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023 トロール討伐、初討伐


 朝、村の北にある畑の持ち主と合流すると、その畑まで馬車で移動した。トロールは人が多いほど現れる可能性が高くなるらしく、村長や他の数名が畑へと付いてきていた。トロールが現れるまでは畑仕事を手伝い、現れたら安全な場所から見るつもりらしい。

 俺たちも現れるまでは暇なので、生活魔法の訓練を開始する。二人とも戦闘で魔法を使わないから魔力は温存する必要がない。

 農作業してる村人たちを見てると、草を刈る代わりに火で燃やしたり、畑に水をやったりと当たり前のように生活魔法を使ってる。そんな様子を見て、もう随分と慣れたつもりだったけど異世界なんだなって改めて思う。

 くー、当たり前のように使いやがって、羨ましいぜ。





 異変は音で気付いた。俺とアマンダは生活魔法の訓練をやめ、音のする方向へ注目する。畑の北側は草原を挟んで森だ。あの森からが魔物のエリアとなる。そしてその森の一部こっちへ突き出たように茂った場所、そこからトロールが現れた。


「来たぞー、皆、逃げる準備だ。道具を馬車に載せろ!」


 村長の指示で村人が馬車へ集まる。俺たちはそれを背にしてトロールを見る。


「デカいね、3mくらいある?」


「一番大きいのはそのくらいありそうだな。どうする? 動き遅いし、近付く前に3体ともスキルで動けなくする?」


「んー、それじゃぁ全く経験積めないから一匹残して。私、ちゃんと戦ってみたい」 


「わかった」


 近づいてきたトロールは、土や垢で汚れたような緑色の皮膚に毛髪のない頭、腰には木の皮なのか布には見えない何かを巻いている。そして手には太い枝を叩き折っただけの棍棒だ。顔は潰れた鼻、大きな口にひどい歯並びでよだれを垂らしている。鼻口耳などのパーツはデカイが、目は小さい。なんとも醜い容姿をしてる。


 < 骨格筋筋力比較 7.8 >


 筋力高っか!


「ちょっと気持ち悪いね」


 近づいてきてハッキリ詳細が見えるとアマンダがボソっと不快感を口にした。


「まぁファンタジー映画とかで見た姿と近いっちゃ近いね」


「私、そういうのあまり見てなかったからな」


「漫画とかは?」


「あんまり。家に帰ってからは勉強と訓練で一日が終わってた」


 それっていいのか? アマンダ家は、15歳の思春期女子に勉強はともかく、遊ぶ時間も与えず訓練ばっかりだったってことか。まったくさすがにそれは可哀想な気がする。


「そか、まぁもし元の世界に帰った時には、俺のおすすめ映画とか紹介するよ」


「はは、楽しみにしとくね。じゃぁそろそろやろっか!」


「どれを残す?」


「一番おおきいやつ!」


「了解、筋力とんでもなく強いよ。アマンダの4倍くらい。気を付けてね」


 あと50mほどに近づいてきたトロールへこちらから向かう。畑を荒らさないため、なるべく草原で戦う。

 俺はもしものために自分へスキルを使用する。


 ( 反応速度 10 )


 これは元の世界で言えば反射神経みたいなものかな。高くしとくと何にでも対応が早くなる感じだ。俺的には防御に役に立つ。護衛してた時、このスキルのお陰で斬撃を余裕もって回避したり籠手で受けることができた。筋力の強化に比べると、後で筋肉痛になるようなこともなく、ちょっと神経つかれたかなーって感じになるだけなのも使いやすいんだよな。


 俺のスキルの有効距離まで近づいたトロールが走りはじめた。と言っても遅いから余裕がある。


( 筋力 0 )


 ドザー……


 スキルを使った途端、トロールが完全に力を失い、ヘッドスライディングのように倒れる。まさに糸が切れたようにだ。クールタイム5秒を待ってもう一度同じことを行う。


( 筋力 0 )


 ドザー……


 まったく同じように倒れるもう一匹。

 よし魔物へもちゃんと効果はあるな。それと今まで試してなかった筋力0だ。あとで近づいてどうなってるか観察してみよう。


「まったく、とんでもないスキルよね。ケインって実は私みたいなタイプの天敵なんじゃないかしら……悪人じゃなくて本当によかったわ」


 ええ! 俺アマンダの天敵にされるのは嫌だな。

 アマンダはそう言うと俺が残した一番大きなトロールへ向かい駆け出す。


「気を付けて!」


「うん、楽しんでくる!」


 楽しむんだ! ここにも居ましたよ戦闘民族が! 龍の玉で願いをかなえる漫画の主人公と同類だな。きっとワクワクしてるんだろう。

 アマンダは槍を手に真正面からトロールへ向かう。トロールは突然倒れた仲間に目を向けてはいたが、さほど気にした様子もなくアマンダへ向かってくる。倒されたという認識がないのか、転倒しただけと思ったのか、それとも味方を庇ったり、危険を察知したりする知能がないのか俺には判断できない。

