3:ギルド中編 2
この度はぶれいぶすとーりー!2 ~佐藤唯は勇者です~3:ギルド中編 2を読んでいただきありがとうございます。
セイラ回を書いてみました。もともとセイラは唯と一緒に強くなっていくためにあえて未熟のような書き方をしているわけですけど、決してそんなことはないですよ?実際には一流の冒険者と同格ぐらい強いんですけど周りが規格外なだけです。
そしていわば対なんですよねセイラと唯は。
対というか対称というか、対極?
とまぁ、セイラのためのギルド中編でしたチャンチャン。
まぁ、そんな感じのシリーズですが応援していだけると幸いです。
第3章 ギルド中編 2
アンティーノ共和国のギルドより半ば追い出される形で唯たちは四ヶ国大市に向かった。
四ヶ国大市とは、アンティーノ共和国、より右回りにフェンリルグラム、アルグヘイダム、グンタマの四ヶ国の国境に設置された土地だった。この四ヶ国大市は、四ヶ国間の物流の緩和や、観光客による落とし金を期待され作られたほかに、四ヶ国間の牽制の役割もあった。
その牽制の一つが今現在行われている祭り『グランクエスト』。
各国持ち回りで祭りが行われ、今はフェンリルグラン主導で祭りがおこなわれていた。
「やっぱ多いな」
ロビンはあまり人が多いところを好まなかった。なんか不安になるらしい。四ヶ国大市は普段から人が多いが祭りもあいまりさらに多かった。
この祭りの概要として、フェンリルグランに住まう魔獣を連れてきてその場で狩るといったものだった。ほかにもフェンリルグランでは、年中氷の土地柄上、氷の精霊〈フェンリル〉を崇拝している。
よってこの祭りでもその色が濃く反映されていた。魔獣も氷の岩男や氷の猿男などが連れてこられているし、札幌雪祭りのように氷像の展示が行われていた。各国の趣向を凝らした氷像が展示されていた。
中でもひと際大きくそして精巧に作られた氷のトラ?は雄大と表現するほかなかった。
「おぉ……。これは見事なフェンリルですね!!準契約時に一度はっきりと見ただけですがわかります。これはフェンリルそのものです!」
普段物静かなセイラがテンション声を大にしていた。それだけ、精巧な作りだったのだろう。
「はぁーん……。精霊ってのはみんなこんななのか?」
「みんなではありませんよ?フェンリルはあぁ見えてめちゃくちゃ可愛いやつなんですよ~!それに賢狼とさえ呼ばれてるんですよ!アリアさんも精霊契約してみます?」
「いや。あたしにはもうキャパが残ってないし、リスクが高すぎる」
「ロビンさんはどうです?」
「俺も嫌がられるだろうし無理だな」
かもしれませんねとセイラは答えた。三人の会話を聞きながら唯は、無理とは?嫌がられるとは?キャパとは?リスクとは?才能、寛容さ魔術とは?唯は疑問に感じた。
「リスクがあるんですか?無理とは?嫌がられるとは?どういうことなんでしょうか?」
「それ相応のリスクがあります。精霊との相性がかなり重要ですし、他にもやはり適正とかも肝要である必要もあります。僕の場合かなり恵まれているというかかなりちょっと特殊なんですよね……」
頬を掻きながらセイラは答えた。パーティーメンバーを考えればやはりというかセイラも何か抱えている。
「……そういうものなんですか?魔術とはやはり才能がないとダメなんです」
「残念ながら魔術は才能のありなしが重要になってしまいます。ですので、魔術師の中には魔術師優位の考えをするものもかなり多いのも現実です……」
「まぁ、軍の中もそういう奴もいた気がするな」
「だからこそ僕はこんな世界を変えたい。魔王を倒すのもそのためです」
また頬を掻く。セイラの困ったときや照れ隠しの時の癖だった。
「おうおう。語るじゃねぇかセイラぁ~。んぅ~?」
アリアはにやにやとセイラを見て、右ひじをセイラの肩に乗せ寄り掛かった。重いですとセイラが答えるとアリアは重くない!といってセイラの頭を小突いた。
「まぁ、セイラの目標は立派だわなぁ。若いってのはやっぱいいもんだなぁ。俺がお嬢やセイラくらいの時にそんな風に目標何てもってなかったしな。すげぇーよ」
「ユイにもなんか目標があるのか?」
「お嬢はお嬢でこの世界で冒険したいから魔王を倒すんだってよ?なぁ?」
今度はロビンがにやにやしながら唯の方を向くがそこに唯の姿はなかった。あたりを見渡すがあの目立つ白髪はどこにもなかった。
「あれ?ユイさんさっきまでいたと思うんですけど?」
「……。またか……。お嬢って考え事してると歩き回んだよ。そんで前にもノーザン・アルドんとこにいた時もふらふら歩きまわって迷子になってたんだよ」
「まじかよ。まぁ、でもあの白髪だしすぐに見つかるんじゃねぇーか?」
この祭りの中探し回るのもリスクがあるし、どうしたものかと悩んでいた3人に珍客が現れた。
「あぁ、お久しぶりですね。皆さん。聞きましたよ、ルルアーノでは大立ち回りだったそうじゃないですか?」
やや痩躯気味でいつも薄っすらと笑っているように見える表情の男が現れた。噂をすればなんとやら、ノーザン・アルドの従者イェンチェ・クルーガーだった。
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「お久しぶりですね?唯さん」
唯は考えていた、わたしでは何が足りないのかと。唯に魔術の才能のつぼみは未だ見られない。そのことをアーサーは手紙で伝えていたのだろうか、それともわたしの武ではまだ駄目だということだろうか?それとも……。
唯は、呼ぶ声も耳に入らないほど、下唇に左手を当て考え込んでいた。先ほどの手紙のことが気なって仕方がないのだ。それもそうだろう、直接あんたじゃ無理だと死ぬだけだと言い切られてしまったのだから。
