ミスコンの決着。そして――
俺は観客席にいたクラスメイト達に合流して、投票までの時間を過ごした。
席に戻ると、一連の流れを見守っていたクラスメイトたちから、畳みかけるような質問攻めをくらった。
「勇星?! お前なんて無茶しやがるんだ?!」
「ほんとです! 見ているこっちがハラハラしましたわ⁉」
怒るように俺を案じてくれる皆に、「ごめん」と笑って謝った。
「……で、さっきの話。どこまで本当なんだよ?」
「全部が本当ではないのでしょう? タイミングからするに、結心さんを庇うための嘘でしょうか?」
うーん。こういう勘は皆鋭いんだよなあ。
この察しの良さがあって、なぜ一般的な常識を身に着けていないのか、たまに本当に不思議になる。
「そんなとこ。言ったじゃん、誰も後ろめたいことなんかしてないって」
俺の言葉に、皆安堵と呆れが混ざった様子で顔を見合わせた。
この様子だと、城ケ崎さんがまたクラスの皆と過ごすのは問題なさそうだな。
そう思っていたところ、舞台の照明が落ち、暗幕の前に司会の生徒が現れて、皆に向かって一礼した。
あれ。人が変わっている。ていうことは、やっぱりさっきまでの司会は運営からしてもイレギュラーだったってことか。
「長らくお待たせしました! それでは、いよいよ今年度のミスコン優勝者――『ミス不亜高』を皆様の投票によって、決めていきたいと思います! 会場の皆様は、お手元にコインの準備を! モニター越しで見守ってくださった皆様は、画面右上のQRコードのフォームから、ミス不亜高に相応しいと思う人物に投票をお願いします!」
司会の合図と同時に、客席の端の方から運営スタッフが投票箱を持ってきて、観客席の皆のコインを集めて回る。
俺も城ケ崎さんの投票箱にコインを入れた。箱の底で、コイン同士がぶつかり合う音がした。俺に続くように、皆もクラスメイトも城ケ崎さんの方へコインを入れる。
文系クラスの皆は結心に入れるみたいだ。俺もコインが2枚あったら、そっちにもいれたのになあ。
集めたコインは、すかさず集計にかけられる。
不正が無いよう、観客たちの目の前で、枚数をカウントする機械の中へ投入されて、舞台上部のモニターへ、投票数が表示される。
「――……っ!」
会場の得票数は城ケ崎さん、そして結心が6:4の割合だ。真賀花先輩の票はほとんど入っていない。
ミスコンが始まる前に、『酷い負け方をした場合、恥をかく』なんて言ってたけど、多分この状況のことだな。
身から出た錆だ。この先の学校生活で、後ろ指さされながら過ごすことになるだろうけど、同情の余地はない。
コインがすべて投入され、会場外の票も集計が終わった。
「それでは集計が終わりました! 総票数3105! そして得票数1732票で、今年のミスコンに選ばれたのは――」
途中までの数字の動きで、誰が選ばれたのかは分かっている。
文系クラスの皆も、悔しそうだけど、誇らしそうに舞台を見つめ、理数クラスは顔を見合わせて、一緒に声を出す準備をする。
暗転した会場。
そして、
「株式会社NACのご令嬢――城ケ崎 虎々奈さんです! 皆さま、盛大な拍手でお迎えください!」
スポットライトに照らされた、今年のミス不亜高になるご令嬢に、盛大な拍手が送られた。
「「「「「城ケ崎さん‼ ミス不亜高、本当におめでとうーーー‼」」」」」
皆の声援に、嬉しそうに目尻の涙を指で拭ってから、城ケ崎さんが手を振って返した。
隣で結心も、嬉しそうに拍手をして城ケ崎さんを称えている。
温かい声援と、拍手に包まれて、今年のミスコンは幕を閉じた。
「よーし皆! ミス不亜高が湯切りしてくれるラーメン屋ってことで広告とばすぞ! 殺人的に忙しくなるから気合入れていこーぜ!」
