【最終話】日常と、少しのプラス
学院祭が明けて、いつも通りの高校生活が戻ってきた。
「ごきげんよう、勇星。今日はゆっくりだな」
「ごきげんよう。ここんとこいろんなことがあったしな。最近は朝はのんびりすることにしている」
レッドカーペットが並ぶ本校舎への道を、まだ少しだけ違和感を覚えながら、友人たちと並んで歩く。
学院祭でクラスメイトとの仲も深まったけど、どうも俺はこういう文化にはなじめそうにはないらしい。人がやる分には何も思わなくなったけど。
「おはよう、勇星」
「おはよう結心」
校舎へ向かう途中、結心と遭遇し、俺たちは和やかに挨拶を交わした。こういう何気ない会話が、またいつもの日常に戻ったことを実感させてくれる。
今日も皆と授業を受けて、昼休みは、次の売店イベントの仕込みをして、放課後は期末テストに向けて、大図書館で勉強だ。
日常に戻ったけど、学院祭を得たことで、ほんのちょっとの変化はあった。
学院祭を通して、前は会話をしなかった生徒たちが仲良くなってたりとか、準備を通して、いくつかのカップルが誕生してたりとか。
ほんのささやかな変化かもしれないけど、こういうささやかな+が積み重なることが変化の本質であり、そういう変化を積み重ねることが進化や成長ってことなんだろう。
そういう視点で見ると、俺の日常にも成長ってのはあったわけで――
「ハロー同士たち。今日はよろしく」
「城ケ崎さん! こちらこそよろしく!」
放課後、俺と結心、そして城ケ崎さんは大図書館に集まって、一緒に期末テストの勉強をすることになった。
あの一件を通して、結心も城ケ崎さんと仲良くなり、共通の友人を持ったことになる。
これが、俺の中での日常の+だ。
「虎々奈ちゃんありがとう! 私も勇星も日本史は得意じゃなくてさ……」
「ふふふ。歴史のゲームもいっぱいあるからね。ゲームを楽しむために色々勉強したから、歴史は得意分野だよ」
得意げにピースで答える城ケ崎さん。
メンバーが増え、この勉強会も賑やかなものになった。勉強会は、皆でやると捗るよね。
そんな和やかな集まりに、寄って来る影が一つ。
「楽しそうな集まりだね。良かったら僕も混ざっていいかい?」
「場所を変えようか二人とも。急に居心地が悪くなった」
「何か俺に対してやけに辛辣じゃないか?! 唐草君?!」
財全会長がにこやかな笑みで寄ってきたので、俺もにこやかに勉強道具を持って立ち上がる。
肩を掴んで引き留めてくる財全会長を、じとりと睨みつける。
「辛辣も何も……。完全に許したわけじゃないっすから」
「その件に関しては、誤解を解く形で償っただろう?!」
「ヘイ同士。司も頑張ったんだ。仲間外れはよしてあげなよ」
「外してないよ。そもそも仲間じゃないでしょ」
「同士。こういう時君は本当に容赦がないね」
「はい勇星。その辺にしておきなよ。財全会長、良かったらどうぞ」
結心が俺の隣の席を示すと、「失礼する」と俺の隣に座ってきた。
隣に座るな、なんて言おうと思ったけど、俺の隣じゃないと、必然的に結心か城ケ崎さんの隣になるから、俺が我慢するべきか。二人の恩情に感謝してくださいよ。会長。
俺たちは勉強をしながら、教科について教え合ったり、他愛もない会話をしたりして過ごした。なんだかんだで財全会長も会話に馴染んでいて、不本意だったけど、二人の様子を見て、今回の件はこれ以上引きずらないことにした。
結心や城ケ崎さんに、みみっちい男だと思われる方が嫌だしな。
「そういえば、この前虎々奈とゲーセンに行ったんだ」
財全会長の語り掛けに、俺も「へえ」と感心した声が出た。
「楽しかったですか?」
「ああ。ああいう場所は行ったことが無かったから新鮮だった」
「スト6しました?」
「……ああ」
あ、苦い表情。これは城ケ崎さん、完膚なきまでにボコボコにしたな。
意地の悪い笑みで財全会長を見つめるあたり、片手で相手をしたに違いない。
そんな風に会話をしながら、なんとなしに当たりを見渡すと、城ケ崎さんのま後ろにある、本棚の隙間が一瞬光った。
「……」
何となく違和感を覚えた俺が、光のあたりを探ると、見つかったのは、どこかで見覚えのあるマイクロロボットだ。
逃げようともがくロボットを、壊さないように指で摘まんでいると、俺のスマホから着信音が鳴る。
『――唐草君。ロボットを離してください』
「離してください、じゃねえよ。何勝手に人の様子を盗撮してんだお前」
やっぱり狭間のロボットか。
低い声で牽制する俺に、『仕方ないじゃないですか』と向こうは開き直った態度だ。
『恋人交換の件が解決したせいで、僕は今一方的に弱みを握られている状況です。交渉の材料を入手しなければならないのですよ』
「何開き直ってんだお前。次こういうふざけた真似したら、お前の犯罪を皆の前で公にして――」
『そうなった場合は、この前のミスコンで、城ケ崎さん優勝の為に、勇星君の指示で色々仕込んだことを暴露しなればなりませんね……。僕も実行犯なので、この手はあまり使いたくないのですが――』
「何言ってんだお前?! 仕込んだのは予選の組み合わせぐらいで、真賀花先輩みたいな小細工は何もしなかっただろ?!」
『どう告発するかは僕の自由ですから。同じ爆弾を抱えた者同士、卒業まで仲良くしましょうね』
俺の慌てふためいた小声に、何か上機嫌になったらしい狭間は、一方的に電話を切った。
仕方なくロボットをリリースすると、図書室の床を、カサコソと小さい足を速く動かしながら遠くへ逃げていき、点になって見えなくなった。
「どうかしたの? 勇星?」
「あ、いや……何も……」
結心が不思議そうな表情になるが、狭間のことを話すかは悩ましいところだ。関わり合いにならないほうが平和かもしれないからな。
何となく事情を察したのか、城ケ崎さんは呆れたように笑っている。
「そういえば、期末テストが終わったら夏休みだね。虎々奈ちゃんは何か予定ある?」
「うーん、今のところ特にないよ」
「じゃあさ、ここにいる皆でどこか旅行に行こうよ!」
「それは楽しそうな提案だね。俺も日程を調整するから、是非とも参加させてくれ」
結心が話題を切り替えると、自然と会話は夏休みの話題に移った。
スマホに残る、狭間からの着信履歴に、恋人交換なんて妙な事件から始まった、三人との縁。
「「ねえ、勇星はどこに行きたい?」」
いつもの日常に、良くも悪くも、少しの+は加わっていく。
この縁がどう変わっていっても、俺は俺らしく、皆とありのままの青春を満喫しよう。
スマホをなぞって、旅行先の候補を探す。
俺たちは同じ画面を見つめながら、少し先の夏空に思いをはせるのだった。
~Fin~




