君のこと大好きだ。私
「……なるほどね。勇星、レストランでそんなことをしていたんだ」
結心のじとりとした視線が俺を刺す。
経緯を説明するにあたって、盗聴のことを黙っているわけにはいかない。
初手土下座から始まった話を、結心は最後まで聞いてくれた。
「……どんな罰でもお受けします」
「……危うい部分があるとは思ってたけど、ここまで大胆なことをされるのは予想外だ」
うう。結心の呆れた息が怖い。
ちょっとだけ困ったように首を振ってから、結心は表情を改めて俺に向かい直った。
「それで、ミスコンの件だけど……要は城ケ崎さんのことを、会長に見直してほしいわけだよね?」
「うん。その為にミスコンを最高の場にしたい。最高の場には、それにふさわしい最強のライバルたちが必要だと思うんだ」
「つまり、私は城ケ崎さんの踏み台になれってことだよね?」
「え? あ、いや! そんなつもりじゃ……! あ、でも結果としてそうなのか……?」
やべえ。勢いで言っちゃったけど、城ケ崎さんが勝つって宣言した上で、出ろっていうのはそういうことじゃん。
今になって冷や汗が湧き出てくる。もしかして俺、結構最低な発言をしているのでは?
今になって冷や汗を流す俺を、品定めするような顔つきで眺めた後、
「――ふふ……! あははははは!」
何かを堪えかねた結心が、気持ちよさそうに、楽しそうに大きな声を上げて笑った。
「はあ~~~~、おかし。……やっぱ君のこと大好きだ。私」
笑いすぎて溢れた涙を人差し指で拭う結心。
かなり失礼な申し出だったと今更になって焦る俺は、しどろもどろになりながら結心に尋ねた。
「その、なんていうか、ミスコンってただ可愛いだけじゃ駄目らしくて……。家とか生徒間での交流も大事らしくて……。結心でも優勝するには、色々と不利な要素が多いんだけど……、出てくれるの?」
「いいよ。だって、信じてくれてるんでしょ? 私なら勝てるって」
「うん」
「でも、最終的には城ケ崎さんを勝たせたいのよね?」
「……うん。最強のライバルに勝ってこそ、完全優勝ってやつだし」
なんて言うか、城ケ崎さんも凄く魅力的だけど、今の俺にとって、一番越えたい壁は結心なんだ。
勝つことで意味がある――ミスコンで勝った時に、胸を張って『城ケ崎さんは最高だろ』って証明できるのは結心なんだ。つまり、俺の中での最高難易度ミッション。
それを負かしますって宣言するのは、傍から見れば尊敬しているんだかしてないんだか。
ちょっと自信がなくなって、首の角度が下がってしまう。
「その代わりさ、私が勝ったらご褒美頂戴よ」
「ご、ご褒美?」
「うん。もしも私が勝ったら、USJのチケットを私に奢る。全部終わったら一緒に付き合うこと」
「結構な出費だなあ。こいつは負けられない」
一杯2000円の水とかの後だと、ささやかな出費に思えてしまうけど、このささやかな幸せが等身大の俺だと改めて実感する。
二人で笑いあった後、「それじゃあ」と俺は踵を返した。
結心も俺に会うなとは言われているんだ。あまり長居して見つかるわけにはいかない。
寮へ戻ろうとしたときに、ふと胸が小さく疼いて、俺は顔だけ振り返った。
「結心」
改まった声色の俺に、結心も少し目を丸めて向かい直る。
「俺、いつまでも待てるよ。今日改めて、そう思った」
「……私も元気貰った。ありがと」
互いに微笑みあって、小さく手を振ってから、同時にそれぞれの場所へと足を延ばす。
自然と上がった口角を抑えきれないまま、俺は男子寮までの道を小走りで戻った。
♢ ♢ ♢
「はあ~~~~~~~~…………。自分でライバル増やして何がしたいんです? 唐草君は」
翌日の昼休み、おなじみの集会場となりつつある本校舎の屋上。
昨晩の結心との会話を城ケ崎さんたちに共有すると、狭間に死ぬほどでかいため息をつかれた。
「いや、だから、城ケ崎の優勝に箔をつけるためには、最強のライバルが必要という話で……」
「スター選手のいない甲子園があったとしても、優勝したらちゃんと箔はつくでしょう。自ら障害増やしてどうするんです。一応僕ら巻き込まれた身なんだから、勝手な行いは控えてもらえません?」
案を出したのは狭間だけど、元の言い出しっぺは俺だ。勢いだけで行動すべきじゃなかったか。
正論で返されてぐうの音もでない。
身を縮める俺に、じとりとした城ケ崎さんの視線が絡んでくる。ソーリー同士。今後はつつしむよ。
「……まあ、余計なライバルが増えたとはいえ、ミスコンに向けてやるべきことは変わりません。後2か月、優勝に向けてやるべきことをやりましょう」
「OK策士。具体的には何をすればいいの?」
勝利条件は容姿・家柄・教養の総ステータスだったか。
見た目は城ケ崎さんならメイクを整えればクリアできる。教養は成績が良いってことなら、大丈夫なはずだ。
当時は意識してなかったけど、学内の期末テストの順位を張り出す時に、城ケ崎さんの名前は結構な頻度で見たことがあった気がする。
つまり、必要なのは家柄のステータス。生徒間でのコネクションだ。
「やらなければいけないことは沢山ありますが、まずはこれをしなければ始まりません」
「お茶会の準備だな。そこは狭間主導で上手いプランニングを頼めれば――」
「は? まだそんな段階じゃないでしょ。お茶会よりも優先しなければならないものがあります」
ん? お茶会よりも優先すべきこと?
首をかしげる俺と城ケ崎さんに、狭間は一枚の書類を差し出した。
「学院祭の出し物を決めてください。何でもいいです。飲食系でもアトラクション系でも」




