2:ギルド上編 6
「奴らの行動が最後変だった?」
「はい。妙でした。数的優位を押し付けて戦うのが奴らでした。そして個より群れでした。ですが最後は明らかに個の、弱い生き物でした」
「そうですね。そいえば急に逃げていきましたね?」
「あぁーだな?ありゃぁなんだったんだ?」
やはりロビンもセイラも最後の行動が気になっていたようだ。
それもそうだろう、あれだけ急に蜘蛛の子を散らすように逃げられては驚くに決まっているのだ。
だが、アリアだけはタイミングを計っていたかのように、驚いていなかった。
「あぁ?あいつらはそういう生き物だろ?群れとして生きそして種の危機になると全力で逃げる。その防衛本能はオスのほうが色濃いな。んで奴らの防衛本能の働くラインが半分だ。言ってなかったけ?」
「知らねぇよ!」
「聞いてないですよ!」
「言われてないです!」
「んだよ!うっせな!今言った!言いました!はいこれで終わり!」
ギャーギャーと言い合いながら楽しく食事を囲んだ。
「明日には帰るぞ!あたしは寝る!お休み!」
「逃げたな」
「逃げましたね」
「逃げの一手ですね」
アリアはふぁ~と、大きくあくびしながらゆるゆるとテントに戻っていった。
「……わたし、初めて冒険ってものをしました。正直とてもわくわくしました。わたしの居た世界では冒険なんてできませんでした。出ると引っ込めと。わたしはこの世界で冒険したいです。冒険するために、魔王を倒します。わたしは決めました!わたしのやりたい事のためにです。エゴです」
「お嬢。生半可だと挑むこともできないぞ?勇者になるには素質以上に努力が必要で、努力以上に運にきっかけも必要だ。そんな厳しい世界に自ら挑むことになるぞ?いいのか?」
「わたしはやると言ったらやります。ロビンやセイラ君、アリアさんにもついてきてもらいます。わたしの大切な仲間ですから。頼みますよ?優秀な狙撃手さん、駆け出しの魔術使いさん」
「ふぅ…。たぶん今日の事だったのかもしれない。未来視で勇者の仲間に選ばれる未来を、千里眼になった日に見た。それが嫌で田舎に引きこもってたのになぁ~。……やるか!乗り掛かった舟だしな」
「僕ももともとやる気で来ました。確かにまだまだですけど、僕にだってまだまだ伸びしろがあります。やってやります!」
「……よし!ふうん!はぁ!」
唯は立ち上がりガバッと立ち上がった。
そし軽く構え、いつもの気の抜けた気合から漏れた漏れ出た声と共に、左の正拳から右のハイキック。
それをピタッと止めゆっくりと下ろした。
道着の裾を正し帯をキュッと締め、ふぅー…っと静かに息を吐いた。
「寝ます!」
かなりクサいセリフを吐いてしまった気恥ずかしさからか、勢いをつけての睡眠宣言。
タッタッタッとテントに駆けていった。
「たぶん冒険者になる人間は一度は魔王を討伐や、自身が勇者と呼ばれる未来を想像したりするだろうな」
ロビンはホットコーヒーをすすりながらぽつぽつと話し始めた。
「んで、現実を知って。生きていくだけの日銭を冒険で稼ぎ、少し無理をして人知れず、どことも知れない場所で、名前を残すこともなく死んでいく」
いろいろ見て聞いて、戦ってきたロビンの瞳は今何を写すのだろうか。
昨日も聞いたロビンの話を思い出しながら、セイラは明日用と思い煮ているスープをかき混ぜた。
「死なずにベテランなんて呼ばれる冒険者は、自分の知ってる範囲でしか生きていけなくなる。それはもはや冒険者ではなくなっていくんだろう」
駆け出しの弱いままでは生きていけない世界なのだ。
世界は今も崩壊へ向かっていて、それでも今日を生きなくてはならなくて。
