生後1日目 3
変なものを見せられたとウンザリしている俺の耳に、まるで天使のように清らかな女性の声が響いてきた。
天使などいるはずもない。そう思っても、その透き通る声に思わず耳を傾けてしまう。
「ソプーロスさま〜、ソプーロスさま〜。どこにいらっしゃいますか〜?」
「おっと、あまり時間はないようだ」
自らの役職名を高らかに連呼されているソプーロスアニキ。額を右手の指で抱えるようにしてまいったなと呟いていた。
「アニキの連れかい?」
「ああ、俺の従者だな」
「あら、羨ましい。今の美声を聞く限り、さぞかし美人な方なんでしょうねえ」
「そうなんだよ。これがとんでもないべっぴんでさ。聖学院時代からの同級なんだが、ファンクラブなんてものがあったくらいの奴だ。女子聖歌隊のリーダーも務めていて、奴が出演する舞台の正札を巡って毎回血が流れるくらいだよ」
「それは凄いな。美人、美声と来れば⋯⋯」
「そういえば、年イチにある巡回旅行で海辺の町に行った時は、奴の水着姿に見た男子生徒による、原因不明の集団意識混濁事件が起きたっけ。それ以降、聖学院の催事では、海に行けなくなりました」
「なるほど。男子には刺激が強すぎる悩殺ボディ持ちってわけか。そんな素晴らしい女性を従えて、ソプニキは恵まれていますわねえ」
「恵まれているもんかよ。奴が横にいるせいで、身に覚えのない襲撃や暗殺がこれまで何百回とあったことか。おかげでまともな聖職に着けなくなり、大陸戦争の土壇場で、お前を抱えて魔王城の裏から飛び降りる羽目になっちまったよ」
おかげで驚異的な戦闘力や魔法力、危機察知能力なんかが身に付いて、その若さで司教様なんて呼ばれるようになったのだろう。
そんなことに気付いてしまったが、そういえば今の俺は生まれたばかりの姿だったことを思い出し、口にするのは止めた。
「ソプーロスさま〜!いらっしゃいますよね〜?この辺りで魔紋を感じますよ、魔紋を〜」
「魔王と勇者の息子よ、どうやらこの辺りでお別れのようだな」
ソプニキはよっこらせと言いながら立ち上がり、ローブに付いていたホコリや砂を払った。
「ちょっと!連れて行ってくれるんじゃない!?」
「バカ言え!それは無理だ!いいか、この大陸にはずっと、戦火の種火が燻っていたんだ。勇者と魔王なんて存在があったから、なんとな〜く大規模な戦争にならなかったわけ。今はその2人が行方知れずだ。そんな中、両方の血を持ったお前がどこかに現れてみろ!大陸のパワーバランスが一気に崩れちまうだろうが。それは両者の中立を貫く、大陸教会に居ても同じなんだよ」




