出すように声を出すリゲル。声出せるんだ。筋力を操作して無力化しても生命維持に関わる筋力は残ることはトロールの実験でわかった。声門あたりは無力化されてない可能性もあるけど、声を作り出す口の動きはどうなんだ?

 もしかして魔力で動かしたりしてる?

 見物に来ていた者たちが異変に気付きざわつき始める。何もしてないのに急にリゲルが苦しそうに倒れかけてるんだから当然だ。


「筋力を封じさせてもらいました」


 俺はそれだけを伝える。


「なんだあいつ、デバフのつかい手か?」

「そんな魔法リゲルに通用するか? リゲルって防御魔法とか使わなくても、魔法無効レベルなんだろ?」

「じゃぁあれはなんなんだよ」

「デバフじゃなきゃ呪い系の能力?」

「いやそういう可能性はあるだろうけど、そもそもデバフってあんなに強烈に効き目出るっけ? リゲルが立ってるのがやっとって感じになってねーか?」


 デバフね。正解に近いけどちょっと違う。俺のスキルは相手を弱体化する目的のスキルじゃなくて、相手の体調を管理して操作してしまうスキルだ。遠距離からだと一時的だけど、相手の体調をゲームの設定を変更するかのように弄れる。どういう理屈かわからないけどリゲルは倒れていないが、魔族にだって効果は出るってことがわかった。やっぱりこのスキルってとんでもないな。


 < 筋力 0 >


 よし、間違いなく筋力は無力化できてる。ちょっと怖いけど魔法は使わないって約束してるんだ。それを信じて殴り倒して終わらせたい。


「すみませが、倒させてもらいます」


「なん……だと……、なぜ……解除……されない……」


 多分普段はその莫大な魔力だけで、色んな魔法を跳ね返してたんだろうな。倒れないのはきっとその莫大な魔力が無意識に体を支えてたりするのかも。詳しくは分からないけど、倒れはしないが戦えるようには見えない。無抵抗な人を殴るってのは気が引けるけど、この人、めっちゃモテモテだったしいいよね。

 俺はリゲルの目の前まで歩いて近づき、ふらつくリゲルが倒れると思われる程度の力で胸を殴った。


ドカ


 しかし耐えるリゲル。耐えると言っても痛みではなくバランスをとることに必死な様子だ。



「く……屈辱だ……僕が……一方的に殴られるなんて」


「すみません、俺こういう戦い方しかまだできなくて」


 ドカ!


 もう少し強く殴る。顔は殴らない。だってこのイケメン魔族の顔を殴ったりしたら、後で取り巻きの女性から何されるか分かったもんじゃない。昔職場でイケメン俳優の事を馬鹿にしたことを言って、そのファンだった人からしばらく無視された経験がある俺は、ちゃんと学ぶ子だ。女性からヘイト集めるとろくなことが無い。

 強めに殴っても倒れなかったリゲルが笑う。


「はは、蚊に……刺された……程度の……痛みしか……ないぞ。僕の中……の魔力は……多少の傷なら……一瞬で……治す。こんなんじゃ……ダメージ……受けない」


 そか、究極の自然治癒力って感じなのか。まぁダメージ与えて倒すことが目的じゃないしな。膝さえついてもらえればそれでいい。押し倒すってのも手だけど、なんかそれだと戦って倒したって感じじゃないしどうしようか。

 倒されたって実感してもらうためには、それなりに痛みを受けてもらうのが一番かも。


 ( 痛覚 10 )


 バシ!


「痛っ! な……なん……なんだ……痛みが……増した?」


「はい、すみませんが、凄く痛みに敏感になるようにしました。できれば降参してください」


 バシ!


「ウッ!」


 ドカ!


「ウグ!」


 ゴス!


「くっ! ……痛い……なんだ、これは……」


 なんか無抵抗の人を殴り続けるのって結構自分のメンタルに来るね。周囲の目がやたら気になる。俺がとんでもなく酷い人間に見えてたらどうしよう。リゲルも大変だな。今の状態ってダメージは大したことないのに、なぜか痛みだけは強いってわけわかんない状態だもんな。どんな感じなんだろう。ちょっとその感覚が想像できないな。今度自分にやってみよう。マゾではないけど知識としてね。

 申し訳ない気持ちで手が止まった俺にアマンダから声がかかる。


「ケイン、もっと徹底的にやらないとその人、勝ったって認めてくれないわよ。もっと徹底的に殴りまくって、心が折れるまで!」


「「え?」」


 容赦ないアマンダに俺とリゲルが同時に驚く。戦いに関して容赦ないのはいつもだけど、この状況でもためらわないのは凄いよ。


「ケインは制限ないんだから、そこの木刀とか使ってガンガンやればいいのよ。遠慮しないで顔面も狙っていこ! どうせダメージ少ないんだから遠慮する必要ないよ」


「「ええ?!」」


 アマンダの徹底ぶりに俺もリゲルも周囲の者も驚く。俺へ向けられていた女性陣からのヘイトが減った気がする。アマンダ大丈夫か? あとでイジメられたりしないか? まぁ返り討ちだろうけど。

 しかし、どうしようか。アマンダの言う通り、武器で滅多打ち? いやーさすがにそれは気が引けるなー。でもやるしかないのかなー。

 俺はリゲルと壁にかかっている訓練用の木刀を交互に見る。仕方ないか木刀で……とおれが壁に向かうと。


「ちょっ……ちょっと……待て……、まさか……本当に……木刀で?」


「すみません、アマンダがああ言ってるんで……」


 ためらっても仕方ない。俺は木刀を手に取りリゲルへ向かう。リゲルは俺のスキルを解除しようとしているのか、その場を動かず集中している。解除なんてできるならもう俺は確実に負けだな。まぁそれを待ったりしないけどね。

 ごめんなさい!


 バキ、バシ、ガス、ドス、バキ、ドス、バキ、ドカ!


「痛っ! ック! う! っあ!」


 俺が木刀で何度も殴りつけ、痛みにうめき声を繰り返すリゲル。

 やばい、これ絵面があまりに悪すぎないか? みなリゲルが桁違いに強いってのを知ってる風だけど、そうじゃなかったら殺す気かってくらいのことやってるぞ俺。元の世界でこんな事やってたら確実に逮捕の懲役ものだぞ。大丈夫か俺のイメージ、今後やばいことにならないか?


「まて……わかった……認める……認めるから……いい加減に……してくれ!」


 ボフ!


 突然リゲルが風を纏って10m近くありそうな天井近くに浮く、俺はその風圧で後方へ転がされた。凄い、風の魔法? 空を飛べるのか。


「約束と違うじゃないですか!」


 アマンダが怒った様子で抗議する。リゲルが認めるって言ったのが聞こえてなかった?

 リゲルは全身に力が入らないからか、まるで吊り上げられているかのように脱力して浮いていて、その姿は幽霊みたいだ。


「ケイン、落として、完全に無力化して負けを認めさせて」


 いやもう認めてくれてるんだけどね。でも俺の132倍もある魔力も0にできるのかは気になるかも。あれだけ殴っても大してダメージ受けてないみたいだし、あの高さから落ちても大丈夫かな。申し訳ないけど試してみるか。


 ( 魔力 0 )


 ……ドズン


 リゲルの強烈な抱擁が地面に炸裂した。あれはかなり痛そうだ。


「酷い……僕は……認める……て言った……のに」




 

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