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俺の彼女をお前にやるから、お前の彼女を俺にくれ  作者: 糸音


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動き出す者たち

 

 ラーメン会議以降、A・B組の両クラスで何度か議論を重ねて、学院祭の出し物は『不亜高出張ラーメン街~ご当地ラーメン食べ比べ祭り~』に決定した。敷地は本校舎前の広場の一部を2クラス分利用する。


 ちなみに、食べ比べの案を出したのは狭間だ。


「色んなラーメンを食べ比べできるようにしましょう。色んな味を出せば、同じ施設でもリピーターが期待できますし、一度に複数のラーメンを食わせて腹を満たせば、他の飲食系の出し物を潰せます」


 後半部分は余計だが、利には適っている。

 材料の用意が大変だけど、食材の流通に長けた企業の生徒がいるし、レシピの開発も大手飲食業のご令息がいる。むしろ活躍の場を用意できる形だ。


 俺がやるべきは、皆が活躍できる場の用意と、役回りの割り振りだ。

 後は、細かな不満の芽を、一つずつ積んでいくこと。


 俺は決選投票の時、最後の方に手を挙げた生徒たちの方へ、まずは優先して声をかける。


「確か、立花さんの家、デザイン関係の企業だったよね。ラーメン街のデザインお願いしていい?」

「え? ……ええ! 任せてください! どんな案がお好みです?」


「草加君の家、印刷業だったよね。学院祭前に広告打ちたいんだ。広告関係の仕事、取り仕切って貰っていい?」

「え? ……ああ! その辺のことなら俺に任せてくれ!」


 しっかりと活躍できる場の用意だ。誰がどの分野で仕事したのか、出し物の前にクレジットで、企業と生徒の名前を記載する手筈だ。

 裏方だろうと、しっかり目立ってもらわないとな。凄いものを作れば、ゲストからの注目も集まるだろう。


「ラーメン街のデザインを組んでみましたの。建設に当たってあなたの家と業務提携を行いたいのですが……」

「うん。一緒にやろう。家の方にも話を通しておくよ」


 割り振りを行えば、生徒たちは自主的に動いてくれる。皆常識は駆けているとはいえ、家業を受け継ぐ人がほとんどだ。経営関係は、彼らに一任した方がスムーズだ。


「流石人たらし。都合よくことが進んでいそうで何よりです」


 ひと息つく俺の背後から、ぬっと狭間が現れる。普通に登場できんのかこいつは。


「俺の方はな。……それより、ミスコンの方の準備は順調なんだろうな?」

「ええ。城ケ崎さんのお茶会プランはばっちりプランニングしていますし、大会の方も僕に任せておけば大丈夫です。学院祭――それもミスコンの実行委員に選出されましたので」

「え。そうなのか。学院祭の実行委員って、倍率高めだったろ。良く滑り込めたな」


 大規模にゲストを招いて行う学院祭だ。学院祭を上手く成功させれば、実家の名前も売れるし、企画の為に様々な生徒と交流できるため、我こそはと名乗り出る生徒は多い。


 実行委員は教師が成績や評価を加味して、厳正な審査を行って決める。当然のように選ばれるってことは、こいつ、教師たちからの評価が高いのか?


「やだなあ。当然ですよ。僕が握っている弱みが、生徒のものだけだと思ってるんですか?」


 前言撤回。こいつはこういう奴だった。


 どの先生かは分からないけど、こいつが卒業するまでの間、穏やかに過ごせないことを考えると涙が止まらない。


 というか、忙しくなるって言ってたのはこのことか。実行委員に選ばれたなら、こっちの出し物に注力できる時間は減るもんな。


 かなり順調に進んでいたところ、俺たちの下に、とあるニュースが舞い込んできた。


「おい! C組、D組も合同で出し物を出すらしいぞ! 俺たちの企画に対抗してきた!」

「「「ええ⁈」」」


 2クラス分の規模を利用した独り勝ちを狙っていたところを、対抗勢力が現れた。

 その情報に、クラス中に動揺が走る。


「出し物や出店場所は?」

「……出し物はお化け屋敷。出店場所は俺たちの向かい側。敷地は当然2クラス分のものを使うから、大規模なアトラクションになる」

「よくお化け屋敷なんて企画が通ったな。ゲストを驚かせることになるから、忌避する意見も出たとは思うが……」

「なんでも、夢原さんが提案したらしい。合同での出し物も、夢原さんが起案したそうだ」


 なるほど。世俗的な出し物だとは思ったけど、結心の提案か。


 普通の学園祭では定番の企画だけど、不亜高の場合どうなんだ?

