決戦前の意気込みを
城ケ崎さんの頼みを了承すると、「ちょっと待ってて」と城ケ崎さんがその場を離れた。
スピーチの練習で、何か用意が必要なのだろうか。
少し不思議に思いながら、待っていると、屋上のドアがキィ、と控えめな音を立てて開いた。
そして、現れた城ケ崎さんに、俺は思わず息を止めた。
「……やろっか」
「――うん」
胸元から上を露出させた、ショルダーオフの純白のドレスに、胸元で輝くシャワータイプのネックレス。
滑らかな肩の曲線美を、月明かりが輪郭をなぞって、幻想的に映し出していて、長いスカートの裾が風に揺られる姿は、さながら月明かりに舞う妖精のようだ。
頬と唇の薄桃色が、透明感のある肌の上で、華やかな熱を演出していて、見ていると口元がくすぐったくなってしまう。
夜空を背景に、銀色に淡く輝く城ケ崎さんが、姿勢を正して俺の前に歩み寄ってきた。
俺は高鳴る心臓を、宥めるように咳払いをしてから、城ケ崎さんの横に並び直す。
「会場にお集まりの皆さま、ごきげんよう! 第62回、不亜九条高等学院、ミスコンテストの場にお越しくださりまして、誠にありがとうございます! 気品高く、華やかな令嬢たちが集うこの学院で、今年のミス不亜高の栄光は、一体誰が手にするのでしょうか?」
記憶の片隅にある、昨年の司会を、うろ覚えながらも演じてみる。
どれくらい合ってるかなんてわからないけど、俺の勢いだけの司会に、楽しそうに口角を上げた城ケ崎さんを見て、この勢いのまま演じることに決めた。
「それでは今大会を彩る、ご令嬢方に登場いただきましょう! まずはエントリー№1番!
今大会が初出場! 2年B組、城ケ崎 虎々奈さんです! 盛大な拍手でお迎えください!」
「ごきげんよう。ご来賓の皆さま」
上品な佇まいで、ニコッと優雅な笑みで手を振る城ケ崎さん。
「株式会社NACのご令嬢です! 世界的なヒット作を多く抱える、超大手のゲーム会社ですね! 普段からゲームは良くされるのですか?」
「はい。自社タイトルに限らず、様々なメーカー様のゲームを、普段から楽しませていただいております」
「なるほど! 学校のご友人の方々とも、一緒のゲームで遊ばれたりするのでしょうか?」
「いえ。昨年までの私は引っ込み思案で、他の方々と交わるのにも苦労しておりましたので、そういった機会は中々……。でも、今回の学院祭を機に、多くの方々と素敵な関係になることができました。学院祭が落ち着きましたら、皆を誘ってパーティーゲームなんかをしてみたいです」
うん。もうコンプレックスも、臆することなく話すどころか、会話を弾ませるための武器にしている。
皆の前で、一言喋るのにも緊張していた城ケ崎さんはもういない。
NACの令嬢としても、一生徒としても自然な振る舞いを身に着けている。
「それは楽しそうですね! では最後に、今大会における、意気込みの方をお聞かせください!」
「そう、ですね……」
城ケ崎さんは俺の方を一瞬だけ、真正面から見つめて、小さく深呼吸をしてから一歩前に出た。
夜空で輝く星たちへ宣誓するように、城ケ崎さんが声量を上げた。
「色んな人たちに支えられて、この場所に立つことができました! その応援に応えられるように、精一杯頑張ります!」
静かな空間に、城ケ崎さんの声が良く通った。
世界に広がった声の震えが、後からじんわりと俺の胸を震わせる。
汗で火照った城ケ崎さんが、ふう、とやり切ったような息を吐く。
「――どうだった? 勝てそう?」
額の汗をぬぐいながら、城ケ崎さんが俺にを試すように微笑んだ。
今日一――いや、過去一の良い表情を見せる城ケ崎さんに、俺は照れて目をそらしてしまう。
「少なくとも、一票は確定で入るね」
「ふふ。そいつは意地でも欲しい一票だね。同士」
俺の強がりは見透かされ、互いに顔を見合わせた後、バカみたいに笑いあった。
何で笑ってしまったのかは分からないけど、俺は『城ケ崎 虎々奈』と過ごす時間が、間違いなく楽しかったんだろうなって、暫くしてから結論づいた。
最後の準備を終えて、一週間後。
晴れやかな青空に響き渡る空砲の音。
祭典ムードが漂う、いつもと違う華やかさを纏った学校で、俺たちの最終決戦の幕が上がるのだった。