「おーい。唯さん?聞こえてます?また考え事ですか?おーい?」
イェンチェ・クルーガーが肩に直接触れ揺らしたところで唯はやっと我に返った。
「……はぁふ!びっくりしましたー!」
「そうですか。お久しぶりですね。唯さん。型を作ってた時みたいに、また考え込んでいたんですか?」
クルーガーの言葉で唯は現状に気が付いた。そいえばあの人たち迷子になってるじゃないですかと。
これだけの人ごみだ迷子になるのも仕方ないかもしれませんね。
「どうやら、ロビンたち迷子になってしまったようですね。やれやれです」
クスクスと笑う唯だったが、迷子になっているのは唯自身で昔からデパートとかで、おかーさんが迷子になったと迷子センターに言っちゃう子どもだった。
その太々しさは肉体の成長、精神の成長と共にさらに太々しくなっていた。
「……そうですね。ちょうど昼時すぎですしお茶でもどうですか?いいお店知ってますよ?」
クルーガーは屋敷に唯が居た一週間を思い出していた。もしかして、自分の仕える屋敷で迷子になったんですか?と言われたときのあの思いを。
クルーガーは思ったことを言わぬが華と、そしてそのままはぐれていた唯をお茶に誘った。
「わたし今手持ちがないので遠慮しておきます」
「いいですよ。ここは私が持ちます。行きましょう」
少し強引に、しかし実にスマートにクルーガーは唯を近場のカフェに誘った。
ついていかないのもそれはそれで失礼な気もしたので、歩き始めたクルーガーの後を少し遅れて唯はついていった。
「ふむ。アーサーさんも意地の悪い手紙を書きますね。まぁ、一種のやさしさですかね?」
昼下がり、少しお祭りからは離れたところの静かなカフェのテラスで、唯はクルーガーとお茶をたしなんでいた。お茶を飲みながら唯は今までの事をつらつらとしゃべる。不思議なほどしゃべりやすく、ついつい至らぬことまでしゃべってしまったのではと考えてしまうがその時には遅い。
「唯さん少しいいですか?」
クルーガーは唯のほほに手を優しく触れ甘くささやく。
「唯さん。あなたは、魔王様を倒すのでしょう?こんなところでうじうじしていても仕方がないのではないですか?手紙なんてもの躍らせれてはなりませんよ?」
クルーガーは、精神支配の類の魔術を行使した。魔術は薬でもあり毒でもあると、精神魔術を得意とするクルーガーはそういう風に考えていた。
「あなたは、強いです。でも、まだまだ脆いです。心を強く持つようにしてください。それがきっと魔王様を倒すきっかけになるのではないでしょうか?」
「唯さん、きっとあなたならできます。」
クルス村で初めて会った時のように、同じ言葉で薄く笑いかけた。無責任な言葉だが、今の唯のように不安のある精神状態の人間には一番効く。
唯はその無責任な言葉と笑みにつられるようにぎこちなく笑った。
わたしならできるか……。ただの無責任な言葉を唯は鵜呑みにしてしまう。気落ちしている今だからこそ唯には有効な一言だった。
「それじゃあ、唯さんにヒントをあげましょう。すべてはきっかけです。あなた方は前途ある若者で、何かきっかけさえあればすぐにでもその溢れんがばかりの才能は花開きます。そのきっかけを知るにはあなたの持っているものを見るといいですよ?」
「それでは私はここで失礼します。ここは私が支払っておきます。では、ごゆっくり」
クルーガーは荷物を持ち立ち上がった。そのまま、唯がお礼を言う間もなくウェイターにいくらかのチップと勘定そしてしばらく唯が居ることを伝えてひとの波に消えていった。
(心を強く。きっと。才能。そして、わたしの持ち物。)
ふぅ、と息を吐きステンレス製の丸い机に置かれたティーカップをソーサーごと脇によけ、そのまま突っ伏した。
(少し眠いかもしれません……。)
少し暖かかい日差しに抱かれ、唯は昼寝へと興じた。
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今に覚えば、すべてがわたしに対する罠だったのでしょう。
残念ながらわたしの時は未だ止まったままだった。
髪はだいぶ伸び、少し短めだった髪今は肩甲骨の下あたりまで伸びてしまった。なので決して肉体的な意味ではなく、精神的な、それもしに続けている。
今もふと目を閉じると見えるあの拳。一年ちょっと止まったままなのだ。
「できた。試作一号とでも名付けましょうか?」
500円硬貨ほどの大きさの丸い金属片に、びっしりと必要な情報を刻んだコイン。
唯の止まった時を動かすことに一役買ってもらうために唯が考え抜き作ったアイテム。
我ながら手先がおとーさん譲りで器用なもんだと感心した。
「さて、次が本番なんですよね……。」
唯は指を組み、両手をあげ肩を伸ばす。次への準備のために。
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「お前は、イェンチェ・クルーガー……!」
アリアは露骨に嫌そうな顔をし、顔そのままの嫌そうな声で、呼び止めた主の名を言った。アリアはなぜか毛嫌いするノーザン・アルド。その従者もそのまま嫌なのだ。
「まぁまぁ、落ち着けアリア」
ロビンは極めて静かに冷静にアリアを諫める。このままアリアにクルーガーとの会話の主導権を握らせていてもろくなことがなさそうなので、ロビンから切り返した。
「おぅ、久しぶりだな。っていっても2、3週間程度ぶりだがな」
「そういえば、それ位しかっ経っていないんですね?ずいぶん久しぶりのように感じますね?」
