028 魔族リゲルに挑戦
俺たちは村へ戻って報告した。
巣に居たゴブリンは全て殺したこと。村人だと思われる人が殺されていたこと。正直どんな顔して報告すればいいのか分からなかったが、極力感情を出さず事実を報告した。依頼は達成したけど爽快感はない。こういうのって慣れることができるのかな。いや無理だろうな。
「そんな辛そうな顔をなさらないでください、ゴブリンにさらわれた以上、命があるとは思っていませんでした。それにあなた方に依頼したのは討伐です。さらわれた村人を助けてくれとは頼んでいません。それは無理なことだと分かっていますから。あなたがたはちゃんと依頼を達成してくれたのですから、気に病まないでください。お疲れでしょう。今日は村でゆっくりされて、明日これを持って堂々とお帰りください」
そう言うと村長のお婆さんが依頼の書類にサインをすませて渡してくれた。凄く気を使われるのは俺たちの様子から経験が少ないって見抜いてるんだろうな。その通りなんだけど。
その夜はささやかな宴が行われた。村の人たちは死んだ人を惜しむ様子もあるが、それ以上にゴブリンが討伐されたことを喜んでいた。
「もっと悲しむ会になるかと思ったけど、そうじゃないんだな」
「もちろん悲しいだろうけど、この魔物の存在する世界じゃ、魔物に襲われ犠牲者が出る、そしてその魔物を討伐するって繰り返しが日常なんだろうね」
「魔物に襲われ人が死ぬ、それが避けられない現実なんだな」
「人口的に、すべての村に衛兵を置けるような環境でもなさそうだし、王国の遠征も魔物の絶対数を減らせているのかと言えば、分からないみたいなんだよね」
「先の見えない戦いをしてるんだな」
「それをなんとかしたくて魔王の所にいったんだと思う。お父さんとお母さん」
倒さなくては被害が増える。戦っても倒しきれず犠牲は徐々に増える。この王国はそんなジレンマを抱えて、魔物と戦い続けているってことか。もしかしたらそういう背景が聖女の冷酷な態度にも関係があるのかもしれないな。
この先、アマンダの両親と合流し、根本的な解決策がみつかったなら、俺もできるだけ協力したいなと思った。
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「あ、アマンダさん! ケインさん! やっと戻ってきましたね!」
ゴブリン討伐からエルナトへ戻りギルドに報告していると、アンが駆け寄ってきた。報酬受け取り前で、今日は逃げるに逃げられない。またどこかの優秀なパーティーへのお誘いだろうか。勘弁してほしい。
と思ったら近づいてきたアンは小声で言う。
「先日はすみませんでした。あなたたちが訳ありだってギルド長に聞いてなくて。でもギルド長がわるいんですよ。ただ世話してくれって言われたから、私張り切り過ぎちゃいました」
ん? 何も事情を知らずに手助けしようとしてたってこと? そういうことか、ゴルドさんの人選ミスじゃなくて伝達ミスだったか。なにも言われず世話してくれって言われたんなら、優秀なパーティーに紹介するってのは普通なこと……かな?
「それはともかくギルド長がお二人が来たら呼んでくれっていってましたよ、あと、なんと二人とも昇格です! 今回の討伐完了で昇格が確定ですので、ギルド長の所へ行く前にカードを預けていってくださいね」
「もう昇格なんだ! 早くない?」
「冒険者としてはCランクがもっとも多い層で、そこまでは比較的簡単に昇格できるんですよ。お二人は王都からここまで、護衛任務を何度も無事に済ませ、道中盗賊への対応も的確にできています。そしてこの2回の魔物の討伐も危なげなく完了、十分認められる結果を出してますので順当な昇格ですよ」
「これでアルドラから魔族の町へ行けるね」
「いよいよか、アマンダがお父さんとお母さんに会えるのも遠くないかもね」
俺たちはアンにギルドカードを渡し、ギルド長の部屋へ向かった。
「よく来た。二人とも、急ぎ伝えたいことがあったんだ」
「何かあったんですか?」
「国王の命令でアルドラとの交流が厳しくなる。今国内にいるアルドラの者が帰国するのを最後に国境が封鎖されちまうんだ。今後簡単には行き来できなくなる」
「え? そうなんですか? なんで?」
「はっきりとした理由はわからない。が、ここ数日行われていた閣僚級の話し合いで意見が衝突していたみたいだからな。それが原因なんだろう。それはともかく、お前たちは明日、アルドラへ向かうんだ。国境が封鎖されればアマンダがマクシムやサユリと会えるのが随分と先になるからな。もっとアルドラのことを知ってからが良かったんだろうが、残念ながらもう時間が無い。リゲルに頼んであるから詳しいことはそっちに聞くと言い」
リゲル? ってあの魔族だよね? 俺のことは拒否してたけど大丈夫?
