↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の彼女をお前にやるから、お前の彼女を俺にくれ  作者: 糸音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
48/55

一人で壊れようとしている君へ。

「城ケ崎、さん……?」


 動きを止めた俺の視線の先で、城ケ崎さんが司会からマイクを奪い、舞台の前に出る。


「全部私が頼んだの。司会長をあなたに貸すから、唐草君を私に貸してって。結心さんは何も悪くない。この場で結心さんを晒し上げるような真似はやめて」


 突然の告白に、会場のどよめきが一気に大きくなる。

 もちろん、この一件は城ケ崎さんが始めた話なんかじゃない。だけど真相を知るのは、俺と結心、城ケ崎さんと財全会長の4人だけ。


 何でそんな嘘を。


 なんて考えることもなく、城ケ崎さんの考えは分かる。


「自分を盾に、結心のことを庇う気かよ……?!」


 結心からは何も言えない状況を、一瞬のうちに察したのだろう。

 だけど、舞台の上で肩を震わせたまま、続く言葉が出てこない。もしかしたら、反射で助けてしまったのかもしれない。


 ガラスに張り付くようにして、VIP席から城ケ崎さんの様子を伺うと、


「――!」


 城ケ崎さんと、ほんの一瞬、目が合った。


 そのとき俺がどんな顔をしていたのかは、分からない。


 だけど、俺の顔を見た城ケ崎さんは、安心したように穏やかな笑みを見せてから、




「――私は、『NACの令嬢』である、自分のことが嫌いだった」




 と落ち着いた口調で、皆の前に立って話し始めた。


「唐草君?! どこに行く?!」


 んなもん決まってんでしょ!


 声に出ていたかは分からない。俺は真っ白になりかけている頭で、バネに弾かれたようにVIPルームを飛び出した。


 向かうのは当然、城ケ崎さんがいる舞台。

 俺はほとんど人のいない廊下を、全速力で駆け抜けて、舞台の袖へと向かう。


 走り抜ける風景は、ほとんどぼやけて認識できてないし、自分が呼吸をしているのかも分からないくらい、俺は必死になって走っていた。

 だというのに、スピーカーから漏れてくる城ケ崎さんの声は、やたら鮮明に聞こえてくる。




「……皆も知っての通り、私は最近まで友達と呼べるような人がいなかった。お金のこととか、作法とか。子どもの頃から他の子と共有できないものが多かった。誰かを嫌いになることはなかったけど、その分自分のことが嫌いになった。私もみんなと一緒が良い。普通の家に生まれていれば、私は皆と同じ時間を過ごして、同じように笑えていたのかな、って」




 城ケ崎さんが語り出すと、会場は恐ろしいほどに静まり返っていた。皆が城ケ崎さんの言葉に集中しているのが怖かった。




「そのことを気に病んだ両親が、同じような家柄の生徒たちが通う、この高校を勧めてくれたけど、正直皆とどう接していいのか分からなかった。普通の子になりたかった私に、今度は『NACの令嬢であることを強要するのか』って、一時期は人間不信になっていたと思う」




 この辺りは、城ケ崎さんの本音なんだろう。本音を使って、嘘に説得力を持たせようとしてるんだ。

 何もかも投げうって、結心を助けようってつもりかよ。




「だから、財全会長との縁談を持ち出されたときも、本意じゃなかったの。両親からすれば、強引にでも誰かと繋がりを持ってほしかったのかもしれない。だけど、親からしても、私は『NACの令嬢』なんだなって、げんなりする気持ちの方が多かった。……そんなときに、家柄も関係なく、大企業の跡継ぎたちの中で皆と交わる、唐草君に出会ったの。そして思った。『彼と一緒にいれば、私も変われるかもしれない』って」




 階段を下りた先で、中の様子を映したモニターを注視する生徒たちにぶつかりかけて、転んでしまった。

 驚きながらも、自分に手を差し出した生徒たちに目もくれず、俺はよろめきながら再び走り出す。




「皆も知っての通り、私は変わった。彼の価値観が、取り繕わないのに優しい言葉が、私を変えてくれた。……だけど、同時に気が付いた。私を縛っていたのは私なんだって。皆や、私に、勝手に線を引いていたのは、他の誰でもない私だった」