クルーガーは、あたりを軽く確認する。
「……。唯さんが見当たらないですね。どちらへ?」
「あぁー。あいつ考え事してるとふらふらどっかに歩き始めるだろう?そういうことだ。」
「……。あぁー……」
クルーガーは唯とロビンがノーザン・アルド邸にて、アリアとセイラの到着を待つ間型の開発のために、何度もふらふらと歩き回りそのたびに迎えに行かされた事を思い出した。
迎えに行くたびに、クルーガーさん自分の仕える家で迷子になったんですか?なんて唯に聞かれた日には、クルーガーの感情の薄い顔になんともビミョーな苦しい顔をしたほどだった。
ほぼ毎日何度も迷子になるので、最後の方には下唇に手を当てふらふらし始めたら黙って意識が戻るまでついていくようになるほどだった。
「……。そうですか。もし見かけたらお声をかけておきますね?それでは失礼します」
クルーガーは複数抱えた荷物を持ち直しそのまま人の波に消えていった。
「……けっ!朝から気分が悪い!」
「アリアさんもう昼時ですし、それにどうしそこまで毛嫌いするんですか?」
「……。あいつらなんか嫌いなんだよ。人間嫌うのに理由なんていらないんだよ」
あえてクルーガーが消えていったのとは反対側に歩き始めるアリア。それに二人はついてく。
「ユイも餓鬼じゃねぇんだ。そのうちギルドに戻ってくるだろう。戻るぞ!」
その時。
「きゃーーー!!」
「逃げろ!氷像が動き始めた!」
「なんだよこれ!!聞いてねぇよ!」
アリアに二人がついていこうとすると広場の観客たちが我先にと方々に恐怖に叫びながら散る。
三人はその場に止まり何が起こっているのか現状把握に努めた。
人の波が避けていき薄くなると今回の騒ぎの元凶の姿をとらえることができた。
先ほどまで、立派に佇んでいたフェンリル像がまるで生身を得たかのように動いていた。もはやそれは、氷で出来た像ではなく生身そのものであった。
体長が3~4メートルはありそうなその猛獣は、白を基調とし、ところどころ黒いラインで彩られており、毛の一本一本は筋肉に沿い流麗に生え、そして雄大さを語るかのように逆立っていた。狼のような風体の猛獣。
「……フェンリル……!」
セイラは歓喜するように静かに闘志を燃やし熱くフェンリルを見据えた。
グォォォォォオオ!!!!!
フェンリルは完全に目覚めしそして吠えた。
ずっと待っていたのだ。
フェンリルは探していた、主たる人物を。唾を付けた数人の候補の一人。フェンリル自身が選んだ有望な若者の一人が、こちらを熱く見つめているのに気づきそして試すために目覚めた。
なのでフェンリルもセイラを冷たく見据えた。
「……アリアさん。ロビンさん。手を出さないでください」
セイラはアリアやロビンにも目もくれずそうつぶやいた。フェンリルから目が離せないのだ。
セイラはバック背負ったバックパックを乱暴に投げ捨て、左腰につるされたレイピアを右手で抜き放ち、左手でセイラは装備する四つのポーチの一つから4枚の式神をとった。
「氷精の力をもって大いなる神の得物を召喚せよ!神槍必罰:氷の神槍!」
セイラは持ちうる最高の魔術をお見舞いした。
しかし、やはりというべきか同系統の魔術ではフェンリルには効き目がなかった。
「やはりですか!……ならば!氷道!」
自身の最高火力が利かないとするならばとセイラは、氷の力を増幅させたレイピアを地面にこすりつけフェンリルに向かい一直線に氷の道を作った。同時に、3枚の式神を使う。その1枚をフェンリルに投げつけ起爆。1枚を身体強化。そして1枚でレイピアを無理やり火属性へと変え氷の道を駆ける。
起爆の煙幕でひるんだフェンリルは、まだ土煙が晴れる前に氷の礫を面制圧するように前方に向かい射出する。
それに対しセイラは姿勢を低く駆け抜けることを意識し、被弾覚悟で突っ込む。そして何発かもろに食らいはしたが、身体強化のおかげでだいぶ痛い程度で済んでいる。
これならとその勢いのまま、両股の間へスライディングしながらレイピアで腹を切り開きながら、次の魔術の詠唱、そして起爆用の式神を貼った。
「雷精の力よ紫電をもって我が敵を穿て!電撃筆誅:ヴォルト・エッジ!」
スライディングを終えフェンリルの後ろに回った瞬間に詠唱を終わるように読み上げ、後方1メートルの位置で右手、右膝をつき左手が標的に向くように姿勢を変え魔術を行使した。
ヴォルト・エッジが命中すると同時に起爆用式神も起爆する。爆風が思ったよりも強かったためかセイラもさらに後方へ飛ばされる。
「やったか!?」
セイラは自分の成果を確認するために起き上がるよりも早く口にする。立ち上がり起爆地点の中央、土煙晴れぬ場所へ警戒しながら近づく。
グォォォォォォオ!!!!!!
やはり、フェンリルはまだ屈服していなかった。
精霊契約は大きく分けて二つの鬼門がある。
第一関門として、精霊に気に入られること。これが成立すると準契約となる。下位の精霊はこれだけで正式に契約できるものもいたりする。準契約のままだと精霊ごとに代価を支払わねばならなくなる。例えば年一ぐらいで髪の毛をあげたり。支払った対価分の力を貸してくれる。
第二関門は、さらに狭き門となり、精霊に宿主の強さを見せつけねばならない。戦闘であるいは英知をもって。精霊はかなり強い。下位精霊でも大技を食らえば死ぬことすらある。上位精霊においてはその比ではなくなる。
精霊には、剣や魔術で倒すことができるタイプと、剣や魔術が効きはするが直接的なダメージにならないタイプ。
フェンリルを含め、上位の精霊の多くは厄介なことに後者のタイプが断然多い。
ならばどうすれば人間側の勝利条件になるのか?
