033 私をお嫁さんにしてください!
「お兄様、本当に魔力を封じられていたのですか?」
「ああ、だからお前に殺されかけたんだよ」
「信じられません、私たち兄妹の魔力は魔界でも並ぶものが居ないのに、それを封じるなんてどんな方法で」
「それは僕にも詳しいことがわからない、予測はつくけどね。知りたければ、そこのケインに聞くといい。といってもまだ僕を信用してくれていないから教えてくれないと思うけどね」
ロッサーナがこちらに視線を向ける。これはまたアマンダとは違った魅力があるな。薔薇のような赤黒い髪とおそろいの赤黒い唇。幼い顔をしてるのに色気はタップリって感じだ。
「あなたは、どうやって兄の魔力を封じたんですか?」
スキルだから念じたら封じられるんだけど、改めて考えるとどういう仕組みなんだろなスキルって。教えたところで俺自身分かってないから念じただけとしか言いようがない。
「たとえ兄の魔力を封じられたとしても、なぜ封じたままでいられるんですか? 兄は身体能力でも人間をはるかに凌駕しています。すぐに倒されて封印を解除できそうですが」
「えっと、それを知ってたから筋力も弱体化してるよ。多分今のリゲルは普通の人間よりちょっと力が強い程度になってると思う」
「え? お兄様、本当なのですか?」
「あぁ、ケインはなんでも封じてしまうぞ。俺は手も足も出ずに負けたからな」
「ええええ!」
「倒したと言うか、リゲルがギブアップしたんだけどね」
倒しきれてないし、痛みを与えてギブアップさせただけだから勝った実感はないけどね。あの後時間をかけて刃物やハンマーとかで止めを刺すことはできたかもしれないけど。ところでこの妹さん、私たちの魔力はって言ってたけど、もしかしてこの子も規格外魔力なの?
< 魔力比較 139 >
は? リゲルより上! 俺139人分の魔力ってなによ。その魔力で兄を殺しかけてたの? そういえばリゲルって人間の大魔法くらいじゃ大したダメージを受けないっていってたもんな。俺が魔力を封じてなければ、さっきのも「あいたたた」程度だったのかも。しかし滅茶苦茶な魔力の兄妹だな。魔族ってこんなのばっかりなのか? 筋力はどうなんだ?
< 筋力比較 0.6 >
あれ? これは低いというか、低すぎ? 身長は160にちょっと足りない程度の細身だけどそれにしても魔族なのに貧弱じゃない? リゲルは引き締まった細身だけど、俺の4倍くらい筋力があるのに。
「信じられません、お兄様を完封するほどの力を持つなんて、そんな力を持ってるように見えません……でも本当なら……お兄様」
「あぁ、そうだ、本当だ」
はは、そりゃそうだよね。苦笑いしてると、アマンダも同じような表情だ。俺の体調管理スキルって地味な名前と違って、性能的には滅茶苦茶というか、一般的な強さの比較が意味をなさなくなるもんね。リゲルとの勝負でこのスキルのぶっとんだ性能がよくわかった。
「ケインの強さって、ケインの身体能力や魔力とは関係ない強さだからね。相手がどんなに強くても、念じるだけで自分より弱くできるんだ」
隠す必要が無いと思ってるのかアマンダが小声で言う。リゲルに弱体化も痛覚強化も使ったし、そこから考えれば、単なるデバフ系じゃないってのは分かるし、実際リゲルは感づいてるっぽいもんな。
「信じられないかもしれないが、ロッサーナ。僕が負けたのは本当だ。今はこの二人を魔界に連れていく途中なんだ。それと、こちらのアマンダはマクシムとサユリの娘だぞ」
「え? もし出会ったら連れてきてくれって言ってた子」
「そうだ、だから無理に連れ戻そうとしなくてもこれから魔界に戻るんだ。お前も一緒に行こう」
明日の護衛任務を受け、俺たちはそれぞれ宿を取り、夕食はロッサーナから交流を深めたいと一緒に酒場へ向かった。俺とアマンダも魔界や魔族についてもっと知りたいからそれは大歓迎だ。
「魔族や魔物って魔素の強い所から湧いて出てくるってイメージだったんだけど、違うのね」
