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俺の彼女をお前にやるから、お前の彼女を俺にくれ  作者: 糸音


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14/55

盗聴開始

 俺と城ケ崎さんは心ゆくまで遊んだ後、迎えの車に乗せられて、中央帝国ホテルに向かった。

 着いた頃には空が暗くなりかけていて、街灯やビルの光が街全体を照らしている。

 移動中にメイクを整え直しながら、俺と城ケ崎さんはホテルの入り口で降りた。


 既に入り口前には、高そうなベストを着こんだ狭間が待っていた。


「……チッ」

「会って早々、なんで舌打ち?」

「こういう時の服、持ってたんですね。ユニクロとかで来たら馬鹿にしてやろうと思ったのに」


 クソあぶねえ‼ 100万払った甲斐があった‼

 高級ブランドの紙袋に入ってるユニクロ装備1式は、しばらく城ケ崎さんにあずかってもらおう。


「早く中に入っちゃお。司が来る時間じゃないけど、万が一ってこともあるしね」


 城ケ崎さんを先頭にエントランスをくぐると、見上げるような高い天井のエントランスに体が自然と強張った。

 大きなシャンデリアや道行く人の姿を、鏡のように反射する床に、黒や金を中心に作られた、高級感漂う備品の数々。俺は接客に詳しいわけじゃないけど。ホテルマンの一挙一動が、自分が受けてきた接客よりも、数段レベルの高いものだと分かる。


 格式高いホテルは入り口から荘厳な雰囲気を放っていて、巨大な生物の口の中に飲み込まれたような気分になってしまった。


 そんなホテルの中を、まるで自分の庭でも歩くように、背筋を正しながら優雅に城ケ崎さんが歩いていく。狭間もなんだかんだで、フォーマルな姿が様になっていた。


「あんまキョロキョロしないでくださいよ。お昇りだってバレるでしょ」

「……すいません」


 夜景が見えるエレベーターの中で、狭間にダメ出しを食らった。今回ばかりは返す言葉がない。

 最上階に辿り着くと、天空レストランの受付の前に辿り着いた。


「城ケ崎です」

「お待ちしておりました。お部屋へ案内いたします」


 奥には綺麗な景色が一望できるホールがあるけど、今回は個室なのね。こういう場違いな場所で人の目ありだと、通るものも通らないからありがたい。


「……宇都君」


 部屋へ案内される途中、城ケ崎さんがさりげなく、とある部屋のドアを指さし『Reserved』の掛札が下げられた部屋の中に、案内の目を盗んで、狭間が何かを忍ばせる。


「では、ごゆっくりお過ごしくださいませ」


 案内を終えたスタッフが消えた後、ファーストドリンクを選ぶ狭間に俺は尋ねた。


「なあ、さっき何を仕込んだんだ?」

「この前城ケ崎さんに頼まれた、『準備』ってやつですよ」


 狭間がポケットから取り出したのは、超小型カメラを搭載した、歩行ロボットだ。

 本体のサイズも指の平に乗るほど小さい。

 目を細めながらロボットを見る俺に、狭間がスマホの画面を突き出してきた。


「うちの会社で試作途中のマイクロロボットです。自在に動く四本のアームで、多少の段差ならなんのその。狭い隙間で要救助者の安否の確認などにつける、災害用ロボットですよ」

「すごいね。こんな小型なのに、画質も音声もすごくクリアだ」


 城ケ崎さんが感心して唸る。ゲーマーだからか、スペックに感動するものがあるらしい。


「そんなすごいロボットを盗聴なんかに使用していいのか?」

「正義のロボットも、僕の手にかかればこんなもんです」

「共犯だから強くは言えないけど、胸を張るのはやめような」


 得意げに微笑んでいるが、先進技術を悪用しているだけだ。


「もちろんこういう使い方をするのは今回だけです。万が一これで盗聴されていることがばれると、実家に悪評が付くどころでは収まりませんからね」


 狭間なりにリスクを背負ってくれているのは分かるが、リスクさえなければ盗聴し放題な言い回しは気になる。


「それよりも、あそこを予約しているのは財全会長で間違いないんです?」

「うん。夜景が一番きれいに見える部屋。あそこで7時に食事を摂るのが司が好きなデートプラン。あの部屋が取れないなら、司はそもそもここに来ない」

「もう許嫁じゃないんでしょ。良く会長のスケジュールを教えてもらえましたね」

「元とはいえ許嫁ではあったし、実家の繋がりもあるから無下にはできないじゃないの。司が特待生と出かけることまでは教えてくれた」

「ここに来るのに確証はないってことだよな? もしも財全会長たちがここに現れなかったら?」

「二人で出かける度に、ここで張ればいいんじゃない?」


 尋ねる俺に、城ケ崎さんがブラックカードを見せつける。

 うん、やっぱりこの人たちと俺じゃ金の感覚が違うな。俺はミネラルウォーター2000円の表記で、既に泡を吹いてしまいそうだ。


 その後、ファーストドリンクを頼むついでに城ケ崎さんが、


「コースはデザート以外、最初に全部持ってきて。デザートは私が頼んだときに」

「かしこまりました」


 そう給仕のスタッフに指示すると、豪勢なコース料理が次々と運ばれてきた。

 まあ、これから盗聴するんだもんな。盗聴中に料理を持って来られてもまずいか。


 元々は順番に運んでこられる料理が円卓にずらっと並んだせいで、一気に机が狭くなる。


 並んだ料理を二人が口にし始めてから、俺も1杯5000円のジュースを口にしようとしたところで、




『こちら、ご予約の席となります』

『ありがとう。さあ結心、こちらの席に』




 狭間のスマートフォンから財全会長の声が聞こえ、俺たちは手を止めて、狭間の下へ椅子を寄せた。


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