↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の彼女をお前にやるから、お前の彼女を俺にくれ  作者: 糸音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/55

学院祭準備(結心視点)②

 ようやく良い方向に傾きかけた空気に、とある女子生徒が待ったをかけた。


「コンセプトカフェって……具体的にはどういうもの?」


 少しだけ静まり返った空気。

 生徒の一人が質問すると、待ったをかけた女子生徒は、皆から目をそらすように、机を見つめながら、しどろもどろに答えた。


「……そう、ですね。……戦国武将とか、中世ヨーロッパ、とか……。とにかく、何かです。何か……」

「具体的な案は無いってこと?」


 その質問には沈黙で返していた。

 重い空気の中、一部の生徒が呆れたように首を傾げた。


「内装や衣裳を凝って、ただ食べ物出すだけだと、理数のラーメンと被るじゃん」

「絶対に上回れる保証があるならやってもいいけど、そういうのじゃないんでしょ?」


 ざわざわと声が上がり始めて、教室の空気が一層重くなる。


「……向こうが今までにない切り口で出し物をするからと言って、こっちまで変に奇をてらう必要はないと言いたいのです。……ですから――」

「――ていうかさ、本音はお化け屋敷をやりたくないじゃなくて、飲食系の出し物をやりたいんだろ。自分の家が茶葉の流通を取り扱っているからさあ」


 とある男子生徒が、苛立ったように割り込むと、女子生徒がビクッと体を強張らせた。


「……俺、前の学院祭で同じクラスだったんだけど、紫陽花(あじさい)さんの提案でカフェやったんだよ。いろんな生徒に自分の家の顔売れるきっかけにしたいんだろ。昨年十分やったじゃん。今年までお前の事業紹介に皆を巻き込むなよ」


 ……そういえば、まだ理文でクラス分けされていなかった昨年は、勇星と一緒のクラスだった子だ。役割が偏って、あまり活躍できなかったって、一部の生徒が不満に思ってたっけ。勇星もそのことは気にしていたなあ。


 今不満を上げた男子も、勇星と同じクラスだった人か。


「……向こうは知らないけど、こっちは対抗する為に集まってるんだろ。じゃあそういうの無しにして、勝てる企画じゃなきゃダメだ。その意識が共有できないなら、合同で出し物なんかする意味がない」

「夢原さん。一旦案を絞りましょう。『理数クラスの出し物に勝てそうな企画』を念頭に多数決を」

「……う、うん」


 皆にせがまれるような形で、私は多数決を取ると、お化け屋敷に全体の八割ほどの票が集まった。

 残り2割は無投票。全体の流れに意見を殺された形になる。


「……じゃあ、文系クラスの出し物は『お化け屋敷』ということで」

「「「はーい」」」

「「「……」」」


 重苦しい空気での話し合いは、敵を共有する形で纏まってしまった。

 解散となった後、紫陽花さんを初めとする一部の生徒は足早に会議室を去っていった。多数決の際に手を挙げなかった生徒と、その友達だ。


 追いかけていった人は、宥めるのか、諭すのか。いずれにせよ、我慢を強いる結果なのは変わりない。


「……」


 こんなとき、君ならどうするのかなあ。

 理数クラスで楽しそうに皆を纏める勇星の姿が浮かんでしまい、この場を設けたことに、私は強い後ろめたさを感じてしまった。




 ♢ ♢ ♢




「……どうしたんだい? なんだか今日はずっと、浮かない顔をしているが」


 会議翌日の昼休み、財前会長と過ごしていると、心配そうに尋ねられた。

 昨日の出来事があったからか、文系クラスに漂う雰囲気は少し重い。一部の生徒とは空気にひびが入ったような空気も感じてしまう。


 財前会長なら学院祭について詳しいだろうし、何か妙案があるかもしれない。

 そう思った私は、昨日の出来事を詳しく伝えた。


「――そうか、それは大変だったね」


 私の話を真剣に聞き終えた会長は、小さく息を吐いた。


「とはいえ、学院祭の出し物を決める時には良くあることだ。学年を重ねるほど特に」

「と、いうと?」

「知っての通り、自分が目立てる出し物をすれば、ゲストの方々に家のことについて知ってもらえるいいチャンスだ。少ないチャンスをものにしようと、躍起になる生徒は多いよ」

「……昨年も感じましたけど、私が思っているような文化祭とは違うんですね」

「社交を目的に入学される方も多いからね。むしろ必死になるのが自然だ」


 なるほど、学年を重ねるほどってのは、そういうことか。

 チャンスは3回。それまでの学院祭で目立った成果を上げられていない生徒はもちろん、そうで無い生徒も、貴重な機会を1回たりとも無駄にしたくない思いは当然だ。


「だから、そのご令嬢のことを敵にしてはいけないよ。物事の主役になりたいって気持ちを、持つこと自体は悪いことではないのだから」

「……はい!」


 状況が整理できてよかった。こういう時に学校の事情に精通している財前会長は頼りになる。


 とはいえ、あのバラバラになりかけている皆をどうすれば纏められるかなあ……


「勇星君の様子を見てくればどうだい?」

「え?」

「理数クラスを纏めているのは彼なんだろう? 妙な噂が立っては困るから、長話されるのは困るけど、様子を見てくるくらいなら構わないよ。面白い企画書も上がってきてるし、参考にはなるだろう」


 まさか、財前会長から、その提案を受けるとは思わなかった。

 向こうはかなり順調そうだし、参考にできればとは思っていたけど、勇星との接点になりかねないから、頼んでも断られるものばかりだと。


 ……財前会長なりに、私のことを考えてくれているってことだよね。


 事情があるとはいえ、財全会長に引き裂かれた関係だ。こういう形で譲歩を受けると、この人のことを許すのか許さないのか複雑な気持ちになってしまう。


 とはいえ、理数クラスが順調に物事を進めている以上、手をこまねいている時間が惜しい。


「ありがとうございます。私、向こうの出し物について調べてみます」

「ああ。頑張れ。良いものになることを期待している」


 私が一礼すると、財前会長は優しい顔で微笑んだ。


 その日の放課後、私はお化け屋敷の詳細について意見を交わす皆に断りを入れてから、理数クラスの様子を探りに行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。