「それは魔物だけだよ、僕たちにはちゃんと親が存在するし、ロッサーナは血のつながった妹だ。魔素に影響を受けるのは間違いないけど、魔素から湧いて出てくるわけじゃない。元々は人間と同じだよ。大昔に魔素を吸収する体質の者が現れ、そこからその血筋が広がったんだ。だけど普通の人間としては受け入れられなかったみたいでね。自分たちから変化した自分たちにない力を持った存在を恐れ、気味悪がったりするうちに魔族と差別するようになり僕らの先祖は人間と住み分けるようになったらしい」
へー、そんな経緯があったんだ。
「それで人間と争うようになったんですか?」
聞きにくいことをズバっと訊くね! アマンダ。
「いやいや、その住み分けるようになった時もその後も、魔族全体が人間に攻撃的になったことはないよ。数百年に一度くらいは人間を嫌う魔族が現れて、魔物を引き連れて人間を襲ったりするけど、そういう奴は最終的には人間に倒されたり、他の魔族に鎮圧されたりするからね」
「じゃぁ魔族は基本的に人間に協力的?」
「それも違う、無関心なんだよ。君たちって僕たちしか魔族を知らないだろ?」
「はい」
「そうですね」
「僕とロッサーナは魔族の中でも変わり者で好奇心が強いんだ」
「お兄様と一緒にしないでください」
「はは、ロッサーナ、お前もここまで僕を探しに来た時点で変わり者なんだよ。魔族では」
リゲルは魔族について説明してくれた。
魔族は人間に比べると強大な力を持っている者が多く、魔物の住むエリアでも天敵となるような存在がいなかった。力があっても好戦的ではなかった当時の魔族は人間と接触を避けるため魔物の住むエリアのずっと奥へ行き、そこを魔界と名付け住み着いた。しかし魔族だけで住むようになると、次第に無意欲な者が増えていった。その力故に自給自足が容易く、人間社会のように食料を得るための協力分業が必要なく、商業も発展しなかった。強さを求める一部の者はそれを鍛えることには熱心だったが、それ以外には興味を持たない。
結果、魔界は比較的無気力な者が増え、恋愛すらせず人口もさほど増えないような世界となった。
「魔族の過疎化ってこと?」
「そういうことになるね。面白いよね、一部の人間が恐れている魔族が、人間が滅ぼそうとしなくても今となっては減少しつつある絶滅危惧種なんだから」
「でも、王国は魔族と魔物を一緒に見て恨んでますよね」
「私たち魔族は、魔素を取り込む者、魔物たちは魔素から生まれたり変質した動物、ぜんぜん違う存在なんですけど、一緒に見られてるんですよね、まぁこのアルドラでは私たち、特にお兄様はもう知名度もあり受け入れられてますけどね」
「王国でもそうなりたくてね、ちょくちょく機会があれば交流を兼ねてエルナトに行ってたんだ。それもあって、マクシムとサユリにアマンダのこと頼まれてたんだよね。もし出会えたらって」
「そうだったんですね、でもリゲルはこの先どうしたいの? 人間と仲良くしてどうするの?」
「そりゃ結婚だよ」
「へ?」
「絶滅の危機にあるんだから、結婚して子供を増やしたいんだよ」
実にシンプルな解決策。だけど魔族全体が無気力な人が多く、子孫を残さず死んでいくならたしかにその先にあるのは絶滅だ。対策としては人と混じって血を残すってのはありな選択か。
「魔族と人間で子供がつくれるんですか? でも元々人間だから問題ないのか」
「もちろん大丈夫だよ。過去にそういう例は沢山ある。魔族と人間、亜人と人間、魔族と亜人、どのケースも前例があるから問題ないよ」
「そうかー、でもリゲルってモテモテだからすぐにでも結婚できそうだね、っていうか、すでにあちこちに子供作ってそう」
あれだけ綺麗な女性に囲まれてまったく手を出してないってことは無いだろ。もし俺だったら毎晩一人ずつ順番にって、いえいえ俺はアマンダ一筋です。
「お兄様! そんなことしてるんですか!」
「おい、ケイン、妹が勘違いするようなことを言わないでくれよ。僕は純愛がしたいんだ。綺麗な女性は大好きだけど、結婚相手は一人でいい。その人と熱く愛し合い、沢山の子どもに恵まれ、そして添い遂げるのが僕の夢なんだ」
意外だ、手あたり次第に美女と遊びたいのかと思ったぞ。
「ロッサーナは、どうするんだ? お前の言ってた僕を倒せる男だぞ」
ん? なんだ? 俺のことか?