 俺は舞台袖へと続くドアへとたどり着くと、学院祭運営に携わる生徒が、俺が中に入るのを止めてきた。


「ここは、関係者以外立ち入り禁止――」

「どいて‼ 関係者だから‼」


 ドアを開け、音響設備やモニターがずらりと並ぶ、舞台袖に辿り着く。


 モニターや機材の前で、狭間が驚いたように俺に振り返った気がしたけど、今はそれどころじゃない。




「きっと私が、一番私を見限っていたんだと思う。令嬢だから普通になれない私と、皆と同じような令嬢にもなれない私に。人とうまく付き合えないのは、きっと私が、私や皆を差別していたから。今回の件で、私はそのことに気がつけた。……だけど、その分、唐草君や結心さんに、大きな迷惑をかけてしまった」


 光に晒される舞台の元へ。

 城ケ崎さんが一人で頑張る舞台の下へ。


 小さく震える、誰かの為に身を張れる、大事な親友の元へ。


 俺は、立ち止まって、大きく息を吸い込んで。




「……全部、悪いのは、私だから。皆に迷惑をかけたのは、私、だから……、だから――」

「迷惑なんかじゃないから‼」




 城ケ崎さんの言葉を遮るように、俺は叫んだ。


 城ケ崎さんや、結心、真賀花先輩や会場中の視線が、俺に一気に集まったように思う。

 皆からの視線を受けても、不思議と何も感じなかった。

 俺が今、見えているのは、城ケ崎さん一人だけだった。




「何一つ迷惑なんかじゃない‼ 城ケ崎さんと一緒に過ごしたこと‼ 何一つ後悔なんてしたことはない‼」




 ホントは財全会長と一緒に、事の顛末を説明すべきなんだろうけど、そんなことよりも、今は城ケ崎さんに伝えなきゃいけない言葉がある。


 一人で壊れようとしている君へ。


 嘘偽りのない俺の言葉を。




「一緒に遊んで楽しかった‼ 一緒に学院祭ができて嬉しかった‼ 迷惑や後悔なんて微塵もない‼ びっくりするような出会い方だった! だけど――」




 俺は荒れた息を何とか整え直して、会場の全員に聞こえるように、魂に刻みつけるように、城ケ崎さんへ叫んだ。



「俺は、城ケ崎さんと出会えて幸せだった‼ ここにいる皆にも‼ 他の誰にもその事実だけは否定なんかさせないから‼ 迷惑なんかじゃない‼ 出会えてよかった‼ 幸せだった‼ それが俺の中での全てだから‼」




 俺が言葉を溢れさせるほど、城ケ崎さんの目から大粒の涙が零れ始めた。

 最後の方には、取り繕えないほど、表情をぼろぼろに崩した城ケ崎さんが、俺の方を真っすぐと見つめていた。


 涙を見て、安心感を覚えたのは、きっとそれが悲しみから溢れたものじゃないからだろう。


「ゆう、せい……君……!」


 涙で声を濁らせながら、肩で息をする俺に、城ケ崎さんが涙を腕で拭ってから、微笑んだ。


「……また、ゲーセン……! 一緒に行ってくれる……?」

「……! 当たり前でしょ‼」


 俺がグッと親指を立てると、城ケ崎さんも嬉しそうに、グッと親指を立てて返した。


 過去一番の城ケ崎さんの笑顔に、俺も自然と口角が上がった。

 あーあ、他の人ももったいない。


 今この瞬間、一番可愛い城ケ崎さんの笑顔を、真正面から見れないなんてね。


 俺たちが二人で笑いあっていると、俺の後方から拍手の音が鳴った。

 財全会長だ。


 俺に追いついてきた財全会長の拍手を、結心が後押しするように拍手を重ねる。


 その拍手の音が、舞台裏に、前で見ていた生徒たちに、そして会場全体に伝播して、不思議とオペラホール全体に、気品のある、それでいて心地の良い拍手が響き渡ったように思う。


 そんな拍手の中、俺と城ケ崎さんは顔を見合わせて笑いあってから、会場の皆に一礼した。


 その後、お茶会の審査は司会の生徒を変えてから、何とか円満にまとめあがった。

 温かい拍手で審査の場が締まると、そのままミス不亜高の投票へと進行するのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。