学院祭準備(結心視点)①
「ミスコンで優勝するにはどうすればいいかだって? 急にどうしたんだ。興味があるのかい?」
勇星と会話をした翌日のこと。私は財全会長にミスコンについて尋ねた。
もちろん勇星との約束だということは内緒。
理由は適当にはぐらかすと、少し複雑そうな顔になったけど、財全会長は答えてくれた。
「容姿や教養はある程度求められるけど、最後は生徒とその保護者間での決戦投票になるからね。勝負を決めるのは生徒間でのコネクションかな」
「コネクション、ですか……」
……うーん。勇星の話通りだ。
コネクション、ってなると、優勝は難しいんだよなあ。
「……申し訳ないけど、優勝が目標なら厳しい戦いにはなると思うよ。こういう言い方は良くないけど、結心は一般家庭の出身だ。もしも他に候補が出てきたときに、その令嬢を差し置いて投票する理由が弱いからね」
そこなんだよね。他の人からすると、私に恩を売るメリットってのが無い。
仲の良い人がいないわけじゃないけど、突然財全会長の彼女になった私に、良くない感情を抱いている人も少なくない。
財全会長とのコネクションを目当てに、お茶会に誘われることも最近は増えたから、そのコネクションを使えば、いくらか票は集まりそうだけど――
「ありがとうございます。自分でもミスコンについて調べてみます」
「そうか。優勝が目的なら、力になれることは協力させてくれ」
そういう勝ち方しても、勇星の言う、『最強のライバル』だなんて胸を張って言えないもんね。
生徒との繋がりは、私自身で作れるように頑張ってみよう。
動機をはぐらかしたから、少し納得はしてなさそうだったけど、深く聞かずに協力を申し出てくるあたり、財全会長も悪い人ではない。
だけど、私の中では、まだ勇星が彼氏なので、ごめんなさい。
一礼してからその場を後にすると、理数クラスの方がやけに賑わっていることに気が付いて、私は教室の方へ向かって、中の様子に聞き耳を立てた。
♢ ♢ ♢
「ねえ、理数クラスは合同で出し物をするらしいよ」
私は教室に残っていた、仲の良い生徒を何人か捕まえて話題を振った。
「ええ? ホントですの? でも、出し物はクラスごとに申請しなければならないはずでは……?」
「いや、前例がないだけで、禁止する決まりも無いはずだ。クラス全員が了承しているなら、学校側も許可を出すかも。誰の発案?」
発案自体は勇星だったかな。
私が伝えると、「やっぱかー」と男子生徒の一人が相槌を打った。
「そういう大胆な発想は、大体あいつだよなー」
「勇星さん、学園に来てからいろんな事業に携わっているから、企画力がありますものね」
勇星は学校に来てから、『一般特待生』として、色々なイベントを企画している。コンビニやスーパーの卸売店を誘致したり、一般価格の自販機の設営。あとは予算を制限しての、商店街の散策ツアーとか、とにかく色々だ。
「というかさ。俺たちも何かしないとまずいんじゃないの。このままだと確実に、学院祭の出し物、負けるぞ」
「そう、ですわね……」
2クラス合同で行うなら、当然規模も2クラス分。それも勇星が指揮を執るんだ。生半可な企画じゃ太刀打ちできない。
次の日、私は朝のホームルームの前に皆に理数クラスのことを共有した。
何かしないと、確実に負ける危機感だけは伝わったのか、その日の放課後、私はDクラスを巻き込んで、学院祭の出し物について話し合う場を用意した。
♢ ♢ ♢
「……ということで、『全員が主役になれる』をテーマに、A・Bクラスは合同で、『ラーメン』を楽しめるレジャー施設を作るそうです」
2クラス分の生徒たちが集まった会議室。
言い出しっぺの私が教壇に立って、集めた情報を共有すると、皆がざわざわと話を始めた。
「ラーメン? 不亜高の学園祭に、そんなリーズナブルな食べ物を出す気なのか?」
「企画がまとまるってことは勝算が十分にあるってことだろ。それに勇星の庶民企画、今まで全部成功しているじゃないか」
