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025 草原で訓練。強化の限界


「ありがとよ。あんたらのお陰でまた安心して畑仕事ができるよ。まぁこんな場所にある村だ。また魔物が出てくることもあるだろうが、その時はまたよろしく頼むよ」


「こちらこそ、御馳走ありがとうございました。すっごく美味しかったです」


「いやいや、こっちも楽しかったよ。まったくあの二人に負けないいい食べっぷりだったよ」


 うん、アマンダって結構大食いだもんな。太らないのは筋肉量の多さからの基礎代謝の高さが影響してる? それとも蓄積する場所がロシア製のたわわな部分やお尻に偏ってるから? この辺りもスキルで観察してみる必要があるかもしれない。


「そっちのあんたは、もうちっと働いたほうがいいぞ。あんな魔物をこのお嬢さんだけに任せっぱなしってのは男として問題があると思うぞ」


 え? 俺、何もしてないってことになってるの? 最初二匹を無力化したんだけど! あ、そうか俺のスキルって光もしなけりゃ掛け声も無いもんな。知らない人が見てたら、何もしてないように見えるのか。これはいかん、冒険者ランクの評価に影響したりしないだろうな。

 困惑する俺に、アマンダがクスクス笑っている。

 まぁ……アマンダさえ分かっててくれれば俺は満足だ。


 俺たちは来た時と同じように村の作物を運ぶ馬車でエルナトへ戻った。その馬車には作物は載っておらず、村の人は買い出しのついでだと言ってたけど、きっと厚意で馬車を出してくれたんだろうな。魔物の討伐って村には死活問題だから、いろいろ気をつかってるんだろうな。




---------------------------------




 早く出発したことと、馬車が空荷であったことで昼過ぎにはエルナトへ帰り着いた。


「おかえりなさい。どうでした? トロール退治は」


 ギルドへ行くとアンに声をかけられる。


「余裕でした。もう少し手応えのある討伐対象でもいいと思います」


「おお、さすがギルド長の秘蔵っ子ですね。お二人のこと噂になってますよ」


 ん? ちょっとまて、噂になるっておかしいだろ。目立たないように手伝いをしてくれるんじゃないの? もしかしてアンってお喋り? 大切なこと教えちゃだめなタイプな人?


「あなたたちが戻ってきたら声をかけたいってパーティーが複数いますけどどうします?」


「「遠慮します!」」


「ええ! 結構優秀なパーティーが誘いたがってましたが断るんですか?」


 こっちにも色々事情ってものがあるんだよ。


「私たちは二人でやってくって決めてるんで」


「色々あって、急にこの町を離れるかもしれないんで」


 アンって仕事はできる風だけど、良かれと思って勝手に色々進めちゃう感じ?


「えー、でもあなた達を紹介するってご飯奢ってもらっちゃったし……」


 へ? 小声で言ってるけど、聞こえたぞ。何勝手に約束してご飯食べさせてもらってるんだよ!コラ!


「すみませんが、俺たちは他の人と組むつもりはないんで、できれば俺たち二人にちょうどいい依頼を教えてください」


「えー、なんかやる気なくなっちゃったなー」


 おいおい、仕事だろ、しっかりしてくれよ。いや、むしろもう頼らない方が良いのかもしれない。俺はアマンダと目配せして頷く。


「今日はもう宿でゆっくりするんで、依頼完了の報告だけしますね」


 ダメだこの人、ゴルドさん人選ミスですよ!

 俺たちはこのままギルドに居ては、アンから勝手に他のパーティーに引き合わせられそうな気配を感じ、急いでギルドを後にした。






「びっくりしたね、アンやばいよね、あれ絶対友達とか仲のいい冒険者との食事とかで私たちの話をネタにしちゃってる感じだよね」


「まぁ俺たちが普通の冒険者ならありがたい話だったのかもしれないけどね。でもご飯奢ってもらっちゃったとか言ってたし、あれは問題だよ。まぁ悪気は無いんだろうけど、今の俺たちには迷惑だよね。目立たずランクを上げしたいんだから。さっさとアルドラへ行くための準備だし」


「そうだよね。なるべくギルドに居る時間を短くしてサクッと依頼受けて出かけるよ」


「そうだね」


「ところで、夕食までには時間もあるし、どう? ちょっと草原にでも行って訓練しない? ケインの戦力を正確に知りたいんだよね。ケイン、数の多い討伐対象と相性が悪い的なこと言ってたけど、これまで直接的な戦闘をあまりしてないから、スキル以外の実力が分かんないんだよね」


 う、そういうつもりじゃないんだろうけど、俺が働かない子みたいに聞こえてチクっとくる。トロール討伐の村でも「あんたはもうちっと働いた方がいいぞ」とか言われちゃったし。


「アマンダと模擬戦でもするってこと?」


「うん、そんな感じ」


「なんかボコボコにされそうな悪い予感しかしないんだけど……」


「そんなことしないわよ、私をなんだと思ってんのよ!」


「はは、ごめんごめん、じゃぁ行ってみよっか」




--------------------------------------




「これ丁度いいかも」


 アマンダが木刀がわりになりそうな枝を拾った。軽く振って強度を確認している。


「ん? 槍は使わないの?」


「んー、あれは先端に重量が偏ってる威力重視の薙刀に近い仕様なんだよ。力加減間違ったらその籠手ごと腕を切り落としちゃうかもしれないから、こっちにしとこ。それとも槍がいい?」


