改めて君に向かい直る(司視点)
婆やに叱られてから翌日。俺は残りの学院祭の時間を、今回の件で生じた誤解を解消するべく、様々な生徒や来賓の方々と面会をし、事情を説明して回った。
俺の勝手な思い付きで、巻き込んだ当人たちに迷惑をかけるどころじゃない。家名に傷をつけたと言われても仕方のない行いに、後から後悔の念があふれ出してくる。
この件が、皆にどう受け止められるのか。そして、俺を見る目がどのように変わるのか。
心配しながら事情を説明していったが、皆の反応は寛容なものだった。
「……そういうわけだったのですね。学院祭での彼らの様子や、学校での噂に色々と納得がいきました」
「当の本人たちも気にしていない様子ですし、私たちからは特には……」
俺に対して、というよりは、当の唐草君達が問題としないなら、外野の自分たちはあれこれいう資格はない。といったような反応だ。
結果、事を穏便に収めたのは、唐草君達だということだ。
償うつもりが、間接的に助けられてしまい、俺は申し訳なさを覚えながら、今回学院祭に来られた来賓の方々と、学校の生徒たちに事情を説明し終えた。
伝えた内容は、人から人へと渡り歩いて、最終日を迎える頃には、皆に事情が知れ渡ったように思う。噂の広まる速度というのは恐ろしい。
皆が社交パーティーに興じる中、俺は誰もいなくなった、お化け屋敷とラーメン街の周辺を、何となく歩いて回った。
騒ぎの元凶が、パーティーに顔は出せないし、夜風に触れて頭を冷やしたかったのもある。
「……」
それにしても、どちらの出し物も見事なものだ。不亜高の歴史を遡っても、これほど生徒たちが盛り上がり、活気に湧いた学院祭は無かっただろう。
その熱を生み出したのは、学校が招いた『一般特待生』の二人だ。
彼らがいい意味で、不亜高の生徒たちに変化をもたらしたのは間違いない。
「ハロー騒ぎの元凶。なんだか疲れた様子だね」
しんみり歩いていたところ、突然話しかけられ、ビクッとしながら振り返る。
そこにはかつての許嫁である、虎々奈の姿があった。
「疲弊もするさ。あれ以降ずっと、皆に説明をして回っているのだから」
「身から出た錆ってやつだね。こればっかりは、やりきるしかないよ」
「……」
俺と過ごしている時は、「はい」か「いいえ」、それ以外はそつない会話がほとんどだったってのに、ずいぶんと饒舌になったものだ。
「……この前から気になっていたが、その変なしゃべり方は一体何なんだ」
「元々これが素なの。変人呼ばわりされるから、学校や司の前では普通に話せって家に言われてた。勇星君たちは元に戻ったみたいだけど、私たちの縁談は無くなったからね。もう気を遣わなくて良いかなって」
饒舌の要因はそれだけじゃないだろう。話しかける時の、自信に満ちた表情が物語っている。
砕けた雰囲気に調子が狂うが、彼女は以前とは比べ物にはならないくらい良い顔をしている。飴を口にくわえながら話す姿は、気品があるかはともかくとして、目を惹くのは間違いない。
普段からそれくらい明るい顔で話してくれれば、なんて思ったが、それは浅慮だとすぐに気が付いた。
表面的な付き合いばかりで、素の様子を引き出せるほど、俺は深く関わり合っていない。過ごした時間は唐草君よりも長いはずなのにだ。
「ねえ司。私、可愛い?」
「はぁっ?!」
突然何を聞いてくるんだこいつは?!
突拍子もない問いかけに、俺は思わず声を上ずらせた。
「そ、それは、一体どういう意図での質問だ?」
「安心して。寄りを戻したいとか、そんな気は更々ないから」
「……」
こっちにその気も無いが、断言されるのも男として悔しくなる。
「だけどさ、唐草君との約束だから。形だけの縁談とはいえ、私を見限った男を見返してやるってさ」
……なんだその恣意的な約束事は。
前は俺が会話を作る立場だったのに、終始ペースを握られて、俺はやれやれと頭を振った。
「……ああ。可愛くなった。本当に」
少なくともミスコンという場で、一番輝いて見えたのは虎々奈だった。俺からしてもそれは間違いない。
俺の言葉に、「ふふん」とご機嫌に鼻を鳴らして、項垂れる俺の正面へ回り込んで、下から覗き込むように笑みを浮かべてきた。
「じゃあ司も、もったいないことをしたね。ざまぁってやつだね」
……そんな笑顔を見せられては笑うしかない。
この会話は終始振り回されて疲れた感じがしたのに、急に疲れが取れた気分になった。
「……虎々奈にも迷惑をかけたな。全部終わったら、お詫びをさせてくれ。一緒に食事をしよう。美味しい店を知っているんだ。食事の前には観劇を――」
この件に関しての埋め合わせとして、謝罪デートを提案しながら、ふと、とある言葉を思い出した。
食えないものじゃなくて、好きなもの聞きましたか。行けない場所じゃなくて、行きたい場所聞きましたか。
あのとき言われた言葉が頭をよぎる。
思えば、彼女と最初に出かけたとき、苦手なものがないか聞いた後は、俺の方で勝手にデートプランを練って、リードしてあげようと、全部自分で決めてしまったか。
唐草君は、デートの場所は一緒に相談して決めるらしい。
今思えば、これも一種の価値観の押し付けか。
よく見れば、笑ってはいるが、虎々奈の反応は鈍い。
……本当にこんな場所でいいのか分からないが、唐草君が言うことだ。提案するだけしてみよう。
いや、と俺は先ほどの提案を撤回してから、改めて行き先を提案した
「…………ゲーセン、とか?」
「‼ 行く‼」
先ほどまでの興味なさげな顔はどこへやら。餌を見つけた魚のように食いついた虎々奈に、俺は思わず目を見開いた。
食い気味で手を握ってきた顔に、思わず胸がドクンと跳ねて、俺は口元が緩むのに気が付いて、口に手を当てながら顔を逸らす。
……唐草君の言う通り、俺は彼女のこと、何も知らなかったみたいだな。
胸の内で反省しながら、次の休みにゲーセンに行く約束をして、今回の件はチャラにしてくれるそうだった。
もう許嫁ではなくなったというのに、次会えるのを楽しみにしている自分に気が付いたのは、別れてしばらくしてのことだった。