「企画力なら随一でしょうね。……かなりの強敵になりそうですわ」
不亜高のほとんどの人は、勇星の企画を楽しんでいる。勇星の名前が挙がるだけで、皆が難しそうな顔になる。
「とりあえずは、文系クラスも合同で何かをやることかどうかだけ決めない? この場で多数決を取っていい?」
私がその場で多数決を取ると、7割くらいが手を挙げた後に、残りの人たちが難しい顔をしながら、渋々と手を上げ始めた。
形だけは全員賛成、ということだ。
少なくとも、規模を同じにしなければ勝ちの芽が薄いことは、皆の共通認識だ。
「じゃあ、皆で出し物を決めよう! 案がある人は手を挙げて!」
♢ ♢ ♢
演劇、コンセプトカフェ、巨大アート、カジノ……は大丈夫なんだよね? これ。
可か不可は置いておいて、どんどん意見を並べていくけど、皆の顔がパッとしない。
理数クラスが「全員が主役になれる」をテーマに会議をし始めているのに対して、文系クラスは「それに負けないこと」を根底に会議を始めているから、どうしても雰囲気が重くなる。勝つことを意識しちゃうと、
「少なくとも、飲食はダメだろ。向こうと被るし、企画の段階で負けたら取り返しがつかない」
「だからと言って、演劇とかもパッとしないよなあ。プロの演出家は雇えても、演じるのは俺たちだ。評価もそれなりに収まるし、上演回数も限られるから、全員に訴求するのは難しい」
……意見を封じる意見も出やすくなるんだよなあ。
こういう意見が目立ってくると、発言する側もどこか億劫になる。
「なあ、夢原さんはなにかアイデア無いの?」
「え、私?」
「うん。俺たちだとどうしても、今までの学院祭であったような企画になっちゃうからさ。夢原さんの意見も聞いておきたい」
うう、ちょっとギスギスしている中で発言するのちょっと怖いなあ。
だけど、会議が行き詰っているのも確かだ。新しい風を吹き込まないと。
とりあえず、飲食系は勇星と被るから無し。演劇はさっき誰かが言っていた理由で勝てる企画とは言い難いし、アートなんかも作って終わりだから、よっぽどのものじゃないと生きている企画には勝てないよなあ。
皆が目立てて、規模が大きいほど面白そうで、今までにない企画――
うんうんと頭を悩ませていると、とあるアイデアが私の頭によぎった。
「……お化け屋敷、とかどうかな?」
お化け屋敷、と聞いて皆が怪訝な様子で顔を見合わせた。
あ、皆ピンときてない。
私はすぐにタブレットをプロジェクターにつないで、画面をスクリーンに映した。
「こんな感じでね、お化けの仮装をしたり、仕掛けを作ったりして、ゲストを驚かすの。文化祭の出し物なんかじゃ定番ではあるだけど……」
「確かに、今までにない企画だけど、いいの? ゲストの方々をもてなすんじゃなくて、驚かすんだろ? 失礼にならないか?」
とある男子生徒が手を挙げて尋ねてきた。
確かに、昨年の学院祭は、フォーマルなカフェテリアや、演劇鑑賞とかで、基本静かに過ごす場所が多かったなあ。驚いて叫んだり騒いだりっていう企画は、学園祭の雰囲気には似つかわしくないのかもしれない。
けど、
「お化け屋敷って、そういうものだからね。分かってて楽しんでもらう分には失礼にはならないんじゃないかな? 厳かな学院祭でも、ワイワイ楽しめる場があってもいいとは思わない?」
「それは確かにそうか。建物の外装だったら、うちの会社でデザインできるぞ」
「衣装やメイクは、私の会社の劇団で用意できますわ」
「演出家はうちの会社の伝手がある。確かに、予算を使って高クオリティなお化け屋敷を用意出来れば、向こうに負けない企画になるかも……」
私が提案すると、賛成意見がちらほらと上がってきて、会話が急に弾み始めた。
中々の好感触。これはこのまま良い流れで纏まるかも。
なんて思っていた矢先、とある女子生徒が手を挙げて、和やかな空気に待ったをかけた。
「私は反対です! お化け屋敷ではなく、何かをテーマにした、コンセプトカフェを提案します!」




