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024 トロール討伐、その後


 アマンダとトロールの戦闘が落ち着いたところで俺は先に動けなくしたトロールへ近づく。人間相手ではできなかった、ザックリとした指定の< 筋力 0 >でどうなったかを観察する。

 さて、まずは呼吸が保ててるかだが、そもそも魔物が呼吸するのかという疑問もあった。それはうつ伏せに倒れたトロールの背中が軽く上下していることで解決した。次に< 筋力 >の指定では呼吸筋が弱体しているかどうかだ。これは血中酸素濃度を調べてみれば分かるかな。さっきと同じで魔物が酸素を必要としてるかってところが、疑問だけど。


 < 血中酸素濃度 3 >


 お、魔物でも酸素は取り込んでるんだな。ちょっと低下してる? 正常な状態、普通な状態が5って表示されるんだから低下してるってことだよな。でも< 筋力 0 >になってるのに呼吸は保つってのはどういう事だろう。意識して動かす筋肉は制限するが、無意識にコントロールしている筋力は制限対象外?

 呼吸筋は無意識にも動き、自分の意思でも動かせるから中途半端に効果が出たとか? でもスキルがそんなことを独自に判断するとは思えない……ということは俺がそういったイメージを持ってたからそうなった? 随意筋の随意の部分だけ制限したとか。

 とにかく筋力の指定で0にしてもいきなり死なせることは無いって分かったのは収穫だな。トロールと違って人間だったら、急に血中酸素濃度が下がると苦しいだろうけど、死なせないで済むことが確認できたのと、とっさの時に骨格筋筋力ってイメージせず、シンプルに筋力ってやれるのは手早くて助かる。

 次に心機能だ。


 < 心機能 5 >


 呼吸してるし当然機能は保ってるみたいだ。自分の意思でコントロールできない心筋は影響を受け無いってことか。スキルを使う時、ずっと腕力的な筋力をイメージしてたからか、生命維持に必要となる無意識に動かしてる筋力は除外されてるって解釈でとりあえずいいかもしれない。


「ねぇケイン、スキルのことしらべてるの?」


 槍の手入れを終えたアマンダが声をかけてきた。

 

「そうだよ。筋力の弱体化なんだけど、これまで人を死なせないようにって、骨格筋、自分の意思で動かしてる筋力に指定してやってたんだ」


「へー」


 あまり分かってなさそうだな。笑。中学校の保険体育とかってどのくらい習うんだったかな。覚えてないや。まぁそんなに詳しく伝える必要もないか。


「だけど、筋力ってザックリ指定しても、多少呼吸を抑制するけどいきなり死なせることは無いってことが分かったよ」


「はは、そんなことできちゃったら、ケインはもう死神よね。死神ケイン! うんいいかも!」


 ははって……笑えないんですけど。俺としてはこのスキル少し怖いぞ。


「さすがに死神は言い過ぎでしょ。まぁちょっと待っててもう少し調べたいから」


「じゃぁ私はあっちのトロールに止め刺しとくね」


 アマンダは軽い調子であっちのトロールの所へ行き、胸を槍で突き刺した。

 トロールはビク! っと一度震え、その後は呼吸も心臓も動かなくなった。

 もう魔物を殺すことに慣れちゃってるし! アマンダどんな感じに育てられたんだろう。敵には容赦するな動かなくなるまで徹底的にやれ! そんな指導をうけてたのかも。しかし距離が離れてても状態が観察できるって便利だな。俺には死んだふりや気絶したフリが見抜けるってことだ。忘れずに観察すればってことだけど。


「おわったのかい?」


 村の人たちが近づいてきた。3匹のトロールが倒れた後、俺たちがいつまでも終わったことを伝えないから気になったんだろう。


「すみません、このトロールで調べたいことがあるんです。まだこれは生きてますから離れててくださいね」


「わ、わかった。気をつけてな!」


 そう言って離れていってくれた。


「アマンダ、手伝ってほしいんだけど少し力仕事いい?」


「ん? 何したらいいの?」


「このトロールを起こすから、攻撃を受けてほしいんだ。俺がやってる体調操作ってね、普通の状態を5として1から10の範囲で操作できるんだけど、今から筋力を4・3・2って下げていって、その強さの変化がどんな感じか教えてほしいんだ」


「へー、そんな感じに見えてたんだ」


「うん、とりあえず筋力を4で起こしてみるから、攻撃を受けてもらっていい?」


 さっきまで一番デカイトロールの攻撃をわざと受けて楽しんでたアマンダだ。弱体化した状態なら危険はないだろうから協力してもらいたい。


「いいよー、面白そう。受けて強さの感想を言えばいいのね?」


「そう、助かるよ。じゃぁ起こしてみるね」


 ( 筋力 4 )


 < 筋力 4 >になった。さてどうなるかな。

 

 ブォウォ?


 ちょっと間抜けな声をだしトロールが動き始めた。先程までもトロい動きではあったが、ちょっと気怠そうな動きに見えなくもない。まぁ見た目に関しては誤差程度?


 すぐ横に落ちていた棍棒を拾うと目の前に立つアマンダに棍棒を振るう。


 こいつらって、相手に対して実力差に気付いて逃げるとかの判断はないのかな。それともスキルで問答無用に倒してたから、見てなかったとか?


 アマンダが先程まで受けていた横振りの一撃を選んで槍で受ける。


 ズガ、ザザザッ!


 弱体化しても4じゃまだまだ威力があるな。もともと怪力なトロールだしね。 それでもアマンダは先程のように転がって威力を逃がす必要が無くなったみたいだ。


 もう三発ほど受けてみてアマンダが言う。


「3割減って感じかしら」


「ありがとう、じゃぁもう一段階下げるね」


 ( 筋力 3 )


 またアマンダが横振りの一撃を受ける。


 今度は俺目にも明らかに力が落ちているのが分かる。アマンダが足の位置を変えることなく受けきったし、相当な弱体化になってる?


