爆弾投下
幕が上がり、煌びやかな照明が映し出した舞台の上には、豪勢なセットが用意されていた。
舞台を直角に取り囲む、豪邸の一室の撮影セットに、白いクロスがかけられた円卓。
円卓の前には椅子が三つ用意されていて、そこには既に城ケ崎さんたちが座っている。
「それでは長らくお待たせしました! 昨日、相当な盛り上がりを見せた予選から一夜明け、いよいよ今年のミス不亜高を、この場にいる3名のご令嬢から、皆様と一緒に選んでいきたいと思います! まずは3名のご令嬢たちを、温かな拍手でお迎えください!」
司会の合図で、会場中から拍手が起こり、城ケ崎さんや結心が、笑顔で手を振って返した。
「それでは、投票の前に、各ご令嬢たちの魅力を、改めて掘り下げていきたいと思います! それでは、まずはAグループの予選を勝ち抜いた、城ケ崎虎々奈ご令嬢から――」
「改めまして皆さま。ごきげんよう」
城ケ崎さんが会場の皆に会釈する。よかった。あまり緊張はしていないみたいだ。
「城ケ崎さんは初のミスコン出場ということですが、ずいぶんとリラックスされていますね」
「こう見えても、初めての場なので緊張しています。そう見えているとすれば嬉しいです」
「かつてはあまり他の方と交友関係を持つことが無かったということですが」
「はい。なので、この場に立たせて頂けることが、何よりもありがたいことだと感じております。私を後押ししてくださった友人たちの為にも、今日は素敵な姿を見せられればと思います」
いくつかの質疑応答をして、次は結心にターンが回る。
「それではBグループを勝ち抜いた、夢原結心ご令嬢にもお話を伺ってまいりましょう! 夢原さんも、今回が初の出場ということだそうですが、意気込みの方は?」
「はい。私は他の生徒の方々と違って、『一般特待生』の枠で入学したので、特別な家の出身ではないのですが、そんな私がこの場に立てたのは、ひとえにこの学校で出会えた素晴らしい友人たちのおかげだと思っています。なので、私も私を応援してくださった方たちの期待に応えたいと思っています」
「素晴らしい意気込みですね! ありがとうございます! それでは次に、Cグループ予選を勝ち抜いた、真賀花聡美ご令嬢にも意気込みを伺いましょう!
司会が真賀花先輩に話を振る。
「真賀花ご令嬢は、昨年の準優勝者ということで、こういった場にも慣れているとは思いますが、本日の意気込みの方はいかがでしょうか?」
「昨年は多くの方の支援を受け、素晴らしい評価を頂くことができました。しかし、あと一歩で優勝に届かなかったことも事実です。なので今年は、私の魅力をより多くの方に知っていただき、私を支えていただいた方々の為にも、一番いい結果を残せればと思います」
「向上心が伺える、素敵な意気込みですね! このような形式で、ご令嬢たちに質問をし、ご令嬢たちについて知って頂ければと思います。会場の皆様も、ご令嬢たちと同じように、お茶を飲みながら、ごゆるりとご鑑賞いただければと思います!」
司会が場を進める裏で、給仕服を着こんだ生徒たちが、出場者の前にお茶と焼き菓子を置いて回る。お茶会のマナーも見られるわけだ。
「あら、素晴らしいお茶ですわね。このベルガモットの香りは『マルア・フルール』のアールグレイインペリアルでしょうか」
「その通りです。真賀花ご令嬢、茶葉についても博識なのですね!」
真賀花先輩の指摘に、司会が返すと、一部の観客が感心したように頷いた。くっ……こういう場所でもポイントを稼ぐわけか。
城ケ崎さんと結心も優雅にお茶を飲むが、一口で銘柄までは分からないか。
城ケ崎さんはともかく、結心はリプトンのティーバックだもんな。普段飲んでるやつは。高級ブランドを当てるような真似は難しいだろう。
続いて焼き菓子のブランドも当てて、若干流れが真賀花先輩に傾いたように思う。まあ、ここからだ。インタビューの方で挽回すればいい。
そして、一人一人順番にインタビューが始まっていく。
