↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の彼女をお前にやるから、お前の彼女を俺にくれ  作者: 糸音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
49/55

一人にさせてくれない君へ。(城ケ崎視点)

 

「……私がお願いしたの。『私の彼氏をあなたにあげるから、あなたの彼氏を私に頂戴』って」


 突然繰り出された露悪な質問。

 誰の思惑で繰り出されたのかは分かっている。目の前でほくそ笑むこの性悪令嬢だ。


 だけど、それがわかったところで、結心さんから何も言うことはできない。

 答えても、沈黙しても、結心さんを救う答えはここにない。



 そう思ったとき、反射的に体が動いた。


 何かしなきゃって、思ったとき、勇星君から聞いた、恋人交換のセリフが頭をよぎって。


「……」


 だけどどうしよう。

 私、何も考えてない。


 どうしようどうしよう。このままじゃ結心さんを守れない。

 それどころか、全部失ってしまう。


 勇星君と出会ってから、生まれたもの。皆との関係。

 全部、全部失っちゃう。


 引いていく体温と反対に、内から胸を刺すように跳ねる心臓。

 どうすればいいかわからず、ふと視線を上げたとき、




「――。」




 心配そうな様子で私を見つめる、君と目が合った。


 ……ありがとう。


 きっと大丈夫だね。


 この場がどんなふうに収まったとしても、きっと何もなくならないんだね。


 勇星君の心配そうな顔を見て、安心した。

 よく見れば、クラスの皆も、疑うというよりは、私を案じるような、苦しそうな眼差しで見つめてくれている。


 皆ありがとう。


 不思議と言葉がすらすらと出てきた。

 本能的にやるべきことが分かったんだと思う。今は私の為に尽くしてくれた大切な人の、大切な人。その人を守るために身を差し出さなきゃいけないんだって。


 自分の抱えていた思いで、嘘が嘘に見えないようにコーティングして。


「――皆も知っての通り、私は変わった。彼の価値観が、取り繕わないのに優しい言葉が、私を変えてくれた。……だけど、同時に気が付いた。私を縛っていたのは私なんだって。皆や、私に、勝手に線を引いていたのは、他の誰でもない私だった」


 だけど、言葉にしていくうちに、私は自分自身が抱えていた問題に気が付いた。

 もっと早くに気が付いていたら、私は私らしく過ごせていたのかな。


 反省しながらも、不思議と後悔はしなかった。

 今気が付けて良かった。


 だってもっと早くに解決していたら、勇星君と会うことなんてなかっただろうから。


「きっと私が、一番私を見限っていたんだと思う。令嬢だから普通になれない私と、皆と同じような令嬢にもなれない私に。人とうまく付き合えないのは、きっと私が、私や皆を差別していたから。今回の件で、私はそのことに気がつけた。……だけど、その分、唐草君や結心さんに、大きな迷惑をかけてしまった」


 だから、私は私なりの感謝の形で、結心さんを助けようと思う。


 ありがとう、勇星君。

 あなたに出会えて本当に良かった。


 だけど、決意したはずなのに、最後の最後で声が崩れた。


 怖くなった。何もなくならないはずなのに、この嘘がこのまま成立してしまえば、今までみたいには過ごせなくなるかもしれない。

 皆の前では、勇星君と過ごすことができなくなるかもしれないって。


「……全部、悪いのは、私だから。皆に迷惑をかけたのは、私、だから……、だから――」


 でも、言わなきゃ。

 私なりの恩返しとして。私は私を犠牲に、結心さんを助ける。


 そう思っていたはずなのに――



「迷惑なんかじゃないから‼」



 驚いて、声の方に振り返って、


 自然と涙が零れていた。



「何一つ迷惑なんかじゃない‼ 城ケ崎さんと一緒に過ごしたこと‼ 何一つ後悔なんてしたことはない‼」



 君は本当に人誑しだね。同士《ブラザー》。


 いつだって一人になんてさせてくれない。



「一緒に遊んで楽しかった‼ 一緒に学院祭ができて嬉しかった‼ 迷惑や後悔なんて微塵もない‼ びっくりするような出会い方だった! だけど――」


 いつだって私に元気をくれる。自分を愛する勇気をくれる。


「俺は、城ケ崎さんと出会えて幸せだった‼ ここにいる皆にも‼ 他の誰にもその事実だけは否定なんかさせないから‼ 迷惑なんかじゃない‼ 出会えてよかった‼ 幸せだった‼ それが俺の中での全てだから‼」


 嬉しくて涙が出てくる人生なんて、一体誰が想像できたんだろうか。

 一人にさせてくれない君へ。言葉にできない思いが溢れて、私は舞台の上でボロボロと泣き始めた。


「ゆう、せい……君……!」


 最悪これで終わり、なんて思っていたのに、伝えたい思いが溢れてくる。

 全部は口にできないけど。せめてこれだけ。


 今はこれだけ、確かめさせて欲しい。


「……また、ゲーセン……! 一緒に行ってくれる……?」

「……! 当たり前でしょ‼」


 勇星君の笑顔に、不安も憂いも何もかも忘れて、私は笑った。


 結果がどう転ぶのかは分からない。

 だけど、きっと大丈夫。

 君が関わってくれたことだから。

 どういう結果になっても、私は幸せになれると思うよ。


 舞台の上で手を振って別れて、私は席について運命の時を待つ。



 観客席に戻って、私を見つめる勇星君に微笑んで、私は投票結果が発表されるのを待った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。