上位精霊の多くは宿主を探していて、強い人間が大好きである。よって、勝てなくても俺は、私はこんなにも強いぞ!と精霊に対して武勇を命を懸けて示さねばならない。
向こうは不滅、こちらは大技一発で死亡、なにかが掠れば大けが。精霊魔術は基本的にリスクの上に成り立つ。その代わり圧倒的に他の魔術体系に優れるのは詠唱の短さや威力。非常に戦闘向けの魔術なのだ。
さらに、正式に契約を結ぶと代価を支払わなくてよくなったり、詠唱をなくしたり、同じ技でも威力が大幅に上がったり。とにかくいいことしかない。
だからこそ、精霊に挑み死んでいく魔術師も後を絶たない。
フェンリルは大きく叫んだあと、フェンリルを中心に氷柱を無差別にあたりに発生させた。
セイラの反応が若干遅れた。土煙の奥から無差別の氷柱。視界の悪さ、不用意に少し近づいてしまったこと。セイラの行動が裏目に出てしまった。
「しまった!」
バックステップで距離をとりながら、細身のレイピアを左手で受け止めるようにガードの姿勢をとる。
しかし、それもあまり意味をなさなかった。
セイラの左肩から鮮血が舞う。見事に直径にすれば2~3センチの氷柱がセイラを貫いていた。
「ぐっ!」
セイラはレイピアで氷柱を切り、距離を取った。
セイラの戦闘の要はレイピアを持つ右手ではなく実のところ左手の自由度にある。魔術を行使するのも、多種多様な式神を扱うのもすべては左手。
その左手の自由度が下がってしまう事は、それすなわちセイラの持ち味の柔軟さを失う事に他ならなかった。
少し乱暴に石畳の隙間にレイピアを刺し左肩に刺さった氷柱を抜き投げ捨てた。
再びレイピアを取り右半身に構える。
(左手はしばらく無理そうですね……。これはきつい。)
フェンリルから隠すように左手をそっと動かし傷の状態を確認した。
フェンリルは考える。
(唾をつけておいて正解だったな。)
約5年前ふわふわと夢と現実のはざまを漂い、主となる器の持ち主を探していた頃のことをふと思い出した。
瞑想中だといった少年は、その当時から年の割には理知的な顔つき、落ち着きのある子だった。わずか10歳前後で、意識的に夢と現実のはざまを漂うことのできる精神性にフェンリルは驚いていた。それだけで特殊だと思わせるには十分だった。
しかし、そんな少年はなぜかとても自分と他人の違いに悩んでいた。むしろ、このようなところに来れるほどに特殊だったからこそとも言えるが。
特に、自分ができないことを見つけるのがうまく誰かはできる、自分はできないと話を聞いてやった。しかしこの子供からは、自分が何かできるとの自慢話がとんと出てこない。
その時は、非常に僻んだ子供なのかと、何も持たぬ者なのかと幻滅した。
この子供の武勇を聞きたいがとんと語らぬ。ゆえにちょっと現実を覗いてみた。
するとすると、この挾間にいる理由が見えた。非常にストイック、そして負けず嫌い。どんな氷よりもガチガチの頑固者。10になったばかりの子どもがこなせるもんじゃないと、大人でも根をあげるほどの規則に雁字搦めに自らしていた。
同情したのかもしれない。そうじゃなかったかもしれない。次来た時に力を貸す程度はしてやろうと思たことだけは今も覚えている。
次に少年が夢と現実の挾間に来た時、少年に強さを示せと揺蕩うわしに触れろと命じた。直接触れることで分かることも多いと。
触れて分かった。少年は別に僻んじゃいない。少し才能に嫉妬したりするときもあるが、確固たる自身を持っていた。強さを持っていると。器を持っていると。
あい。わかった。わしはお前にわしの力を残してここから消える。次は武勇を示せ。
氷の氷柱を飛び越え、セイラをフェンリルは対峙する。咆哮をあげセイラに向かい走りそして右の爪をたて振るう。
セイラは再びフェンリルと見合いそのまま突進してきたフェンリルの右の振りをレイピアと左腕で受けようとするがそのまま弾かれてしまう。
「くぅ!はっ!」
そのまま直線状にあった建物の壁まで飛ばされてしまう。
「……まいったな。灼け」
血の流れる左肩を精霊に命じ焼きふさぐ。穴が開いた時よりも痛い。ぐっとこらえ立ち上がる。先ほどから掛け続けた回復魔術おかげで軽い剣なら少しの間握ってられそうなぐらいには握力が回復した。そして、何かあったかとポーチの中身をあさってみる。さてどうしたものか。一向に状況を打破できる方法が思い浮かばない。
ポーチの中では答えはないようだと立ち上がりながらあたりを見てみる。
これしかないかもなと思えるものが一つだけあった。
(なんだっけ……。あの布はいで、封印解除だっけ?)
次の作戦をぱっと頭に浮かべるとセイラは動き始めた。
「来てくれ!風精!風をおこせ!」
「氷精の力をもって無数の礫を限界させよ!アイス・ブラスト!」
ほんの小さな氷の礫を正契約精霊シルフィーの力で霰へと変化させる。魔術の合成は自身だけではできないので、精霊に協力してもらう。
無数の礫を弾幕に回り込む。レイピアは今しばらく必要ないので得物のために鞘へ納める。
「アリアさん!それ借ります!」
「へぇ?ちょ!」
セイラはアリアから、蛇腹剣・朱紅葉を借り、弾幕を形成し礫がぶつかり氷の煙幕を作った。
「光精の力をもって照らせ!ランタン!」
氷の煙幕は、小さな礫同士が光を反射し合い即席の光の壁となり、フェンリルより視界を完全に奪った。
「氷道!」
今が好機とセイラは見た目通りいい重量の黒い布で覆われた十字架を光の牢の中央。フェンリルの陰にめがけ叩きつけた。
目論見通りにフェンリルの頭をとらえる。いい一撃だったが、やはり右手一本で振るった一撃は少しが軽い。これで、フェンリルが屈服するとはセイラも思っちゃいない。次の策を、講じなければならない。
「封印解除!」
布をはぎ取り、側金の部分が深紅の剣、蛇腹剣・朱紅葉を展開する。
(やはり魔力操作か。ならば。)
短い間なら、軽い剣を握ってられるくらいには回復した左手でレイピアを握る。セイラのレイピアには使用者の魔力を高める効果がある。魔力を起こし、そしてそれをコントロールする基本的な魔力のっ行使のプロセスの内第一段階を省略することができる。つまり、コントロールにリソースを多く割くことができる。
目論見通り、少したどたどしいが朱紅葉を使えているとってもいいぐらいには動かせそうだった。
戦うための、勝利条件を満たすための、策を練らねばならないのだが……。
(これがほんとに、なにも思い浮かびませんね。)
セイラ的には一種の詰みの状態だった。奇襲からの最高火力、牽制からの殴打。
残ったのは使い慣れない特殊な剣と戦力に数えれない要の左手。
(ポーチの中身は、……期待できないよな。)
火力は出せるしパーティー戦闘においてなら圧倒的に素早い攻撃ができるが、どうしても1対1では起動までが遅すぎる。
……グルルルル!!グオオーーー!!!
