学院祭準備
城ケ崎さんメイクアップ作戦を決行したその日から、生徒たちの間で、城ケ崎さんへの反応に変化が現れた。
「おい、誰だよ今のご令嬢」
「多分……B組の城ケ崎さんだ。ほら、NACの」
「ええ⁈ あんなに可愛かったっけ⁈ 前は何と言うか、変って印象だった気がするんだけど……」
道行く人とすれ違った後で、城ケ崎さんの変化に気づいて、ざわざわと声が上がる。
以前を知らなかった人でも、思わず目に留まるほどの垢抜け具合だ。噂にならないはずがない。
「……」
遠くから見守る俺に、城ケ崎さんが涙目で何かを訴えてくるが、何もできない。とりあえず応援の意味を込めて、親指を立てておこうかな。
グッド、と親指を突き立てると、城ケ崎さんが拗ねたように頬を膨らませて、自分の教室へ戻っていく。ソーリー同士。とりま頑張れ。
昼休みが終わり、5限、6限、ホームルームと過ごした後、俺は人が消えきらない内に、近くの席の男子生徒を呼び止めた。
「そういえば、学院祭の出し物を決めるのっていつだっけ」
知ってて敢えてとぼける。
俺の問いかけに、男子生徒が反応した。
「1か月先だよ。何? 勇星、学院祭そんなに楽しみなの?」
「まあね。昨年は社交ダンスとか、テーブルマナーとか覚えるので大変だったし。クラスの出し物にも最低限しか関われなかった。今年は皆で思い出に残るような何かを一緒にしたいなって思ってる」
入学してまだ2か月。学院祭の雰囲気も分からないから、馴染むために精いっぱいだった時期だ。
「勇星のクラス、昨年は出し物何だったの?」
「カフェテリアだよ。ほら、藤家さん家と茶ノ上さん家の販路を利用して、お茶とケーキ出した奴。そっちは演劇だったっけ?」
「ああ。ミュージカル風の。劇団から資材借りてやるの、楽しかったなあ」
クラスの出し物なんて言っても、学生だけで一から作る文化祭じゃない。生徒それぞれが持つ企業や家の力を持ち寄り、一つの企画を形にしていく、企業紹介としての意味合いが強い。
各企業の重鎮たちが一堂に会する貴重な場だ。だから、出し物を決める時は結構もめた記憶がある。
「今年は何やるんだろ。有名な配給会社のご令嬢もいるし……映画とか作っちゃう?」
「そういうのもいいけど、皆が主役になれそうな企画をしたいんだよね。せっかくならさ」
「あら! 何やら楽しそうな話をしてますわね! 私たちも混ざってよろしくて?」
俺の席に近い、このクラスでも良い意味で目立つご令嬢たちのグループが、自然と会話に加わってきた。ありがとう鶴見さん。君の参戦を待っていた。
「誰かの家を主体にして、出し物するのもいいけどさ、どうして偏るじゃん、役割が。残り2回しかない学院祭だ。一致団結して、俺たちも来てくれた人たちも楽しめるようなすっごい企画を、なんかやりたい」
「具体的に何か案はあるのです?」
「いや、全然?」
「おい」
俺が両手の平を見せると、談笑が起こった。
「でも大がかりな企画になるなら、今のうちに皆に相談したいなって」
「そうだなあ……。ていうか、勇星の学校とかの学院祭って、どんな感じだったの? 出し物ってどんなの出してた?」
「クラスと部活と分かれていたけど、基本は小さな出店とかだよ。クレープとか、タコ焼きとかの軽食を、自分たちで作って販売するの」
「まあ楽しそう!」
ご令嬢が上品に両手を叩くと、周囲の生徒たちもうんうんと反応した。
昨年は仕入れた高級ケーキを皿に乗せて販売するくらいだったからな。自分たちで物をつくるというのは、良い方向性ではありそうだ。
「楽しそうだな。勇星、また何かやるの?」
「え? 学院祭の話?」
「そういうことなら俺も混ぜて」
気が付けば、俺の周囲にはかなりの人だかりができていて、結局クラスにいた全員が集まることになった。
全員揃ってるので、それならばと皆席に座り直して、学級会議の体裁を取ることになった。
「……てな感じで、まず方向性だけ決めたいんだけど、全員が主役になれる企画って方向でどう? 賛成の人、どのくらいいる?」
俺が教壇に立って尋ねると、皆すんなりと手を挙げた。
