一人にさせてくれない君へ。(城ケ崎視点)
「……私がお願いしたの。『私の彼氏をあなたにあげるから、あなたの彼氏を私に頂戴』って」
突然繰り出された露悪な質問。
誰の思惑で繰り出されたのかは分かっている。目の前でほくそ笑むこの性悪令嬢だ。
だけど、それがわかったところで、結心さんから何も言うことはできない。
答えても、沈黙しても、結心さんを救う答えはここにない。
そう思ったとき、反射的に体が動いた。
何かしなきゃって、思ったとき、勇星君から聞いた、恋人交換のセリフが頭をよぎって。
「……」
だけどどうしよう。
私、何も考えてない。
どうしようどうしよう。このままじゃ結心さんを守れない。
それどころか、全部失ってしまう。
勇星君と出会ってから、生まれたもの。皆との関係。
全部、全部失っちゃう。
引いていく体温と反対に、内から胸を刺すように跳ねる心臓。
どうすればいいかわからず、ふと視線を上げたとき、
「――。」
心配そうな様子で私を見つめる、君と目が合った。
……ありがとう。
きっと大丈夫だね。
この場がどんなふうに収まったとしても、きっと何もなくならないんだね。
勇星君の心配そうな顔を見て、安心した。
よく見れば、クラスの皆も、疑うというよりは、私を案じるような、苦しそうな眼差しで見つめてくれている。
皆ありがとう。
不思議と言葉がすらすらと出てきた。
本能的にやるべきことが分かったんだと思う。今は私の為に尽くしてくれた大切な人の、大切な人。その人を守るために身を差し出さなきゃいけないんだって。
自分の抱えていた思いで、嘘が嘘に見えないようにコーティングして。
「――皆も知っての通り、私は変わった。彼の価値観が、取り繕わないのに優しい言葉が、私を変えてくれた。……だけど、同時に気が付いた。私を縛っていたのは私なんだって。皆や、私に、勝手に線を引いていたのは、他の誰でもない私だった」
だけど、言葉にしていくうちに、私は自分自身が抱えていた問題に気が付いた。
もっと早くに気が付いていたら、私は私らしく過ごせていたのかな。
反省しながらも、不思議と後悔はしなかった。
今気が付けて良かった。
だってもっと早くに解決していたら、勇星君と会うことなんてなかっただろうから。
「きっと私が、一番私を見限っていたんだと思う。令嬢だから普通になれない私と、皆と同じような令嬢にもなれない私に。人とうまく付き合えないのは、きっと私が、私や皆を差別していたから。今回の件で、私はそのことに気がつけた。……だけど、その分、唐草君や結心さんに、大きな迷惑をかけてしまった」
だから、私は私なりの感謝の形で、結心さんを助けようと思う。
ありがとう、勇星君。
あなたに出会えて本当に良かった。
だけど、決意したはずなのに、最後の最後で声が崩れた。
怖くなった。何もなくならないはずなのに、この嘘がこのまま成立してしまえば、今までみたいには過ごせなくなるかもしれない。
皆の前では、勇星君と過ごすことができなくなるかもしれないって。
「……全部、悪いのは、私だから。皆に迷惑をかけたのは、私、だから……、だから――」
でも、言わなきゃ。
私なりの恩返しとして。私は私を犠牲に、結心さんを助ける。
そう思っていたはずなのに――
「迷惑なんかじゃないから‼」
驚いて、声の方に振り返って、
自然と涙が零れていた。
「何一つ迷惑なんかじゃない‼ 城ケ崎さんと一緒に過ごしたこと‼ 何一つ後悔なんてしたことはない‼」
君は本当に人誑しだね。同士。
いつだって一人になんてさせてくれない。
「一緒に遊んで楽しかった‼ 一緒に学院祭ができて嬉しかった‼ 迷惑や後悔なんて微塵もない‼ びっくりするような出会い方だった! だけど――」
いつだって私に元気をくれる。自分を愛する勇気をくれる。
「俺は、城ケ崎さんと出会えて幸せだった‼ ここにいる皆にも‼ 他の誰にもその事実だけは否定なんかさせないから‼ 迷惑なんかじゃない‼ 出会えてよかった‼ 幸せだった‼ それが俺の中での全てだから‼」
嬉しくて涙が出てくる人生なんて、一体誰が想像できたんだろうか。
一人にさせてくれない君へ。言葉にできない思いが溢れて、私は舞台の上でボロボロと泣き始めた。
「ゆう、せい……君……!」
最悪これで終わり、なんて思っていたのに、伝えたい思いが溢れてくる。
全部は口にできないけど。せめてこれだけ。
今はこれだけ、確かめさせて欲しい。
「……また、ゲーセン……! 一緒に行ってくれる……?」
「……! 当たり前でしょ‼」
勇星君の笑顔に、不安も憂いも何もかも忘れて、私は笑った。
結果がどう転ぶのかは分からない。
だけど、きっと大丈夫。
君が関わってくれたことだから。
どういう結果になっても、私は幸せになれると思うよ。
舞台の上で手を振って別れて、私は席について運命の時を待つ。
観客席に戻って、私を見つめる勇星君に微笑んで、私は投票結果が発表されるのを待った。