 

 そしてトロールは真正面から向かってくるアマンダの頭上から巨大な棍棒を振り下ろす。その棒はアマンダの身長ほどあり、そのウエストほどの太さがある。160台前半であろうアマンダの身長の倍はありそうな体格から繰り出した棍棒が地面を叩くと土が飛び散って陥没する。凄い威力だ。

 アマンダはそれを回避するが攻撃する様子はない。


 本当に楽しむつもりみたいだ。


 トロールは棍棒を横に振り回し追撃するが、それもあっさり後ろへ引き躱す。数回それを繰り返すと今度はアマンダは回避せずその棍棒を受けた。


 いやそれはさすがに体格と質量それと筋力も違いすぎるから無理でしょ!


 案の定アマンダはその質量に耐えきれず、吹き飛ばされるが数回転地面を転がると直ぐに立ち上がる。


「んー、この一撃、お父さんの一撃を思い出すわ!」


 なんか楽しそうだ! ってお父さんの一撃ってそんなに重いの? しかもそれを娘に叩きつけてたの? アマンダ家のとんでもなさを垣間見てしまった。

 俺の驚きをよそにアマンダは繰り返しトロールの一撃を受け、転がっている。


「痛てて」


 とか言っているけど、動きが悪くなるようなダメージは無さそうだ。本当に楽しんでるというかトロールの攻撃で防御の練習をしてるって感じだ。


「力以外は、特にどうってことないね、トロール」


「そうなんだ」


「倒すね」


 そう言うとトロールに棍棒を空振りさせ、その隙に槍を鋭く振り膝へ叩き込む。


ゴキャ!


 重量のある特大の穂先を持つアマンダの槍はトロールの膝を切り裂き砕いた。そういえばこの槍って特注品だったな。アマンダの要求にイメルダさんが応えて、大急ぎで拵えたものだ。柄は普通なんだけど穂先が変わってる。なんというか出刃包丁と骨切り包丁を合わせたような、巨大な包丁を取り付けたような見た目だ。棒の先に刃渡り40センチ近い出刃包丁がついてるってのが分かりやすいか。正直先端が重たくて扱いにくそうに見えるけど、アマンダにはこれがちょうどいいらしい。


 バタン


 膝を砕かれたトロールが倒れる。


「結構いいかもこれ、骨を砕いたのにほとんど刃が傷んでないよ」


 アマンダは追撃せず、槍の状態を確認していた。

 トロールは、身を起こそうとしているが、膝立ちまでで止まっている。


 ブゥオオオゥオオオ!


 なんとも言えない叫び声を上げるトロール。痛覚が鈍いのか痛がってると言うより怒ってる?

 槍を観察し終えたアマンダが近づくと、膝立ちのまま棍棒を振り下ろしてくる。膝立ちとは言えアマンダよりはるかに大きい。さすがに振り下ろしは転がって力を逃がせないからかアマンダは軽く体を捌いて避けると、今度はトロールの胸を突いた。


 ドス……


 40cm出刃包丁の全てが胸に吸い込まれる。

 あの深さなら心臓に届いたはず。


 ブゥオオウ!


「外したみたいね」


 トロールは倒れることなく棍棒を振り上げて抵抗する。アマンダは槍を引き抜きそれを回避。

 

 心臓の位置が人間と違う?


 アマンダはもう一度心臓の位置を確認するように、少し下を狙って突いた。


 ドス、ブォ…… バタン……


 その一撃でトロールは動かなくなった。

 

「こんなもんかな、首も狙ってみようかって思ったけど、大きくて狙いにくいし、首がそもそも短くて太いよね。足を攻めて低くしてから狙うなんて手間を考えたら、心臓の位置を覚えて一発で仕留めるのがいいかも」


 そんなことを言いながら戻ってきたアマンダは、いい運動した! って感じに爽やかだ。やっぱり人じゃないし見た目がキモイし、人に迷惑かけてる害獣みたいなもんだしってことで罪悪感とかは無いみたいだ。それにアマンダは俺よりずっと戦う覚悟を決めてる感じだしね。


「アマンダの本気の攻撃って初めて見たかも。あんな太い足、しかも膝の関節をぶった切れるんだね」


「えー、本気じゃないよ、身体強化もつかってない単なる力技だよ」


「へー……」


 そうなんですね。身体強化つかわずにそんなに強いんですね。もしアマンダに変なことしてビンタでもされようものなら、首の骨捩じ切れそうだな。





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