吠えるフェンリルは明らかにこちらの動きに備えている。もう奇襲は効かない。ってことは、起動中に仕掛けられて押しつぶされるだろう。精霊というのは本当に厄介だとつくづく思う。
唯一は近距離戦を仕掛けるぐらいか。これが一番ましだが、中遠距離戦の得意間合いで決着を決めたかったのだが、そうは問屋が卸さなかった結果が今。つぅー……。と冷たい汗がほほを伝うのが感じる。
明らかに初撃で左肩をやられたのが響いている。
しかし、やると決めたセイラは早い。迷いを捨て、ポーチから身体強化の術式の式神を乱暴に取り出す。
「行くぞ、フェンリル!!ここからは小細工なしだ!!」
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物音と言うには物騒な音で唯は目を覚まし、いつものルーチンで起動する。
いい目覚めだとは言わないが、目覚めは良好。なんだか心が軽くなったようにも感じるが、明らかに昼寝前よりはコンディションがいいのは確かだった。
「おい!広場で氷像が暴れだしたしたそうだぞ!それと一人の子どもが戦ってるそうだぞ!」
「まじかよ!?見に行こうぜ!」
だなっと若者たちはまっすぐ歩き始めた。これからその子どもを見に行くのだろう。
(広場?そういえば3人がはぐれたのも広場だったような気がします?)
むくりと起き上がると、カフェの店員にごちそうさまでした。と告げカフェを後にし、男たちについていった。男たちについていくと、気づいたことがあった。同じようなことを考える人間は意外と多く、たぶん広場に近づくにつれ、同じ方向に歩を進めるものも多くなった。
(あの先かな?)
人垣が出来上がるほどに見物人は多い。
常時身体強化がかかりつ続けているようなものの唯には、街中では異常な獣臭のようなものと血の香りに気づいた。そして、そんな唯じゃなくても聞こえる獣の唸り声。
「行くぞ、フェンリル!!ここからは小細工なしだ!!」
「セイラ君!?」
半月以上寝食を共にした仲間の声だ、聞き間違うはずもないだろう。しかし、明らかに妙なのが戦闘音が一人で、斬撃音がアリアの蛇腹剣の独特なシュルシュルともカラカラとも違う展開、収縮の音だった。
たったったっと駆け人垣を一飛びで超える。飛び越える前からなんとなくわかっていたがやはりセイラしか戦っておらず、セイラが近接戦を仕掛けざる負えないほど不利なのは一目瞭然だった。
そしてそれをアリア、ロビンは見守るだけだった。
「助けます!」
なぜ助けてあげないのか?彼がこんなにもボロボロになっているの?彼は大切な仲間ではないのか?と。その動きをアリアは左手で制す。
「止まれユイ!」
「どうしてですか!助けてあげないと!」
「セイラは今冒険をしている。自分取り強い相手を、未知を、新しい力をと。あいつには勇者の素質はない。特別な力は持っているが、才能としてはあたしらクラスの並だ。唯とセイラじゃどっちが庇護者か決定的に明らかだろう。だがしかし、一方的に守って貰わないといけない人間に、あたしは育ててない!驕るな!」
アリア、ロビンクラスの才能を、アリアは唯と比べ並だと評価した。もちろん並々ならぬ才能なのだが、唯の体術に対する圧倒的な感覚や魔術に対して寛容でもないのに当たり前のように使える非凡さ、時間さえも見切る唯の眼の良さ。もちろんすべてが才能というわけではない。体術の基礎は唯が努力し手に入れたものだったし、眼の良さもある程度は訓練に寄るところもある。
だが唯クラスの才能では、まだまだ唯は努力不足なのだ。魔術だって体術だって、なんだって唯が死に物狂い打ち込めばきっと2,3年もしないうちには世界最強と言われているかもしれない。セイラが唯以上に努力してもどこかで頭打ちが来て、唯の才能の極致には至れない。もって産まれた器の違い。
それでも、アリアは。身内贔屓のように思われても。セイラは十二分に強いと認めてここまで連れてきてるのだ。それを唯に“助けてあげないと”と、一方的に言われるのは我慢ならなかった。
「お嬢。セイラは大丈夫だ。あいつはあいつで化け物の一種だ。自意識の、自制の。すべてにおいてあいつは、クレバーでストイックなやつだ。今もきっと逆転の一手を常に考えているよ」
ロビンは唯の肩に手を置きなだめるように、安心しろと一言呟いてそば居続けた。
唯は、無意識にぎゅっと祈るように両手を組み、戦いの行く末を見続けることに徹すると決めた。たとえセイラがここで没したとしても最後の最後まで絶対に手を出さないと。うっ血しそうなほど力の籠った両手に誓いをかけた。
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セイラは逆転の一手を考えていた。中遠距離での精霊魔術の行使はこの大型の獣膂力の前には遅すぎる。もちろん出の早いのもあるが、セイラの切れる手札では火力不足。さらにセイラにとって厄介なのが、一番DPSの出せる氷系統の精霊魔術が無効であることもセイラには向かい風だった。