「これはもう最初の半分って感じ」


「じゃぁ次は2ね」


「オッケー」


 ( 筋力 2 )


 あ、ヘロヘロだ。こりゃやっとこさ棍棒を振ってるって感じだ。トロールってもともと巨体だから筋力が減らされるとその巨体を支えるだけで精いっぱいって感じなのかな。


 ガン!  ドダン……


 ヘロヘローっと振ってきた棍棒をアマンダが槍を片手で振るい叩き落とした。


「これはもう試すような威力じゃないかも」


「そうみたいだね。ありがと、なんとなく感覚がわかったよ」


「じゃぁさ、今度は普通にもどしてよ。私、魔物を倒すのにもっと慣れたい。私も身体強化使って止め刺してみる」


「わかった。じゃあ離れて、急に動き出すよ」


 俺の指示で距離をとるアマンダ。


 ( 筋力 5 )


 ブゥオオオオゥォオオ!


 あ、怒ってるね。きっと意味も分からず倒されたり、起こされたりでストレス溜まってるんだろう。


 起き上がると同時に目の前にたつアマンダへ掴みかかろうとするトロール。興奮してるためか棍棒を拾うことも忘れてるみたいだ。


「は!」


 短い気合の後、全身から薄っすらとオレンジ色の光を放つアマンダ。低い姿勢を取り、突進してくるトロールを迎え撃つ構えだ。


 ブォオオオオ!


 フォフォン

 シュシュン


 捕まえようと突き出した両手に槍を二閃させると手首が宙に舞った。さらに二閃させるとアマンダのウエストほどある上腕を左右とも切り落とす。


 ボト、ボト……バサ、ドサ……


 ブォオ?


 エグイな。


 痛覚が鈍いのか、痛がるでもなく間抜けな声を出すトロール。理解が追い付かないトロールに構わず今度は両膝を一閃する。さすがに足の太さは両断できなかったが、トロールは膝から崩れ落ち、前向きに倒れかける。

 しかしアマンダは倒れることすら待たず槍を振り上げる。


 ズゴバシュ!


 骨ごと断ち切る音がして首が切断され、トロールの直径50cm近い頭部がくるくると回転し、血をまき散らしながら地に落ちた。


「うわ、うわああ! 血浴びちゃった、気持ち悪いー!」


 胴体から噴き出した血は回避したが、切飛ばされ回転する頭部からの血までは躱しきれなかったようで、全身に点々と血がついている。


「魔物の血って毒があったりしないよね。肌に悪かったらどうしよー」


 トロールの太っとい腕や首を切り飛ばした者が、血しぶきを浴びたことにキャーキャー言ってる。なんとも恐ロシアなアマンダだった。

 でもまぁアマンダのキレイな皮膚が炎症でも起こしちゃいけない。

 すぐに荷物から手ぬぐいを取り出して渡す。


「ありがと。実戦って思いがけないことがあるね。戦いの訓練は小さいころからやってきたけど、血しぶきのことなんてあまり考えたことがなかったよ」


「はは、そりゃね。現代日本で血しぶき浴びる前提で訓練してたら怖いよ」


「はは、そりゃそうか、でも気を付けよ。切り付けたら即距離を取る!」






 三匹を倒し終わった俺たちは村長のもとへ行き報告する。様子が見える距離で見ていた村長たちがアマンダを食い入るように見ている。

 驚くよね、あんなの見せられたら。一度倒れてたトロールを起こして戦ってるのだって事情を知らない人から見れば変だろうし。


「お嬢さん、本当に強いな。まるでサオリさまのようだ」


 へ? サオリ様って、アマンダのお母さんの? ここに来たことがあったってこと?


「お母さんを知ってるんですか?」


 アマンダも驚き、村長へ詰め寄って質問する。


「ああ知ってるとも、二年ほど前にこの村からの討伐依頼を知って遠征の途中で来てくれたんだよ、そうか、あんたはサオリ様の娘なのか。髪の色が違うがよく見ると面影があるのう」


 アマンダ、思いがけない情報で素性隠すのわすれてるし。まぁ仕方ないか。


「お母さんも遠征だけじゃなくて、村を助けたりもしてたんだ。あまりそういうのは聞いてなかったな」


「あんたの両親はこの村から北のどこかで魔族と消えていったんじゃよ」


「え? それもここだったんですか」


「ここは、アルドラとの国境も近いし、魔物の森には国境の壁もない。もしかしたら森を越えてアルドラへ入り、そこから噂に聞くように魔王のもとへ向かったのかもしれんのう」


「そうなんですか」


 説明してくれる村長は、アマンダの両親に対して悪い印象をもってる感じがしないな。懐かしむような優しい目でアマンダを見ている。


「村長さんはアマンダの両親を裏切者とか思ってないんですか?」


 どうせアマンダが隠さなかったんだ。今更取り繕っても無駄だから俺も質問してみた。


「そう見ている者は、マクシム様やサオリ様を知らない者だけじゃ。あの人たちは国の騎士団との遠征中であっても、近くの村が困ってたら助けに来てくれる……そういう方たちだった。少なくとも魔街道沿いにある村や町でお二人を悪く言う者はそう居ないと思うぞ」


 そか、そうだよな。アマンダの両親に対する反感って、思い通りにならなかった国や聖女のプロパガンダなのかもしれないな。


 俺たちは村へ戻ると依頼完了のサインをもらい、その日はまた村長の家に泊まらせてもらった。夕食は沢山の田舎料理が振舞われ、何人もの人からお礼を言われた。

 討伐任務、悪くないな。





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