質問の内容は、参加者ごとに個別で用意されていて、一つの質問が終わると、次の人に話を振っていく形だ。
城ケ崎さんが、NACのこととか、ミスコンに出る前のこと。結心が中学校での生活とか、出し物について、真賀花先輩が、今回のミスコンの為に準備したことや、家業で学校の生徒とどれだけ繋がりができたかだ。
一見すると、城ケ崎さんも結心も、上手に答えて、印象良く返しているように見える。
だけど、
「財全会長。ちょっといいですか」
「ああ」
俺は何となく感じた違和感を確かめたく、舞台の方を見たまま尋ねる。
「……個人的な感覚かもしれませんけど。質問の内容、何か変じゃないですか?」
「……俺も、そう思っていたところだ」
変、というと語弊があるか? ただ、なんというか、被る。
NACのことはともかく、ミスコンに出る前のことなんて予選のインタビューで散々掘り下げたし、結心の中学時代の話も一緒だ。綺麗に返答できているけど、新しい情報が少ない。
一方で真賀花先輩のインタビューは、予選で知らなかった一面がどんどん出てきて、自然と魅力が深まっている気がしている。
「それではラーメン街での出し物は、皆さんでご協力して?」
「……はい。クラス全員が主役になれることを目標に、役割を割り振りながら準備を行いました」
出し物についての話題も、一見すると城ケ崎さん有利な質問かもしれないけど、予選で触れたところだし、出し物の準備については、ラーメン街で散々宣伝しているから、予選を見てラーメン街に来てくれた人にとって新しい情報が無い。
あの司会、もしかしてグルなのか。
露骨にならない範囲で、真賀花先輩に票が傾きやすくなるよう、質問の内容を選んでいる気がする。
「おかげさまでラーメン街は大盛況です。でも、大盛況を見越して、皆で一か月前から『ラーメン合宿』を行ったんですよ。沢山のゲストの方々を案内できるように」
「ラーメン合宿、ですか? それは一体どんな内容で?」
城ケ崎さんも状況を察したらしい。自分の方から話題を展開し始めた。
「皆で『来々軒』の社長様の下で、地域の子どもたちを招いて実戦形式での、運営の練習をしたんです。作ったものが無駄にならないよう、できたものを子どもたちにふるまいながら、毎回1000食のラーメンを作る。それを計8回」
「計8回、となると8000食?!」
「ええ。最初の方は混乱しながら現場を回していたのですが、次第に慣れていって――」
いいぞ。体験談を交えたエピソードは、ラーメン街に来た人にとっても新しさがある。
会場の反応も、さっきまでの質問よりも格段に良い。自分で押し付けにならない範囲で会話を広げていくのは正解だ。
続いて結心の質問も、流れで出し物の話題が振られた。
被る内容だけど、結心も自分で話していない部分に話題を広げて、上手に会話を引き出した。城ケ崎さんのやり取りでヒントを得たか。
「二人とも、上手に返したね。自分で話題を振れるのは印象が良いよ」
財全会長のお墨付きも得た形だ。これが故意によるものかは疑問だけど、二人の印象が戻ったので、とりあえず一安心。
そして、その後2巡ほど質問を回して、場は和やかに進行していく。
今のところ印象としては、皆にチャンスありといったところか。前半だけだと真賀花先輩がリードしたように見えるけど、所詮印象。後半で挽回できるなら誤差の範囲。
若干、真賀花先輩の様子に、余裕がなくなっているように見える。
次の質問は共通の話題。テーマは『生徒たちとの交友関係について』。
これも被る内容だけど、城ケ崎さんはまだ話題に出ていない生徒たちについて、話を広げた。これも上手に返したと言っていいだろう。
城ケ崎さんも結心も、もう大丈夫そうだ。
そう安堵していたとき、とある質問が結心に投げかけられた。
「結心さんは過去に、『一般特待生』である唐草勇星君と、特別なお付き合いをされていたそうですが、今、生徒会長である財全司さんとお付き合いをされているのは、どういった経緯があってのことでしょうか?」




