ゲーセンデートと城ケ崎さんの過去
「城ケ崎さん。デートってこういう場所でいいの?」
「もちろんだ同士。むしろこういう場所に来たかったんだよ」
やってきたのは高級デパート。……から20分くらい歩いた先にある、大型商業施設に設立されているゲームセンターだ。
土日だから学生たちや家族連れでめちゃくちゃ賑わっていて、人の声やゲーム音が響いているから、少し張るように声を出さないと、会話ができそうにない。
「! スト6! 格ゲーは嗜んでる? 一緒にやろう!」
「過去作を少しだけなら。ランクも結構上の方だったけど、ブランクがあるからなあ」
「安心して。片手一本のハンデを上げる」
俺の保険を張った発言に、挑発で返された。
中々舐めた発現してくれるな。これでも一時期はやりこんで、上から2番目のランク帯にはいたんだぞ。
城ケ崎さん、ゲームについては詳しいから、スト6もやりこんでそうだけど、片手1本で勝てるほど、このゲームは甘くないのでは? レギュラーキャラの基礎コンくらい、今でも覚えてるよ、俺。
なんて意気込んで筐体の前に座って、
「――パーフェクト、だと……?」
「ぬるいね敗者。こっちは現役の最上位帯だよ」
「……」
ボロカスにされた。レバーに肘置いて操作してやがった。なんで肘で360度レバーを自在に操作できるんだ。
「……ごめん。今度は足でやるよ」
謝っているけど、ただの死体蹴りだ。あと、公共の場にある筐体を足で操作するのはやめなさい。
悪意のない追い打ちで、俺のプライドはライフ0だ。
「折角だから、いろんなゲームをしよう、今度はあれはどうかな」
「む、エアホッケー、だよね? 初めてやるけど、いいよ」
台の前に立って、両手にマレットを握って、得意げに笑う城ケ崎さん。
「悪いけど、エアホッケーも勝っちゃうよ。私」
意気込んでたので、ボロカスにしてやった。
ざまあみろ。7-0。パーフェクト返しだ。
「……」
「ごめん城ケ崎さん。拗ねないでよ」
「……そもそも今日は私、ヒールだから、まともに動けないし。実力の半分も出せてないし」
「うん。知ってて誘った。動きにくいのも知ってて、4人用の広い台を選んだ」
「意地悪……!」
悪いね。勝負はスタート前から始まってるんだよ。左右にショットをふられてよろける姿を見たときは、内心笑いが止まらなかった。
そっちも自分が有利なゲームに誘ったからこれでおあいこだ。
ゲームで負けるのは結構な屈辱だったらしく、拗ねて蹲る城ケ崎さんを宥めてから、クレーンゲームに誘った。対戦系のゲームは別な機会にしよう。どっちも負けん気が強いから、思ったよりギスる。
「あ、また落っこちた!」
好きなゲームキャラのぬいぐるみを狙ってアームを下ろすも、アームが弱くなって景品が零れ落ちる。
むきになって連コインする城ケ崎さんを、ほほえましく見守りながら俺は尋ねた。
「城ケ崎さんってゲーム好きなんでしょ。ゲーセンとかはあまり来ないの?」
動いていたアームが止まった。
少しだけ俺の顔を見てから、城ケ崎さんは再びアームを動かした。
「うん。一人で来てもしょうがないでしょ。こういう場所」
「周りにこういうの好きな人はいなかったの?」
「いたかもしれないけど、分からない。そもそも仲の良い人がいなかった」
クレーンのアームが震えてぬいぐるみが落ちた。
「小さい時からさ、皆と話が合わないの。食べてるものとか、休日の過ごし方とか、お小遣いの金額とか、何もかも。放課後も皆は遊んでたのに、私は家で家を継ぐための勉強してた。皆と違う時間を過ごしてたことに気付いて、顧みたときには遅かった。私はいじめられてたわけじゃないけど、仲が良い友達もいなかった。そういう人をどうやって作るのかも、私は知らないまま育ってた」
コインを入れるためにしゃがむ城ケ崎さんの横顔が、髪の毛で陰る。