「是非そっちの木の棒でお願いします……」


 街道からそれ、足場のいい場所を見つける。


「このあたりでいいかな。じゃぁ私が攻撃するからケインは好きにやってみて。避けても受けても攻撃してもいいよ」


「わかった、でも最初は軽く頼むよ。アマンダと俺じゃ実力が違いすぎるから」


 俺は棒の間合いから大きく離れて構える。高校時代までやってた拳法の構えだ。といってもそんな個性的な構えじゃない。空手と同じような構えだ。装備してる籠手は、手の甲から肘までを覆う物で、ナックルの部分に攻撃用の突起などが無い防御向けの物だ。


「へー、ケインの構えって初めて見たかも。結構慣れた感じでしっくりきてるね」


 アマンダに褒められてる? ど素人って言われるかと思ってたから嬉しいぞ。


「中学から高校卒業までやってたからね。週二回の習いものだけど」


「じゃぁ基本的な体捌きとかは大丈夫かな。でも武器相手に戦った経験はこの世界に来るまではないよね」


「そりゃ経験ないよ」


「じゃぁ一応説明するけど、武器を籠手みたいな防具で受ける場合は、真正面から受けないようにしてね。まともに受けたら、強度的にも重量的にも衝撃を結構通しちゃうから。必ず受け流すことを意識してやってね」


「わかった」


「じゃぁいくよ!」


 正直怖いぞ。木刀で殴られるのを籠手だけで受けるとか冷静に考えたら怖いだろ。それに籠手があったって受けたら痛いだろ。今後の討伐任務で必要ってのは分かるけど大丈夫か? 俺。


 アマンダが構え、上段から振り下ろしてくる。手を抜いていることがよくわかる太刀筋だ。俺はそれを横へ回避する。続けて下からの切り上げを両腕で頭部を守るようにしつつ身を沈めて避ける。二太刀で攻撃が止まる。同じように色々な方向からの二太刀を繰り返す。俺はそれを避け、避けきれない攻撃は籠手を滑らせるようにしてなんとか回避する。


「このくらいは大丈夫みたいね、少し速くしてみるよ」


 アマンダの攻撃が少し速くなり二太刀だったのが三太刀へと攻撃回数も増える。結構きつい。半分以上は籠手に頼って防御することになり、数回に一度は受け方をミスして衝撃が腕に走る。多分傍から見てると不格好に逃げ避けしてるように見えるんだろうな。


「難しいね。焦ると受ける角度とか考えられないよ」


「最初はなんだってそうよ。武術なんて考えなくてもできるまで鍛えるものよ」


 当たり前のようにそう言うアマンダは、きっとそうなるまで鍛えられたんだろうな。

 そんなやっとこさ受けている俺に、何度も何度も三太刀の攻撃を繰り返す。俺が完全にミスした時は、ちゃんと寸止めにしてくれるから助かる。

 しばらく続けると、俺の腕に限界がきた。


「ちょっと待って、一回休憩しよう。受けすぎて手が痺れてきた」


「いいよ」


「ふぅ、難しいね。ちょっと慣れてきたと思っても疲れるとミスが増えるね」


「んー、でも実戦じゃミスが致命傷になることもあるからね」


「そうだな……やっぱり今の俺は全然だめだよな」


「どうだろう。普通がどのくらいなのか私にわかんないからなんとも言えないんだけど、初めてやってる訓練だし、まだまだ全然考えて動こうとしてるから、こんなもんなんじゃないかな。考えなくても体が動くようになるのって時間かかるしね。とにかく反復練習と経験の積み重ねだよ」


「そうか……」


「まぁやれる時は積極的に訓練していこ」


「命かかってるもんな。うん、よろしくお願いするよ」」


 シビレた両腕の自然治癒力を高め、様子を見ながら考える。

 昔拳法を習ってて多少体捌きが分かってるって言っても、命のやり取りをするようなスタンスじゃなかったし、武器を籠手で受ける訓練なんてしたことが無い。約束組手で分かり切った攻撃を受けてから反撃するという訓練なら経験があるけど、今やってた訓練とはまるで違う。何が来るか分からない攻撃を判断して受けるのって本当に難しいな。考えなくても適切な動きができるようになるのってどれくらいかかるんだろう。

 判断自体を加速することはできるんだけどね。

 あ、それならできるかも!


「アマンダ、今の訓練をスキル使ってやってもいい? スキルカードにある反応ってあるよね。あれって反射神経みたいな項目だと思うんだけど、それを上げた状態でやってみたい。護衛任務の時とか危なそうなときに何度か使ってたんだけど、それをこの訓練で試してみたいんだ」


「そんなこともできるんだ、やってみよ」


 腕のシビレが収まると、すぐにスキルを使用する。


 ( 反応速度 10 )


 スキルで反応速度を限界まで上げて訓練を再開する。

 先程と同じように三太刀の連続攻撃を繰り返すアマンダ。


 カシュ カシュ カシュ!


