あなたが、一番の原動力だった
叶から指摘されたスマホ依存。
ちょっとまだ自覚はないけれど、数値を見ると明らかで。これはまずいと直していくことに決めて。そんな中叶は言った。
賭けをしてみないか、と。
それは簡単なもの。
次のイベントでいつも通りの数を作れたら私の勝ち。つまり最低十個作れば勝ち。
それ未満なら叶の勝ちという賭け。
「えっと、賭けってことは罰ゲームとかあるの?」
「それだと変に気負って逆効果だろ? あるのは互いのご褒美だけ。お前が勝ったら推し関連のグッズでもチケットでもなんでも一個買うとかさ」
そんな言葉に即座に「やる」と言葉が出てしまって、今に至る。
「うーん……」
机に向かって、ノートにアイディアを描いていく。
イベントまでは一か月。今できているのは二個。残り八個。
いつもなら、このくらいの時期でも全然作れている。むしろ余裕で賭けには勝っていたでしょう。
でも。
「き、気になる……」
情報が、気になってしまう。
次のグッズとか決まってないかな、決まったとしたら何だろう。
そういえばランダム商品出るんだっけ。まだお取引できるかな。あ、次の出演情報とか――
「いけないいけないっ」
頭を振って、思考をノートに戻す。その目の前のノートはまだまっしる。
「うーん……」
デザインが浮かばないわけじゃ、決してない。頭の中ではなんとなくイメージできてるし、なんて言うんだろう、こう、それを描くのが今、ちょっとこう、億劫って言うのかな。
「……もしかしてこれが歳?」
「スマホ依存の影響だろどう考えても」
次の休日、叶にこぼして見たら苦笑いされてしまった。
「浮かぶのよ」
「うん」
「でもこう、ぼーっとしてる、かな?」
「少しずつでも良くなってねぇの?」
そう、甘く寄られてさりげなく身は引いておく。けど恋人はそれを見逃さない。
「傷つくんだけど」
「その、嫌ではなくて」
「期待させて悪いんだけど、この時期に手出さねぇって」
「っ……!」
若干図星でもあったそれに自分の体がぶわっと熱くなるのがわかった。恥ずかしくなってなお身を引いていく。
「幸」
「今っ、真剣な話!」
「してるだろ」
そんな腰引き寄せられて言われても。
けれど力で敵うことは当然なく、すっぽりと腕の中に閉じ込められてしまう。おとなしく体を預けて、息を吐いた。
「賭けに負けそう……」
「負けても大したあれじゃねぇよ別に」
「そういえば叶のご褒美聞いてなかった」
「お前即座に頷いたもんな、複雑だわ」
「うぅ……」
思わず苦笑いをこぼし、見上げる。
「叶は何がご褒美なの?」
「……言わなきゃだめ?」
「そんな風に言われたら気になるでしょ」
「そりゃそうか」
笑って。
「別に単純なこと」
「うん」
その笑みが、少し妖艶になる。
「スマホ依存で構ってもらえなかった分、相手してもらおうと思って」
どこかこう、色気を含んだその笑みに。
「作らねば……」
叶が帰った後、私は焦燥感に駆られていた。
ノートはいまだ真っ白。けれどかまわず、毛糸と編み針を手に持って、まずは土台となる動物たちを作っていこうと決めた。
「……」
ひと編みひと編み編んでいきながら考えるのは、叶のこと。
なんとなく、「そういうこと」と思わせるようなそんな雰囲気に、私は駆られるように動物を編んでいく。
別に叶と「そういうこと」が嫌なわけじゃ決してない。キスまでしかできていないけど、こう、いつかはとは思っているし、でもこう、心の準備がまだ全然できてない。しかもこう、賭けでなんて――あ、待って?
叶ってこういう賭けでそういう、新しいことというか、ちょっと大事なことやる人だっけ。
「……ものによるな……」
同期としての付き合いは長い。
叶は決めたらしっかりやり遂げる人で、目標があると必ず達成する人。異動したときも、私の隣に戻りたいってずっと頑張ってたってあとから聞いた。
だから、もしも。
「……」
考えると、思考はどんどん広がっていく。その思考と体が火照る感覚はなんとか抑え込んで、少しずつ形作られていくねこのあみぐるみを編み進めた。
ひとあみ、またひとあみしていき、そして思考は、再び叶へ。
え、構うってどういう感じなんだろう。こう、さ。普通にって言ったら変だけどマンガで読むような構うってさ、ずっとギュッてしたりたくさん一緒にいたり、だよね?
でもさ、
「……あの色気はなんだ……」
それだけが、気になる。
こう、先に進むみたいな? 単純に進むだったらさ、うん、いいと思うんだ。私がこう、しり込みしてしまうのはあれだ。
”かまってもらえなかった分”ってところ。
構ってもらえなかったのって数値見ても相当じゃん? ということは、ね? イコールの時間じゃなくても。
いわゆる大人向けの物語なら、満足するまで、な話じゃん?
初めてでそれは無理すぎるでしょ。それこそ死んじゃうよ私が。
「うぅ……」
考えれば考えるほど恥ずかしくて悶えたり、どこか逢いたさも出たり。
いつのまにか”気になること”が頭の中ですり替わっていることには気づかずに、わたしは叶のことばかり考えながら、ただひたすらにぬいぐるみを編んでいき。
「…………え、私すごくない?」
一週間。土台のぬいぐるみが十二体できました。
その三分の一はもうお洋服も着ている。つまり完成状態である。思わず自分をほめたけど。
「いやすごいのは叶か」
この一週間を思い返して、苦笑いをする。
仕事に行く途中も仕事中も、家にいるときもずっと。叶が頭から離れなくて、なんとか意識しないように作品作りに没頭した。
スマホが気にならないわけじゃなかった。ごはん中は目につくと触ってしまいそうになる。
通勤中も、ふとしたときに新たな情報がないかとか戻りそうにはなった。
でもスマホを見て、少しして、叶が浮かぶ。
負けたらどんなことが待ってるんだろうというちょっとした恐怖感に似たものと、やっぱりこう、話したい、逢いたいなって思う気持ち。もちろん職場が同じだからお仕事のことは話すし、恋人だから日常的なことも話すけど。作品のことは暗黙の了解というように話題は出なかった。
作れたよって言ったらどんな風な表情になるんだろう。褒めてくれるのか、それとも悔しそう?
考えたら、ちょっとわくわくしていて。
結果。
「……男の子が増えたなー、今回……」
沢山作品を作ることができたのだけど、恋人を想うからか、妙に男の子モチーフばっかりだ。しかもデザインは叶が好きそうな感じだし。
「……言ったらどうなんだろ」
照れてくれる? それとも嬉しそうになる? なんだかそれも楽しみになって。
「よしっ」
この勢いのまま作品を作っていこうと、私は机に向かった。
『あなたが、一番の原動力だった』/幸