「リゲルはケインは連れていかないとか言ってたんですが、それもゴルドさんから頼んでくれたんですか?」
「そんなことを言ってたのか? あいつは女好きだから、男と旅はしたくないのかもな」
「はは、そう言ってました。あと俺みたいな力を持たない者に興味が無いとも」
「まぁそこは低姿勢でお願いしてみろ、なんとかなるだろ」
えー、俺は嫌だな。あんな女好きモテ男に頭下げるとか。
「それとな、マクシムとサユリはやっぱり魔族との友好関係を作ろうとしているみたいだぞ。リゲルが言うには魔族の町からさらに奥地の魔界と呼んでる場所に居て、魔族に対して実力を示し、協力してもいいって者を集めているらしい。まぁ魔族は力を持つものが好きだからな。あの二人が力ずくで賛同者を集めてるんだろう」
凄い立派なことをしてるけど、凄い力ずくな進め方してるんだな。でもそれって魔族側をまとめることができても王国側って納得するんだろうか。
アルドラ側で魔族とアルドラの兵が協力して魔物を討伐するとして、それが大成功だったら王国も同じように協力するようになるかもしれないな。俺としてはアマンダに協力したいし、アマンダが両親に協力して動くなら俺もそれを手伝いたいな。
結果として王国と聖女を助けることになるかもしれないけど、一番苦しんでるのは魔物と遭遇しやすい村や町の人だもんな。ゴブリンの時みたいなことってあちらこちらで起こってるんだろうし、魔物の討伐が進んで安全になるならいいことだ。
ギルドのロビー、リゲルはそこで前に見た時と同じように、女性に囲まれてキャッキャしていた。魔族が用事があってこっそりこの国に来ているという前提をぶち壊しにするようなまるで仕事をしていない目立った様子だ。ゴルドさんとの情報交換はしてるんだろうけど、それ以外は何かしてんのか? もしかしてそれ以外は全力で遊んでんのか?
そんな俺には入りにくい雰囲気の中へアマンダが突入する。
「リゲルさん、私たちをアルドラへ連れていってください」
あ、場所変えて話すんじゃないんだ。まぁ時間が無いって話だし、もうこの国を離れるならこそこそしなくてもいいってことかな? もし断られたらどうするんだろう。最悪は北の魔物の森を抜けてアルドラへ行くって手もあるか。実現可能かは分からないけど。
「おお、アマンダ、ギルド長からも頼まれたよ。僕と一緒に行く気になったのかい?」
ザワザワ
周囲の目がアマンダに注がれる。女性の目はアマンダの美しさとリゲルの喜ぶ姿を見て嫉妬の目となり、男の目はその美しさと可愛さに憧れる目や舌なめずりするような様子だ。おいそこのハゲ親父! アマンダをそんな目で見るんじゃない。俺も寝相を見てる時はそんな顔かもしれないけどな!
「はい、私たちを! お願いします」
その言葉にリゲルの目が俺に向く。急に面白くなさそうな顔になりちょっと威圧的だ。
「もしかして君たちは、そう言う仲……いや、僕は言ったよね? 力を持たない男には興味が無いって」
「はい、なのでケインは問題ありません」
そう言い切るアマンダ。うれしいけど俺のギルドカード見られちゃってるし説得力がないかも。
「はははは、彼はDランクなうえに、総合評価もDだったじゃないか。どんな力があるって言うんだい?」
力と言うか、ちょっとユニークなスキルはあるけどね。そういえば観察でリゲルを見ることはできたけど、体調操作って魔族にも効くかな。魔物には問題なく効果出たから種族とか関係なく生き物にはなんだって使えそうだけど。
「私は一対一で勝負するならリゲルさんより強いと思っています」
大きくでた~! それは言い過ぎでは。いや問答無用で無力化すれば一対一なら勝てるのかな。でも強い人に不意打ちされたり、遠距離からすっごい魔法を撃ち込まれたりしたら即死するよね。限定された環境、例えばスキルの効果範囲内で試合のように戦いが始まるなら、どんな強敵相手でもワンチャンある感じ?
「それはまた、面白い冗談だ。アマンダがそこまで言うならそこの訓練場で手合わせでもしてみるかい?まぁ僕はアレだからね、実力差を考慮して魔法を使わないであげてもいいよ?」
あ、それすっごく好都合な縛りだ。迷ってたんだよね、強い人と勝負する時、筋力と魔力、どちらを先に無力化するかって。俺が自分の身をある程度守れるようになれば、魔力を封じて物理攻撃は自分で回避し、クールタイムの5秒を待って筋力も無力化。これが理想なんだろうけど、現状はこのリゲルみたいな身体能力も魔力も化け物ってどう対処するのが正解なのかわかんないんだよね。
「ケインは一切制限なしでいいんですか? あとで文句言いません?」
「何か奥の手でもあるのかな? いいよ。その奥の手で僕に膝でもつかせたら実力を認めてあげようじゃないか。アルドラへ一緒に行くのも良しとしてあげよう」
お、約束を取り付けたぞ。片膝つかせるだけならいきなり筋力0でいけるかも。
「ケイン、勝手に決めちゃったけどいい?」
そこでアマンダが俺に向き直る。もちろんいいさ。ここでアマンダとさよならなんて寂しいし、この先一人で何かしたって、大したことはできそうにない。元の世界へ帰るにもどうしたらいいか分からないし、アマンダと一緒に行くしか選択肢がないともいえる。それに俺、アマンダ好きだしね。言えないけど。
「頑張ってみるよ、いつも通りでいいんだよね?」
「うん、魔法は使わないでくれるってことだし、いつも通りで」
「わかった。精一杯やってみるよ」
こんなところで魔族と手合わせすることになるのは予想外だけど、実戦じゃなくて手合わせで魔族にスキルが使えるか試すチャンスでもあるな。もしリゲルみたいに筋力も魔力も化け物ってのが魔族全体なら、俺のスキル以外の実力じゃこの先まったく太刀打ちできない。スキルが通用しないなら本当に俺はアマンダの足手まといになる。もしリゲルにスキルが効かなかった場合は、寂しいけどアマンダと離れることだって考えないといけないかも。でも逆にしっかり効果がでるなら、俺は十分戦力に慣れる。アマンダと肩を並べて戦うことができるってことだ。ゆくゆくは仲間以上の関係にもなるチャンスありって感じ!
こりゃ張り切って戦うしかないね。




