早押しクイズ大会
「早押しクイズか……勇星、早押しクイズってなんだ?」
舞台で準備が進む間に、クラスメイトから質問を受ける。何名かの生徒が説明を促すように頷いた。そういう番組は見たことないのか。
「ボタンを一番早く押した人が回答権を得られるクイズだよ。問題を読み上げる途中で押すのもあり」
「問題文を途中で判断する能力も必要ってこと?」
「早押しの腕もな。昨年みたいに、一問一答形式じゃないから、博識なだけだと勝てないね」
「でもなんだか面白そうですわね! 見てる方もハラハラしそうです!」
そう。バラエティでも、クイズ王が早押しの腕で負けて、取れる問題を取りこぼすなんてのは普通にある光景だ。お手付き覚悟でボタンを押す度胸だって、時には必要。
雑学はある方だと言っていたけど、早押しクイズは得意かどうか。
そう話していた城ケ崎さんを思い出して、こっちは別の意味でハラハラだ。
始まる前に、狭間が俺に話していた内容を思い出す。
7問先取で、早抜けするほど高得点。出題ジャンルは様々だけど、5問ごとに出題ジャンルが変わるらしい。
『各令嬢に、それぞれ見せ場が必要ですからね。参加者の趣味や得意教科からランダムでジャンルが選出されます』
なんて狭間が言っていたから、城ケ崎さんの得意は必ず来る。
だけど、5問全問正解したとしても、他2問は自力で得点を取らないといけないし、城ケ崎さんの得意ジャンルで点が取れるとも限らない。「~~ですが、」なんて続くひっかけ構文にはまったときには、得意ジャンルですら取りこぼす。早押しなんてそんなもんだ。
「それでは張り切って参りましょう! 最初のジャンルは、『日本史』!」
軽快なBGMが鳴り始めて、ミスコン参加者が手元のボタンに若干体重を預ける姿勢になる。城ケ崎さんも半分腰を浮かせて、少し身を乗り出す姿勢だ。
「50歳を過ぎてから天文学者の高橋至時に弟子入りし、/その後17年かけて日本全国を歩いて測量を――」
問題文の途中で何名かが反応し、ボタンを押す。
歩いて、の段階で反応した令嬢に回答権が渡った。
「伊能忠敬!」
「正解です!問題全文は『50歳を過ぎてから天文学者の高橋至時に弟子入りし、その後17年かけて日本全国を歩いて測量を行い、『大日本沿海輿地全図』を完成させた江戸時代の人物は?』でした!」
会場から拍手が起こり、答えた令嬢が会釈する。自己紹介の時に、歴史得意科目は日本史と答えていた令嬢か。城ケ崎さんも押していたけど、タッチの差で間に合わなかった。
「それでは第2問! 幼名を牛若――」
問題文の途中で、今度は城ケ崎さんが反応する。
「……源義経」
「正解! 素晴らしい反応でした!」
俺たちの周囲が一気に沸き立った。
そう。得意ジャンルでないなら、ある程度お手付き覚悟で点を取りに行った方が良い。ひっかけにビビって、早押しで負けるくらいなら、問題の想像がつきそうな段階で押すのが正解だろう。
先ほど正解したご令嬢が、悔しそうに城ケ崎さんを見つめている。
そして一方の城ケ崎さんは、
「……?」
正解したのに、何故か釈然としない、といったような表情だ。
何かを確かめるように、自分の手元のボタンをカチカチと叩いている。
その後は、城ケ崎さんが何度かお手つきして、点を取れないままジャンルが変わる。先ほどの日本史が得意な令嬢は既に3点だ。
「た、大量リードを取られてしまいましたわ!」
「でも、ここでジャンル変更だ。7番のご令嬢のターンは終わりだ」
点数のリードはできたけど、そこまで早押しが得意なタイプじゃない。他のジャンルだと、ペースは鈍るだろう。
「でも、城ケ崎さん大丈夫でしょうか。何だか集中できていないように見えますが……」
クラスメイトが心配そうに呟く。
確かに、一度正解して以降、何かを気にして、舞台袖や他の参加者の様子を見ながら、問題文を聞いているような状態だ。意識が散漫、というよりは何かを探っているようにも見える。
その後、『お菓子』、『ファッション』、『宇宙科学』、など、ジャンルが3つほど移り変わった。
ポイントは1位が6ポイント、2位が4ポイント、3位が3ポイント、城ケ崎さんと同じ、同率4位が2名で2ポイント。1ポイントが3名と、一部の生徒が抜きんでた形だ。
なんだかんだで、最初日本史で稼いだ令嬢が、トップを維持している様子だ。城ケ崎さんの最初の振る舞いを見て、早押しのコツをつかんだか。
それに、同タイミングでボタンを押したときに、回答権を良く得ている。運も味方に付けつつある。
「ゆ、勇星?! どうすんだ?! 追い詰められたぞ?!」
どうすんだ、なんて言われても、応援するしかないっしょ。俺たち観客は。
胃をキリキリさせる俺の肩を掴んで、クラスメイトが不安そうに体を揺らしてくる。やめてくれ。俺だって緊張で吐きそうなんだから。
頼む。なんとか城ケ崎さんの得意ジャンルが来てくれ……!
クラスメイト全員が、舞台上のモニターを注視し、ジャンルを決めるルーレットの行方を見守る。
ゆっくりと速度を落としていくルーレット。
縦回転の動きが収まると――
「それでは、次のジャンルは『ゲーム』です! これは、城ケ崎さんの追い上げが期待されますね」
来た! といわんばかりに城ケ崎さんが身を乗り出した。
それに呼応して、俺たちも小さく喜び合って、城ケ崎さんの雄姿を見守る。
皆の緊張が最高潮に達する中、早押しクイズの第5ラウンドが幕を開けた。




