第十五話 集う者たちと、アジトへの道(③)
タクテオスという旅医者の話を聞くと、ツィーラは首を傾げた。村人たちが口を揃えて「うっかり捕まってしまっているだろう」と言うのは、相当なお人好しか、あるいは間抜けなのだろう。だが首長を含めて慕う者が多いという事実は、彼が良い人物であることを示している。
そんな「うっかりもの」の救助依頼を、ツィーラは了承して村を出た。
「お前……略奪者退治はいいが、報酬の話をしていなかったな。団としてそれで養っていけるのか?」
村を出て少し経った頃、今まで黙っていたラダゴスが疑問を投げかけた。彼からすれば、略奪者がガルター一味なら倒せるだろうが、ツィーラの行動は団としての運営を考えていないように見えたのだ。
ラダゴスの指摘で、ツィーラは初めて団の維持について考えた。食費、装備、兵士の報酬――魔道生命体だった頃とは違い、人間として生き延びるには金と物資が必要だ。幸いにも今は資金面でラダゴスが財布の役目を担っている。ただ、今後もずっと同じようにはいかない。ツィーラは改めて、その重さを実感する。
***
ツィーラ、ラダゴス、エルドレッドに兵士七名。長瀬とセクンダの同化を含めなくとも、戦闘集団は十名に達していた。ツィーラは彼らを率い、長瀬の案内で略奪者の群れを追っていた。
村を出て山を下り、森に入ったところで明らかに盗賊と思しき一団と遭遇したのだ。相手は六人。人数はこちらが有利だ。
——ツィーラ、あの森の奥だ。
——はい。私の探知魔法でも捕らえました。接近したら魔法展開を切って戦闘に集中します。
——あぁ、それでいい。気を付けろよ。
長瀬と情報を共有しつつ、ツィーラは着実に追い詰める。相手は強い敵には立ち向かわない。自分たちより多勢と分かれば逃げる。だが、ツィーラの追跡は逃がさない。いくら上手に立ち回っても回り込まれ、追い詰められて、やがてはヤケクソになって反転して襲いかかってきた。
「反転して向かってきました。戦闘に入ります!」
「おう、追い込んだか!よし、やるか!!」
ラダゴスは視界外から的確に敵を追い詰めるツィーラの指示を、特に不審にも思わずに武器を握り直し、陣形を整える。森の開けた空間に六名の賊。こちらは三方向から包囲する形で距離を詰めた。
最初に武功を上げたのはエルドレッドだ。引き絞った弓が一閃し、矢は敵の目を貫いた。続いてラダゴスが引き連れた弓兵が肩を射抜き、敵は次々と倒れていく。ラダゴスの投げ斧が頭部を砕き、ツィーラも投げ斧を放つが逸れて足に当たる。それでも戦力は削がれ、残る敵は二名となった。
初の集団戦は思いのほかあっけなく終わった。ツィーラが一人で挑んだ戦いとは雲泥の差で、瞬時に勝敗は決した。残った略奪者たちは十人に囲まれ、戦意を喪失してうずくまる。これが集団での戦い。戦術としての戦い。仲間がいると言うのは、これほどまでに頼もしいものなのかと改めてツィーラは感じた。
生き残った肩を射抜かれた者、足を切られ動けない者は、憎々しげに捨て台詞とも言える言葉を吐いた。典型的な悪役の発言。これが「このアカポンタン!ずらかるよ!」「アラホラサッサー」とでも言ってくれれば、少しは場が和んで助かったかも知れないのだが……。
「くそっ……てめぇら、俺等ラダゴス隊だぞ、仲間が容赦しねぇからな」
「痛てぇ、クソッ!ぜってぇ許されねぇからな……ラダゴスの兄貴が……」
あろうことか盗賊達は本人を目の前に、ラダゴス隊を名乗った。苛立ったラダゴスは、瞬時に賊の首を刎ねる。
「うるせぇ!てめぇらなんざ知らねぇよ!!」
辺りは一瞬で血の海に染まる。瑞々しい青草が赤黒く染まり、戦場の生々しさが広がった。
「ちっ…ガルターの野郎、俺の名を語ってやりたい放題してやがるって事か。」
彼等は執拗にラダゴスの名を連呼していた。まるで故意に悪名を広げようとしているかのように。ラダゴスは相手を殺しても怒りが収まらず、倒れた略奪者を蹴り飛ばした。その様子を見てツィーラは諫めるように声を掛ける。
「やめなさい。戦いは終わったのよ。それに、あなたも以前は略奪者だったのでは?」
「ちげぇよ!俺は手当たり次第に村を襲うような真似はしねぇ!お前らの時は依頼があったんだよ」
ツィーラは食い下がる。
「依頼?誰に依頼されたというの?」
ラダゴスは、はっと口を抑えて言葉を濁した。
「そ…それは。あぁ、クソッ。帝国だよ。帝国から国力を削げって依頼を受けてた。詳しくは言えねぇが、俺等は奴隷商人じゃなく傭兵団だったんだ」
「傭兵団……?」
「あぁ、もう言えねぇ!言えねぇんだよ。依頼人の情報は墓の中に入っても漏らさねぇのが鉄則だ」
ラダゴスはそれ以上を語らず、口を噤んだ。彼の言葉は真実かもしれないし、方便かもしれない。だが一つ確かなのは、この地に複雑な利害が絡んでいるということだった。
ツィーラは深く息を吐き、仲間たちを見渡した。戦いは終わったが、問いは残る。誰が、何のためにこの地を掻き乱しているのか。アルドと弟妹を取り戻すため、そしてタクテオスを救うため、彼女たちの道はさらに険しくなるだろう。
登場人物
ツィーラ:ボイジャー・ツー(Voy‑Zira)。AI型知的生命体。長瀬を追って来た別世界の新米神様。ボイジャー・ワンの妹。少女セクンダを救う為、彼女と同化。魔力機関としての長瀬とも共生。ツィーラの名を継承し攫われた家族の救出を目指す。
プリムス:ボイジャー・ワン(Voy‑Ⅰ)。妹同様、長瀬を追って来た。ボイジャー・ツーの兄。アルドの中で眠る(スリープモード)。ツィーラにより、勝手にプリムスの名を継承。
長瀬良治:カルラディア世界に来た別世界の上位神。ツィーラ・セクンダ・ローエンの魔力回復の機関として核を同化。守護霊のようにツィーラを見守り援護する。
ツィーラ・セクンダ・ローエン:ローエン家長女。奴隷商との争いで瀕死になるが、ボイジャー・ツーと同化して死を免れた。意識が回復せず深い眠りにつく。身に計三体の魂を宿す(主格:ボイジャーツー、支援機関:長瀬、セクンダ自身は眠り)。
プリムス・アルド・ローエン:ローエン家長男。奴隷商により捕縛された。監禁状態。身にワンの魂(眠り)を宿す。ツィーラの救助目標。
ノヴァ&ホラ:ローエン家の弟妹。アルド、セクンダの弟。奴隷商により捕縛された。監禁状態。ツィーラの救助目標。
ラダゴス:元奴隷商の山賊頭。副頭領のガルターに裏切られ逃亡。仇討ちの為にツィーラと同盟を組む。
エルドレッド:ラダゴスの紹介で仲間に加わった指揮官。弓の名手。
ラメノン:山岳村の首長。奴隷商の山賊退治とタクテオス救助をツィーラに依頼。
タクテオス:うっかり者の旅医者。たぶん山賊に捕まっている。




