思い知らせてやらないと。
「思い知らせるって、何を?」
顎に手を当てながら尋ねる狭間に、俺は怒りで高ぶる声をなんとか抑えながら続けた。
「立派な交際相手をお婆さんに見せたかったって話だろ。だったら結心じゃなくてもよかったじゃないか」
「……いや、だから、他の生徒たちが家柄を気にしながら振舞っている中、その枠にとらわれず過ごす結心さんが魅力的だったって話で……」
「そういう魅力をもつ人間って話なら、城ケ崎さんでもよかっただろって話だよ」
「――へ?」
城ケ崎さんから裏返った声が聞こえたけど、なんだか口が止まらない。
言いたいことが伝わっていないのか、薄く口を開けて固まる狭間に、俺はぶつけるように続けた。
「結心は頭も良くて優しくて可愛い。生まれとか関係なく一人の人間として魅力的だけど、城ケ崎さんだってタイプは違うけど、頭良くて優しくて可愛い、一人の人間として魅力的だろって話をしてんだよ‼」
「――ふぇ⁈」
「縁談で始まった関係かもしれない、城ケ崎さんのこと知る機会が無かったってわけじゃないだろ! なのに、城ケ崎さんのことを良く知りもせず、あいつはダメだみたいなこと言って! まだ1週間くらいの付き合いの俺ですら、城ケ崎さんの魅力、たくさん知ってるぞ! それをあいつは――」
「か、唐草君! 唐草君‼ ストップ! ストップぅ……‼」
畳みかけるように叫んだ俺に、城ケ崎さんがしがみついた。
……顔が真っ赤だ。何か変なことを言っただろうか。
「……唐草君。まずは落ち着いて、僕たちを俯瞰視点で見ているイメージをしましょう」
なんだ、そんな呆れた顔して。神の視点ってやつか? 部屋の隅から、俺たち全員を眺めるイメージ……。よし、できた。
「客観的に考えてください。あなた今、凄く大胆な発言をしています。とても大胆な発言を、本人の前で。理解できますか?」
大胆……? 本人……?
俺が真っ白な頭で城ケ崎さんの方を向くと、今にも湯気を噴き出しそうなほど、熱い汗をかいている城ケ崎さんが、コクコクと小鳥のように縦に首を振る。
途端にクリアになる思考。
急激に襲ってくる理解と羞恥。
「……分かったようですね」
「……はい」
城ケ崎さんに並んで、俺も今更ながら顔がめっちゃ熱くなってきた。やべえ。今城ケ崎さんの方を向けねえわ。
頭と顔を冷やすために、水を飲む。……よし、ちょっと落ち着いた。……あ、これ一杯2000円の水か。もっと味わって飲めばよかった。値段のことを考えられる程度には頭も冷めた。
落ち着いたことを確認するために、小さく咳払いをしてから、まだまとまりきらない言葉を、ゆっくりと繋ぐように吐き出した。
「……なんていうか、俺と結心の関係は元に戻したいけど、財全会長と城ケ崎さんの関係がこのまま元に戻るのは嫌なんだよ」
戻った先で、お互いに楽しいことがあれば、それで終わりでいい。
だけど、今日ゲーセンで聞いた城ケ崎さんの思いを聞けば、これで解決していいのかって思いが強く残る。
もちろん、今後も城ケ崎さんと仲良くしたいし、結心とかと一緒に、またゲーセンとか行きたい。
うーん。やっぱりまだ頭がまとまらないな。なんて言葉にすればいいんだ? この気持ち。
「……大丈夫だよ同士。私のことは心配しないでも」
「悪いけど心配はしてない」
「ええ……」
「ただ、なんて言うか……」
ああ、そうか。心配じゃないな、この感情は。ようやく腑に落ちた。
「思い知らせてやりたいんだよ。城ケ崎さんの良さを。財全会長に――」
城ケ崎さんを、トレードの材料にしたことが許せないんだ。
あいつ、俺に城ケ崎さんを紹介するときに、「良いとこの令嬢と交際する機会」なんて言ってたわ。
令嬢も機会も興味ねえよ。
あいつがものとして扱った人の魅力を、ちゃんと思い知らせてやりたいんだ。
「要は、婚約破棄してきた元婚約者に、『あなたが捨てた女性はこんなにも魅力あふれた人間でしたよ』って思い知らせる形で復讐したい――こんなところで合ってます?」
「あー、それだわ。流石狭間」
こういう時に、冷めた分析屋は頼りになるな。
「と、いうわけなんだけど、なんか良い案とかある?」
「そんなアバウトに頼られても困りますよ。何でも叶えるドラえもんじゃないんだから」
狭間が毒を吐くように突っ込んだが、すぐさま思考モードに切り替わって、何やら考え始めた。
「……会長個人、に限らず、全校生徒に知らしめる形でならなくはないかと」
「どういうことだ?」
俺が首をかしげると、狭間はすぐにスマホを叩いて、俺に不亜高のホームページを見せてきた。
サイドバーのメニューから行事予定表のページを開いて、とある行事を指さしてきた。
「「第62回 不亜九条高等学院 学院祭?」」
「はい。この学院祭のミスコンに出場し、『ミス不亜高』に選ばれればよいのです」




