『私の彼氏をあなたにあげるから、あなたの彼氏を私に頂戴』
会場が凍ったのが分かった。
時を止めたかのような静寂の後、少しずつ会場がざわつきだす。
なんでそれを。なんで今。
理解を拒んだように固まる俺の横で、財全会長も不可解そうに眉をしかめたまま、呆然と固まってしまっている。
そしてそれは、舞台の上も同じようで、
「…………」
「…………」
質問を受けた結心も、それを傍らで見守っていた城ケ崎さんも、目を見開いたまま固まってしまっている。
生まれたひびを広げるように、司会が続けた。
「一時期は同じ一般家庭出身の、唐草君とお付き合いされていたのですよね?」
「……は、はい」
「誰から見ても仲睦まじい様子だった二人でしたが、突然縁が切れ、驚いた生徒も少なくなかったように思います。後ろめたい部分が無ければ、この場で理由をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?」
「それは――」
何やってんだあの司会。そんなの今聞くことじゃないだろ。
それに質問の仕方が最悪だった。まるで結心が玉の輿を狙って、一般家庭出身の俺を切ったみたいな聞き方だった。
一時期はそんな悪評すら実際に流れたんだ。弁明したところで、この場にいる全員が信じるかなんてわからない。
それに、
「……」
結心の視線が、一瞬だけモニターに向いた。
会場を見渡して、誰かを探しているように見える。
「……財全会長。今日は、お婆さんは会場に?」
「……いや、わからない」
結心はお婆さんのことを考えて、財全会長の恋人交換に乗じているんだ。本当のことをこの場で話して、今回の件がお婆さんにバレることを避けているのかもしれない。
こんな場で、こんな形でカミングアウトされて、体を悪くされたとしたらたまったもんじゃないだろう。
かといって、本当のことを話したとしても、嘘でごまかしたとしても、適当にはぐらかしても、沈黙を貫いても、何もかもが悪手であり、結心の心象や立場を悪くするのは確実だ。
結心の視点で、何をどうしようとも詰んでいる。
いてもたってもいられず、俺は反射的に席を立ち、一度呼吸を整えてから、
「――財全会長。皆の前で全部打ち明けていいですか」
横で固まる財全会長に尋ねた。
困惑したように、俺と舞台を交互に見る財全会長に、俺は声を震わせながら肩を掴んだ。
「結心の方からどう弁明しても、意味ないことは分かるでしょ⁉ 玉の輿狙いだって言われても、それを否定する後ろ盾なんて結心には無いんだから‼ 結心以外の誰かがちゃんと説明しなきゃ、この場で結心を守ることなんてできやしないだろ?!」
俺が殴るように言葉をぶつけると、財全会長が一瞬怯んだように体を震わせた後、眉をしかめ、何かを考え始めた。
「お願いします! 皆の前で説明させてください!」
俺が頭を下げると、財全会長も覚悟を決めたように頷き、決死の表情で立ち上がった。
「――ああ、言え‼ 俺も一緒に説明する‼」
二人で頷きあって、舞台の方へ駆け出そうと、ドアへ駆け出す。
入り口のドアを開けたとき、鈴が鳴るようにか弱い声が、俺たちの足を反射的に止めさせた。
「――全部、私のせい」
その声に思わず足を止めた俺たちは、真っ白な頭のまま、ゆっくりと舞台の方を振り返る。
舞台の上では、その場で立ち上がり、結心を守るように皆の矢面に立つ、城ケ崎さんの姿があった。
「……私がお願いしたの。『私の彼氏をあなたにあげるから、あなたの彼氏を私に頂戴』って」




