デートをしよう。
「ハロー同士。決戦準備と洒落こもうか」
良く朝、指定された時間に間に合うように起きて、寮の前で待っていると、高級車に乗った城ケ崎さんが現れた。
運転手さんがドアを開けて、後部座席に座るように促してくれる。
中に入ると、高級感の漂うシートの香りが漂ってきた。
広いシートに腰を下ろすと、城ケ崎さんが身を寄せてくる。
「唐草君の私服は初めて見るね。どこのブランド?」
「ユニクロ」
ふーんと、珍しいものを見るように、城ケ崎さんが顔を近づけた。ふわっと優しいシャンプーの香りが鼻をくすぐる。
「私は好きだけど、今日乗り込む場所には専用装備が必要だよ。午前はお買い物をしようか」
「ああ、それでブラックカードを」
財全会長が行きそうな場所に乗り込むって話だったか。ある程度フォーマルな格好じゃないと入れない場所なのだろう。
城ケ崎さんがミラー越しに目配せをすると、優しく車が発進した。
公道に出て一般道を走っても、ほとんど揺れがない。相当優秀な運転手なのだろう。
車で一時間ほど移動して、連れて来られたのは、都内の中心部に存在する高級デパートだ。
全面がガラス張りの透き通った建物は、建物全体が巨大なクリスタルと錯覚するほど、幻想的な外観だ。
一歩足を踏み入れると、大理石の床と世界的ブランドが並ぶ光景に思わず息をのんだ。
「彼に会う服を適当に見繕ってほしい。この後予定がある」
「かしこまりました。少々お待ちください」
城ケ崎さんは近くにあった衣料テナントに入ると、黒い制服に身を包んだ従業員を呼びつけて指示をした。
……どの服もえらく高そうだな。それになんだろう。自分だけ場違いな気がして、息をするのも遠慮したくなる。床も俺なんかがスニーカーで歩いて大丈夫なんだろうか。
「ヘイ同士。こういう時の為にブラックカードがあるんだ。気にせず使っちゃいなよ」
「学校が払ってくれるとはいえ、普段使いの服を経費で落としていいの?」
「大企業のご子息が集う場所だ。普段着でさえフォーマルなものが求められる時はあるよ。今日の私も、ちょっと格好つけてきたからね」
城ケ崎さんも今日は初対面の時のゲーマー女子みたいな恰好じゃない。
白い上質な生地で仕立てられた、清涼感漂う半袖のサマーニットに、華奢な体のラインを美しく際立たせる、黒いハイウエストのタイトスカート。
この前は可愛いゲーオタの女の子って感じだったけど、今日の城ケ崎さんは上品さを際立たせた、一流企業のご令嬢みたいな雰囲気だ。ナチュラルメイクも元来の顔の良さを更に引き立てていて、自然とくっきりとなったアイラインが、魅惑的に映ってしまう。
こんな決まった姿の城ケ崎さんの横に、ユニクロ男子が立つのはさすがに釣り合わなさそうだ。
誤解が無いように言っておくが、時と場所を選ぶという話で、ユニクロ自体は大好きだ。……なんて、何一人で考えてるんだ。俺は。
「見惚れたかな?」
「……まあ、様になってるかと」
少し顔に熱がこもって、逃げるように目をそらすと、ニマニマと愛らしい笑みで俺の方を見つめてくる。中途半端に照れ隠ししたせいで、俺が子どもみたいになった。
なんてやり取りをしていると、先ほどの従業員が服を見繕ってきた。
♢ ♢ ♢
「おお、中々様になってるよ、同士」
パチパチと小さく拍手する城ケ崎さんを背に、俺は自分の姿を鏡で確認をした。
肌触りの良いダークネイビーのセーラージャケットに、軽くて通気性の良いアイボリーカラーのネックニットに、ハイウエストのボトムス。靴もスニーカーから上質な革のタッセルローファーに履き替えた。
さっきの服装よりも間違いなく様になってる。
服に着られている感じはするけど、城ケ崎さんの隣を歩いてもギリ釣り合う風貌にはなったかな。
着替えた服でお会計に行くと、一点目をスキャンした時点で、数字が6桁超えたのを確認したので、ブラックカードを差し出した後は、目を閉じながら会計が終わるのを待った。
最後のレシートも受け取らないつもりだったけど、カードの使用申請に必要だった。受け取った際に会計が7桁あった気がしたけど、気のせいだな、うん。
「司は今日、結心さんとデートをするみたいだね」
「デート、ね」
本来なら俺と結心の交際1周年記念日だ。
そんな日にデートなんざ、どんな事情があろうが煮えたぎってくるものがある。
「司はデートの最後に、よく中央帝国ホテルの、最上階の展望レストランで食事をして場をしめる傾向があるんだよ。狭間君とはそこで、18時ごろ落ち合うことになっている」
「結構時間がありますね。その間どうします?」
「……そうだね」
考え込む、というよりは、どこか照れるような仕草で城ケ崎さんが目を逸らした。
何か逡巡した後、小さく頷いてから、城ケ崎さんが俺の手を引いて歩き出す。
「私たちもデートをしよう。唐草君と行ってみたい場所があるんだ」




