城ケ崎さん無双
ゲーム、と聞いて他の参加者が困惑した表情を浮かべる。
確かに、昨年は『IT』とか、『コンピューター』とかのジャンルで出題はあったけど、『ゲーム』で括られたのは初めてだ。
故に、どんな問題が出るかは俺にも分からない。
1~2問目は比較的ポピュラーな問題が出て、3~5問目はかなりマニアックな問題が出る傾向があるぐらいだ。
「第一問――」
理想はここで5点連取。
城ケ崎さんを見守る俺たちに緊張が走る。
「1980年に、任天堂より発売された、初の――」
された、の段階で城ケ崎さんがボタンを押す。
「ゲーム&ウォッチ!」
「正解です! さすがNACのご令嬢!」
皆の期待に応えた形だ。
緊張は歓声となって解き放たれ、俺たちの周囲が一気に盛り上がる。
ボタンを押しても、司会が問題を読むのをすぐに止めるわけじゃないから、続きの文章をある程度聞ける。簡単な問題はこの方法で制するつもりだな。
「では、第二問――」
城ケ崎さんが再び構える。
「2022年、世界最高峰の音楽賞として知られるグラミー賞で、「ベストアレンジメント、インストゥルメンタル、アカペラ」部門を受賞した、ゲームBGMのタイトルは?」
「メタナイトの逆襲!」
「1972年9月に北米で発売された、世界初の家庭用ゲーム機は?」
「マグナボックス・オデッセイ!」
「次の映画のタイトルを答えよ! ポケモン映画10周年を記念した、新シリーズのタイトル。史上空前のド迫力バトル! ディアルガVSパルキアVS――」
「ダークライ(低音イケボ)」
「なぜこれを知っている?!」
繰り出される問題を、続けざまにかっさらっていく城ケ崎さん。突然の逆転劇に、会場が一気に盛り上がった。
問題が大分マニアックな気がするけど、他のご令嬢たちチャンスあるかこれ?
上手く音楽賞やゲームの歴史に絡めてごまかしているけど、城ケ崎さん以外答えられないんじゃないか? ダークライがギリだぞ、俺。
ミスコンの実行委員って言ってたし、この辺の難易度調整は狭間の仕業だろう。
まあそもそも、得意ジャンルで稼ぎ切らないための7問先取だし、これぐらいの仕込みはアリなのか? まあ、他のジャンルも誰が知ってんだよ、ってレベルの問題が結構あったし、答えているのは城ケ崎さんの実力だからいいのか。……よしとしよう。
何がともあれ6問正解。首位に並んだ形になる。
次の問題を取れば、クイズ大会は優勝だ。同率首位の二人に緊張が走った。
イントロが鳴り、静まり返った張り詰めた空気の中、皆が固唾を飲んで問題文に耳を傾ける。
「現時点での公式発表で、世界で最も売れたゲーム機――」
――ピポン。
城ケ崎さんと、7番の令嬢が同時にボタンを押した。
二人ともあと1点で1位抜けだ。
ボタンが反応したのは――
「7番、若菜令嬢! ここで1位で抜けられるか?! どうぞ、お答えください!」
思わず落胆の声が、俺の周囲から沸き起こった。俺から見ても、ボタンを押したのは同時だったはず。運は完全に7番の令嬢に味方している。
7番の令嬢がボタンを押した後で深く考え込む。向こうもここで勝負をかけに来たらしい。城ケ崎さんも悲痛な表情で祈ることしかできない。
頼む。外せ。
俺が汗ばんだ手を握り、心の中で祈りながら、口をつぐんで目を見開く。
静まり返った会場。皆の視線が集まる中、7番の令嬢が深く息を吸ってから答えた。
「……ニンテンドースイッチ!」
一瞬の静寂。
そして、少し間をおいて響き渡る不正解の音。
そのブザーと入れ替わるように、城ケ崎さんが素早くボタンを叩いた。
「プレイステーション2!」
今度こそ響き渡る正解音。
一瞬の静寂の後、緊張を解き放ったような歓声が、会場から湧き上がった。
「すばらしい! エントリー№5,城ケ崎虎々奈令嬢、1位抜けです!」
よ、よかった。
張り詰めるような胸の苦しさから解放された俺は、思わずシートの背もたれに倒れこんだ。
「問題全文は、『現時点での公式発表で、世界で最も売れたゲーム機は何でしょう?』でした! 城ケ崎ご令嬢。この問題のポイントは?」
「……あくまで公式発表の数字ですが、PS2はある時期に公式の販売数を1億6000万台以上に更新しているのです。スイッチもゲーム機史上、歴代最高ペースの売り上げを記録していますが、まだこの数字は超えていません」
あー、そういえばどっかのタイミングでそんな発表があったっけ。俺もスイッチの方が売れてるイメージだった。『公式発表』ってのがひっかけを判断する肝か。
5問目でひっかけがでるのは初めてだけど、今度ばかりは運が城ケ崎さんに傾いたか。他のマニアックな問題に比べてワンチャンありそうな問題だっただけに、流石に俺も息が止まりそうだった。
「1位は決まりましたが、5位決定までやっていきましょう! それでは次の問題は――」
その後はジャンルを変えながらクイズが続き、順当に7番の令嬢が2位抜け。大きなどんでん返しもなく、Aグループのクイズ大会は幕を閉じた。
後は、会場に入る前に渡された、校章の紋様が刻まれたメダルを、巡回するスタッフの投票箱に入れて、合計ポイントを集計する。
投票箱は投入口に、令嬢の番号が振られていて、5番に投入すると、底でメダル同士がぶつかる音と共に、ピロン、と静かな投入音が鳴った。
そして、集計が終わり、Aグループの予選の結果は――
「それではお待たせしました。不亜九条高等学院、ミスコンAグループ予選を突破し、栄えある決勝へと足を進めるのは――」
暗転し、複数のスポットライトが飛び交う会場。胸を揺らすようなドラムロールが俺たちの胸を不安で揺らす。
メダルが底でぶつかったってことは、俺たちの前にも城ケ崎さんに入れてくれた人がいるってことだ。準備も頑張った。後輩とも上手く繋がった。
自分に言い聞かせるが、全部俺を宥めるための材料だ。
俺の緊張にシンクロするように、理数クラスの皆も祈るように手を組んで、結果発表を見守っている。
消えるスポットライト。
暗転した会場の中、再び灯った光が、一人の令嬢を映し出した。
「エントリー№5、城ケ崎虎々奈令嬢です‼ 本選出場、おめでとうございます‼」
光で照らされる城ケ崎さん。
大きな拍手が沸き起こる会場で、深く息を吐きだしてから、会場の皆に頭を下げた。
「とりあえず、第一関門突破、か……」
安堵の息を漏らしながら、拍手をしながら肩の力を抜いた。
経過時間は1時間ちょいか。随分と長くて速い1時間だった気がする。
司会の生徒が出場者皆を称える言葉で場を締めてから、Aグループの予選は終了した。
「良かったな勇星! 城ケ崎さんが1位だ!」
「ああ、本当に良かった。……?」
「勇星?」
皆が予選について談笑する中、ステージの袖へと消えていくミスコン出場者たち。
その去り際に、城ケ崎さんが司会の生徒を捕まえて、何やら耳打ちをしていた。
その後、すぐに結心の出場するBグループの予選が始まるはずだったが、なにかトラブルがあったのか、15分ほど時間が押すこととなった。
時間ができたならばと、俺は予選が始まる前に、城ケ崎さんをねぎらいに、控室の方へと向かった。




