メイクアップ。城ケ崎さん
「はい変です。ヘッドフォン没収。お茶会に変な個性を出さないように」
「……お気にのヘッドフォンなのに」
狭間が指摘の後、ヘッドフォンを没収する。羞恥に顔を赤く染めながらも、ブウッと頬を膨らます城ケ崎さん。
だけど、俺の視線に気づいて再び視線を恥ずかしそうにずらしてから、
「……変、じゃない?」
斜め下に俯きながらも、上目遣いで俺を見上げながら尋ね直してくる。
恥ずかしさでウィーブのかかった髪を指先でいじる姿に、俺は思わず息をのんだ。
「変じゃない。けど、別人みたい。いい意味でどこかのお嬢様みたいだ」
最初に目を奪われたのは、その瞳だった。薄く引かれたアイラインが大人びた印象を作り、いつもより少しだけ視線を合わせづらい。
視線を逸らそうと下に瞼を動かすと、薄紅色のリップで艶やかになった唇が映り、反射的に心臓が跳ねる。
服も着崩していた制服はきっちりと整えられていて、ルーズソックスは学校指定のハイソックスへ。赤いスニーカーも革靴に変わり、着ている服はほとんど同じはずなのに、凄く清らかな印象だ。
不亜高はいいとこの出自がほとんどだからか、顔面偏差値は高い。
そんな生徒たちに見慣れた俺でも見とれてしまうのは、普段とのギャップに驚いているからか。城ケ崎さんが磨けばさらに光る宝石だったからか。
「みたい、じゃなくて実際お嬢様ですからね。NACの令嬢ですよ」
どうやら紙袋の中身は指定の服とメイク道具だったらしい。
「……お嬢様になりたくないから、化粧とか控えていたのに」
ああそうか。服装とかノーメイクは、完全に城ケ崎さんの好みでやっていることかと思っていたけど、そういう意味合いもあったのか。
「今後は他の生徒とも積極的に関わっていくのです。お茶会にノーメイクは完全にNGですからね」
「え、そうなの? 俺からすれば逆のイメージだと思ってた」
「と、いうと?」
「いや、男女混合でお茶会すること多いじゃん。……なんていうか、その、……一人だけ突出して華やかだと、色々とトラブルとか起こるんじゃ……」
自分で言ってて恥ずかしくなる。
ああ、城ケ崎さん! 顔から湯気を出さないで! なおのこと恥ずかしさが増してくるから!
顔から熱を吐く俺たちに冷や水を浴びせるような息を吐いてから、狭間が首を振った。
「いいえ、その逆です。ノーメイクで行く方が失礼です」
「そうなの? ……結心が入学当初はお茶会に馴染めなくて苦労してたから、なんて言うか、そういうやっかみがあったのかと……」
「夢原さんは一般家庭の生まれなのに、男性陣からのお茶会に当初は引っ張りだこでしたからね。容姿に対する僻みもあったでしょうが、彼女、最初はノーメイクだったでしょう? 拍車をかけたのはそのせいですよ」
え、そうなの?
なおも本質をつかみきれない俺に、狭間が続けた。
「同性の立場で考えてくださいね。生徒間同士とはいえ、お茶会とは家と家とが縁を結ぶための戦場です。身形や作法を整え、相手に少しでも良い印象を残すための準備をして挑むのが普通なのですよ。そこに、ノーメイクで他より可愛い女子なんか現れてみてください。ムカつくでしょ?」
「あ、うん……なるほどね」
理屈は分かったが、結心が例に挙げられると頷きづらい。
「ゲームで言うと、他がちゃんとした装備で戦場に出てくるのに、夢原さんは、ひのきのぼう一本で現れるのです。お前らごとき、これ一本で十分かな……ってね」
「ゆ、結心はそんなこと考えないって!」
「事実としてそうという話ですよ。身なりを整えるということは、その場をそれだけ重んじているという意思表明でもあります。それをしてこないやつは、他の奴らを舐めていると思われても仕方がない。舐めプされてムカつかない人います? 格ゲーで片手一本で相手されて、ムカつかない奴なんていないでしょ?」
「グフッ――」
「? 何で城ケ崎さんがダメージを受けているんです?」
なるほど、確かに舐めプは良くない。結心が浮いてしまった原因も納得だ。
舐めプは良くないよね。城ケ崎さん。片手で操作して、ましてや勝ってしまうなんて、反感買うどころの振る舞いじゃないよね。城ケ崎さん。
不思議そうな視線を城ケ崎さんに向けながら、「ともかく」と狭間がまとめに入る。
「学院祭までの間、メイクも含めて身だしなみはちゃんとしてもらいます。入り口で躓いては話になりませんからね。喋り方も、お相手と個人的に打ち解けるまでは気を付けてください」
「【同士】とかだめってこと?」
「はい。仲良くなってからは知りませんが」
俺は嫌じゃないけど、畏まった場には不適切か。
「……」
とはいえ、城ケ崎さんのアイデンティティが次々と蓋をされるみたいだな。実際城ケ崎さんの顔も、思うところがあるのかどこか暗い。
まあ、NACのご令嬢って型にはまり直す形になるから、忌避感を覚えるのは当然のことだとは思う。だからこそだ。
「皆と仲良くなって、ガンガン同士を増やさないとな」
「……! うん!」
自然体で話せる人たちを、これを機に沢山作ろう。
俺がガッツポーズをすると、城ケ崎さんも気合を入れ直して同じポーズで返した。
かくして、ミスコンと、学院祭の両方に向けての準備が始まり、忙しく慌ただしい日々がスタートするのであった。