状況は最悪。長引けば体力的にこちらが不利。
セイラは考えていた。朱紅葉の展開中の防御力でかろうじて防ぎながら。ただではやられないと罠をしかける。起爆用式神で自爆覚悟で距離を離す。パワー負けこそしているが、朱紅葉を使った初戦闘であるにもかかわらず要所要所で“負けない”を使って、しっかりと受けている。
攻めあぐねているのはセイラもフェンリルも同じだった。
何度か距離を離したり詰めたりを繰り返した後、突如として立ち回りを変える。一転攻勢。セイラが仕掛け続けた罠を完成させるため走る。
「宿れ!氷道!」
セイラは朱紅葉を投げ捨てレイピアを手に取った。セイラは唯一の近接卓を投げ捨て最後の一撃のために、ここでまた戦い方を変調させるのだ。
ロビンはため息をついた。この若さでなんと強かで柔軟で多芸に富んでいるのだろうと。ロビンの戦いは狩人そのもので、確立しきってしまっている。一種の完成形で変化の余地がないからこそ、未来しかないこの子たちを羨ましく思う。
レイピアに氷の魔術を高めさせ、レイピアに纏わせた氷で一直線に道を作る。セイラはい直線にその道を突っ込む。
セイラらしからぬ突貫に唯は思わず、ダメ!っと声をあげそうになるがぐっとこらえる。考えなしに突貫するまぬけではない。途中でセイラは横方向にきゅっと方向転換する。
唯は感じた。セイラは立派な策略家で常に考えて戦っていて、きっと唯には見えていない戦いの結末を見ているのだろう。見取り稽古のように一挙手一投足を、セイラの思考を逃さまいとそれこそ自身が戦っているわけでもないのに視界がゆっくりになるほどセイラの動き、フェンリルの息遣い、戦いの終着点を視た。
どうやらセイラの勝ちらしい。
「来てくれ!風精!風だ!」
「氷精の力をもって無数の礫を限界させよ!アイス・ブラスト!」
牽制射撃を行う。ダメージを期待するわけでもなく、ぐるっとフェンリルの周りを一周。牽制し続ける。先ほどよりも威力と弾数が落ているがアリアはそれでいいと確信した。
我が子ながらやるものだと。感心しか出てこない。自分が15のガキの頃にセイラほど考えて動けていたか?無理無理。と自虐的に笑う。先天的に考えすぎるタイプだったセイラと比べ、どちらかというとフィーリング型だった自身はあまり考えて戦ってはいなかっただろう。50年以上生きて比較的最近になって作戦を立てるようになった。そんなセイラの天性の謀略家性ににやりt笑わざるおえなかった。
「頼むぞ!」
主人の期待に応えるためシルフィーはほほを真っ赤にしながら風を吐き続ける。、1周回り終えると牽制射撃を行いつつ、素早く下がってもう1周回った。全力で走り、フェンリルが先ほど作った無差別攻撃用の氷塊を飛び越え。最後の一撃に賭けるための準備を終える。
「俺は、魔王を倒すと誓ったユイさんを元居た世界に帰すために力がいるんだ!俺に屈しろ!!!」
セイラは魔術陣を起動した。
セイラは氷の神槍が利かないことを確認したときに、炎の神槍ならば?と答えには行きついていた。しかし問題なのが、セイラの契約精霊の中に威力の高い炎の神槍を作れる炎の上位精霊がいない。
ならば魔術陣による作成ならどうだろうか。式神を使えば陣の一部省略は可能だろうか。
しかしどうやって魔術陣をフェンリルから欺きながら書ききるか。
もし書ききったとしてもどこから魔力を持ってこようか?
セイラは最初に考えた終着点に向かうために、あとから道程を作った。
まず、魔力源の調達だフェンリルに魔力たっぷりのでっかい氷を作らせる。隙を見せて近づき、あえてい大技を誘った。ここまではセイラの読み通りだったが、やったかと淡い期待とはやる気持ちから、不用意に近づきすぎもろに反撃を食らっってしまった。
この時に左肩を貫く痛みと共に甘さをかなぐり捨てた。ここからはほぼほぼ最後までセイラの読み通りに進む。予想通り左手を自由にできないことがかなりの大苦戦を強いられた。それも結果的にはフェンリルに攻めさせるという近接戦の意識を埋め込むのに大いに役立った。
次にどうやって欺きながら書ききるか。戦いの中で自然に付いたように見せかけることが重要なのと、悟られないために視野を狭くする必要があった。だからこそのあての近接戦と氷道。
きっちり等間隔にフェンリルを中心に交差するように引かれた3本の氷道。それに合わせ作った円陣と攻撃を受けながら設置した式神。
呼吸を置くためではなく自然さの演出のために、何度も休みなくヒット&ウェイを繰り返したのもそのため。中心の円陣はこれで完成させた。外周の円陣は氷からの魔力回収用で円と氷がつながってさえいればあとは勝手に循環する。
これにてセイラは賢狼とさえうたわれたフェンリルを騙し切ったのだ。
足りない魔力は体から集めろ。自身の全身全霊を捧げきれ!何かが残るなんて許さない!ありったけを!
「炎の神槍!!」
魔術陣は烈火のごとく燃え盛りフェンリルを貫く神槍を召喚した。神槍はフェンリルを貫き肉を骨を焦がす。
グオオオオオ!!!
