ラーメン合宿
週末、とあるラーメンチェーン店の本社の、食品開発室。
沢山の食器や製麺機、麵茹の調理機なんかがずらりと並ぶ空間に、俺は生徒たちを連れて訪れた。
「おお勇星君! いらっしゃい。今日は存分に練習してくれよ?」
「真坂社長。今日はこのような場を設けてくださり、本当にありがとうございます」
この会社の社長と俺は、にこやかに挨拶をしてから握手を交わした。
「皆。今日調理場を貸してくれる、『福々屋』の真坂社長だ。ご挨拶を」
「「「よ、よろしくお願いします」」」
「こちらこそ。いやはや、各企業様のご子息の方に来ていただいて、こちらも光栄です」
社長が面を食らって佇む生徒たちに、一人一人丁寧に名刺を渡していく。
皆が困惑しながら名刺を受け取る中、城ケ崎さんが「ヘイ」と小声で呼びかけた。
「……説明を求むよ同士。一体何を始める気かな」
「本番を想定したシミュレーション。学院祭で使う調理機や食洗器はここのチェーンと同じものを使うからね。伝手を辿って、場所を借りた」
「なんでそんな伝手を唐草君がもっているのさ」
「コンビニと提携したときに、ちょうど『福々屋』とのコラボメニューをやってたんだよ。打ち合わせの時に知り合った。今回はその伝手で機材の貸し出しを依頼したんだよ」
「たまに君のことが怖くなるね……」
まあ、ダメ元で頼んでみたら、快く了承してくれた形だから、真坂社長にひたすら感謝だな。
「材料は既に冷蔵庫の中に入れてあるからね」
「ありがとうございます真坂社長。三矢君も、食材の確保ありがとう」
「こちらこそ。うちの流通網や製品をアピールするいい機会になる」
今回、ラーメンの具材や色んな味のタレを用意してもらったのは三矢君。大手食品メーカーのご令息だ。
冷蔵庫の中には、10種類近くに及ぶラーメンダレや、各種材料が、ずらりと並んだ大型冷蔵庫にぎっしりと敷き詰められている。
「凄い量ですわね……ざっと何人分ですか?」
「大体1000」
「「「「1000⁈」」」」
「学院祭期間はもっと多くの人たちが来る可能性があるんだ。これぐらいでビビるなよ」
恐れおののく皆に、やれやれと俺が息を吐いた。
「今から注文から調理までの過程を実戦形式で練習するんだ。調理服は用意してもらってある。皆、更衣室で着替えてこよう」
「待ってください唐草君。1000人分のラーメンを作るのは分かりましたけど、作ったラーメンはどうするんです? 僕たちだけで食べきれるわけも無いし、流石にそのまま廃棄するわけには――」
「勇星君。ちょうど第一陣の方たちがいらっしゃったそうだ」
狭間の質問に割り込む形で、真坂社長がスマホを片手に俺に報告する。
すると、食品開発室の外が急に騒がしくなり始めて、その声がどんどんとこっちに近づいてくる。
現れたのは、引率の先生に連れてこられた、小学生や幼稚園生たちだ。
「すいません。今日は遠くからご足労頂き、本当にありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそこんな機会を用意して頂きまして、本当にありがとうございます。皆。今日ご馳走してくれる、不亜九条高等学院の皆さまよ。しっかりとお礼をしましょうね」
「「「ありがとうございます!」」」
「「「……」」」
「……同士。説明」
城ケ崎さんが再び尋ねてくる。
「地域の小学校や、子ども食堂へ協力を呼び掛けた。オペレーションの練習に協力してほしいって。今各施設に不亜高からのバスが向かって、順次この場所へ連れてくる。食育や企業見学にもなるし、フードロスの対策にもなる」
「同士。今日は本当に君のことが恐ろしいよ……」
一応一般特待生として、学校のイメージを上げるのにも貢献しなくちゃいけないからね。各方面への配慮は将来の為にもするに越したことはない。
「はいはい! 次の団体様も控えてるんだ! 皆指定の服装に着替える! 早いとこ調理の練習をするぞ!」




