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カルラディアの空から  作者: 天音 樹
第一章 墜ちた星と、白い少女の誕生
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第十九話 砦なき砦、そして救出の刃(③)

 ツィーラとセクンダ、そして長瀬は無事に合流した。

 不思議な縁が結び直され、ボイジャー兄妹の再会は果たされた。あとはセクンダの目覚めを待ち、ローエン一家が揃えば大団円──しかし、幼い弟妹がまだ戻っていない限り、本当の安堵は遠い。


 小屋の中に幼い兄妹の姿はなかった。アルドはツィーラの無事を確かめると、すぐに立ち上がり弟妹を取り戻すために動き出した。外ではラダゴスと山賊たちの戦闘が続いている。


「ガルター!! 出てこい!!」


 ラダゴスの怒号が森に響いた。ツィーラが小屋の外へ出ると、残忍な顔つきの男が、今にも逃げ出そうとしているのが見えた。ガルターだ。奴は仲間を身代わりにして前に押し出し、自らは踵を返し逃走を図っていた。


「逃がすか!!」


 ラダゴスはガルターの身代わりとして押し立てられた子分を殴り飛ばし、力任せに道を切り開いて追いすがる。ガルターは凄まじい勢いで背後に迫るラダゴスを見て「ひっ」っと、小さく呻きを漏らした瞬間に地面に叩き伏せられた。


「てめぇ……ラダゴス……!」


「俺の名を語って好き勝手しやがって……地獄で詫びろやァ!!」


 ガルターは一瞬の出来事に何か起こったかわからないまま、どっどっと何度か地面を転がされた。ラダゴスは、奴を馬乗りに組み敷いて、トドメとばかりに怒りの鉄拳を振り下ろした。

 ガルターの叫びは森に消え、戦闘は終息へ向かう。アルドとプリムスの救出は完了したが、ダメージは深く、回復には時間を要する。プリムスはアルドの内部で治癒の魔術を行使しているが、致命傷ではないとはいえ蓄積された傷は大きい。ツィーラはアルドの肩を支えながら歩いた。


 ——ツィーラ。ありがとう。君が僕を救ってくれた。


 プリムスの声が優しく響く。ツィーラは涙をこぼし、笑顔で応えた。


「兄さま……プリムス兄さま……戻ってきてくれて、ありがとう!」


 長瀬も静かに言葉を添える。


 ——これで家族の一人は戻った。だが、まだ終わりじゃない。弟妹も救い出すのだろう?


 ツィーラは強く頷いた。


「はい。絶対に、取り戻します」


 夜の森に、新たな決意が静かに燃え上がった。


 ***


 茂みの奥、古びた羊小屋の影に身を潜めた幼い兄妹は、息を潜めて体力の回復を待っていた。遠くで戦火が赤く揺れ、風が枯れ草を撫でる音だけが聞こえる。弟の**ノヴァ**は薄く目を開け、妹の**ホラ**は震えながらも兄の不在を感じ取っている。狂いそうな焦燥の中で、二人は互いの意識を寄せ合い、かろうじて理性を保っていた。


「ここならしばらくは大丈夫だろう」


 ノヴァが囁く。声は弱々しいが、確かな決意が含まれていた。


「だいじょうぶ?」


 ホラの声はかすれているが、わずかな希望に手を伸ばすような温度を帯びていた。ノヴァは短く息を吐き、周囲を見回す。茂みの向こうに見える村の灯りはまばらで、奴隷商の気配は遠ざかっているように思えた。だが安心はできない。まだ記憶にも新しい数日前は、逃げ切れたと思ったのに捕らえられたのだ。さらに今は頼りにしていた兄アルドも、姉のセクンダも居ない。悪しき野盗は、野うさぎのように脆弱な幼子二人の前に何時現れるか分からないのだ。


