学院祭準備③
「そもそも皆さん。我々の母校――不亜九条高等学院の学院祭が、世間一般からどのようなものに思われているか知っていますか?」
狭間が皆に話題を振ると、B組の生徒の一人が答えた。
「一般にどう思われているかって……、そもそも一般の人たちは、うちの学院祭なんて来ないじゃないか」
「いえ、来ないのではなく、来なくなった、が正しいです。今でこそ招かれたゲストしか入場できませんが、実は20年前、不亜高は世間に認知を図ろうと、学院祭を一般向けに開放したこともあったのです」
へえ、そうなんだ。学校関係者専用のイベントだと思ってた。
皆もそう思っていたみたいで、皆の動揺が大きくなる。
「でも、それが失敗に終わった。だから、以降の学園祭は再び招待制になり、閉鎖的なものに戻った」
「え、何で?」
「出店の商品が高すぎました。調べたら学生喫茶で出している一杯3000円のコーヒーが底値です。わざわざ遠くからやってきた庶民たちは、何も飲み食いできず、雰囲気だけ体験して帰ることとなります。交通費だけ無駄に使った形ですね」
「ばっかじゃねえのうちの学校⁈」
一般家庭の人たちを招くなら、それ相応の準備をしやがれよ! ありのままをさらけ出せば良いってもんじゃねえぞ⁈
どんなもんかと来て観た人は、富裕層との壁を感じるだけ感じて帰った形になるわけか。珍しいものを見れたかもしれないけど、体験としては最悪だろこれ。
「当然、評判は散々たるものです。当時は今ほどSNSが普及していなかったので、さほど話題にはなりませんでしたが、一部ネット掲示板のログを辿ると、数々の悪評が確認できます」
狭間が持っていたノートパソコンをプロジェクターにつないで、画面を共有する。映し出されたのは当時のログを拾ったものだ。
どれどれ……。
富裕層の汚泥、金畜生の博覧会、金で教養は買えない、ファッキュー不亜九など、すっげえ数多の罵詈雑言だ。時代が時代なら暴動起こるぞこれ。
スクリーンに共有された罵倒の数々に、皆もドン引きしている。
「……とまあ、散々な書かれようですが。実際ほとんどの生徒が、唐草君が来るまでは、庶民の生活がどんなものか、想像することもなかったわけじゃないですか。学校もそれを危惧してか、『一般特待生』なる制度を設けたわけですし」
「つまり、庶民の文化をベースにした企画を行えば、目新しさを生みながら、学校の印象を改善するきっかけになると?」
「すぐに印象は変わりませんが、楔には間違いなくなるでしょう。そうなれば、僕たちが学校を変えたと言っていいのでは? 僕らの出し物が、不亜高の歴史の確たる一部となります」
「「「学校を、変える……」」」
俺たちが。私たちが。
急にスケールが大きくなった話に、皆が真剣な表情で互いの顔を見つめ始めた。
狭間のおかげで良い流れが作れた。後一押しがあれば完璧か。
俺が追加で発言をするか迷っていると、城ケ崎さんが、「あの……!」と緊張で声を上ずらせながら立ちあがった。
「ら、ラーメンは世界の美味しい料理ランキングでも上位に入っているし、ラーメンを食べにわざわざ日本に来日する人もいます……! お手頃価格でラーメンを楽しめる施設を出せれば、学院祭でも目立つと思い、ます……! そ、それに……」
城ケ崎さんが、興奮で顔を赤くしながら、俺の方へと顔を向けた。
「庶民の文化を私たちは知らないけど、こっちには唐草君がいます。ずれている個所は、唐草君が上手く修正して、皆が楽しめる企画に調整できます。『一般特待生』がいるアドバンテージを活かすべきです……! これは、私たちにしかできない。他のクラスじゃ、真似できない」
皆の注目が俺に集まった。
いきなり注目を浴びてドキッとするけど、嫌な感じはしない。
「確かに、勇星が企画したコンビニとかの体験企画って、楽しかったんだよな……」
「あれを皆で起こすことができたら……」
今までやってきたことが実績として機能した形だ。肯定的な意見が少しずつ、数と大きさを増して各所から上がってくる。
「どうです、一旦出した案を絞るために多数決を取ってみては?」
狭間が俺に振って、俺はその流れに従って多数決を取った。
案を絞るために出した多数決だったけど、誰が示し合わせたわけでもなく、自然に票はラーメンに全部集まった。
「じゃあ、A・B組合同の企画は『ラーメン』で決定! 詳細はまた追々決めて行こう!」
俺がその場を纏めると、賛同の拍手が会議室に鳴り響いた。
解散の号令を取ったあと、自然と城ケ崎さんに人だかりができていた。
「城ケ崎さん、ラーメン詳しいの?」
「私も興味あります! 一度あなたとお話もしてみたかったですし!」
「え、えと……。とりあえず、一人ずつ……」
多くの生徒たちに飲み込まれる城ケ崎さんと、一瞬だけ視線を合わせて笑いあってから、控えめに親指を立て合った。
城ケ崎さんと表情だけで見送り合ってから、俺と狭間は静かに会議室を後にするのだった。




