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俺の彼女をお前にやるから、お前の彼女を俺にくれ  作者: 糸音


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恋人交換の決着は

「お婆さん?! どうしてここに……?」


 流石に結心も顔が引きつるか。かくいう俺も、振り返った体勢のまま固まってしまっている。


「あのようなことがあれば、気にもなるでしょう。話を聞けるタイミングをうかがっていただけですよ。それよりも、恋人交換の件についてです」

「いや、婆や。今のは――」

「最初からおかしいと思っていたのです。急に新しい恋人ができたから紹介したい、だなんて。知人を介して話を聞けば、直前まで結心さんは唐草さんとお付き合いをされていたという話ではありませんか。疑うのは当然のことでしょう。それに――」


 お婆さまが、呆れたように小さく息を吐いてから続ける。


「結心さんが司坊ちゃまに惚れる理由が無いでしょう。政治的な理由で交際していないならば、尚更変ではありませんか」

「な……」


 おー、お婆さま。バッサリ切ったな。

 あまりに切れ味鋭い指摘に、流石の財全会長も言葉を失った。……ちょっと気分がいい。


「私の容態を気遣って、見栄を張りたかったのでしょうが、こんなことをされてまで労わられるほど弱ってはいません。気遣いは嬉しいですが、方法を間違えないように。こんな真似をされては、安心して余生を過ごせませんよ。坊ちゃま」

「……すいません」

「謝る相手が違います」

「……皆。今回の件は、本当に済まなかった」

「対等以上で、謝罪ができる立場ですか?」

「……この度の件は、本当に申し訳ございませんでした」


 次々と財全会長を矯正していくお婆さま。


 ……このお婆さま。強すぎないか? 

 初めて会ったときも思ったけど、余命僅かってのに、言葉にしきれない覇気がある。立ち振る舞いは静かで上品なのに、人間として敵う気がしない。


 矯正されるたびに、なんだか縮んでいく財全会長を見て、結心や城ケ崎さんも逆に申し訳なさそうになっていく。


 委縮した様子の結心たちに、「座ったままですいません」と、お婆さまが車いすのまま財全会長の前に出て、深々と頭を下げた。


「今回、我が家の馬鹿孫が大変なご迷惑をおかけしました。皆さまが普段通りに学校生活を送れるよう、この度生じた誤解は、財全家が責任をもって、解消いたします」

「いえいえそんな! ……私もお婆さんを騙していた側ですし」

「……私も、今回の件、総合的に楽しんでいたし」


 頭を下げるお婆さまに、結心と城ケ崎さんが慌てて駆け寄った。

 財全会長はともかく、俺もお婆さまに何か謝られる筋合いはない。

 二人に続いて、俺もお婆さまのもとに駆け寄る。


「俺も、何も気にしてないです。……あ、でも財全会長は家でたっぷり叱ってやってください」

「お、おい! 唐草君?!」


 落としどころは必要だろう。会長もそれぐらいは体を張ってもらわないとな。

 身を売られて慌てる会長にほくそ笑むと、その様子を見ていたお婆さまが、朗らかな笑みを見せた。




「ありがとう。……心配の尽きない馬鹿孫だけど、あなたたちみたいな人が、学校にいると分かったのは本当に良かった。縁が切れても繋がっても、偶に坊ちゃまのことを見てくれると嬉しいわ」




 お婆さまの笑みを見て、俺も結心と城ケ崎さんと、顔を見合わせて笑った。

 突拍子もない申し出から始まった事件は、これでおしまいかな。


「結心さん。入院中、何度も話をしに来てくれてありがとう。あなたから学校の話を聞くの、私毎回楽しみにしていたわ」

「こちらこそ。私もお婆さんとお知り合いになれてよかったです」


 結心とお婆さまが両手で握手を交わす。

 固く握手を交わした後、お婆さまは城ケ崎さんに向かい直った。


「虎々奈ちゃん。あなた、本当に綺麗になったわ」


 突然の賛辞に、城ケ崎さんが少し頬を染める。


「見た目とかじゃなくてね、雰囲気が。最初に会ったときは少し心配だったけど、それはもう杞憂になったのね。素敵な出会いがあったみたいでよかったわ」

「……うん。私、もう大丈夫だよ」

「この殿方が、あなたを素敵にしてくれたのね?」


 城ケ崎さんが照れたように小さく頷いた。

 小さく笑った後、今度は俺の方へ向き直る。


「唐草君。今回、こうやって会えてよかった。機会があったらあなたのお話も、沢山聞きたいわ」

「こちらこそ。今後ともよろしくお願いいたします」

「……一つだけ、聞かせてもらっていい? あなたにとって虎々奈ちゃんはどういう存在かしら?」


 突然の問いに、俺は目を丸くしながら城ケ崎さんの方を伺うと、城ケ崎さんは顔をさらに赤くしながら、俺の方をまじまじと見つめてくる。


 どういう存在、か。


 そんなの最初からわかりきっている。


 熱のこもった城ケ崎さんの体を、肩に抱き寄せて、俺はお婆さまに向かってピースを突きつけた。




親友ブラザー、です!」




 城ケ崎さんは俺の顔を視線で見上げた後、同じく「ぶい」とピースを突き出した。


 お婆さまの安心した背中を見送って、俺たちは残りの学院祭の時間を過ごした。




 ♢ ♢ ♢




 その後は理数クラスも文系クラスも、出し物に全力を出し切って、大盛況のまま最終日を迎える。


 来賓の方々の投票と、生徒たちの票を集計し、今年度の学院祭で、最優秀クラスとなったのは――



「得票数同数で、同率1位! 2年A・B組クラス合同『不亜高出張ラーメン街~ご当地ラーメン食べ比べ祭り~』。そして2年C・D組クラス合同『恐怖と悲鳴の館、スリラーハウス』です‼」




 最終日の営業を終えて、校内放送を通して伝わる結果発表。

 俺たちは呆けたように静まり返った後、爆発的な歓声を辺りに響かせた。


 お化け屋敷の方からも、屋敷を突き破らんばかりの歓声が聞こえてくる。前代未聞の同率首位。しかも理数と文系クラスで同時にだ。


 つまり、俺たちの学年が学院祭の出し物の票を、総なめにした形になる。


 俺たちの代が、不亜高の学院祭の大きな転換点となり、以降の学院祭の出し物が、総じてクオリティが高くなって、皆が一丸となって取り組むものが増えたのは後の話だ。


 昨日の敵は今日の友。

 学院祭最終日、俺たちの学年は互いの健闘をたたえ合ってから、学院祭の締めとなる、社交パーティーに、一緒に臨むのだった。


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