学院祭準備(結心視点)③
理数クラスの様子を探りに行くと、早速勇星がいろんな生徒に声をかけて、出し物の企画を進めていた。
「おーい、立花さん! ちょっといい?」
城ケ崎さんを引き連れた勇星が、とある女子生徒を呼び止める。
「確か、立花さんの家、デザイン関係の企業だったよね。ラーメン街のデザインお願いしていい?」
「え? ……ええ! 任せてください! どんな案がお好みです?」
「ミニ中華街みたいな施設が良いなあ。横浜中華街みたいに、入口にでっかい門を立ててさ」
「私の会社で使っている、3Dモデルのデータも持ってきました。参考になるといいのですが……」
「なるほど……! 家の方に掛け合ってみます! 資料もありがたくお借りしますね!」
城ケ崎さんがスマホでデータを送信すると、少し暗い顔をしていた立花さんが、明るい顔になって、どこかに電話をかけ始めた。
「OKでしたわ! 2日もあれば案を仕上げてみせます!」
「ありがとう! デザイン関係は立花さんに任せていい? 俺が監修するよりもいいものができそうだ」
「い、良いのですか? 貴重な学院祭ですよ。あなたも関われば、自分の名前をもっと売れるというのに……」
「庶民だからそういうの興味ないの。良いものに仕上げること第一! 明日、濱田君も交えてお茶会しようよ。建設関係は濱田君にお願いする予定だから、詳細はそこで練ろう!」
「わかりましたわ!」
なるほど。ミスコンに関して、どうやってコネクションをつなぐのかと思っていたけど、出し物の企画を練ることを建前に、皆と城ケ崎さんの接点を作るわけね。
確かに、急にお茶会の回数を増やすよりも自然だ。企画に熱が入れば入るほど、クラス間の繋がりは強固になるから、立役者となった人にも票が入りやすくなる。
嬉しそうに去っていく立花さんを見送ってから、勇星と城ケ崎さんが拳を合わせた・
「濱田君には話を通してある。次は草加君に話をしよう」
「最後の方に手を上げてた男子だよね」
「うん。彼の家は印刷業だから、学内での広告を打ってもらおう。メニュー表やパンフなんかの作成も依頼できるかも」
デザインに印刷……。あくまで学院祭基準だけど、飲食の出し物だと、少し影が薄い事業の人たちだ。
順調に見えていた勇星の方も一枚岩ではなかったみたいだけど、ああやって皆の力を手繰り寄せているんだね。
……やっぱすごいなあ、勇星。皆の中に飛び込むの、怖くないんだ。
自分の発案で、生徒間に亀裂を作ってしまっただけに、今の勇星の姿は少し眩しすぎる。
「こんな風に、不満を抱える生徒たちの気持ちを、一つずつ拾っていくつもりなの?」
「うん。言い出しっぺ俺だしね。『皆を主役にする』って言った以上、責任あるじゃん」
「元はと言えば、私がミスコンで優勝できるように、出し物の企画を練ろうって話だったじゃん。よくこんなに頑張れるよね」
「動機が個人的なものなら、尚更頑張らなきゃ皆に失礼だろ」
言葉は重いけど、勇星は楽しそうに頷いた。
「……こういう聞き方はあれだけどさ。唐草君はどうして、上手くいくかどうかわからないことに頑張れるの? それも、人と一緒にやることなんて、不確定要素だらけなのに、失敗したときの責任とかもある。……怖くないの? いざってときに矢面に立つの」
「怖いよ。だけどさ、考えてもしょうがないじゃん、そんなこと」
城ケ崎さんが不安そうに尋ねると、勇星はケロッとした表情で答えた。
「人とやることに、絶対成功する保証も失敗する保証もないじゃん。だったら、人に迷惑が掛からない範囲でなら、大体のことはチャレンジしなきゃ損だ。大事なのは方向性だよ。自分がどう頑張るか、どういう結果を残したいかっていう」
「チャレンジ……」
「うん。こう言っちゃあれだけど、俺は出し物が失敗しても、城ケ崎さんがミスコンに落ちても、それはそれでもいいんじゃないかって」
「え」
え。
城ケ崎さんの声と思わず重なった。
物陰から様子を見ていたから、慌てて身をひっこめる。今の聞こえてなかったよね?