「そりゃないぞ勇星?! もうちょっと余韻に浸らせろ?!」
バカいえ。目指すは完全勝利。ミスコンも出し物の優勝も、どちらも譲る気はない。
出し物の期間は残り3日。余韻に浸らせる間もなく、皆に喝を入れ直す俺に、理数クラスは総出で突っ込み、文系クラスは呆れ半分で楽しそうに笑っていた。
♢ ♢ ♢
そして、その日の営業も、大盛況のうちに終了した。
城ケ崎さんのミスコンでの奮闘を見越して、ミスコン後もシフトを組んでいた甲斐があった。今年の優勝者を一目見ようとする生徒や来賓の方で溢れかえり、最後まで殺人的な忙しさだった。
今日ばかりは、流石の皆もかなり疲弊している。
「今日はしっかり休もうなー。あと2日、皆でがんばるぞー」
「「「「「おー……」」」」」
大分逞しくなったとはいえ、3日もぶっ続けで働けば疲労は溜まるか。
疲れ果てた皆を見送った後、俺は屋台の戸締りをしてから、店の机に突っ伏している城ケ崎さんにドリンクを差し出した。
「今日はお疲れ。はい。ご褒美ドリンク」
「ありがとう。……お。好きなエナドリだ。分かっているね、同士」
ミスコンに接客、厨房業務で今日一働いた城ケ崎さんは、慣れた手つきでプルタブを引いて、缶を上に傾けながら、豪快に中身を飲み干した。
ビールでも飲みほしたかのように、「ぶはっ」と声を漏らした城ケ崎さんに、俺は思わず吹き出してしまう。
「ミスコン優勝者の飲み様か? それ」
「良いでしょ別に。今は私たちしかいないもん」
二人で笑いあっていると、俺たちの下へ歩いてくる人影が二つ。
「結心!」
「お疲れ勇星。そしておめでとう、城ケ崎さん」
「ハロー好敵手。今日は一緒に本戦に出られて、本当に良かった。こちらこそありがとう」
一人は、今日の本戦を共に戦い抜いた、最強のライバルの姿。
そしてもう一人は、
「……財全会長。何しにきたんすか」
「な、なんでそんなにうっとおしそうなんだ?! もう少し歓迎してくれてもいいだろ?!」
いや、城ケ崎さんと出会えてよかったとは言ったけど、あんたの行いを許したとは言ってない。
ていうか何しに来たんだよ。結心だけだったら、今日のことについて和やかに振り返りができたってのに。おじゃま虫め。要件があるならさっさとすませろ。
「……二人に、お礼と、謝罪をだ」
城ケ崎さんが驚いたように目を丸める横で、俺がブスッと頬杖を突く。
「何に対して?」
「今回、結心の為に頑張ってくれたことと……、今回の恋人交換の件での、謝罪だ」
なんでえ、今更かい。
白ける俺の横で、「まあまあ」と城ケ崎さんが宥めてくる。
……まあ、わざわざ謝りに来る辺り、反省しているということなのだろう。
財全会長が城ケ崎さんに向かい直り、深々と頭を下げる。
「今回、俺の勝手な申し出で、縁談を破棄したこと、本当に申し訳なかった。それだけじゃない。……君と付き合っていた時も、俺は君のことをしっかりと見ていなかったと思う。……結果、酷いことを君にした。その件に関して、この場で謝罪を――」
「――やっぱり、恋人交換の提案は、あなたから持ちかけだったのですね。司坊ちゃま」
突然謝罪を遮った、どこかで聞き覚えのある声に、この場にいた全員が目を剥いて、声の方へと振り返った。
その声の主が誰かを確認した俺たちは、一様に息をのんでしまった。
「……ば、婆や?!」
「……おばあちゃん?! どうしてここに?!」
この件について、もっとも知られてはいけない人物。
財全会長のお婆さまが、おつきの人に車いすを押されながら、ゆっくりと俺たちの輪の中に入って来るのだった。