「ええ、えと、まだそれは信じられないっていうか、あり得ないことかなって」
「そうか、じゃぁお前も試してみればいい」
何を? 俺とアマンダが首をかしげる。兄妹での話なんだろうけど。
「ケイン、すまないが、ちょっとの間、ロッサーナの魔力を封じてくれ、君の力は受けてみないと理解が難しいと思うんだ。魔界まで一緒に旅することになるし、是非頼む」
「べつに疲れるようなことでもないしいいですけど」
そういえば、リゲルの魔力も元に戻したままだったな。まったく毒気も無ければ敵意も感じないから忘れてた。このロッサーナも人に対して危害を加えるような子に見えないしな。リゲルのことは殺しかけてたけど。
( 魔力 0 )
ビク!
「え? ええ? 魔力が霧散してしまいました。まったく感じられません。というか魔力が無い状態ってこんな感じになるんですね。なんだか裸にされたようで凄く恥ずかしいです!」
いや、裸にされたみたいとか言われてもちゃんと服は着てるから。でも酒場の人目のある中でそんなこと言われたらなんか申し訳ない気持ちになるから、すぐに戻しておこう。
( 操作解除 )
< 魔力 10 >
「あ! 戻った!」
「な、凄いだろ? 問答無用で弱体化してくるんだよケインは。しかも不思議なのは霧散した魔力が魔素の吸収とか関係なく戻せるってのも不思議なんだよ。僕の理解を超えてる」
「これは、スキルってやつですね。ということはケインさんもアマンダさんと同じ異世界から来た方なんでしょうか?」
「あ、そうですよ。ちょっと前に召喚された勇者に巻き込まれてこの世界に来ました」
そういえば、岡田さんどうしてるかな。遠征で怪我とかしてなけりゃいいけど。
「そうだったんですね。お兄様、私、異世界からの方でも大丈夫なんでしょうか?」
「まぁ大丈夫なんじゃないかな。どう見ても人間だし」
「じゃぁ決めても問題ない?」
「ああ、ロッサーナの好きにしていいよ」
また兄妹の話をし始めた。俺のことを言ってるのは分かる。何かスキルでやってほしいことでもあるのかな。
リゲルが何かの許可を出し、ロッサーナが頷く。
「では、ケインさん、折り入ってお願いがあるのですが」
ロッサーナが立ちあがり、俺の前に来ると真っすぐ姿勢を正す。
「ど、どうしたの? なんのお願い?」
ロッサーナは可愛い。アマンダのようなボンキュボンじゃないけど、華奢で童顔な美少女だ。どっちがいいとか言えない別の良さがある。そんな子にこんな風にお願いされるなんて経験はそうない。赤黒い羽以外は人間と変わらないし、むしろその小ぶりな羽もコスプレみたいで凄く可愛い。なんか何を頼まれてもOKしちゃいそうだ。
「私をお嫁さんにしてください!」
「「ええええ!!」」
俺とアマンダが驚きの声をあげ、兄リゲルは優し気な表情で見守っていた。




