2:ギルド上編 7
~夜更けの頃~
月が丸く近く煌煌と地面を照らしていた。しかし月の光も届かないほど入り組んだこの街ではあまり関係がなかった。
そんな夜更けの頃に1人の男が3人の男を抱え、ストラードファミリーの事務所に消えていった。
翌朝唯は男どものけたたましいがなり声で目を覚ました。
いつもの覚醒ルーチンを普段通り行うが、それでもうるさく響く声に朝から最悪な気分になっていた。
それはアリアも同じだったらしく普段からかなり寝起きの機嫌が悪いアリアは一段と機嫌が悪かった。
それはもう確実に50人は殺ってるよ、って感じの目つきになっていた。
それを見たロビンとセイラはぶっちゃけかなり引いた。
「んだ!こんな朝っぱらから!うっせぇ!〇すぞ!それともケツに手ぶち込んで奥歯ガタガタ言わせたろうか!!」
窓を大きくあけ放ち思いのたけを吼える。
その台詞はもはややーさんなのではないでしょうか?
「さ、さっさと降りてこいや!」
荒くれ者のおっさんたちの一人が一瞬ひるんだが叫んだ。
それを皮切りにヤジが飛ばされる。
そして機嫌の悪いアリアは封印解除前の蛇腹剣・朱紅葉を引きずって、二階の部屋からパジャマのまま降りていった。
唯も若干、といううか大いにぶち切れ中なので道着を羽織、それに続いて降りた。
状況に取り残されたロビンとセイラは、ぽかんとしたがこれはいかんと慌てて続いた。
が、時すでに遅し。
「あーーー!!ズボン脱げちゃう!パンツ見えちゃうーーー!」
そこはもう阿鼻叫喚だった。アリアはさすがに人間相手に、蛇腹剣を封印解除はしていないが、バカでかい十字架を振り回すんだからそれだけで何人も犠牲になっていた。
唯は唯で一人をつかみぐるぐると周り叩きつけたり投げ飛ばしたりと戦場を駆ける小鬼のように舞っていた。って、表現すればかわいげが出るかと思ったが、実際はただただ生生しい死なない程度の技を振るっていた。
さすがに二人とも少しづつだが暴れて、冷静さを取り戻したみたいで。
「てめぇらストラードファミリーのもんか?」
ブンブンブンブンと全力で肯定し、怯える悪漢の方がかわいそうだった。
「てめぇらのボスのところに連れてけ。殴り飛ばしてやる」
「ひぃ!」
「おいおい!おたくらやめとけって!」
「止めないでくださいロビン!昨日といい今日といい!わたしのこの世界での楽しみのベッドでの睡眠と食事を奪った罪です!体で払ってもらいます!仏の顔も三度までです!」
「いや、それじゃぁ二度じゃん!」
「細かいことを言うロビンも天誅です!えや!」
「あぶあな!これとれなかったら死ななかった?ねぇ!」
「ちっい!」
白羽どりされたことにか、ロビンを天誅でできなかったことにか分からないが、とりあえず唯は舌打ちをした。
「もともとは高くて時間も浪費するが一般でいくかと考えたが、ちょうど都合がいい。冒険者用が明日出発なんだよ。今日潰す。あたしは決めたよ!」
「やはり、ストラードファミリーか!わたしも同行しよう!」
「ユイ院!」
「ねぇ、おたくらの時々出るそういうのなんなの?」
「んじゃ行きましょうかロビンさん。」
「セイラ、おたくもたいがいだな!?」
目的地はエジプトでもカイロでもないが、ひっ捕まえた下っ端に案内させストラードファミリーの事務所に向かった。
ちぎっては投げ、ちぎっては投げ。
うわー!と恐怖の声を上げる組員をよそに、一行はずんずんと進んでいった。
「ここがあのボスのハウスね!」
「ねぇ?それマジで何なの?」
ひと際大きな豪華な装飾の施された扉を前に唯がつぶやいた。
「おら!」
いつぞやのノーザン・アルド邸にて、豪華な装飾を施された扉を壊した時のように壊した。
蝶番がばぎっと外れ大元からとれ、砕けた扉から侵入した。
「てめぇがストラードファミリーのボスのボールス・ストラードJrか!通信傍受の解除とてめーを殴りに来た!」
「ぐふふっ。拙者はストラードファミリーの幹部ジャッカル・ウェインでござる!ぐへへ!」
「なんだボスじゃないのか邪魔したな。」
「ちょ、待てよ!せ、拙者が通信を傍受しているんでござるよ!そして、ボスは拙者の傀儡、あの気に食わない伊達男を殺したも拙者でごz…ドュフーーー!!」