神妙な話になりそうだから、俺も黙ってアームの動きを見守ることにした。
「中学になって、環境が新しくなったら何か変わるかもって思ったんだ。だけど、皆悪い方に大人になるんだね。私が良い家の令嬢だって知ると、露骨に媚びを売ったり、僻まれて距離を置かれたり。大きくなって、私は私じゃなくなって、いいとこ育ちのお嬢様って皆に見られてた」
今度はクレーンがぬいぐるみを掴むことすらできなかった。
「だから、学校に行きたくなくなって、一時期は部屋に引きこもってゲームばっかしてた。親も育て方を反省して、私に自由を与えてくれたけど、もう遅かったの。皆が当たり前に知っていた友達の作り方を、私は知らない。だから、親は普通の高校じゃなくて、似たような家柄の子が多い不亜高に進学させた。司との縁談は、親がそのとき持ち上げた。太い家とコネクションを取る意味もあったし、顔の広い司とくっつけることで、私の側に人を置きたかったんだと思う」
クレーンがぬいぐるみの頭をひっかけて、ふらふらと上昇した。
「だけど、司も私のことは、『NACの令嬢』としてしか見てなかったんだよね。まあ、家同士の縁談から始まった関係だからしょうがない。司は悪くないよ。……でも、家の名前を出しながら、交流する生徒たちとも、必要以上に交わりたくなかったの。私がNACの令嬢ってことが決定づいちゃう気がして」
クレーンは景品口に辿り着く寸前で、またぬいぐるみを溢してしまった。
「……ねえ唐草君。私は一体、何なのかな。どんな人間なのかな」
「……城ケ崎さん、ちょっといい?」
「……何?」
「さっきから思ってたんだけど、クレーンゲーム下手過ぎない?」
「へ?」
深刻な顔から一転して、拍子抜けた顔で城ケ崎さんがレバーを離した。再びぬいぐるみがぽとりと落ちる。
「貸して」
その隙に俺は500円を投入して、城ケ崎さんに身を寄せて、レバーを握る。
「長々と話して貰って悪いけど、9割9分わかんなかった」
「ええ……」
「だって俺、一般家庭出身だし。いいとこの令嬢さんの苦労に100%シンクロなんてできないよ。理解する努力はなるだけするけどね」
俺は人形の重心を狙って、掴むのではなくてずらす狙いで、アームの位置を調整する。
「俺の学校も、家ごとで経済格差はあったけど、子ども同士では特にそういうの気にしてなかったからね。親同士では多少あったみたいだけど。ともかく、そういう風に育ったのが俺だから、城ケ崎さんの苦労に勝手に同情したところで、特に意味はないと思う」
1回、2回。アームは一度たりともぬいぐるみをまともにつかまない。
だけど、じりじりと景品口に位置が少しずつ近づいてくる。
「家柄同士のコネクションとかも正直興味ないしね。楽しく学校生活が送れて、いい大学にいけたらいいなって気持ちで過ごしてる。悪いけど同情も共感もできないや。俺にとっては、初めて出会ってから、今一緒に遊んでる城ケ崎さんが、9割9分だ」
人形の頭を持ち上げて、寄りかかる形で景品口に引っかかったぬいぐるみが、頭の重さに負けて、重力に引きずられるように景品口に吸い込まれた。
取れたぬいぐるみを取り出して、目を丸くして俺を見ている城ケ崎さんに差し出した。
「ところで同士。俺の過去バナとか興味ある?」
俺が歯を見せて笑うと、城ケ崎さんは受け取ったぬいぐるみをぎゅっと力強く抱きしめた。
少しだけ震えた声で「フフ」と笑ってから、城ケ崎さんは、可愛いらしく人差し指を口元に当てて、今までで一番魅力的な笑みを見せた。
「ソーリー同士。あんまり興味ないや」
「でしょ?」
約束の時間まであと2時間ちょい。
せっかくの休日。遊びきらなきゃ損だ。
その後はメダルゲームをしたり、プリクラ撮ったり、休憩用のベンチで自販機のコーンアイスを食べたりだ。
昔のことを考えられなくなるほど、俺たちは頭を空っぽにして遊びに興じた。