「裏方が多くなるよりは楽しそうだしな」
「そうね。私、昨年は配膳の準備くらいしかできなかったし」
誰かの家を主体にすると、どうしても陰に追いやられる人たちもいる。
目立てるチャンスよりも、機会の平等を優先した形だろう。皆賛同のようだ。
「でも、全員が主役になるって、どうやって?」
「少なくとも、映画や演劇みたいな出し物は無しだな」
「となると、やっぱり飲食? 昨年みたいなカフェ企画は嫌ですわよ。私」
とはいえ、具体的な案を募ると、これといった案は出てこない。とりあえず出てきた意見を箇条書きにしながら、俺は、意見を差し込めるタイミングを計る。
「勇星さんはどう思います? 何か案があるのでは?」
ありがとう。その振りを待っていた。
「まだアバウトだけど、でっかいレジャー施設みたいなのは良いんじゃないかなって思うんだよね。昭和村みたいな……」
「昭和村?」
「うん。昔の街並みを丸ごと再現したテーマパークみたいな場所なんだけど……」
俺は学校配布のタブレットをプロジェクターにつないで、スクリーンに、インターネットのページを映し出した。
「ただ出店を出すんじゃなくて、見てるだけで楽しいような、そういう空間を野外に作りたい。矢島君の家、昨年も学校と提携して、出店の建設に関わっていたよね? こういうの得意じゃない?」
「そういう話ならありがたい。最近は3Dプリンターとかで、簡易的な建物なら数日のうちに作れるからね。うちの技術アピールの場にもなる」
矢島君が俺の言葉にうなずくと、「実現できるなら楽しいかも……」と皆がざわざわと話し始めた。
「だけど、敷地はどうする? 野外で行うにしても、クラスで申請できるのは、1クラス分の敷地だけだ。レジャー施設って言うからには広めに敷地を取らないと、スケールダウン感は否めないよ?」
最高のパスだ矢島君。他のクラスも金やコネを使って出し物を用意するんだ。この案でパッと分かる凄さを演出するには、スケールが足りないのはその通り。
つまり、敷地を広げる必要があるってわけだ。
「だったら、Bクラスと合同で企画を上げるのは? 2クラス分の敷地を使ってレジャー施設を組み上げれば、他の出し物よりもひときわ目立つ出し物ができるんじゃないか?」
俺の提案に、「なるほど」と皆顔を見合わせる。
「俺賛成。あっちのクラスに友達いるし。できることなら一緒にやりたい」
「でも大丈夫ですか? 合同の出し物なんて、過去に前例がないですわ」
「前例がないだけで、ダメって話ではないんじゃない。その年の最優秀クラスを決める時だけ、どうなるのかは気にはなるけど」
「2クラス一緒に表彰だろ。あれ、あくまで出し物に対しての表彰だし」
「だとすればライバルも減らせて、出し物の規模も上がるいい案じゃないか?」
皆が賑やかに話始める。皆の意見を聞く限り、反対意見の人はいないようだ。
「とりあえず俺、先生やB組にも話を持ち掛けてみるよ。OKが出たら、2クラスで一緒に作戦会議しようぜ」
俺が皆に確認を取ると、全員が頷いてくれた。とりあえずこの場はこれでOK。
この場はそれで解散して、俺はすぐさまA組とB組の担任の先生に相談をしに行った。俺の提案に二人とも乗り気で頷いてくれた。
翌朝のホームルームで、B組の担任が、俺の提案をクラスに話してくれたらしい。その日の放課後、会議室を借りて、2クラス合同で学院祭の出し物について、話し合いをすることになった。
Aクラス、Bクラスの生徒が一堂に会する室内に、城ケ崎さんと狭間の姿もある。
いつもより少しだけ鼓動が早くなる心臓を落ち着かせるように、俺は皆の前に立って小さく深呼吸をする。
「今日は集まってくれてありがとうございます。先生から伝わっていると思うのですが、今回、学院祭の出し物を、クラス共同でできたらと思って、このような場を用意させていただきました」
とりあえず、作戦の一歩目までは辿り着けた。
俺は夜のうちに用意したパワーポイントを使って、昨日クラスで出た意見を纏めて、この場の全員に共有をし始めた。