傍受の犯人ということで遠慮なく唯が、コンパクトにそして鋭く、この不細工な子デブを躊躇なく殴り飛ばした。
殴り飛ばされた子デブは、気持ち悪い雄たけびをあげながら壁にめり込みぴくぴくしていた。
「ふぅ。一件落着ですね!あとそのセリフは、イケメンしか言ってはいけませよ?」
「だからおたくらなんなの?」
ジャッカル何某をしばいてから少し時が進み。
「すまない。感謝している。わたしがボールス・ストラードJrだ。わたしはまた一から新たなストラード自警団を作っていこうと思う。この度は本当にすまない。」
ボス争いに制して以降、あのジャッカル何某に自警団は乗っ取られていたらしい。そしてボールス・ストラードJrは、軟禁状態で手も足も出せない状態だったらしい。
そして、目的不明のまま傍受の件も解決した。
「アリアさん。ユイさんとロビンさんと僕の冒険者登録完了しました」
「この度はありがとうございました。この件については上の方にまたあげておきます!なるべくいい階級で登録されるよう尽力いたします!」
「いやあ、そこまで迷惑かけるつもりはねぇよ。ねーちゃんだって大変だろう?」
「いえ!大丈夫です。わたしこう見えても意外と権力を持っているので!任せてください。ほんの気持ちです」
そういうとギルドの重役にのみ与えられという、文字入りの身分証を提示した。
この人こそまさに、この巨大すぎるギルド会館の長で、ギルドという組織の中でもかなり上位の発言権を持っていることを示していた。
「では、今晩は宴です!街の皆さん大いに盛り上がりましょう!」
「「「おぉぉおお!!」」」
またこのノリかと、すーっと存在を薄くしていった唯だった。
またまた翌朝。
唯は自然な目覚めではなく、ボォーと低い船の汽笛のような音で目覚めた。
いつものルーチンを30秒かけきちんと覚醒し、いつもの最高のコンディションになった。
昨日の夜はどんちゃん騒ぎでギルド会館の飲食スペースで、みんなして寝たんだった。
そして、そういえばこの街で初めて船の汽笛を聞いたなと現状把握を行った。
「船の汽笛!!」
「セイラ君!アリアさん!ロビン起きてください!船が!」
「……まずいですね」
「まじかぁ」
「ふぁぁ。んだよ?」
昨日冒険者登録後に、必要な荷物やアリアの愛馬二頭は搬入済みとは言え、当の本人たちが乗っていないのではなんの意味もなかった。
「なんでこんな時にだけ寝坊するんですか!普段は無駄に早起きの癖に!」
「えぇ!ひどくない?」
「もしかしたら僕のことかもしれません」
「二人共です!」
「アリアさんもおきてください!」
理不尽にキレる唯を宥めるすべを持たないロビンとセイラはとりあえずの平謝りをおこなった。
「もういいです三人ともつかまってください!」
そういうと唯は蛇腹剣をアリアに巻き付け、アリアを右脇にセイラを左脇ロビンをおんぶと、3人を抱え軽い風のように駆けだした。
「3人とも受け身は勝手にとってくださいよ!」
船着場からダッシュの勢いのまま飛び器用にアリアセイラロビンの順で投げた。
3人は無事に?乗船できそうだった。
「わたしはどうすればいいんでしょうーー!!」
しかし唯は、後先考えず飛び込めばもちろん地球の重力に惹かれ放物線を描き落下する。
「あの、ばか!」
「封印解除!」
ロビンはフックショット付きの矢を唯のリュックにめがけ。
アリアは朱紅葉を展開し器用に操り唯を巻き取った。
セイラはそんな二人が落ちないように全力で支えた。
「お嬢めちゃくちゃ嬉しそうに手振ってんじゃねか。」
「ありがとーございまーす!」
「状況分かってんのかね…」
二人は少しだけあきれながら唯を引き上げていった。
「あの!なるだけ早くお願いします!割と腕が限界です!」
両脚は突っ張りながら、ロビンとアリアの手を落ちないようにとったセイラは、今日みたいにこれからも苦労があるのだろうなと覚悟が定まった。
ここから一週間はアンティーノ共和国に向け約1週間のゆるりとした船旅だ。
この世界に来てから最初で最後の、わりかしゆっくりとした時間を過ごすことになる一行だった。




