私たちは勝つよ。真っ正面からね
「このパソコン、学校のだよね? 申請して借りたの?」
「う、うん……パソコンルームにあるものを、貸し出しを依頼して……」
「映像や効果音のデータのバックアップはあるよね。とりあえず、このパソコンは封印。代わりのパソコンはNACで用意する」
「い、いいのですか? 私たち、ライバル同士なのに……」
「紙エプロンの借りはこれでなし。困ったときはお互い様ってやつだよ」
流石大手ゲームメーカーのご令嬢。パソコン関係は何でもござれだな。
「とりあえず、実行委員会に共有をかけます。他のクラスも学年も何かしら被害にあっているかもしれませんし」
「私はパソコンのセットアップを手伝って帰るね」
「結構遅くなるんじゃないか? 明日ミスコンだけど大丈夫?」
「大丈夫だよ同士。出し物もミスコンも、どっちも抜かりないようにするから」
城ケ崎さんがピースしながら笑って、狭間と俺を送り出した。
実行委員会にスマホで内容を共有した後、俺と狭間は周囲に人気が無いことを確認してから、向き直る。
「どう思う?」
俺が尋ねると、狭間が小さく息を吐いてから答えた。
「誰かの仕業でしょうが、最大限の対策を打って終わりでしょうね」
「やっぱ学院祭期間に騒ぎ立てるのってまずい?」
「犯人が分かっているなら話は別ですが、そうでないなら悪目立ちするだけでしょう。明日からはゲストも増えますし」
「だよなー」
犯人は分からずとも、事件があったことを公にすれば、多少なり牽制はできるかもしれないけど、騒ぎを大きくした分、悪い印象もつきかねない。
反対に、付け入る隙を与えるような運営をしていたと思われる可能性もある。
この件に関しては、学校側に報告して終わり。
多少なり警戒は増やしてくれるだろうけど、明日明後日の犯人確保とかは難しいだろう。
「まあ、犯人探しは僕の方でやりますよ。それよりも、出し物とミスコンに集中してください」
「そうだな。城ケ崎さんの方を見てくる」
俺が今から学校中を探って証拠探しするのも違うしな。こういうのは専門家に任せて、俺は最大限警戒しながら、俺の役割に徹するだけだ。
お化け屋敷に戻ると、城ケ崎さんが自分のノートPCを叩きながら、壁型モニターの映像の最終調整をしていた。
「OK。映像と音響は問題ないね。PCは明日の昼までに届くから、それまではこのPC貸してあげるね。最新の3Aタイトルでも処理落ちなしで動くから、動作は保証するよ」
「ありがとうございます、城ケ崎さん」
「念のため部屋は涼しくしてあげてね。データを移す時は、ここのファイルをインストールすればOKだから」
城ケ崎さんがUSBを渡すと、文系クラスの皆が安堵したように肩をなでおろした。
「勇星、城ケ崎さん、本当にありがとう」
「こっちこそ。紙エプロン助かった」
「ノープロブレム。明日はお互い頑張ろうね」
頭を下げる結心に、手を振って分かれてから帰路に着く。
辺りは既に真っ暗になっていて、陰った月の光が、わずかに校舎を照らしていた。
「すっかり遅くなった。城ケ崎さん、迎えは?」
「こんな時間だからね。今日は寮に泊まるよ。申請はさっきした」
「寮まで送るよ」
警備の人もいるし、学校だから何があるというわけではないのだけれど、何となく嫌な予感が晴れなくて、付き添うことにした。
城ケ崎さんを一人にすることじゃなくて、俺がこんな気分のまま一人になるのが不安だったのかもしれない。
涼しい風が吹く、電灯の明かりが連なる寮までの道を、俺たちは何を語るわけでもなく歩いた。
無理やり会話を作ることもできたけど、今の空気だと、空元気は不安を煽ることになりそうだからやめた。
「プライドの無い人がいるね」
城ケ崎さんが、不意に話しかけてきた。
少しだけ、怒りの滲んだ声色に、「そうだね」と小さく頷いた。
「でも私たちは勝つよ。真っ正面からね」
「……当然」
城ケ崎さんが静かに突きつけてきた拳に、俺も笑って拳を突き合わせる。
色々波乱があった一日目だけど、結果的には無事に終えることができた。
互いの胸の内で燃える炎を、拳で共有して、俺たちは2日目の学院祭――ミスコンの予選を迎えるのだった。