肉を焼かれる痛みに悲痛な叫びをあげるフェンリル。焼かれたそばから修復しそのそばから焼かれる。地獄の責め苦を味わっているのだからいくら精霊といえど辛いものはつらいだろう。
これがセイラが最初から狙っていた、一発逆転の必殺技。
ダメ押しとばかりにセイラは走る。途中投げ捨てた蛇腹剣・朱紅葉を拾い上げジャンプし勢いをつけ、燃え盛るフェンリルの首を深紅の刀身で貫く。
「ははっ……。俺はやった」
セイラはよろよろっと後ろに2,3歩下がりその場にへたり込む。燃えるフェンリルを見続ける。もうじき魔術の効果が切れる。その時まだ俺に屈服していなかったら、もう次はない。
徐々に火力が弱まる。貫いていた神槍も消える。焦げ煤となったフェンリルだったものがどさっと地に落ちる。
頼むからもう終わってくれと、セイラは残された気力を神頼みにあてるしかなかった。産まれてこのかた、敬虔なシスターに育てられてきたわけだが、神に祈りながら神に頼り切ったことはただの一度もなかった。しかしこの時ばかりは神頼みせざるおえなかった。
指の一本さえも動かすことを億劫になるほど疲れ切っていたから。そりゃあ出し切ったんだ。きっとさっき蛇腹剣を拾うために走った時も傍から見ればよたよただっただろう。セイラの中では最高に疾走感があったんだが。
期待とは裏腹に再生していくフェンリル。
こりゃだめだと。ははっ……。と笑いながらセイラは仰向けに後ろに倒れる。
唯はロビンの手を払いのけ走った。これ以上はセイラが本当に死んでしまうと。
完全復活したフェンリルが身を起こす。
唯はセイラとフェンリルの間に割り込みバッと両手を広げフェンリルを睨む。
「あい。わしの負けだ。そなたを主と認め。そなたが朽ちるその時まで付き従うと約束しよう」
「そうはさせませんよ!私はセイラ君を殺させたりなんてしません!……へ?」
フェンリルは恭しく地に伏せる。
なんだか勘違いをしてしまい恥ずかしくなる唯。あ、すいません。と言いながらへこへこしながら元居たロビンの近くに戻る。
「騒々しい女子じゃな。しかし、あれはすさまじいな」
フェンリルは唯を見てすさまじいと言った。賢狼とさえあがめられるフェンリルがすさまじいと表現すほかないほどやはり唯は飛びぬけているのだろう。
(しかし妙な香り、気配がした。)
「あはは……。唯さんはすごいんですよ……。才能もある。努力だってしてる。もって生まれたものが違う」
「でも、負けるつもりはない」
憧れている。しかし、だからと言って憧れ続ける気もさらさらないと強い意志で言い切った。
幼少の頃より負けず嫌いな我が主はさらに負けず嫌いになられたようだっとフェンリルは安心した。
「そうか。おぬしあの女子に惚れておるのか?」
「あぁ。ひと…め……ぼれ……さ………」
「あい。分かった」
「これは血の契約だ。我が主よ。わしを必要とするならいつでも我が名を呼べ。我が主の期待に応えよう」
フェンリルは意識を失ったセイラの服を咥え、勢いをつけ自身の背にだらーんと掛けるようにひっかけた。そのまま少し引き擦りながらセイラを唯のもとまで運んだ。
「おい。そこの女子。我が主をどこか休める場所に連れて行ってはくれまいか?」
「わかりました」
唯はセイラを優しくフェンリルの背から降ろしおぶると、そのままたっと一飛びで近くの屋根まで飛び、そのまま宿へと向かった。
「おい、そこの神の寵愛を受けた女と千里眼を持つ男よ、貴様らは我が主の仲間で相違ないか?」
「ああ。あたしはアリア。アリア・リーベルトだ。セイラの母親だ」
「んぁ。俺か?俺はロビン。精霊ってのはすごいんだな。このローブ越しに俺が千里眼だってわかるのか?」
「否。賢狼のわしだからだ。それよりも先ほどの女子はすさまじいな。しかし、気を付けたほうがいい。うっすらと妙な魔術の気配を感じた。今はそれでいいがいずれ時が来たらただの重荷になるだろう」
魔術に敏いアリアにはなんとなくだが察しがついた。しかし、今は必要だとこの賢狼が言ったのだからそれこそ間違いなく必要なのだろうとこの場での言及はやめた。
「あたしらも帰ろう」
「そうだな」
「あい」
フェンリルはすぅっと溶けて消えた。精霊は受肉しているわけではないので便利に場所間の行き来ができる。特にフェンリルほど大型の精霊が街中を闊歩していたら問題が起きるに決まっている。よってフェンリルは溶けて消えた。
目が覚めた時あたりは夜帳が降りきっており、窓の外は暖かなオレンジの光が灯る家が多い時間帯だった。
フェンリルと戦った時刻から考えると5時間ちょっとくらい眠ってたかもしれない。まだまだ体のだるさは溶けない。出し切るもん出し切ったのだから当然と言えば当然なのだが。
「すぅー……」
妙に手が暖かいと思えば、ベットの淵で腕を枕に規則正しく上下する双肩。もしかしたら僕が寝ている間ずっとそばにいたのかもしれない。
それにしても格闘家とは思えないほど柔らかな手だ。魔術師と言えど、ずっと剣を握ってきたセイラだ手には剣ダコで15の少年とは思えないほど手はごつごつしている。
セイラは唯が好きだなって自覚した。すると、どうしても性差を意識してしまう。大好きな女の子の手だ。
少しやましいことをしてしまった気分になるが、自分からはとても離せない。
「それは違うぞ我が主よ。そこの女子、名をば唯と言ったか?途中で飯を食らいに一度下に降りている」
部屋の角で丸まって眠っていフェンリルがむくっと起きて、セイラが抱いた期待を砕く。
「……。情緒がないなぁー。いいじゃないか少しぐらい淡い期待をいだいたって」
「あい。すまない」
「ん……」
唯が身じろぐ。ふわっと真っ白な髪が揺れる。
「ユイさんが起きそうだ。フェンリル少し席を外してくれるかな?」
唯はいつものルーチンで目を覚ます。するとセイラの手を引っ張るわけで。そのまま体に力の入らないセイラは引っ張られ態勢をベットの外に崩してしまう。
勢いのまままるで覆いかぶさるように押し倒してしまう。
「あいたーー。……おはようセイラ君。起きたんですね?」
「……。……。ふ、不可抗力なんです!わざとじゃないんです!」
「年下の男の子に押し倒されるというのは女の子的には意外とありな展開かもしれませんね?」
なぜ、こんな状況でユイさんは冷静なのか!!?セイラに全く理解できないわけだが。
「す、すみません今どきます!」
思うように力の入らないセイラは支えてた腕ごとまた倒れてしまう。
や わ ら か い !
