宇都 狭間
本校舎5階にある、第2音楽室。
不亜高の各教室は貸出制となっていて、申請すれば誰でも自由に使える。学生証をドアのセンサーにかざすと、ロックが解除されて中に入れた。
グランドピアノや大型の金管楽器などが保管されている室内には、見知らぬ男子生徒と城ケ崎さんの姿があった。
「ハロー同士。この人が『お茶会相談所』の運営者。2年B組の宇都 狭間君」
「ごきげんよう、唐草君。今日は面白い話が聞かせてもらえるということで、会えるのを楽しみにしてました」
「ご、ごきげんよう」
宇都狭間は、長い黒髪を後ろでひとまとめにした、異様な雰囲気を纏う男子生徒だった。
細く華奢な体つきで、血の気がまるでなく、今にも倒れそうなほど青白い。なのに、少し窪んだ目元からは、ギラギラと好奇心に満ちた眼差しが俺を見つめていて、まるで俺が値踏みされているかのような気分になる。
「それにしても、校内ネットワークのアクセスログを辿られるとは思ってもいませんでした。僕に直接会おうとしてきた生徒は、あなたたちが初めてですよ」
「これでもゲーム会社の娘。パソコンは人10倍くらいは詳しい」
誇らしそうにピースしてるけど、やったことはおもっきしグレーですよ城ケ崎さん。
「とりあえず、サイトの運営者が僕であることは内密に。今後仕事がしにくくなりますからね。ハイこれ念書。内容を読んでサインを」
狭間君が俺の前に、書類と朱肉を差し出してきた。
内容は『お茶会相談所』の運営者の個人情報について、一切の口外を禁じる内容だ。
一通り内容を確認して、自分の署名と、朱肉を親指に付けてから、指紋で印鑑を押す。
アルコールティッシュと入れ替える形で、書類を回収した狭間君は、署名を確認して満足そうに息を漏らした。
「それで、わざわざ僕に対面で何を依頼しようって言うのです?」
「……身辺調査だ。財全会長と、夢原結心の交際関係の」
「ククク。これまたホットな話題ですね」
狭間君はわざとらしく愛想笑いをしてから、俺の前にノートパソコンを取り出して見せてきた。
「……なにこれ?」
「……ゲームのtier表みたい」
「そのとおり。不亜高の情報価値のtier表ですよ。同ランク帯では、左に行くほど高価値となっています」
ランクがS~Fまで区分されていて、各ランク帯に、全校生徒の写真がずらりと並べられている。
財全会長のランクはSの左端。最も相場の高い情報ってことか。まあ納得だ。
Aランクにも、名だたる企業のご令息・ご令嬢たちの顔が多く並んでいる。あ、よく見たら城ケ崎さんや結心もこのランクなのか。結心がこの辺りってことは、俺も意外とこの辺のランクなのか?
そのまま流れでDランクまで、追っていくも、俺の顔はどこにもない。
Eランクには一人も該当せず、空白のランク帯となっている。
そして、その下。最下層のFランクに俺の顔が張られていた。
「……なんで俺、Fランクなの?」
「お茶会と言っても社交――言ってしまえば政治の場です。経済や企業間への影響力が大きい生徒ほどランクが高くなります。唐草君は一般家庭の出身ですので……」
「にしたって扱い酷くない⁈ ていうかEランクに誰もいないなら、Eランクに繰り上げてよ⁈」
「空白のランク帯を設けることで、越えられない一線を表現しました」
得意げに片目を瞑る狭間君がくそやかましい。
「城ケ崎さんも家だけでならSランクなのですが、お茶会にあまり興味を示されていないので……、やむなしでAランクです」
「そう落ち込まないの同士。私、スライム好きだよ」
「……スライム扱いされて落ち込まない男子はいないでしょ」
畜生下に見やがって。これでも入学当初は珍しい庶民ってことで、色々と質問攻めにあって大変だったんだぞ。
というか、何で俺がFランクで、同じ一般家庭出身の結心がAランクなんだ?
「結心さんは、今は財全会長の彼女ですからね。今朝の交際話でランクが跳ね上がりました。彼女の情報を知りたい人は多いです」
「てことは、もう既に結心さんとお茶会を組もうとする人は多いんだね」
「ええ。彼女に近づくことは、実質的に財全家に近づくことと同義になりましたから。一方で、急激な成り上がりから、黒い噂が増えているのも事実ですが」
「結心さんが、司をたぶらかしたとかそういうの?」
「有体に言ってしまえばそういうことです」
わかってはいたが、人の口から耳にするのは苦しいな。
「とはいえ、曖昧な情報が流れてくるばかりで、何がどうなって、許嫁を切ってまで交際をすることになったのか。それを知りたいと思っていたところだったんです。なので、今回の申し出は、僕にとってもありがたいお誘いでした」
「協力してくれるってことでいいのか?」
「もちろん。……あなたたちが差し出す情報次第ですが」
俺と城ケ崎さんは顔を見合わせた。
まあ、こっちから話を持ち掛けた以上、先に対価を払うのは俺の方になるわけか。できる限り同時にトレードする形が良かったけど、仕方ない。
俺は、昨日生徒会室で会ったやり取りを詳細に、狭間君に話し始めた。
出来る限り感情を排除して、事実だけを並べるように話す俺のことを、狭間君は面白おかしそうに、顎に手を当てながら伺っていた。