「これからどうにげるの?」


 ホラが問う。ノヴァは短く答えた。


「まちかむらに逃げこむ。むちゃはしない。まずは休んでから、しんちょうにすすもう」


 幼い二人の弟妹は慎重に辺りを窺い、羊小屋の陰から森を見張った。遠くに聞こえる喧騒は、兄たちの戦いの残響かもしれない。今すぐ戻って安否を確かめたい気持ちもあるが、体力が尽きては意味がない。自分たちを逃がしてくれたアルドの指示を信じて、ここで回復を待つ決断をする。


 薄曇りの空が茂みを淡く照らし、子供たちはやがて眠りに落ちた。


 ――白い朝と、三つの灯火。


 夜明け前の森はまだ冷たかった。戦いの余韻が残る空気の中、ツィーラはアルドを支えながら歩いていた。背後にはラダゴスとエルドレッド、そして疲れ切った兵士たちも後に続く。皆、静かに息を整え、森の奥へと進んだ。


 一刻半ほど歩いたその先に、ツィーラがずっと探し続けていた小さな命があった。長瀬の声がツィーラの胸の奥で震えた。


 ——ツィーラ。前方二十メートル。小さな魔力反応が二つ……弱いが、確かに生きている。


 ツィーラは息を呑んだ。木々の隙間から小さな小屋の影が見え、中には粗末な布に包まって寄り添うように眠る二人の子供がいた。泥に汚れ、痩せ細ってはいるが、確かに息をしている。


「……よかった……本当に……!」


(あぁ……ノヴァ……ホラ……無事で、本当に無事で良かった!)


 ツィーラが弟妹に駆け寄った瞬間、**セクンダの記憶と重なり**、胸に温かな波動が広がった。幼子たちの目覚めは柔らかく、温かい光のようだった。


「誰?」とノヴァが囁き、ホラもその女を注視する。


「セクねぇ?……アルドにぃ!」


 幼い二人は、自分たちを優しく抱き起こす姉セクンダと、その傍らで自分たちを抱こうとする兄アルドの潤んだ瞳を見た。瞬間、緊張がほどけ、安堵が全身を満たす。


 森の朝は白く、別世界から希望を運んだ三つの灯火が静かに揺れていた。

登場人物


ツィーラ:ボイジャー・ツー(Voy‑Zira)。AI型知的生命体。長瀬を追って来た別世界の新米神様。ボイジャー・ワンの妹。少女セクンダを救う為、彼女と同化。魔力機関としての長瀬とも共生。ツィーラの名を継承し攫われた家族の救出した。


プリムス:ボイジャー・ワン(Voy‑Ⅰ)。妹同様、長瀬を追って来た。ボイジャー・ツーの兄。アルドの中で眠っていたが魔力供給により復活し、同化する。プリムスの名を継承。


長瀬良治:カルラディア世界に来た別世界の上位神。ツィーラ・セクンダ・ローエンの魔力回復の機関としてコアを同化。守護霊のようにツィーラを見守り援護する。


セクンダ:ローエン家長女。フルネームはツィーラ・セクンダ・ローエン。奴隷商との争いで瀕死になるが、ボイジャー・ツーと同化して死を免れた。意識が回復せず深い眠りにつく。身に計三体の魂を宿す(主格:ボイジャーツー、支援機関:長瀬、セクンダ自身は眠り)。


アルド:ローエン家長男。フルネームはプリムス・アルド・ローエン。奴隷商により捕縛され救出された。身にプリムス(ワン)の魂を宿す。


ノヴァ&ホラ:ローエン家の弟妹。アルド、セクンダの弟妹。奴隷商により監禁されていたがアドルに逃がされた。ツィーラたちにより発見、保護された。


ラダゴス:元奴隷商の山賊頭。副頭領のガルターに裏切に合い、ツィーラと同盟を組んだ。


ガルター:元奴隷商の副頭領。ラダゴス隊を乗っ取り本格的な山賊稼業に手を染める。

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