ミスコンの流れ
日が落ちかけている放課後、俺たちは本校舎の屋上に集まった。
「えー、まずミスコンにおける書類選考ですが、無事に城ケ崎さんが通過しました。とりあえず報告です」
「「おおー」」
俺と城ケ崎さんがパチパチと手を叩くと、狭間はやれやれと息を吐く。
「この程度で喜ばないでください。書類審査なんてブスとバカをふるいにかけるだけの審査です。受かって当然でしょ」
「もっと言い方あるだろお前」
自然と棘が鋭い言葉を選んでくるあたり、やはり狭間の性根は腐っている。
「選出されたのは39名。A~Cグループに分かれて選考を行い、それぞれのグループを勝ち抜いた代表者が、決勝ラウンドで審査してもらう形式です」
「……分かっていたけど、ライバルも多いね。勝算はあるのかい策士」
「できる準備はしましたが、後は城ケ崎さん次第ですね」
狭間がスマホを取り出して、ミスコンの進行表を見せる。
「まず、グループ分けですが、城ケ崎さん、夢原さん、真賀花さんはそれぞれ別のグループになりました。票を集めそうな競合がちゃんとばらける形ですね」
「仕組んだ?」
「当然」
「よくやった」
「同士。君もだんだんダークサイドに落ちて来たね……」
勝負の場が公平であるなら、対戦表の仕込みなんて些末な問題だ。
呆れる城ケ崎さんを横目に、狭間が続ける。
「代表者選考は2段階に分けて行われます。壇上で自己紹介と、軽い決意表明をする『スピーチ』と、様々なジャンルの問題を、早押し形式で回答していく『クイズ』。この双方のポイントの合計が高い出場者が、決勝ラウンドに進めます」
「それぞれの選考の攻略法は?」
「『スピーチ』はほぼ見た目の審査です。滑らなければ。コネが強くて、顔が良い奴が票を持っていきます。投票者は生徒と保護者ですしね」
要は、『容姿』と『家柄』のステータスを測るための場ってことね。
となると、クイズは『教養』か。
「早押し形式のクイズって、バラエティで見るような奴?」
「はい。先に7問正解した順位で競います。それぞれ、1位~5位までの生徒に、5~1のポイントが入り、高得点順に順位をつける形ですね」
教養の審査は、前は一問一答形式で、一人一人に問題を出していた感じだったけど、見栄えはそこまで良くなかったし、進行のテンポも悪かった。
世俗的だけど、バラエティに寄せたのは正解かもしれない。これも狭間の発案か?
「スピーチは何とかなるとして、城ケ崎さん、早押し得意?」
「……やったことないから分からない。それなりに雑学は積んでいる方だとは思うけど」
早押しってなると、押す速さも含めての勝負だからなあ。
エアホッケーの時少し思ったけど、コントローラーの指捌き以外は、城ケ崎さんの動作は、少しおっとり気味だ。
「決勝ラウンドに関しては、同じ卓について、お茶を飲みながらインタビュアーの質問に答えていき、振る舞いや人間性を加味して、オーディエンスに投票を行ってもらう、『お茶会』形式の審査です」
「徹子の部屋みたいな、対談形式?」
「あー、その認識で大丈夫です」
「昨年は特定のテーマに関してディベートを行う形式だったけど、今年は何か、バラエティ番組みたいな進行だな」
「僕が提案しました。形式ばったものじゃなく、見ている人が楽しめる内容にしようと。『一般特待生』を導入し始めたこともあって、企画を通すこと自体は容易かったですよ」
やっぱ、こいつ主導に行った企画なのね。
「勝てる舞台は用意しましたが、露骨に身内びいきの内容にはしていません。勝負の場はあくまで公平になるように調整しています。勝っても負けても、後は城ケ崎さんの責任です」
「「……」」
「なんです? その意外そうな顔」
狭間が不快そうに眉をしかめた。
「いや、お前のことだから、城ケ崎さんが確実に勝てるような仕込みをワンチャンするかな、って」
「あのねえ……。僕だって家の名前を背負っているんだから、不平等な企画を上げるわけにはいかないでしょ。それに――」
少しだけ何かを言い淀んでから、改まった顔になって狭間が続けた。
「形式だけの勝利じゃ意味ないんでしょ。勝つなら勝手に勝ってくださいね」
意外にも激励の言葉が出てきて、俺と城ケ崎さんは呆然と目を剥いて固まってしまった。
固まる俺たちの横を通り過ぎながら、「それでは」と短く言い残して、狭間はその場を去ってしまった。
「案外こういうところはフェアだよね。彼」
「善悪問わず、一番利益が出る形を優先してるだけでしょ」
狭間が消えていったドアを見つめて、俺と城ケ崎さんは可笑しそうに笑いあった。
人間性はともかく、『仕事』はしっかりとするタイプだ。
それは、あれだけ不満を漏らしながらも、ラーメン合宿には最後まで食らいついてくれたことで分かっている。
善意じゃなくて、良くも悪くも利益を切れない人間なんだと思う。
気が付けば日も落ちて、涼しい風が屋上に吹いていた。
この時間になれば、学校に残っている生徒たちもほとんどいない。
「「……」」
俺たちも特に用は無いし、もう帰る時間なんだけど、なんとなくこの場を動く気はしなかった。城ケ崎さんもきっと同じだ。
学院祭が始まる前に、同じ時間を共有したかったんだと思う。
暫くの間、俺と城ケ崎さんは何を語るわけでもなく、同じ景色を眺めていた。
5分くらい、そうやって静かに同じ時を過ごしていた時、
「ねえ、唐草君。まだ時間ある?」
城ケ崎さんが、ふと話しかけてきて、「うん」と俺は頷いた。
「決戦前にさ。審査してよ、私のこと。『スピーチ』の練習をしたいんだ」




