盗聴開始
俺と城ケ崎さんは心ゆくまで遊んだ後、迎えの車に乗せられて、中央帝国ホテルに向かった。
着いた頃には空が暗くなりかけていて、街灯やビルの光が街全体を照らしている。
移動中にメイクを整え直しながら、俺と城ケ崎さんはホテルの入り口で降りた。
既に入り口前には、高そうなベストを着こんだ狭間が待っていた。
「……チッ」
「会って早々、なんで舌打ち?」
「こういう時の服、持ってたんですね。ユニクロとかで来たら馬鹿にしてやろうと思ったのに」
クソあぶねえ‼ 100万払った甲斐があった‼
高級ブランドの紙袋に入ってるユニクロ装備1式は、しばらく城ケ崎さんにあずかってもらおう。
「早く中に入っちゃお。司が来る時間じゃないけど、万が一ってこともあるしね」
城ケ崎さんを先頭にエントランスをくぐると、見上げるような高い天井のエントランスに体が自然と強張った。
大きなシャンデリアや道行く人の姿を、鏡のように反射する床に、黒や金を中心に作られた、高級感漂う備品の数々。俺は接客に詳しいわけじゃないけど。ホテルマンの一挙一動が、自分が受けてきた接客よりも、数段レベルの高いものだと分かる。
格式高いホテルは入り口から荘厳な雰囲気を放っていて、巨大な生物の口の中に飲み込まれたような気分になってしまった。
そんなホテルの中を、まるで自分の庭でも歩くように、背筋を正しながら優雅に城ケ崎さんが歩いていく。狭間もなんだかんだで、フォーマルな姿が様になっていた。
「あんまキョロキョロしないでくださいよ。お昇りだってバレるでしょ」
「……すいません」
夜景が見えるエレベーターの中で、狭間にダメ出しを食らった。今回ばかりは返す言葉がない。
最上階に辿り着くと、天空レストランの受付の前に辿り着いた。
「城ケ崎です」
「お待ちしておりました。お部屋へ案内いたします」
奥には綺麗な景色が一望できるホールがあるけど、今回は個室なのね。こういう場違いな場所で人の目ありだと、通るものも通らないからありがたい。
「……宇都君」
部屋へ案内される途中、城ケ崎さんがさりげなく、とある部屋のドアを指さし『Reserved』の掛札が下げられた部屋の中に、案内の目を盗んで、狭間が何かを忍ばせる。
「では、ごゆっくりお過ごしくださいませ」
案内を終えたスタッフが消えた後、ファーストドリンクを選ぶ狭間に俺は尋ねた。
「なあ、さっき何を仕込んだんだ?」
「この前城ケ崎さんに頼まれた、『準備』ってやつですよ」
狭間がポケットから取り出したのは、超小型カメラを搭載した、歩行ロボットだ。
本体のサイズも指の平に乗るほど小さい。
目を細めながらロボットを見る俺に、狭間がスマホの画面を突き出してきた。
「うちの会社で試作途中のマイクロロボットです。自在に動く四本のアームで、多少の段差ならなんのその。狭い隙間で要救助者の安否の確認などにつける、災害用ロボットですよ」
「すごいね。こんな小型なのに、画質も音声もすごくクリアだ」
城ケ崎さんが感心して唸る。ゲーマーだからか、スペックに感動するものがあるらしい。
「そんなすごいロボットを盗聴なんかに使用していいのか?」
「正義のロボットも、僕の手にかかればこんなもんです」
「共犯だから強くは言えないけど、胸を張るのはやめような」
得意げに微笑んでいるが、先進技術を悪用しているだけだ。
「もちろんこういう使い方をするのは今回だけです。万が一これで盗聴されていることがばれると、実家に悪評が付くどころでは収まりませんからね」
狭間なりにリスクを背負ってくれているのは分かるが、リスクさえなければ盗聴し放題な言い回しは気になる。
「それよりも、あそこを予約しているのは財全会長で間違いないんです?」
「うん。夜景が一番きれいに見える部屋。あそこで7時に食事を摂るのが司が好きなデートプラン。あの部屋が取れないなら、司はそもそもここに来ない」
「もう許嫁じゃないんでしょ。良く会長のスケジュールを教えてもらえましたね」
「元とはいえ許嫁ではあったし、実家の繋がりもあるから無下にはできないじゃないの。司が特待生と出かけることまでは教えてくれた」
「ここに来るのに確証はないってことだよな? もしも財全会長たちがここに現れなかったら?」
「二人で出かける度に、ここで張ればいいんじゃない?」
尋ねる俺に、城ケ崎さんがブラックカードを見せつける。
うん、やっぱりこの人たちと俺じゃ金の感覚が違うな。俺はミネラルウォーター2000円の表記で、既に泡を吹いてしまいそうだ。
その後、ファーストドリンクを頼むついでに城ケ崎さんが、
「コースはデザート以外、最初に全部持ってきて。デザートは私が頼んだときに」
「かしこまりました」
そう給仕のスタッフに指示すると、豪勢なコース料理が次々と運ばれてきた。
まあ、これから盗聴するんだもんな。盗聴中に料理を持って来られてもまずいか。
元々は順番に運んでこられる料理が円卓にずらっと並んだせいで、一気に机が狭くなる。
並んだ料理を二人が口にし始めてから、俺も1杯5000円のジュースを口にしようとしたところで、
『こちら、ご予約の席となります』
『ありがとう。さあ結心、こちらの席に』
狭間のスマートフォンから財全会長の声が聞こえ、俺たちは手を止めて、狭間の下へ椅子を寄せた。