「見える!」


 俺はその三太刀を全て籠手を滑らせるようにして受ける。さっきと違って色々見える。何が見えるかって言うと、アマンダの動きはじめが見える。肩に力が入ったのが見える。手の動きが見える。それに連動した剣筋が見える。さらにはそれらすべての動きに同調するプルンとしたあれの動きまで見える!


「すごいね、全部見て反応できるんだ」


 驚くアマンダ。俺も驚いてる。何度かやってたことだけど効果を実感するほど攻撃されてなかったからな。こういう連続攻撃を受けると効果の凄さが分かる。思考が加速して、体の反応がよくなってる感じだ。


「少しずつ速くするよ」


「やってみて、調子いいかも!」


 連続攻撃の回数は三太刀から変わりないが、そのキレが鋭くなる。全部を滑らせるように受けることが難しくなるが、回避と受け流しの両方でミスなく対応できる。アマンダは上半身だけでなく下半身も狙ってきたが、それも言われずとも気付いて反応できた。反応速度の強化って結構凄いかも。ちょっとした動きに気付いて感覚的には速い動きの中にスローモーションがは挟まれる感じになる。


「凄いよケイン、この防御って多分考えて防御できる限界くらいの反応速度なんだと思う。訓練が足りてない人が瞬間瞬間の判断だけでここまで動けるって脅威的よ」


 アマンダが手を止めて言う。


「そうなんだ。いやそうだよね。俺もやってて驚いてる。時代劇の殺陣並みに動けた気がする」


「ちょっとびっくりしたし、これなら私がこれまで相手にした盗賊とかに比べたら、ずっと上のレベルだと思う。ケインの場合はスキルで相手を無力化するまで防御できればいいんだしね」


「そうだね、スキルを一度使った瞬間に攻撃されても、5秒耐えればなんとかなるはず」


 アマンダも認めてくれたし、俺、反応速度上げれば結構いけるんじゃね?


「このスキルを使えば、今後の討伐依頼だって問題無いかもしれないけど……もっと先のことを考えてちょっとその上を見てほしいかな……よし、もう一度いくよ!」


「わかった!」


 そういって俺は構える。もうちょっと上って、どんな攻撃か分からないけど、アマンダはもう一段階上の攻撃をしてくるつもりなんだろう。でも俺、もう少し余裕がある感じがするんだよな。次の攻撃も受けきって驚かせてやりたいな。


「行くよ!」


 そう言うと、アマンダは両手を下したリラックスした姿勢で立ち静かに前へでた。


 シュ!


 あれ? 気付くと目の前にアマンダが居た。さっきまで剣の間合いより遠い場所に居たはず……なのに今は手を伸ばせば触れられる距離に居る。そしてアマンダの持つ木の枝は俺の身体を袈裟切りにする直前で止まっていた。


「うわ!」


 完全に一撃入れられたことに遅れて気付いてた。俺はちゃんと見てたのにいつの間に?

 アマンダがゆっくり前に出たことは気付いてたのに……なんで?

 俺の疑問に答えるようにアマンダが言う。


「反応しにくい、判断を惑わす、判断の速度を超える、そんな技法って色々あるんだよ」


 そう言ってアマンダは木の枝を引くとニコリと笑う。体が反応するとかよく聞く話だけど、そのレベルにならないと分からない攻防ってやつか? 反応速度をスキルで上げても、反応には限界があるしな。

 人間の反応って集中してても0.5秒はタイムラグがあるって言うけど、スキルで強化してもっと速くなっても、その上がまだあるってことなんだな。


「ありがとう、アマンダ、ちょっと調子に乗りそうだったよ」


「そんなことないよ。調子に乗っていいくらい凄かったよ。だけど次の段階に進むには、それの限界も知ってほしかったんだよね」


 レベルの差を見せつけられてしまった。10歳も若い子に調子に乗ったところを注意されたみたいでちょっと恥ずかしい。


「でも、その反応速度を強化して訓練するの悪くないと思うよ。普段できないような動きをスキルを使って経験して、それを素の状態でもできるように繰り返せば、普通に訓練するよりずっと多くの経験が積めて成長がはやくなるんじゃないかな」


「じゃぁ今後は、交互に繰り返すって感じかな?」


「うん、そうしてみよ。依頼の時は危険を感じたらとりあえず反応速度を上げるようにすれば、今日のトロールとか今まで出会った盗賊くらいなら、攻撃をもらうことなんてないんじゃないかな」


 こうしてアマンダとの今日の訓練は終わった。そして一つ新しいことが分かった。これまでも反応速度を強化した後、なんか神経疲れたなーって感覚はあったんだけど、今回は片頭痛がかなりひどい状態になった。攻撃を受けまくって神経使いまくってたからかな。筋力の強化に比べて筋肉痛みたいなリスクがないと思ってたけど、やっぱり体を無理やり強化するのってそれなりに負担がかかるみたいだ。

 多用や長時間の使用はご注意くださいってことだな。






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