新たなミッション
「学院祭ってあれだよな。一週間くらいかけてやるお祭りみたいなやつ……」
年一であるイベントだった。超大規模な学園蔡兼、文化祭みたいなものだったはず。
学校や生徒たちがコネクションを使って、様々なテナントを出店したり、本校舎の大広間で立食パーティーみたいなのを行ったりだ。
「はい。不亜高の設立記念日から1週間にかけて行われる学校行事です。普段は海外を拠点にされている保護者の方も、この時ばかりは学院祭に参加するために帰ってくるほどの一大イベントです」
「そうなのか。賑わっているとは思ったけど、そこまで重要度が高いとは思ってなかった」
「様々な企業の重鎮たちが集う場ですからね。社交でこれ以上の機会はないですからね」
「それと、ミスコンがどう関係あるんだ? 」
「ミスコンの優勝者……ミス不亜高はどのように選抜するかは知っていますか?」
うーん、知らない。昨年の今頃は雰囲気に馴染むので必死だったしな。立食パーティー用に、社交ダンスのステップを覚えたり、お茶会の作法を覚えたりで忙しかった。
まあミスコンって言うくらいだから……
「一番可愛い人を選ぶんだろ? アイドルフェスみたいな感じで」
なんて言った瞬間、城ケ崎さんと狭間が呆れて首を振った。
……城ケ崎さんまでその反応ってことは、大分間の抜けた認識だったってことね。とほほ。
「社交の場だと言ったでしょう。イベントとは言え、その年の学校の顔になる人です。容姿・家柄・教養の3ステータスの総合値の高さで選抜します」
「可愛いだけじゃだめってこと?」
「可愛いだけじゃ、だめだよ同士」
俺の思うミスコンとは若干違うってことだな。
「優勝者は学校から大々的に表彰されます。名だたる大企業の方たちの前でね。女性としての名誉と、一企業令嬢としての尊厳を同時に得る形となります」
「ミス不亜高に選ばれれば、『城ケ崎虎々奈は最高の令嬢だ』ってことを、学校中に認知できるってこと?」
「そういうことです。……最も、本人にやる気があれば、の話ですが」
俺と狭間が同時に城ケ崎さんを見ると、当の本人は気まずそうに目をそらす。
「……勝てる自信がない。唐草君は可愛い、って言ってくれたけど……容姿とか自信ないし。……何より、私、友達って呼べるような人、ほとんどいない」
そういえば、お茶会とかもあまり参加していないって言ってたっけ。
「さっきの3ステータス、容姿は見た目。教養は成績って認識でいいの?」
「ええ。教養に関しては雑学やマナーなど、多方面の分野も含みますが」
「家柄の判定は? NACって大企業だろ? 城ケ崎さん有利じゃないの?」
「家柄はコネクション。生徒間との交流状況ですね。ミス不亜高を決めるにあたって、生徒や保護者間での決戦投票が行われます」
あー。身内票が混ざるなら、繋がりが沢山あった方が有利ってことね。投票先がミス不亜高になれば、間接的に、自分の家の位も上がる。
友達がいないと不利ってのはそういうことか。
……まあ、だけど。
「あと2か月あるんだろ。コネクションなら今から作ればいい」
「……? どういうこと、唐草君?」
「だって俺、自分で言うのもあれだけど、入学2か月で同学年の大体の人と仲良くなったし。先輩や後輩とも、販売会とかで繋がりがある。家柄は無いけど、顔の広さだったら財全会長にだって劣らない」
城ケ崎さんと狭間は、よくそんなこと言えたもんだというような複雑な表情で顔を見合わせた。
でも、顔には出すけど言葉にしない当たり、的を外した発言でもない。
「唐草君は、良くも悪くも家同士の派閥争いに無縁なんですよ。だけど城ケ崎さんはそうもいかないでしょ」
「そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれないでしょ」
「何が言いたいんですか?」