世界を救うことを夢見ていても、自分にはそんな力もなくてベテラン何て呼ばれていく。
「お嬢もセイラも素質は十分だ。アリアや俺がいる、運もばっちりだ。おたくらは努力もしてる。あとはきっかけだけだ」
僕たちの目標は先ほど魔王討伐に決まった。
今のままではきっとダメなのだ。
そんなことはセイラもよくわかっている。
わかりすぎるほどに知っているのだ。
昔っからそうだった。
こけることが怖いんじゃなくて、こけたと笑われるのが怖く。
歳のわりには落ち着いていると言われるのは、笑われるのが怖くて冒険ができないだけだ。
「しゃべりすぎたついでに、ヒントをおたくだけにあげよう。結局自分は自分ってことだ。何もかもきっかけ次第ということだ」
俺も寝るわと言い、三日間夜通し気を張って僕らを守ってくれてた彼は、床に就いた。
「…結局自分次第か」
明日の朝食にと思い、野菜のスープをひと煮立ちさせいつものように味見をし、おいしいと言って貰えるものに仕上げる。
結局漏れたのは味の感想ではなく、ため息と自分次第という言葉だった。
言わんとすることはセイラもわかる。
わかっているつもりだ。
何せ自覚症状はもはやセイラの自意識と同義のようなものだ。
オウムのように繰り返しただけの言葉は、心に溶け残ってしこりを残した。そして口に含んだスープの味は消えていった。
ルルアーノ州を出て、ブラックアリゲーター討伐のクエストを昨日に終わらせ、今日はまた一日かけてルルアーノ州に戻る途中だった。
アリアは荷台に背を預け、すぅーすぅーと静かに寝息を立てていた。
「アリアさん眠っていますね」
「昔からアリアさんはこんな感じですね。基本的に寝てて、必要な時だけ起きてるみたいな感じですね。」
だからルルアーノ州につく前基本的にアリアさんが起きていて、ユイさんに話してたのは僕としても珍しいことでしたよ~。と、セイラが付け加えて話した。
「ほ~ん。そういうもんかねぇ」
ロビンは習慣的に、日が落ちたら眠りにつき日が昇ると起きる。
太陽と共に生きるような生活スタイルのロビンには、少しわからない生活習慣だった。
「まぁ、シスターは基本的に二種類の職業に分かれてるんですよ。夜に祓魔する方々と、教会で祈りを捧げる方に分かれるんですよ。ちなみにアリアさんはどっちもするので、寝れるときは寝るみたいな生活習慣になってしまったらしいですよ?」
「アリアさんは忙しい方だったんですね?」
「ん……あぁ~。へふにいそはしふぁねーほ」
大きなあくび交じりに頭をガシガシと掻きながらアリアが言う。
たぶんね?たぶん別に忙しかねーよ、って言ったはずだと唯たちは解釈した。
「あぁーー。まぁ、そういう仕事だ」
伸びをしぐりぐりと肩をほぐしながら言うアリアは、哀愁のようなものが漏れ出て行動も合わさり、
よりオッサンぽかった。
「行動の節々がおっさんぽいよなぁ、アリアは」
ロビンがぽつりとつぶやいたが、アリアはそれを聞き逃さなかった。
「おっさんぽいとか失礼だな!それにもう若かねぇーんだよ」
「若かねぇーって、俺よりは下だろう」
「あぁ?もうあたしはもう50過ぎてんだよ!嫌味か!」
「はぁ?」
「これもギフト“恩恵”のスキルの一部だよ。ちっい!まじで呪いみたいで、気にくわねぇんだよ!」
アリアのギフト恩恵は所謂神の寵愛とでも言えるほど、さまざまな機能を有している。
その一個が肉体年齢や見た目の年齢が18歳から止まっている。
「まじか?めちゃくちゃびっくりした。んじゃ、アリアさんって呼ばにゃならんのか!?」
「気持ち悪ぃな!今まで通りでいいは!」
アリアが50越えの実はおばあちゃんってのに、唯もめちゃくちゃ驚いていた。
