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俺の彼女をお前にやるから、お前の彼女を俺にくれ  作者: 糸音


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舞台裏での戦い(狭間視点)

 ミスコン本戦開始前、珍しく僕は、妙な胸騒ぎに襲われていた。

 理由は明白だ。先日のクラスでの出し物の妨害騒ぎに、ミスコン予選での仕掛け。


 誰かがミスコンで、自分が優位になるように仕込みを行っているのは明らかだった。


 まあ、誰かなんて言っても、大体の目星はついているのだけれども。


 本戦が始まって、僕は舞台の袖で音響をチェックしながら、平然とした顔で質問に答えている真賀花令嬢を見つめる。


「あら、素晴らしいお茶ですわね。このベルガモットの香りは『マルア・フルール』のアールグレイインペリアルでしょうか」


 見事に紅茶のブレンドを当てて、会場から評価を得る真賀花令嬢。

 初見で当てたのなら見事だが、あの人、お茶会の様子を見るに、紅茶のブレンドに詳しい様子はなかったし、紅茶について知見が深いという話も聞いたことが無い。


 茶葉を用意したのは司会の1年だったか。とはいえ、この場で指摘するわけにもいかないし、あくまで状況証拠。口にするメリットは何もない。


 少し懸念に思いながらも、会場の様子を見守っていたところ、案の定城ケ崎さんや夢原さんに不利な質問が続く。やっぱりつながっているか、あいつら。


 勝つ為に小細工をするのは別にいいが、やるならもっと上手くやって欲しいものだ。仕込みがあったなんて思われたときには、その年の学院祭運営に悪評が付くんだから。


 パッと見で上手く司会を回せているのは、城ケ崎さんと夢原さんが、ハンデを感じさせないように上手く話を広げているからだ。んな小細工しなきゃ勝てないから、昨年準優勝なんでしょ、センパイ。


 心の中で呆れながらも、この様子だとイーブンなまま投票ラウンドに行きそうだ。


 一瞬安堵して、安堵した自分に気が付いて悪寒が走った。

 いやいやいや。僕は僕の仕事をすればいいだけで、別に誰が勝とうと関係ないってのに。


 そんな風に自分を気持ち悪く思っていた時、爆弾は落とされた。



「結心さんは過去に、『一般特待生』である唐草勇星君と、特別なお付き合いをされていたそうですが、今、生徒会長である財全司さんとお付き合いをされているのは、どういった経緯があってのことでしょうか?」




 は?


 何で今、何でその質問を。


 突然の出来事にフリーズするも、困惑する皆の後ろで、してやったと言わんばかりに邪悪な笑みを浮かべた真賀花令嬢を見て、俺は中継カメラを操作している1年の元へ歩み寄り、そっと肩に手を置いた。


「狭間先輩……? なんですか?」

「だめでしょ。もっと皆を均等に映さなきゃ。変わって」


 僕がにっこりと笑みを浮かべて、席をどくように促すと、その1年生は困惑しながらも、何とか食い下がってくる。


「い、いや。今は夢原先輩を映さないと。質問を受けているのは夢原さんなんですし。それに、先輩の持ち場は音響じゃないですか」

「うん。でも、今ここには多くのゲストの方もいるから。来賓の方に、偏った演出なんか見せられないでしょ? とある出場者と、裏で繋がっている生徒の演出なんか見れたもんじゃない」


 僕が告げると、その生徒の表情が凍るが、「……なんのことだか」と白を切るつもりのようだ。


 ああそう。素直に譲ってくれればよかったのに。

 しらばっくれる1年に、僕はそっとスマホの画面を差し出し、微笑む。


「お化け屋敷の妨害と、ラーメン街の備品泥棒。犯人はお前だな?」


 僕のスマホには、理数クラスの教室から、いくつかの備品を持ち出す生徒の姿が映っていて、自分を遠目から映した映像に、1年の顔が引きつった。


「な、何で……?!」

「ごめんねえ。念のため監視カメラを設置していたら、君の姿が映っていたもんでさあ。……もちろん、お化け屋敷の方も、しっかり証拠を押さえているからね。ウイルス仕込んだの君だろ? 文系クラスが貸出申請したパソコンに、怪しいUSBを差し込んでるとこ、ばっちり抑えてあるからね?」


