ミスコンの競合相手
学院祭の1週間前、俺は城ケ崎さんと一緒に、1年生の生徒たちに誘いを受けて、お茶会の場にいた。
「なるほど、あの立派な建物はそのような企業様の協力で作ることができたんですね」
「ええ。私たちのクラスは合同ということもあって、大分早く計画を立てていましたから。その分作業の時間も確保できたので、あのような大掛かりな建物を作ることができましたの」
円卓が整然と並べられた、本校舎1階にあるお茶会室。
その円卓の一つで、後輩の生徒たちと一緒に、お嬢様言葉を離しながら、優雅にお茶を飲む
何で後輩の生徒たちと、こうやってお茶を飲む機会があるのかというと、狭間の仕業だ。
学院祭の準備が不亜高全体で始まった頃合いを見て、『お茶会相談所』のサイトのトップページに、とある案内文を差し込んだのだ。
~出し物の企画で悩む人! 頼りになる先輩たちに、企画を進めるコツを聞こう!~
この一文のおかげで、後輩からのお茶会依頼が殺到中。
理数クラスの出し物を進める合間で、俺と城ケ崎さんは後輩たちの相談に乗ることになったのだった。
おかげでこの1か月間は本当に忙しかった。
「ありがとうございます! 先輩たちの出し物、絶対に見に行きますね!」
「おう! そっちも頑張ってね」
「私たちも、あなたたちの出し物、楽しみにしていますね」
去り行く後輩たちに、優雅に手を振って見送った。
後輩たちが去ってから、ぐでえ、と崩れ落ちるように、城ケ崎さんが背もたれに体を預けた。
「ふふふ……これで本日3件目のお茶会完了……。この後はクラスの出し物の手伝い……流石にハードスケジュールだね……。同士、エナドリ持ってない……?」
「流石にこの場でエナドリを飲むわけにはいかんでしょ。帰るまで我慢しなさい」
残り1週間となると、どのクラスも大詰めだ。
必然的に相談以来は増えるし、自分たちの出し物のまとめにも入らなければならない。
最優秀クラス賞の選定方法は、基本的には生徒や来場者たちの投票だ。ほぼミスコンと同じ形になるから、交流の輪を広げておけばおくほど有利。
出し物の相談に乗る、という形だけど、実質的にはクラスの出し物の広告兼、城ケ崎さんの顔を売る意味合いが強い。
『いいですねえ。これで一年生クラスの主要メンバー全員と交流ができました。ミスコンの決選投票で、後輩の票が期待できます』
耳の奥に付けている小型の無線機から、狭間の声が聞こえてくる。お茶会のプロデュースは狭間担当だ。注文するお茶や菓子類。会話の振り方や話の内容など、大体の流れはその都度指示が飛んでくる。
おかげであまり顔合わせができていなかった生徒たちとの会話もスムーズだ。こういうときに情報屋は頼りになる。
『勇星君達のおかげで、僕も後輩たちの貴重なデータが沢山手に入りました。これはサイトの運営が捗りますねえ~。クククククククク……!』
狭間の情報収集に協力しているのは非常に癪だけど。
蛇の道は蛇、ということで生まれた縁だが、この毒蛇が後から問題を起こさないように祈るばかりだ。
「……それにしても、ここ数週間で、お茶会室の利用が増えたな」
『学院祭の打ち合わせの場にも使われますし、何よりミスコン出場者の利用が増えています。この後は夢原さんも予約していますし……、勇星君。一番中央の席に座っているご令嬢、分かります?』
周囲に聞こえないような声量で会話をしながら、狭間の示した卓へ視線を移す。
そこには腰まで伸びたウェーブがかった黒髪が特徴的な、一人の女子生徒の姿があった。
『真賀花 聡美。大手IT企業ヴィーナス・ソフトフェアのご令嬢。昨年のミスコンの準優勝者です。現状、彼女が一番の競合になるかと』
確かに、学院祭の準備期間に入ってから、お茶会室で顔を見る機会が増えた気がする。財全会長をはじめとした、学校でも顔が効く生徒たちに片っ端からお茶会を申し込んでいるみたいだ。
俺や城ケ崎さんも、誘いを受けて一緒にお茶したことがある。
その時はどうして突然、なんて思ってたけど、向こうも顔を売る目的だったわけだ。
だけど、
「……そんなに強いのか? あの人。正直俺はあんまり良い印象無いぞ」
俺の隣で城ケ崎さんも、短く頷いた。
誘われたはいいものの、話した内容は自分の家の事業のこととか、仲良くしておけばどんな利益があるとか、打算的な話ばかりだった。
あと、お茶会の菓子類も、向こうが勝手に選定していたし、もてなされる、というよりは、真賀花先輩という人のプレゼンを受けた気分になった。
狭間が最初に避けていた、『ミスコンの為に顔を売る』お茶会の誘い方だ。クラスの出し物も、お茶会の頻度を見るに、クラスの出し物もほとんど手伝っていなさそうだ。
『まあ、露骨にミスコンの優勝狙いで場をセッティングする人ですからね。戦い方が違うから、印象が悪いのは当然でしょう。とはいえ彼女の実家は太い。恩を売るメリットがあるので、3年の票は持っていかれますね』
あー、だから後輩の相談に乗る場を設けたのね。
クラスの票意外だと、浮動票は後輩の票になる。向こうも後輩たちに声をかけているけど3年だから、後1年の付き合いだ。
出し物の相談に乗ってあげれば、1年の票は俺たちに傾きやすいか。
結心もそれを理解してか、財全会長を伝手にして、後輩たちの相談に乗ってあげているらしい。
結心と同じ票を食い合っている以上、高学年の票を確保している真賀花先輩が投票レースでは優位だな。1年生の票も、信頼を得ているとはいえどう動くかは、蓋を開けないとわからないし。
「負けたくないなあ、あの人には」
「そうだね」
小声で会話をしていると、ふと真賀花先輩と目が合った。
俺たちが会釈すると、向こうは何も見なかったように対面の生徒との話に戻った。
出会ってしばらくは、しつこいくらいに挨拶をしてきたくせに、城ケ崎さんがミスコンに出ると分かって以降はこの豹変ぶりだ。
く、クソムカつく……! ああいう人が同学年じゃなくて本当に良かった! ああいう人と同じ時間、学生生活を過ごすだなんて、ありえねえ!
むしろ敵であってくれてありがとう。踏み台にすることに遠慮がなくなるからな。
「あの人が惨めになるくらい、ボロカスに大差をつけてやろうぜ、城ケ崎さん……!」
「……同士。最近気が付いたけど、君も真っ当な善人ではないよね」
たりめえよ。ムカつくやつに払う敬意なんてない。
人の勝負の舞台に、勝手に炎をメラメラと燃やす俺を、城ケ崎さんが冷ややかな目で見つめてくる。
一人で意気込む俺を宥めるように、城ケ崎さんは俺の手を引いてお茶会室を後にした。
そして、クラスの出し物を手伝った後、ミスコンの流れの最終確認の為、俺と城ケ崎さんは、狭間と放課後の屋上で落ち合うのだった。




