ミスコン当日
翌日。気持ちのいい空砲と共に始まった学院祭二日目は、一日目とは比べ物にならないほどの賑わいを見せた。
本校前の駐車場には、ありとあらゆる高級車たちが並んで、そこから正装に身を包んだ大企業の取締役、そしてそのご婦人や重鎮たちが、続々と校舎へやって来る。
人口密度は目算で4倍以上。相当広い不亜高の敷地だけど、場所によっては都会の大通りくらいには混雑している。
送り迎えの高級車や、自家用ヘリの往来が落ち着くことはなさそうだ。
当然、その分俺たちの出し物も混雑するわけで、
「横浜家系ラーメンおまちどおです! スープが跳ねないように紙エプロンをぜひご使用くださいね!」
「はい、オーダーですね! 少々お待ちください! 誰か、45番卓のオーダーを!」
「俺が行く! 纏まった注文が入りそうだ! 20玉ほど多めに麺を茹でて欲しい!」
昨日よりも激しさを増す人の波に、皆昨日よりは余裕がなさそうだ。
それでも、皆楽しそうに、笑顔で接客をしている。
その理由は、
「真子~。お前が働くところを見に来たぞ~」
「まあお父様! 今日は楽しんでいってくださいね! 出し物の投票はぜひ私たちのクラスにお願いしますわ!」
「良く働いていますね。一郎坊ちゃま」
「合宿でしごかれましたからね。俺の厨房捌き、見ていてください!」
身内や親戚、友好関係がある企業の方々もいらっしゃるから、張り切りがいがあるのだろう。
俺も家族を誘ったけど、仕事が立て込んでいるっていって断られたなあ。ちょっとだけ皆が羨ましい。
とはいえ、予想以上のハイペースに、材料や備品の在庫がどんどんと消費されていく。昨日紙エプロンを貰ってなければまずかった。
それに、ラーメンの味だけでなく、出し物自体も好評なようで
「ほう、この建築はどこの企業が担当されたのかね?」
「はい、それは振興建築様が担当されまして、仕入れの方は――」
といったやり取りが、各所で聞こえてくる。
当然、俺たちのラーメンの方でも、出店のデザインや材料の仕入れの販路などについて質問が多く寄せられる。
一緒に他の企業様と協力して、合宿を行ったことや、フードロス対策で、子ども食堂の方や近隣の小学校の生徒にラーメンを振舞ったことを、店舗に飾ってあるモニターで、映像でプレゼン形式に纏めている。
ラーメンを待っている間や、食べ終わった後に、モニターでの活動報告や、協賛企業のクレジットに目を通す人たちも多い。
皆の家の得意を活かした準備に、目の前で元気に働く生徒たち。
皆が主役になれる出し物、という目的は今のところ成功していると言っていいだろう。
そしてそれは、文系クラスも同じようだ。2日目の開幕から、お化け屋敷には長蛇の列ができていて、列整理の生徒たちが、ゲストの方からの質問に応対をしている姿が途絶えない。
だけど、一方で問題点もある。
『勇星。巡回終わった。今のところ怪しい人影は無い』
「ありがとう。ついでに紙エプロンを持ってきて。午後には無くなりそうだ」
備品が盗まれたこともあって、保管場所に定期的に人を派遣しているせいで、若干オペレーションが遅くなっている。
今は俺の部屋に保管しているから、誰でも入れる教室よりかは安全だけど、出来る対策は取るに越したことはない。寮の入り口にはカメラもあるから、防犯対策も兼ねている。
昨日の事件に悩まされているのは、お化け屋敷も一緒みたいで、列の進みが昨日よりも遅く感じる。何組か案内するごとに、中の設備チェックを行っているらしい。
ゲストへの応対に、学院祭荒らしへの対策。皆の動きは良かったけど、それ以上にやることが増えた。昨日よりは若干ペースを落として、午前の部は終了となった。
「じゃあ後はよろしく、私はミスコンの準備してくる」
「おう、任された」
「頑張ってくださいね、城ケ崎さん! 私たちもここから応援してますわ!」
引継ぎの生徒に現場を交換して、城ケ崎さんが厨房を離れる。
今からミスコンの準備だ。厨房の熱気で滲んだ汗を流して、メイクや衣裳を整える。
準備の為に、ミスコンがある日は時短シフトを組んである。
「じゃあ、あとでね同士」
俺を含めた、午後が自由時間の生徒は、ミスコンの応援に向かう予定だ。
城ケ崎さんと拳を合わせてから、俺も昼ピーク最後の追い込みだ。
手拭いで汗をぬぐいながら、ミスコンへと向かう城ケ崎さんを見送って、俺も行列の整理
に向かった。
♢ ♢ ♢
ミスコンは予選も本選も、旧校舎にあるオペラホールを使って行われる。
全1000席からなる、2階建てのホール会場。
奥の舞台を扇状に囲むように配置された席が、ゲストの方々や生徒たちでほとんどが埋まっている。ぎりぎりまでシフトに入っていたから、もう席はなさそうだ。立ち見だなこりゃ。
なんて思っていたら、「勇星!」と理数クラスの皆が、中央付近の座席で手を振ってきた。俺の分も確保してくれたらしい。
「ありがとう、席を確保してくれて。文系クラスも一緒なんだ?」
「ええ。文系クラスからも数名出ていますので。クラス一丸となって出場者を応援しますの」
理数クラスの後ろには、文系クラスの皆が陣取っていた。
「はい勇星。応援うちわにペンライト」
「用意が良いな。誰の発案だ?」
「城ケ崎さん。投票よろしくって」
自分で用意するあたり、したたかになったというべきか。
「城ケ崎さんには助けて頂いた手前、申し訳ないのですが、私たちも私たちのクラスの出場者を応援しますわ」
それに負けじと、文系クラスの皆も応援うちわとペンライトを取り出した。
不亜高のご令息・ご令嬢たちも大分俗世に染まってきたな。
「凄いな。写真やイニシャルまで作りこんである。こっちは誰の発案?」
「結心さんです。皆で出場者を応援しましょうと」
「ははは。結心らしいな。城ケ崎さんはAグループだし、B、Cの出場者は俺たちも応援するよ」
「ありがとうございます。……」
「? 紫陽花さん、どうしたの?」
突然、俺と話していた紫陽花さんが、不思議そうな顔になって俺の方を見つめてきた。
「いえ」と一瞬引き下がった後、「……やはり聞いておきましょうか」となにやら改まった顔になって、文系クラスの視線が俺に集まる。
「失礼な質問だったら申し訳ございません。……あなたと、結心さん。本当に別れているのですか?」