恐る恐る再度顔を出すと、聞こえていなかったようで、勇星が何事もなかったように話を続けた。
「そういう結果だった、ってだけの話だよ。高校生じゃん。俺たちも、皆も。失敗なんて当然の可能性だろ。……でも高校生だから、皆、誰がどんな風に頑張っているかは気が付けると思うんだ。俺たちが本気で『皆を主役にすること』に取り組めば、失敗しても責められるようなことは無いし、責める人もいないよ。……まあ、それはそれとして、勝負は本気で勝ちに行くけどね。出し物も、ミスコンも」
最後の方は鼻息を大きくしながら意気込む勇星に、「同士はミスコン出ないでしょ」と可笑しそうに城ケ崎さんが微笑んでから、二人はその場を後にした。
二人がいなくなった後も、私は暫くの間、その場に立ち尽くしてから――
「……よし!」
頬をパンっと両手で叩いて、気合を入れ直す。
ありがと勇星、私だけでビビってる場合じゃないよね。
頭の中がすっきりと晴れやかになって、私は私で教室の方に戻って、皆と一緒に出し物の企画を練り始めた。
♢ ♢ ♢
「ねえ紫陽花さん! ちょっといいかな⁈」
次の日の放課後、私は帰ろうとする紫陽花さんを呼び止めた。
出し物の企画に誘われると思ったのか、紫陽花さんは気まずそうに表情を歪めてから、「……なんですか?」と一応立ち止まった。
そんな紫陽花さんに、私は一枚の紙を手渡した。
「……これは、何ですか?」
「コラボメニューの企画! 食堂で学院祭期間中と、その1週間前から出す、お化け屋敷をモチーフにしたケーキのデザイン案! 紫陽花さんの家、茶葉の他にも、お茶菓子の作成や流通にも携わっていたよね? こんな感じのケーキ、用意できないかな?」
「それは……不可能ではないかもしれませんが……」
紫陽花さんは困惑した様子でメニュー案を見つめた後、少し震えた声で、目を伏せながら尋ねてきた。
「……何で、私も巻き込もうとするのですか。この前の会議で、あんなに皆の和を乱したというのに」
あの会議以降、紫陽花さんと、一部の生徒は皆を避けるように過ごし始めた。
強引に出し物を決められた不満もあったのだろうけど、後悔や後ろめたさも一緒に抱えていたのかもしれない。
あの場では皆が皆の意見を組んだように見えたけど、財全会長の話からするに、紫陽花さんの気持ちが否定されたわけじゃないと思う。
だったら、皆が目立てるような企画にすればいい。
「何でって……だって、皆の力が必要だから」
向こうは皆で勝ちに来ているんだ。こっちも一人だって取りこぼすわけにはいかない。
「最高の出し物にしよう! 関わった皆の名前が、学校中に轟いちゃうようなものに!」
私が微笑むと、紫陽花さんが少しだけ後ろを向いて、肩を小さく動かした。鼻を啜った音がした。
「……分かりました。コラボメニューは私が請け負います」
「ありがとう! 後、他の生徒のことで聞きたいことがあるんだけど――」
勇星がやっていたように、家柄の無い私にできることなんて、皆のことを考えて行動に移すこと以外にないじゃない。
がむしゃらに。本気で。怖いけど大丈夫。
勇星がそうしたように、私も皆を信じるね。
他の生徒の協力もあって、ギスギスした空気で纏まったお化け屋敷の企画は、皆に活躍の場がしっかりと用意できる形で纏まって、最後は理数クラスに負けない良い雰囲気で、準備に移すことができた。
学院祭の1か月前、他のクラスがまだ出し物を決めている中、既に準備に入った理数クラスと文系クラスだけが、設営場所の下見にやってきた。
そして、私と勇星は互いに不敵な笑みを浮かべ合って、無言で見つめ合う。
学院祭まであと1か月。
クラスメイトに「ミスコン出てみれば?」と提案を受ける形で、私も出場のきっかけを得ることになって、自然な形で城ケ崎さんとの勝負に参戦できることになった。
最強かどうかは分からないけど、皆が支えてくれるから、私、手ごわいよ。
皆の中で楽しそうに指揮を取る勇星に、熱い視線を送って、私も仲間たちの下に向かって、準備に勤しむのだった。