 念のため、なんて言ったけど、常日頃から監視カメラを設置していた甲斐があった。

 騒ぎの後、念のため準備期間のデータから、騒動があった日までデータを漁っていたら、ちゃんとヒットしたわけだ。


「こ、これ盗撮でしょ?! こんなことしてタダで済むとでも――」

「備品管理の為に、カメラを設置していただけのことだし、パソコン室の映像は、僕が撮影したものじゃないですよ」


 当然僕が仕込んでいたカメラの映像だけど、向こうはそれを証明する手立てがない。

 半面、僕が向こうの犯罪を立証するための証拠はいくらでも用意がある。


「あの先輩の指示ということは分かっている。密談で音楽室を使ったね? 情報元は言えないけど、司会の生徒と一緒に、ボタンの遅延についての仕込みや、他出場者のヒールを壊すことを指示されていたのも知っている」

「……!」

「君の家もIT関係の企業だからね。真賀花先輩に恩を売るってのはいい考えだけど、ちゃんとリスクも計算すべきだ。恩を売る以上に、君は今回、多くの家の方々を敵に回している。そういう動き方をするなら、ちゃんと保険を作っておかないと。例えば、相手の弱みをしっかり握っておくとかさ」


 事前に指摘すると、個人的に設置していたカメラのことがばれるから泳がせていただけで。気が付いていないわけないでしょ。あんな露骨な細工。


 僕がもう一度、優しく肩を叩いた。

 すると1年は体を震わせながら、ゆっくりと席を明け渡す。


「――君とはいい友達になれそうだね」


 僕がわざとらしく微笑むと、公になったときどうなるのか想像したのか、ボロボロと涙を流し始めた。

 ああ、これこれ。久しく忘れてた弱みを握るこの感覚。たまらないね。


 僕が卒業するまで約1年半。司会の生徒も含めて、都合の良い手足が2本生えてきた。


 僕はすぐさまカメラの前に座り、凍り付く会場の中、一人だけ気分良さそうに微笑んでいる真賀花令嬢と、会場の空気を察知せずに、意気揚々に質問を投げる司会の生徒を多めに映すよう、カメラを操作する。


 ここの生徒は馬鹿ではあるが、間抜けじゃない。

 この状況を誰が仕組んだのかそれとなく示してやれば、大体の状況は察してくれるだろう。


 ただ一つ、問題があるとすれば、




「……私がお願いしたの。『私の彼氏をあなたにあげるから、あなたの彼氏を私に頂戴』って」




 城ケ崎さんが、自分を盾に、夢原さんを庇う動きにシフトしたことだ。


 ……確かに、夢原さんから何も弁明できない以上、場を動かせるとしたら城ケ崎さんだけど、ここまで自分を犠牲にした行動を取るとは思わなかった。


 夢原さんに向く悪評を、今でっち上げた嘘の悪評で上書きする気だ。


 真賀花令嬢の票は落ちる。だけど、この方法だと城ケ崎さんの票も落ちる。


 肩を持つわけじゃないが、自分が関わったミスコン本戦が、こういう形で決着がつくのは気が引ける。


 何か、起死回生の策は無いか。


 カメラを操作しながら考えていた時、ドアが勢いよく開かれる音がした。




「どいて‼ 関係者だから‼」




 決死の表情で舞台に駆け込む唐草君。その後を追ってやってきた財全会長。


 僕には目もくれず、唐草君は舞台の上へ飛び出して、


「迷惑なんかじゃないから‼」


 マイクも無いのに、会場に響き渡るような大声で続ける。


「何一つ迷惑なんかじゃない‼ 城ケ崎さんと一緒に過ごしたこと‼ 何一つ後悔なんてしたことはない‼」




 ……ほんっと、なんでこいつは、そんな歯が浮くような台詞を恥ずかしげもなく、皆の前で言えるんだ。皆の視線が集まる場所へ、自分の身を投げ出すような真似ができるんだろうか。


 呆れも一定のレベルを超えると、感心になるんだな、と不本意ながら思い知らされる。


 一通りくっさい台詞を吐き切った唐草君に、財前会長が拍手を送ると、どんどん拍手の波が広がっていって、会場全体を包み込んだ。


 はあ、なんの合理性も無い。


 裏表のない気持ちと行動で解決してしまうところが、人誑したる所以だろうか。


 この流れが、決選投票の場でどう左右するかは分からない。

 だけど、自分が観客席にいたとしたら、ほかに思い入れのある生徒もいなければ、票は城ケ崎さんに入れるんじゃないだろうか。




 何に、と言わないけど、何となく負けた気分になって、僕は不機嫌なまま、他の先輩に司会の生徒を変えるように促した。


 舞台のそでで震える二人の実行犯に、笑顔で睨みを効かせてから、僕はこの、事の顛末を見届けるべく、舞台の上をカメラ越しに見守った。

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