学院祭準備②
俺の発表を聞き終えたB組の反応は、大体が賛成、といった印象だ。
「良いですね。折角なら他のクラスと違うことをしてみたかったのです。私」
「それに、皆が主役っていう目標も素敵ですわ。レジャー施設ってのも面白そう」
「ですよね。俺とか昨年裏方で終わっちゃいましたし」
てな感じで、規模を大きくした出し物を出すのは楽しそうって声や、昨年は裏方だったから、今回は表で頑張りたいって声がほとんど。
一部生徒は何か言いたげに複雑そうな表情だけど、確か昨年、自分主導で出し物を出していた人だった気がする。目立てる機会が減ったことは嫌だけど、和を壊すのは気が引けるって感じかな?
「とりあえず確認。全員が主役になれる企画って方向で賛成の人は挙手をして」
全員納得を待っていたら今日が終わってしまう。申し訳ないけど、この場は多数決で強引に流れを決めちまおう。方向性はスピード感命だ。
9割がた手が上がった後、残り1割が遅れて手を挙げて全員賛成。悪いね。でも、責任もって皆活躍させるからさ。
「ありがとう。じゃあとりあえず出し物の案を出していこう。とりあえず数ちょーだい。思いついたものガンガン発言して。例えば……矢島君、なんかある?」
「え、俺? えーと、脱出ゲーム、とか……?」
「いいね脱出ゲーム。こんな感じでどんどん案が欲しい」
俺がボードに案を書いたところで、チラホラと手が上がり始めた。吟味は後だ。最初は数が大事。
「遊園地とかどうです? 学内にジェットコースターとかがあれば楽しそうではありませんか?」
「執事・メイド喫茶なんてどうだ? 皆でおめかししてゲストをもてなす」
「プロジェクションマッピングを利用して、大規模なショーを行うのはどうだ? 」
可、不可はともかく、出た意見はどんどん書いていく。美術館とか、アクセサリー販売店とか。……カジノって意見出たけど、大丈夫かこれ? 専用のマネーでも用意するのか? まあ書いとこ。
ざっと20個ぐらいは出そろったか。流石に意見の出が鈍くなってきたし、皆今まで出てきたものには、どこかパッとしない印象だ。
タイミングは今がベストか。
俺が城ケ崎さんに視線を送る。「今だ」と。
城ケ崎さんのアイデアだけは共有しているけど、正直、この場のほとんどはアドリブでの進行だ。
下手に準備して芝居がかった振る舞いになるよりも、俺が向こうのアクションにアドリブを合わせたほうが自然になる。城ケ崎さんにも、狭間にもそれは了承を貰っている。
俺の合図に、城ケ崎さんは小さく息を飲んでから、恐る恐る、控えめに手を挙げた。
「お、城ケ崎さん。何か意見ある?」
少しだけ緊張で震えているか。小さな口が少し開くも、言葉が出てこない。
がんばれ。ここが最初の一歩だ。
それに、城ケ崎さんのアイデアだったら、今まで出たアイデアにも見劣りしない。
俺の思いが通じたかは分からないけど、城ケ崎さんが俺の顔を見つめてから、小さく頷いて声を出した。
「ら…………ラーメン、とか。どうでしょうか」
「「「……ラーメン?」」」
ラーメン。
一瞬だけ静まり返る会議室。
今まで大規模な案が続いていただけに、生徒たちが戸惑ったようにざわざわと話し始めた。
ナイス城ケ崎さん。大事なのは自分から意見を言うことだ。
そして、他の案とは良くも悪くも浮いた案になっている。
どんな案にも賛否はあるんだ。良いところを広げていくのは俺の仕事。
「ラーメンっていうと、屋台を出すってこと?」
「そ、そう。屋台村、みたいな……」
屋台村、と言われても皆あまりピンと来ていないのか、顔を見合わせて皆がざわめく。
俺は少し考えこむふりをしてから、「……結構いいかも」と慎重に繰り出した。
タブレットで適当なラーメンの祭りや、屋台の並びを検索してスクリーンに映す。
「俺の地元とか、定期的にラーメンのお祭りとかやるんだけど、凄い賑わいなんだよね。相当田舎のくせに、そのお祭りの来場者数、3日間で20万人とか平気で来るし」
「「「20万⁈」」」
一部の生徒たちが食いつくように反応した。流石に学院祭でその数は来ないけど、ラーメンのポテンシャルを示すには十分だ。
生徒たちの間で、ラーメンに関しての議論が一気に活性化する。
「食堂のメニューにもラーメンは無いしな。うちの学校じゃ珍しいかも」
「珍しいけど、レジャー施設でしょ? ラーメンで大規模な施設を作れます?」
「俺、勇星と一緒にラーメン食いに行ったことあるけど、独特な雰囲気で楽しかったぞ。すっごい人が並んでたし、待つのも含めていい体験だった」
「調べたらラーメン街とか出てくるぞ。街並みを再現できれば、立派なレジャーになるかも」
いいね。20個ほど意見が出ていたけど、今この会議場はラーメンの話題で一色だ。
議論があちこちで起こる中、一人の生徒が「はい」と手を挙げた。
「確かに珍しくて目を惹くかもしれないけど……言っちゃ悪いけど庶民の食べ物だ。各所からゲストが来る不亜高の学園祭には、もっと別なものが良いんじゃないかな?」
まあ、そういう意見も出てくるよね。最後に立食パーティーとかで締める学院祭だ。ラーメンが出れば驚く人もいるだろう。
そんな意見が出るのを待っていたかのように、一人の男が手を上げる。
「僕は賛成ですよ。ラーメン。良いじゃないですか庶民の食べ物。いや――庶民の食べ物だからこそ良い。不亜高のイメージを大きく変えるチャンスになる」
手を挙げたのは狭間だ。
その意見にざわつく皆の間を、不敵な笑みを浮かべながら歩き、俺の横に並び出てきた。




