広まる噂
翌日、学校で過ごしていると、昼休みに入る頃には財全会長と結心が恋人になった件が、校内中に広がっていた。
「おい唐草! 一体何があったんだよ⁈」
「そうですわ! 昨日まであんなに仲睦まじかったのに……」
話を聞きつけたクラスメイトが、早速俺に詰め寄ってくる。
昨日の出来事だというのに、話が広がる速度が速すぎる。財全会長が意図的に流布したんだろう。それだけ影響力を持っている人ということだろうか。
「まあ、ちょっと色々あって……」
初日から大胆に噂を広めてくるとは思わなかったから、正直想定外だ。クラスメイトたちの問い詰めに返す言葉が何もない。
財全会長がどれほどの影響力を持っているかは定かじゃないけど、社交界と揶揄される程度には、この学校は家柄重視だ。
証拠もなしに真実を話したところで、信じてくれるとは限らない。
なんて考えていると、教室の外がざわざわと騒がしくなった。
声の方へ出てみると、人だかりの中心には、あの財全会長と、結心の姿があった。
「財全会長! 結心さんと交際を始めたというのは本当ですか⁈」
「ああ、本当さ。俺の方から交際を申し込んだ。なあ結心?」
「…………はい」
結心の同意に黄色い歓声が上がるも、その後ろの方では一部の女子たちが面白くなさそうに、嫌な噂話をし始めている。
ああやって、ことを大きくして、俺の付け入る隙を失くす作戦だろう。
信頼は後から築き上げるって、まずは外堀を埋めるってことかよ。
こぶしを握り、肩を震わせる俺の頬に、ぷにっと細い人差し指が体当たりしてきた。
「ハロー同士。向こうも大胆な行動に出たね」
頬を突かれながら振り返ると。そこには制服姿の城ケ崎さんがいた。
制服姿だけど、スカートは膝丈よりも上の位置だし、ジャケットのボタンを留めずに着崩していて、靴下も学校指定のものじゃなくルーズソックスだ。
「彼女、辛そうだね。助けに行かなくていいの?」
「……今俺が突っかかっても逆効果でしょ」
俺を試すような視線で見つめてくる城ケ崎さん。
その質問に、俺は視線で周囲の女子生徒たちをさりげなく示した。
「でもがっかり。会長からの申し出とはいえ、簡単に思い人を捨てるなんて……」
「……唐草君と良くしてもらっておいて、すぐに乗り換えるなんて、薄情な人」
「ええ。あんなによくしていた唐草君がかわいそうですわ……!」
耳を傾ければ聞こえてくるのは、俺への同情に混じって、結心を非難する声だ。
こういう場合、多くの人たちと仲良くしていた俺の人脈が裏目に出る。
声は結心にも届いているようで、感情を殺して耐えるような表情が、俺の胸にくる。
「未練がましく俺が乗り込んだら、結心が振ったっていう印象が強まるだけだ」
「ナイスジャッジ。熱いけどクールなのはいいね」
最後方から結心の様子をうかがっていたところ、ほんの一瞬結心と目が合った。
俺に気付いた結心が、助けを求めるように目尻を歪めたが、すぐに視線を逸らして、財全会長と共に、どこかへ歩いて消えていく。
その後を追うように、人だかりが付いて行き、廊下には俺と城ケ崎さんだけが取り残された。
「念のため聞くけど、この学校で司に歯向かうってのは、一筋縄じゃ行かないよ。それでも反逆する覚悟はある?」
「ああ。結心がああやって晒し物にされているのを、黙ってるわけにはいかないだろ」
「OK解放者。じゃあ、打倒司の為の作戦会議に向かおうか」
意気込む俺に、城ケ崎さんは本校舎屋上への鍵を、人差し指でクルクルと回しながら見せつけてきた。
確かに、財全会長に歯向かおうなんて話を、皆が来るような場所ではできないか。
人だかりと反対方向に流れながら、俺たちは誰もいない屋上で、今後何をするかについて話し合いを始めるのだった。