あぁー!!と今すぐ騒ぎ出したくなる。唯の豊かな双丘をむにっと自身の胸板が押しつぶす。他の触れている部位も、あれだけの膂力を発揮できるのに何てやわらかいのだろう。ふぁ~……。脳みそが焼ききれそうだ!
顔を赤くして、何か言おうとしては口を閉じるセイラ。
「わたしは嫌ならいくらでもセイラ君を押し返せます。まんざらでもないように感じています。でも、よいしょっと」
セイラを唯は脇にのけもう一度ベットに戻してあげた。
「す、すみません!」
「大丈夫ですよ。それほど嫌な気にはなってませ。」
「……それはそれで、その……」
セイラは複雑な気分だった。“男”として意識されていないのか。それとも、あぁーーー!!頭を掻きむしりたくなる衝動に駆られる。
「……その、あの……」
「もしかして急にわたしと同じくコミュ障になりました?それとも吃音症ですか?」
まったく的を得ない唯の考察になんとも遺憾の意を唱えたい。
「その、……好きです」
「……」
「……」
二人の間に沈黙が流れる。
ほわい!?俺は何を口走ってんだ!?あぁあああ!!!やっぱりさっき脳みその一部焼け落ちたのか!!??
「その!俺。あの!あぁ!えっと!」
「うーん。その、照れますね。ただセイラ君。落ち着いて考えてください」
「そうですね!俺全然冷静じゃないですよね!はい!」
セイラは大げさにすー、はー、と大きく深呼吸した。
「ふぅ。……それでも僕はユイさんのことが好きです」
「……そうですか。だったら真剣に答えなきゃいけませんね」
唯は一拍置いてセイラの目を見て答える。
「素直に好意は嬉しいです。それにフェンリルと戦ってた時にわたしを元居た世界に帰したいと言ってくれました。かなりドキッとしたのも事実です。でも、ごめんなさい。今すぐには答えれません。時間をください」
唯はセイラの目を見てしっかり答える。
「……そうですか」
「ごめんなさい」
「謝らないでください。僕はユイさんが答えるまで待ち続けます。それまでずっと好きでい続けていいですか?」
「光栄です。……みんなにセイラ君が起きたって伝えてきますね」
「あ、はい。」
唯はガバッと立ち上がるとそのまますたすたと扉の方に歩いて行った。
唯がではと扉の前でセイラに向けて言って出ていったのを確認する。
「……よし!」
存外の好感触にセイラは一人舞い上がる。断られたわけではない。結果は即答とは言わなかったがまずます良好だろう。一人ガッツポーズをしてしまう。
唯は扉を出て静かに扉を閉める。そのまま扉に背もたれる。
あぁ。なんて恥ずかしいんでしょう。即答してしまえばよかったのにもったいぶて、かっこつけて、時間をください。って!!あぁ、顔がきっと真っ赤になっているでしょう。ばれてなかったかな?ばれてないよね?大丈夫きっと、たぶん……。
唯はふぅーと息を吐き手で火照った顔を仰ぐ。
女の子的にはありかもしれませんね。とかまんざらじゃないです。とか、その、あぁ恥ずかしくて死にたい。
「よし!」
セイラ君の声が聞こえる。よし!じゃありませんよもう!もう少しあたりを気にしたほうがいいと思います!丸聞こえです!
唯は奴当たるように階段の死角に身を潜める2人と1ぴっきをキッと睨みつけます。
「ばれてたか」
ロビンが白状するように出てくる。
「バレバレです」
「息子はやらん!」
「それは女の子側のお父さんが言うセリフです!」
セイラに聞こえないように小さく叱咤する。
「お嬢、お嬢」
ロビンが唯を呼ぶ。
「なんですか?」
「まんざらでもないです」
唯がロビンに向き直るとニタニタと下卑た笑みでロビンが言う。腹が立って仕方がないです。
「その無駄に言い耳を感謝のしるしに思いっきり引っ張てあげたいです!受けっとってくれますよね?わたしの感謝!」
「いや、お嬢に引っ張られたら普通にとれちゃうから!」
はぁ、当分わたしがいじられそうです。みんなは知らないと思い込んでるセイラよりも私をいじるほうが面白いでしょうね。えぇそうでしょうね。
「はぁ、もういいです。みんな入りましょう」
「そうだな。意外とありかもしれません」
「あぁ。それほど嫌な気になっていません」
「もう!」
当分じゃない。もしかしたらこれから先ずっといじられ続けるのかもしれない。はぁー。唯はひと際大きくため息をついた。
「セイラ君入りますよ」
ノックしてセイラの休む部屋に入る。
わたしもセイラのように冒険者になりたい。冒険をしたい。未知と遭遇したい。まだ見ぬ強敵と戦いたい。
庇護対象ではなくセイラはわたしの背中を守る仲間なのだ。わたしとて、そんな“冒険者”の仲間に恥じない立派な冒険者になりたい。
わたしが自身に誇れるような“冒険者”になったら、セイラに思いのたけを伝えよう。
この度はぶれいぶすとーりー!2 ~佐藤唯は勇者です~3:ギルド中編 2を読んでいただきありがとうございます。
あとがきですよ。あとがき!どうもこんにちはなつみんです!
もっと、戦闘描写を細かく書く技術が欲しい。リアリティーを持たせるために体動かして書いたりしたりもするんですけどいかんせん運動不足がたたって肩が、動かん!
えぇい!動け!なぜ動かん!若かったころはもっと動いていただろう!?
とまぁ、作者本人の肩関節の固さ、設定のふわふわ感も相まって、正直もっと上手に書けたかもなって反省しております。
んじゃ、いつも通り次回予告。
ロビンの仕掛ける罠にうまいことは待っていくゴブリン。I love you.Ariaのあのアーサー卿?
そんな感じの水着回!?
次回4:ギルド上編。
まぁ、こんな感じのキャッチコピーで書けたらなー。って感じのシリーズですが応援していただけると幸いです。