「交流する前から、家柄とか、自分以外のこと気にしすぎなんじゃないのかって話」
俺が微笑むと、城ケ崎さんは驚いたように目を丸めた。
「……いやまあ、入学したての時期に、めっちゃお茶会に誘われたんだよね。そのときは初めての『一般特待生』ってことで、珍しさから誘ってくれた人がほとんどだったと思う。だけど、そこで交流ができた人とは、今は1友達として交流してる人がほとんどだよ」
「それは、唐草君が良くも悪くも無害な人だから……。NACとコネクションを持つことだけを目的に、心無い人が寄ってくるかもしれない……」
「いいじゃん、きっかけはそれで。思い知らせてやればいいよ。城ケ崎さんって人の魅力を」
「君は……中々に人たらしだ。同士……」
城ケ崎さんが口元を抑えながら、再び頬を赤く染めた。
まあ、ちょっと恥ずかしいことを言っている自覚はあるよ。
だけど、多分この決断が、城ケ崎さんにとって、大きな意味を持つものになりそうだから、お世辞とかおべっかとか、余計な要素を混ぜたくない。
「狭間。ミスコンに負けても死ぬわけじゃないよな」
「当たり前でしょう。毎年死人を出す学校行事がありますか。酷い負け方をした場合、恥をかくくらいじゃないですか?」
「じゃあローリスク、ハイリターンだ。ベッドするのは出場するっていう勇気だけ」
俺は城ケ崎さんに向かい直って、焚きつける様に優しく指を突きつけた。
「ゲーマーなんだろ? 高難易度なミッションには燃えないタイプ?」
あえて、挑発的に。手で招くような声色で。
俺の誘いに、城ケ崎さんは小さく唾を飲み込んだ後、「ふふ」と笑い声を漏らして、俺に控えめな仕草で指を突きつけ返してきた。
「そこまで言うなら、君が責任をもってリードをしてね参謀者」
「OK主人公。一蓮托生だ」
互い笑って、優しく拳を突きつけた。コツンとぶつかる感覚が心地いい。
学院祭を勝ち抜くための共同戦線がここに結成して、狭間は俺たちの様子を「やれやれ」と言わんばかりの表情で、一歩引いた位置から見守っていた。
♢ ♢ ♢
レストランでの食事を終えた後、城ケ崎さんに寮まで車で送られた。
時刻は既に夜の10時。土日は学校関係者も生徒もほとんどいない。冷えた夜の空気が静寂さを際立たせる。
「……」
俺は車の中でずっと考えていた。
城ケ崎さんがミスコンに出て、優勝をかっさらう。
そのシナリオ自体は良いと思う。
それで、財全会長も城ケ崎さんのことを見直すきっかけになるだろうし、何より城ケ崎さんが他の生徒たちと一人の人間としてつながる機会にもなる。
「……よし」
だけど、だからこそだ。まだ足りないものがある。
城ケ崎さんが出場するミスコンは、最高の場でなくてはならない。
イベントとはいえ、優劣を競う場だ。誰が相手でもいいわけじゃない。
一番強い相手に勝ってこそ意味がある。
俺は寮に戻らず、とある場所へ向かって走り出した。
照明が点々と照らす道を、冷たい空気を吸い込んで、温かい息を吐きだしながら駆け抜ける。
一心不乱に走った先に見えたのは、女子寮だ。
ほとんどが明かりのついていない窓が並ぶ中、唯一部屋の明かりが漏れ出ている窓に向かう。
あたりに人気が無いことを確認したから、俺は叫んだ。
「結心‼」
俺が呼ぶと、カーテンの奥に人影が見え、開いた窓から寝間着姿の結心が顔を出した。
「……⁈ 勇星⁈ どうしたの、こんな時間に?」
辺りを見渡してから、結心が窓から俺を見下ろしてくる。
驚いた様子の結心に、俺は一つ大きく息を吸い込んでから、宣言するように叫んだ。
「今度のミスコン出てよ‼ 城ケ崎さんが優勝するから‼」
最高の場に必要な存在。それは互いに競い合う最強のライバルだ。
俺の言葉に困惑しながらも、「今下りる!」と結心が踵を返す。
しばらく待つと、上着を羽織った結心が現れて、俺は寮の入り口で、事の経緯を話すのだった。