 不安になった俺は、念のため狭間に尋ねる。


「……実際どうなの。お化け屋敷って受けそう?」

「……先ほどの意見の通り、フォーマルな学院祭でゲストを驚かせる施設です。例年通りなら考えられませんが、お化け屋敷ってそういう場所でしょう」

「だよな。そういう施設だと銘打って入ってもらう場合は失礼にはならない」

「ええ。叫び声が響く結果になろうとも、そういう世俗的な体験ができると触れ込めば問題ない。向こうも『一般特待生』の意見をうまく取り込んだ形となります」


 一ご令息・ご令嬢の立場を忘れて、叫べる場所か。今までの不亜高の学院祭でそういう場所は存在しなかった。

 ジャンルは違うけど、一番の競合になるのは違いない。


 それにしても、財全会長との件で、良くも悪くも注目が集まる中、自分主体で動くのは相当な労力と苦労があっただろう。


 ここでアクションを起こすあたり、向こうもミスコン優勝の為に必死になってくれているということだ。


「本当に余計なことをしてくれましたね……」


 狭間がボソッと、恨み言のようにこぼした。

 俺が最強のライバルを生み出してしまったことは間違いない。ソーリー狭間。後悔は微塵もしてないけど。



 ♢ ♢ ♢



 出し物の企画を練り続けているうちに、学院祭1か月前になっていた。

 この時期から学院祭で使用する敷地に、出し物の建設が可能になる。


 とはいえ、本来であれば出し物の企画は、今の時期から議論することだ。準備に取り掛かるのは、2学年だけ。



 放課後、それぞれの敷地に生徒たちが集まって、設置場所の下見をする中、




「……」

「……」




 現場に居合わせた結心と目が合い、お互いに不敵な笑みを浮かべた合った後、それぞれの作業に取り掛かる。

 互いに言葉は必要ない。自分の勝利ために、全力を尽くすのみだ。


「ここからここが、家系ラーメンで、ここからここが、博多とんこつ。そして――」

「実際に現場で見ると、椅子の距離が近いね。回転率を落としてでも快適さ向上をした方が良い」


 現場はそれぞれの得意分野が上手く回してくれる。こういう時のクラスメイトたちは本当に頼もしい。


「ハロー同士ブラザー順調だね」


 俺にだけ聞こえる声の大きさで、城ケ崎さんが耳打ちしてきた。


「そっちも順調みたいじゃん。この後お茶会の予約が2件入ってるんだろ?」

「うん。大変だけど、お嬢様言葉にも慣れてきた。……とはいえ疲れた。つかの間の息抜き……」


 ふう、と大きく息を吐く城ケ崎さん。

 最初の方は中々会話が弾まなかったみたいだけど、最近は色んな人の会話に、スムーズに返せるようになったらしい。趣味がゲーム、ということまで、他の生徒にも広まっている。



「無理してる?」

「ちょっとはね。だけど、最近は頑張るのが楽しいよ」



 自分を殺してないかが心配だったけど、安心したように微笑む横顔を見る限り、そんなことはなさそうだ。


「後は皆に任せておけば、良い出し物になりそうだね」

「いや、そう簡単にはいかないよ。あと一つだけ、ここにいる全員に最難関ミッションが残っているんだ」

「最難関ミッション?」


 施設の用意はこのまま任せておけば問題ない。

 だけど、運営の為に身に付けなきゃいけないスキルが残っている。


 その日、現場の下見を終えた後、生徒たちを一同に集めて、俺は皆の前に立った。


「皆。今日はお疲れ様。施設の建設は各企業に任せる形になるから、担当者の人たちは継続的に進捗のチェックをお願いするね」

「「「はーい」」」

「……そして、ラーメンを出店するにあたって、皆に身に着けてもらわないといけないスキルがあるんだ」


 俺の真剣な声に、皆がゴクンと大きく唾をのんだ。

 そう。俺たちが出すのは飲食物。それもラーメンだ。作り置きなんかできない。

 つまり、最大利益を出すためには、案内から誘導、ラーメンの作成から片付けまで、ありとあらゆるオペレーションを身に付けなければならない。




「今週の週末から、ラーメン合宿を行う! 特別な予定がある人以外は、俺が指定した場所へ集まるように! レシピは事前に覚えてくること!」


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