「はい。クエスト完了を確認いたしました。このクエストを4人パーティーで2日ですか!すごいですね!もしこの街の通信網が復帰した暁には、このことはギルド本部に通達させていただきますね!改めておつかれさまです!」
街につきギルド会館にて先日のお姉さんに、クエスト完了の報告とその報酬の受け取りをすましていた。
この世界の通貨『ベル』を受け取った。
冒険者用の船に乗ろうと思うとだいたい一人頭5万ベルほどで、大陸移動用の一般向けだと50万ベルが最低値くらいになる。
そんな感じの物価で、ひと月5万ベルもあれば生活できるぐらいだった。
今唯たちが泊まっている宿は一泊と二食ぐらいつけると、一日2,000ベルくらいになるから少し割高ではあるが、飯のうまさに背に腹は代えられない。
そして今回の報酬が役40万ベルであって、割とおいしいクエストだったが、この世界にはこのクエストができない冒険者の方が多いのが現状だった。
そしてそんなもんだから、街では見たこともないパーティーがブラックアリゲーターの討伐クエストを二日で終わらせたらしいぞ!と、少し噂というかひそひそと伝わってしまった。
「ぐへへ!ねーちゃんたち俺たちとあそばねぇか!金持ってんだろ?」
どこの世界にもこういう輩はいるもので荒くれ物風の男たち四人が、夕飯を食べている唯たち一行に近づいてきた。
「おぉ?こっちの嬢ちゃんも別嬪だな。ぐへ」
「…あ、う。あぁ~」
「あぁ~、悪いねおたくら。こいつら俺の連れなんだわ。ここいらで引いてくれねぇか?」
「あぁ!?男には要はねぇえんだよ!怪我したくなかったら引っ込んでろ!」
ロビンが緩く下から出ると男たちが付け上がった。
「あぁ!?んだ、お前ら。失せろ。飯がまずくなる。」
そんないざこざの中アリアは一瞥もくべず、ナポリタン風のスパゲティーを食べ進めていた。
「このアマ!俺らが下手に出てやったてのによ!俺らはストラーd、ぐひゃ!」
アリアが次のスパゲティーを巻き取ろうとフォークを下ろそうとすると、激高した男たちが机を蹴飛ばした。
机の上にあった皿の上の料理たちは地面にひっくり返り、男も遠くの壁にひっくり返って伸びていた。
「食べ物を粗末にすんじゃぁありません!!」
唯の渾身のビンタが入って、伸びて泡を吹くだけにとどまったのだから、むしろ幸運だったと言えるし、ブラックアリゲーター並みにタフなのだろう。
そんな幸運を飽きもせず無駄にしようとする男たちは、唯に襲い掛かる。
唯は一人目の大ぶりのパンチを回し受け、その勢いのままなるべく軽く鳩尾に拳を入れる。
次の男には顎に裏拳で意識を刈り取り、最後の悪漢にはあえて後ろに回り込み手刀でトンッをやってみた。
案外うまくいくもので、ふえぇ~みたいな声を漏らしながら膝から落ちていった。
「そこの方、向こうの壁で伸びてる男とそこの二人を抱えて去りなさい!ご飯を粗末にしては、めぇ!です!」
鳩尾にあてられ悶絶していた男は、お、覚えてやがれ!と捨て台詞を吐いて去っていた。
そして、その一部始終を見ていた店の客やスタッフ一同は割れんばかりの歓喜に包まれていた。
どこかでヒューウと指笛が鳴らされ、よくやった!とか,かっこいいじゃねぇか!と、最高の見世物と酒場の酒の勢いと共に、店内は最高潮に達していた。
その渦中で唯はあうぅ~…と、しぼんで小さくなって座ってしまった。
誰かがまた宴じゃーと言い、飲めや食えやのどんちゃん騒ぎになっていた。
宿のおばちゃん主人がこれサービスだよ!っと、先ほどまで唯が食していた白身魚のムニエルともう一皿ラザニアを出してくれた。
あぁーおいしいなぁ、とすでに薄くなって、このどんちゃん騒ぎから抜け出した唯は静かに食した。




